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騎士だった頃の話1

戦争の続くバレンシアという国に【鉄壁】と呼ばれる一人の男がいた。

男の名はガードナー、バレンシア王国に仕える騎士である。

ガードナーは平民の出であったため、周りの貴族の坊っちゃんによく意地悪されたものだ。

だが、そんな環境にもめげず、彼は確固たる騎士道精神を持ち続け、自らを鍛え上げていった。

そしてある時ガードナーは気付いた。自分の強みは盾を用いた巧みな攻防にあるのだと。

それからというもの、ガードナーは盾を主体にした戦術を操り、訓練では敵なし、実戦においても傷一つ負わないほどの騎士になったのだった。

そんな彼を人々は、いつしか【鉄壁】と呼ぶようになったのであった。

戦いと鍛練に明け暮れていたガードナーに、ある時転機が訪れる。

【猪姫】の護衛をして欲しいという話が来たのだ。しかも依頼人はバレンシア国王からである。

断れるわけもなく、ガードナーはその話を受けることにしたのだった。

【猪姫】の噂は度々耳に入っており、その呼び名の如く、直ぐ敵陣に突撃してしまうらしく、猪突猛進なところからその名で呼ばれているようだった。

さて、何故に国王直々に頼まれたかというとそれは、猪姫が王女だからという至極簡単な理由である。

常々戦いの度に痣や傷をつくって帰ってくる娘を見ては、いつかは怪我では済まないことになると思い、鉄壁と呼ばれるガードナーに護衛を任せたい、ということになったらしい。

護衛の任を拝命したその日に、ガードナーは猪姫に会いに行った。噂の姿ではなく、真実の姿を見たかったからである。

実際にガードナーは勝手な想像を膨らませていた。

敵陣に突っ込んでいくくらいだから、強きな性格をしているとか、粗暴とか、逞しい体格だとか、それはもう色々と考えていた。

とはいえ、どんな女性であっても護衛をすることに変わりはなく、ただ任務をこなすだけ。そう思っていた。

だが、実際の彼女と会話した時、その考えは変わった。

彼女はそう、優しさに溢れていた。

軽く見ただけでも腕や顔に傷があり、おそらく見えない場所にも傷はあるのだろう。

しかし、そんなことは気にならない程に、華奢な彼女からは優しさに満ち溢れた雰囲気が漂っていたのだ。

彼女が戦場において、常に最前線に立つのは、自らが先に向かうことにより兵を鼓舞し、士気を揚げることによって犠牲を少しでも減らす為だと知らされた。

それを聞いた時、ガードナーは猪姫に尋ねた。

「何故に姫様が先陣を行くのですか?士気を揚げるなら後方からでも十分。むしろその方が安全ではないのですか?」

今思えばこの質問は不躾で、かなり失礼であったと反省している。

そんな失礼な質問にも関わらず、猪姫は笑ってこう返したのだった。

「確かにその通りです。後ろにいれば危険なことは少なくなるでしょう。ですが、後ろに居ては見えないこともありますし、なにより先陣だからこそ見え、出来ることがあるのです」

優しく、そして力強い視線でガードナーを見据える。

「皆は私を守ろうとしてくれます。ですが私は皆を守りたいのです。国は民であり、民は国なのです。私にとって兵は部下ではありません、友人なのです。私が先陣を行けば、少なくとも知らないところで友人が命を落とすことはありません。なにより救える命があるのです」

姫は後ろで指揮をとり、前線では兵が戦い、そして命を落とす。本来ならば当たり前のことが彼女には許せないのだろう。

それが王族であり指揮官である立場として、間違っているとわかっていてもだ。

「・・・その考えを改めることは出来ませんか?」

そのことばに猪姫は首を横に振った。

「わかりました。それならば」

ガードナーが猪姫に近寄っていく。

無骨で、逞しい体をした男は猪姫の前にくると、素早く足を曲げ、地に膝を、そして。

「私があなた様の盾になりましょう!いついかなる時もあなた様の側に立ち、あなた様を守りましょう!」

猪姫はそう宣言したガードナーの手をとり、優しく微笑むと彼にこう伝えた。

「ありがとうございます。でも少し違っていますね」

そう言った猪姫の顔を、ガードナーが不思議そうに見上げる。

「守るのではなく、共に行くのです。友として」

微笑みながら、更にことばを続けていく。

「改めてあなたの名前を聞いてもいい?」

「私の名は、ガードナー。鉄壁のガードナーです」

「第一王女エリシアです。これからよろしくね、ガードナー。約束だからね」

娘を心配する親の願いにより、ガードナーは終生仕えるであろう人物と出会い、そして共に人生を歩んでいくこととなったのだ。

どんな時でも二人は常に近くで戦い、共に守り守られて、戦争が終結するまで戦い、そして生き延びることが出来た。

猪姫と呼ばれた女はいつしか【戦女神】と呼ばれ崇拝され、

鉄壁と呼ばれた男は将軍に上り詰め、【鉄壁将】として人々に慕われるほどになった。

けれども、どんな立場になろうとも二人の関係は変わることはなかった。

あの日に交わした約束は守られ続け、戦争終結後三十年経っても続いていた。

そして・・・

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