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第95話 食材の力

前回のあらすじ:

ユウキたちはレイドボス戦に巻き込まれた状況をスミレに説明した。

霞PTを使ってレイドボス戦を終了させることにした。

 ウ~ゥ~ウ~ゥ~!


 緊急サイレンを鳴らして赤い光をまき散らしながら、1組のPTがウエノ第3塔の中を走り抜けていく。黒白ピンクと全身スーツ姿の霞PTに続いてユウキ、サクラ、タマキという順番で。勿論ユウキたちはいつもの移動用装備姿である。


 このサイレンと光は緊急車両のものと同じであり、魔物施設内におけるダンジョン探索協会の緊急チームが高速移動する時の目印ともなっている。



『みんな驚いて道を譲ってくれるのって、なんか気持ちいいね』



 ユウキは笑いながらPT会話で声をかける。

 勿論道を空けてくれるのは人間だけであり、魔物はユウキが魔石を回収している。



『この音は目立つからね。それに試験監督官の人が居るんだから、聞こえたら端に寄せるわよ』


『塔の中ではあまり聞くことは無いですけど、町中でなら時々聞こえますから知らないという事はないでしょうし』



 そんなPT会話をしながら霞PTとして前を走るユウキたち。後ろのユウキたちの姿の方は分身体だ。

 タマキの移動術は使用しているものの、他の人がいる階層ではサクラの踊りを併用していないためにユウキの速度は最高時よりも遅い。それでも魔物を倒して見せる必要が無いので移動時間は1階層進むのに5分もかかっていないのだが。


 勿論人が居ない階層ではユウキとタマキの転移コンボを使えばもっと早く到着するのだが、あまり早すぎてもスミレたちの方の準備が間に合わない。

 ダンジョン探索協会まではタマキが転移で送り届けたものの、そこから先は転移無しで移動を進めることとなるのだから。


 そんな移動を10階まで続けたものの、8階以降ではだれも追い越しておらず誰ともすれ違っていない。そしておそらく10階より先は誰もいないだろうという事でユウキとタマキのコンボ転移で階層ボスだけを倒して進んでいく。

 勿論ユウキの知覚で人間がいないだろう事を確認しながらであるが。


 階層ボスに関しては、これから人が来た場合に倒されていなかったらどうやって通過したのかおかしいことになるので、念のために倒して移動している。


 そしてスミレと別れて約1時間、ユウキたちは再び祭壇のある高台まで到着する。とはいえここまでは単に目撃証言のために行った事であり、中に入ればユウキの自動回収であっという間に勝負がつく。

 一度スミレの元へと<魔化>の状態で転移して様子を見つつ、準備が終わった段階でレイドボス戦を終わらせるだけの事だから。



 *****



 ――時は少し遡り、もうひとつのレイドボス戦開始時刻。



 ユウキたちの居ない試験監督官と赤石PTのレイドボス戦は、混乱から始まる事となった。



「人数が足りない」



 レイドボスとの戦闘空間へと転移した増田は、脱出の準備を説明しようとして人数が足りないことに気が付く。



「あの子たちが居ないわ」


「いや、転移現象は発動していたはずだ」


「姿を消しているのか?」


「小野寺さん、神山さん、並野君、説明があるから出てきてー」



 クランリーダーがステータスを見れば、ユウキたちがクランからPTごと抜けていることは気付けるはずなのだが、この時はそんな事は考えておらずに時間を無駄にしてしまった。後から思えばこれが決定的な時間のロスであり、一番の脱出チャンスを潰してしまう行為となってしまったのである。



「レイドボスが出現すると強力な威圧が放たれるわ。

 隠れてないで急いで脱出する必要があるの。

 貴方たちも緊急事態だから、石を使って脱出して」



 海藤はユウキたちに声をかけながらも赤石PTに向かって脱出を指示する。

 しかし赤石PTと石崎は場の雰囲気にのまれてしまっており、直ぐに脱出には動かない。

 そしてユウキたちを更に呼んでいる間に時間切れとなり、レイドボス戦の魔物が出現してしまう。



 レイドボスであるゴブリンキング1体に側近として将軍ジェネラルが2体と賢者セージが2体。

 側近4体にはそれぞれ5体のエリートゴブリンがついており、その数は合計20体。そして各エリートゴブリンに普通のゴブリンが30体ずつついているので、普通のゴブリンの数は600体。

 これが今回のレイドボス戦で現れた敵の戦力である。



 そして魔物の出現に合わせ、ゴブリンキングの強力な威圧が戦場に放たれる。



(間に合わなかったか……)



