本編:追憶と追悼 第1章 目覚め
目を開けると、私は自分の部屋にいた。いつものように、ベッドで寝ていたようだ。いつものように、スマホは枕のそばに置いてあった。
妙な違和感があったが、それが何故なのか、初めは分からなかった。すぐには思い出せなかった。起きたばかりで寝ぼけているせいなのか、それともただの気のせいだったのか。しかし、起き上がらないまま何気なく見たスマホに、この違和感が間違いじゃないと気づかされる。
スマホのスタート画面は、夕方の5時を示していた。ハッとして、勢いよく身体を起こした。同時に、左腕に軽い痛みが走った。袖をまくってみると、包帯が巻いてあった。完全に目が覚めた私の頭に、ある疑問がよぎった。
(昨日どうやって家に帰ったんだっけ?)
自分で家まで帰ってきたという記憶がなかった。
(それに、5時ってどういうこと?)
昨日のことを、ぼんやりと思い出し始めた。そしてその一つ一つを、確認するように呟いた。
「本屋にいて、リョウがどこかに行ったから、リョウを探しに行った......」
そこから先が思い出せない。母さんなら何か分かるかもしれないと、私はリビングのソファで寝ている母さんにそっと近づき、囁きかけた。
「母さん」
母さんはすぐに目を覚ました。そして身体を起こし、私を隣に座らせた。
「メイ、よく眠れた?気分はどう?」
「さっきまで寝てたよ。気分はあまり良くない。分からないことがいくつかあって少し困惑してるかな」
母さんは私に、不安げに聞いた。
「昨日のこと、どこまで覚えてる?」
私はゆっくり答えた。
「リョウと本屋ではぐれて、リョウを探しに行ったところまでは覚えている。でも、その後のことが全く分からない。どうやって帰ってきたのかも......」
母さんは平静のまま、知っていることを教えてくれた。
「細かいことは私も分からない。でも昨日、警察の方から電話がかかってきた時はびっくりしたわ」
「警察?」
驚く私を見ながら、母さんはゆっくり話を続けた。
「警察に言われた所に向かうと、そこには救急車とパトカーが停まっていた。私は警察に保護されているあなたをすぐに見つけ、家まで連れて帰った」
母さんの顔にうっすら動揺が表れた。
「これから話すことは、どうか落ち着いて聞いてちょうだいね」
そう言って、母さんはまた冷静に話し始めた。
「リョウが昨日、交通事故で病院へ運ばれたわ。今朝、リョウのご両親から電話があったけど、まだ意識が戻ってないそうよ」
それを落ち着いて聞き入れることはできなかった。
「母さん、今すぐ病院に行ってくる」
母さんの心配そうな表情を後目に、私は家を飛び出した。