 増田はそう思って赤石PTの様子を見るが、赤石PTの4人は辛そうであるが何とか耐えていた。同じく試験監督官の石崎も。


 そして何となく増田自身が感じている威圧感も、他のレイドボス戦の時よりも大分弱い気がしている。



「ここのレイドボス、弱いのか?」


「どうかしら。確かに威圧は弱い気がするわね」


「そうだな、俺も他のレイドボスよりは威圧が弱いように思える。

 それでも出現する前に離脱させたかったところだが」



 まだ出現しただけの段階であり、ゴブリンたちは動き出していない。



「分かっていると思うが、倒しすぎるなよ。エリートまでならまだしも、側近とキングが動き出したらやばいからな」


「分かってるわよ。

 でもあの子たちが居ないのよね。どうする?

 ここまで来たら探すよりも先に他の子達だけにでも離脱させたほうがいいわよね」



 増田の状況説明に反応した海藤は、何とか耐えている赤石たちを先に離脱させるべきではないかと提案する。しかし……。



並野達あいつらが居ないなら俺たちの力を見せてやる」



 そこにはゴブリンキングの威圧に耐えられたことで調子に乗った赤石たちが、戦闘態勢を整え戦いを始めようとしていた。



「無理よ。緊急事態だから石を使って脱出しなさい」


「そのとおり、安全の方が優先だ。

 すでに試験としては十分だと伝えただろう」



 そんな赤石の態度に海藤が緊急脱出を指示し、赤石PTの試験監督官である石崎も反論する。石崎はレイドボスの事は知らないものの、ひと目見ただけで戦える相手ではないことは予想できた。魔物が出現したことにより、場の雰囲気にのまれている状況から脱出できたのである。



「俺達だって、後ろのでかいのと戦えないのくらいは分かっている。

 だが、今の俺達なら手前のゴブリンくらいは戦えるはずだ」



 赤石は16階で、純粋なアタッカーとしてのタマキとの力差をこれでもかというほどはっきりと見せつけられた。自信は粉々に砕かれ、プライドはズタズタに引き裂かれた。


 しかし、ユウキたちはミスをしたと今の赤石は思っている。

 赤石PT(自分たち)とクランを組んだ状態でユウキたちは16階の大集落を掃討しており、ゴブリン200体分の戦闘経験は赤石PT(自分たち)にも入っていると考えた。

 1体相手にしても倒すのに多少時間がかかる相手を200体である。赤石はその分強くなっており、レイドボスの強力な威圧に耐えられたのは強くなっている証だと思ったのだった。

 ユウキたちや試験監督官たちから見ればただの雑魚であるゴブリンなのだが、赤石から見れば強い魔物の戦闘経験を貰ったと思ってしまったのである。



 実際はユウキたちの予想通り、アイテムとして使用した上位海竜グレーターシードラゴンの杖で消え去った魔物の戦闘経験は誰にも入っておらず、勿論ユウキがこっそりと残った魔物の魔石を回収した相手についても戦闘経験は入っていないのだけれど。


 赤石たちが威圧に耐えられたのには、当然理由がある。それは早川の作った料理だ。

 ユウキたちの温泉旅館に全員で宿泊した事で、わざわざ外で料理を作る必要がなくなった早川は朝食を作るのを手伝っていた。

 夕食は「自分たちの料理を」と意地を張っていたものの、温泉に入ってゆったりしてしまった事で今更だと考えたからである。

 当然全員分の料理を作るのであり、ユウキたちが用意している素材も普通に使用している。上位海竜グレーターシードラゴンの肉も上位空竜グレータースカイドラゴンの肉も。とはいえそれがどんな魔物かすら分からない早川にとっては、その他の食材も良く分からないのでただの肉として扱っているだけなのだが。

 そして早川のアレンジスキル<調理>のアレンジ内容は、料理を食べた事による『支援効果時間の拡大』と『支援効果の劣化速度緩和』である。これは同じ料理を食べた際に支援効果が長持ちし、支援効果が切れる際もいきなり0になるのではなく緩やかに消えていくようになるというものだ。


 しかし今の人類の料理とは、ダンジョン産資源を使いダンジョン産の料理道具を使う所迄はたどりつくことがあるものの、ダンジョンシステムのレシピを使用した自動調理迄はたどりついて居ない。これはクラスミッションを誰も行っていないからなのだが、人類はまだそれを知らない。

 そのためダンジョンシステムとして、正式な料理アイテムとなっているわけではない。あくまでオリジナルの料理という位置づけであり、鑑定では支援効果が分からないのである。

 とはいえ何かしら効果があるのは分かっているので、<調理>スキル持ちが料理をした方が良いという認識はあるのだが。


 ちょっとした材料や手順の変化で支援効果が変わってしまうので、支援効果の内容よりも食べたい料理を優先しているのが現状である。適当に料理を作ると再現は非常に困難なのだ。


 そんな早川が今回作った料理についていた支援効果は、実は『状態異常耐性の向上』であった。早川自身も気付いていないがとんでもない素材を使っているため、その効果は絶大であった。


 14階までのギリギリの戦いから一転、15、16階のゴブリン相手に余裕ができたのは何も休んだからというだけではない。特に全く階層に見合わない力しかない山吹がゴブリン相手に恐怖を感じなく動けたのは、実はこの料理の支援効果の影響だ。


 とはいえそれには試験監督官も含めて誰も気が付かなかったのだが。

 ユウキたちの強さが先に目立ってしまい、この程度なら普通なのかもしれないという錯覚をしてしまったのである。

 これがユウキたちは特別という認識を持ったベテランであるスミレが居れば見破ったかもしれないが、若手である海藤たちにはまだそこまでの力は備わっていなかった。そしてベテラン試験監督官である石崎には、ユウキたちが子供にしては強いとはいえそこまでの異常な存在だという認識は無かったのである。

 ダンジョン科の高校3年生が戦えるようになるエリアなのだから、そういう事もあるという位にしか。



 当然そんな事には気づいていない赤石はむきになっている上に勘違いと混乱があり、ゴブリンキングの威圧に耐えている分だけ調子にのってしまったのだ。





「おや?

 小野寺さんと神山さんと並野君は、PTごと存在していない事になってるな」



 赤石が戦うと言っているのをどう説得するか悩んでいた段階で、リーダーの増田はユウキたちがPTごといなくなっていることに気が付く。



「え?

 でもあの子達にも転移は発動していたわよね」


「俺にはそう見えたが……」


「この空間ではPTの分離はできないから、分離をしたなら音楽が鳴ってから転移するまでの間だろう。

 だがそうなるとこことは別の戦闘空間に居ることになる。

 あいつらは威圧は大丈夫なのか?」


「このレイドボスの威圧具合なら大丈夫だとは思うけど、もし全員気絶していたら最悪ね。

 男である並野君は殺され、女である小野寺さんと神山さんは月曜のリセットまで弄ばれ続けるわ。

 そうなると24時間を超えてしまうから、並野君の蘇生が間に合わない」



 今は金曜日なのでリセットまで3日近くあり、24時間の蘇生期限には間に合わない。

 そんな相談をしている間にエリートに率いられた普通のゴブリンがやってくる。目指している先は、海藤と山吹である。



「という訳で急いで脱出よ」



 海藤はそう言って赤石たちに脱出を指示するが、従う様子はない。



「そんな適当なごまかしは通じないぜ」



 赤石は、今更そんな事を言うという事は単に説得のための嘘をついていると思っているが、仮に本当でユウキの蘇生が間に合わなかったところで基本的にほとんど知らない相手である。魔物と戦う以上、死はそこまで遠い存在ではない。

 そして蘇生には莫大な費用が必要だ。自分たちの様な金持ちならいざ知らず、ユウキの様な貧乏人が魔物と戦う事を選んだのなら死んだときに蘇生が出来ない状況は分かった上で戦う道を選んだはずだと思っている。

 さらにユウキが死んでタマキとサクラが残るという状況は非常に都合が良かった。自分で殺そうという気など起きないが、魔物に殺されたなら仕方がない事だろう等と都合のいいことを考えていた。今脱出する意味は、余計にないのである。



 赤石たちが指示に従わない間にもゴブリンの移動は進んでいく。



「私が山吹さんと一緒にゴブリンを誘導するわ。その間に他の人を纏めて端に防衛陣地を」


「そうだな。それでいこう」



 海藤たち3人からすれば普通のゴブリンなど大した相手ではない。エリートゴブリンも対処は可能だ。しかしエリートを倒してしまうと側近やキングも動き出してしまう。

 そのため防御に徹し、赤石たちが満足するまで時間を稼ぐ作戦にしたのだ。


 脱出するための石は本人にしか使用できないため、脱出する気のない赤石たちを強制的に脱出させる手が無いのだ。例外的な対応を除いて。


 その例外とは、一度殺してしまう事である。脱出しない赤石PTの4人を一度殺し、試験監督官の4人が石で脱出すれば死体も塔の外に転移される。

 そしてそこで蘇生をすれば最終的な被害は出ないことになる。とはいえ相手が犯罪者とか、その意味を分かっているダンジョンシーカー仲間で石が無い際の緊急時とかの場合ではないので、殺す事には戸惑いがあり今はその道を選んでいないのだが。

 実際は魔物に殺されてもそれは同じ状況を作れるので、海藤と山吹が脱出不能で生かされる状況にさえならなければ今殺す意味などない。



 まだ動き始めたゴブリンはエリートが1体とその配下のゴブリンが30体だけである。

 海藤は山吹を連れてゴブリンを大回りに誘導し、その間に瀬川が戦場の端に建築スキルも使用して防御陣地を作成する。

 そして出来上がった陣地に海藤と山吹も閉じこもり、入ってくるゴブリンを赤石、丸山、早川の3人で迎え撃つ。



「エリートは私が引き離すわ。山吹さんは陣地から出ちゃだめよ」



 エリートの攻撃を赤石PTに対処させるわけにはいかないと分かっている海藤は、唯一動いているエリートを釣りながら陣地の外を逃げ回る。



(他のゴブリンたちがすぐに動かないでいてくれるのは助かるわね。

 索敵範囲に入らなければ動かないって、バカなのかしら)



 逃げ回るだけなら余裕の海藤はそんな事を考えているが、ダンジョンの真相を知らない海藤から見たら当然のことだろう。

 これがユウキたちやスミレたちが同じ現象を見て考える場合は意見が変わる。

 娯楽としての演出なのだろうと。殺すためだけならゴブリンキングが最初から動けばいいだけなのだから。




 そして戦うこと1時間少々。

 防衛陣地は瀬川が修復し続け、動いてきた別動隊のゴブリンと海藤の方に行かなかった追加のエリートの相手を増田がしているところへ変化が訪れる。



「ウッ」



 きっかけはちょっとした動きの鈍りだった。

 赤石たちは体が重く感じるようになり、山吹の方へ向かおうとするゴブリンを入り口で食い止められなくなる。そして体の動きは鈍くなり続け、レイドボスの威圧が強くなったように感じている。


 石崎が防御魔法や回復魔法、支援魔法系などで補助しながらも戦えていた状況が一気に崩れたのだった。

 その時には海藤たち3人を除いた5人は意識を保ってこそいるものの体が動かなくなっていたのである。





「威圧が強くなってきたわ」



 一方の海藤たちも、状況の変化を感じていた。

 実際には食事の効果がきれ、徐々に支援効果が薄くなっているだけなのだがそんな事を知らない海藤たちはゴブリンキングが本気を出したのか等と考えている。



「まずい」



 そして気付いた時には遅かった。

 ゴブリンは動けない山吹を押し倒すのではなく、レイドボスの元へと連れ去って行くのだった。


 とはいえ未だ丸山の盾術が機能しているため、赤石PTにダメージがあるわけではない。

 石崎はゴブリンキングの威圧でこそ動けないものの、普通のゴブリン程度の攻撃ですんなり死ぬようでは試験監督官などできはしない。それに多くのゴブリンは山吹を担いで一緒にゴブリンキングの方へと行ってしまい、残りのゴブリンは海藤の方へと向かっていることも幸いした。


 しかしここで山吹をゴブリンキングに渡してしまう訳にはいかない。



「取り返すぞ!」



 防衛陣地の防御を捨て、増田と瀬川が山吹を連れ去っているゴブリンに向かって突入するも、残りのゴブリンとエリートの索敵範囲に入ってしまう。

 倒すだけなら余裕であるが、その間にも山吹はレイドボスへと向かって連れ去られてしまう。



「【雷雨サンダーレイン】」


「【氷嵐アイスブリザード】」



 少しずつ倒しても間に合わないと感じた増田と瀬川は範囲魔法攻撃に切り替える。

 さらに。



「【氷壁アイスウォール】」



 多くのゴブリンやエリートを誘導している海藤も、山吹がレイドボスへと連れ去られる進行方向を氷の壁でふさぐ。

 しかしこの攻撃が、側近の4体を刺激してしまった。



「くそっ!

 海藤は脱出しろ。瀬川は赤石PTの男共と石崎さんに石を使わせるんだ。

 俺は突っ込んで回収するか……殺す」


「いえ、突っ込むのは私がやるわ。

 誰も蘇生不可にさせないのが優先よ。分かるわよね」



 増田がリーダーとして指示を出した所へ海藤が変更を促す。

 今の指示では、最悪増田だけが蘇生不可となる可能性があるからだ。



「……くそっ、急げ。【土壁アースウォール】」



 海藤の思いをくみ取り、山吹が連れ去られている進行方向をさらに妨害する壁を作った後に動けない赤石PTの元へと急ぐ。



 そこへ……。



<別の戦場でレイドボスが倒されました。レイドボス戦は終了となります。

 10秒後に塔の外へと自動転送されます>



 突然メッセージが現れ、戦場から魔物が消え去ったのであった。





「……何が起こった?」



 いまいち状況を飲み込めない増田がつぶやく。



「状況から考えて、あの子達の可能性が高いわね」



 山吹を回収した海藤が増田の横に並んで答える。

 威圧元であるゴブリンキングに近づいていた山吹は、既に気を失っている。



「ん?

 ああ、そうか。今週事前にレイドボス戦をやっていた可能性は低いか」


「試験中だから、多分ね。偶然にしては終わる時間がかぶりすぎよ……ふぅ。

 何にしても助かったわ、流石に焦ったわね」


「だな。

 まぁ、外に出てみれば分かるだろう。

 山下さんにはなんて報告すればいいんだ?」


「さぁ。何がどうなっているんだか私も知りたいくらいよ……」



 そして2人が瀬川と合流した時には、石崎は既に動けるようになっていたものの赤石達はまだ動ける状態ではなかった。

 山吹と違い、意識は保っているのだが。



 そのまま全員が塔の外に転送されると……そこには誰も知らない大人たちが数人待っていた。


 スミレとリザレクション要員の聖女にその補助員、そして入試責任者の東京第2大学ダンジョン学部長である。山下は話のすり合わせをさせないためにダンジョン探索協会会長が別の場所で既に確保済みである。



「間に合ったようですね」



 そんな中、少しだけずれた場所に現れたユウキは霞PTが一緒に居ることをアピールするために海藤たちへと声をかける。

 丁度海藤たちがスミレたちを見る方向とは逆だったため、皆が驚いて振り返った。



 そしてそれ以上は何も言わずにユウキたちは霞PTに頭を下げ、霞PTは手で返事をしてそのまま空気に溶けるように消える。

 もちろん場を見せただけで、説明するつもりなど無い。



(くそっ)



 ユウキたちは海藤たちに見せたかっただけだが、赤石達はユウキに声をかけられたことで屈辱を感じていた。しかし極限の恐怖から解き放たれ、地上に帰ってきたという気のゆるみを止める事は出来なかった。

 その場で気を失ってしまい、何もいう事が出来なかった。


 もっともユウキたちから見れば無事であればそれ以上思う所は無いので、特にそんな心情には全く気付いていなかったのであるが。





 こうしてユウキたちにとっての対魔物戦闘試験は終了した。



 海藤たちはその後試験監督官として依頼された試験内容等を確認されることになったのだが、特にこれと言って隠す必要がある内容だとは聞かされていなかったために山下の目論見はあっさりと学部長とスミレにバレてしまう。


 特に試験課題実施手順に関しては詰めが甘く、気を付けなければならない状況想定ができていない甘いものとなっていた。

 これにより山下1人が暴走して考えている状況が浮き彫りになってしまったのである。


 さらにユウキたちへレイドボス戦の事を伝えるのは、レイドボスとの戦闘空間に入ってからという指示が記載されていることも重要だった。

 この件に関しては、海藤たちは守りながら石を使えば脱出できると考えていたのでそう説明した。赤石PTというレイドボス戦未経験者がついてくることになったので直前に伝えるつもりだったという部分も。実際は出来なかったのだが。

 この記載状況の一言から、山下はおそらく海藤たちをシルバーシーカーにしたかったのではないかという思惑をスミレは確信したのだった。



 実際には後もう一つ、海藤たちは今回報告した事とは別に篭絡できればするようにという試験の課題とは関係が無い指示があったものの、これに関しては流石に報告をしなかった。それでも3人の容姿と格好を見れば山下が考えたことは容易に想像できる内容である。

 いくらなんでも今の海藤の格好は、受験生の前でする試験監督官の装備ではないのだから……。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり変な恰好という認識になるんですね。 (読者としては、この世界の探索者の標準の格好が不明なので) 装備なんて、性能だけが重要で、見た目は飾り、 防御力が無いように見えても、装備していれ…
[気になる点] 試験管の指示に従わない奴等は試験不合格で良いんでない? 状況判断能力低すぎていくら上の方の階で魔物倒せたとしてもダメでしょ
[一言] 見た目痴女のうえに、性能も無いただの変態服だしね。 ひと目で、男を誘うためとわかる。 スミレさん提唱の作戦、完全にうまくいったねぇ。 山下と海藤らのやりことなすこと杜撰な、入学試験の場を悪…
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