第9話 ダンジョン科
前回のあらすじ:初心者向けゲートのボスと戦った。
ユウキの修行を兼ねたため、ユウキのジャケットとズボンがボロボロになった。
ゲートをクリアし、ギルドの個室へと戻った二人は早速装備の耐久を回復してもらいに防具屋へと向かう。装備の耐久回復とは防具屋の店主の修復スキルを利用するもので、素材とEPを使う事で装備の耐久を回復することができるものだ。
利用者が払うのはDPだけでいい。
勿論使用される物の値段は経費としてその中に含まれているからだ。
「ありがとうございました」
「はい、また来てくださいね」
ユウキはこの防具屋を何となく気に入った。愛想のいい店主は、修理だけでもきちんと対応してくれたからだ。タマキの話では、店によっては自分の所で売った物しか修理しない店もある、と聞いていた。
今回の店は、ギルドからも修理依頼を出すことがある店である。タマキもそれを知っていて、何かあった時にここを知っておくようにユウキを誘導したのだ。
二人はゲートで手に入れた物をギルドへと売却した。
勿論処理をしたのはタマキだ。
売却処理が終わり、一息ついたところでユウキがタマキに声をかけた。
「タマキはやっぱり中央都市にある上級高校のダンジョン科に行くの?」
明日からまた学校、という話題でユウキは思い出したのだ。
「もちろん目指しているわよ。ユウキは行かないの?」
「俺も目指してみようかなと思って。ただ、ダンジョン学基礎は習ってないし、魔法学基礎も同じ。実技試験に関してもさっぱり分からないからどうなんだろうと思って」
「そうね、実技試験は今のままだと厳しいわ。まず戦闘試験で対人戦がユウキは出来ないんじゃない?あのスキルって人間相手に使うとどうなるの?」
「ああ、効かないと思う。そっか、戦闘試験って対人戦なんだ」
収納スキルは人間相手には効果が無い。
そして他人に所有権がある物に対しても効かないので、武器だけ回収なども、破壊することもできない。
「ええ、どの程度戦えるのかを見るのよ。でも魔物討伐試験もあるから、そっちで頑張れば行けるかも」
しかしユウキは対人戦が必要と聞いて、急にハードルが上がった気がしてしまう。
やはり体格や素質は重要なのだと。
特殊なアレンジスキルだけではどうしようもないと。
「限定シーカーでも稼げるか」
ユウキのこの発言に焦ったのはタマキだ。
折角二人でダンジョンシーカーになりたいのに。
だからダンジョン科のアピールをすることにする。
「ユウキ。ダンジョン科のある高校にはかわいい女の子がいっぱいいるわよ」
「そうなの?」
ユウキはタマキの思惑に乗せられ、聞き返してしまう。
「ええ、正確には魔物を倒す女の子は、かわいくなりやすいのよ。もちろんそうじゃなくても元々かわいい子も行くしね」
「それは、何か理由が?」
「あくまでそういう話っていうレベルだけど、どうも魔物と戦って体を強化していくと理想の体型に近づくらしいのよ。顔つきも変わっていくらしいわ。まぁ女の子は基本的に可愛くナイスバディーになりたいからね」
「へぇー、そんなことがあるんだ。という事は俺も体格が良くなる可能性も?」
「うん、まぁあくまでそういう話ってことね。実際に女性のシーカーってみんな可愛いというか綺麗と言うかナイスバディでしょ」
タマキはユウキにアピールしている。
ユウキも確かにタマキの事を、かわいくてナイスバディだと思っている。
「スカウトとか来そうだよね」
「実際にギルドにも来るわよ。高校や大学でもそういうのは多いみたい。アイドル、特にグラドルとか兼任している女の子もいるみたいね」
まぁそれだけかわいい子が集まるならそうなるよね、とユウキは納得した。
「シーカーって服装も独特だよね」
「そうね、まぁそれは大人の事情が絡むんだけど。ユウキは成人ダンジョンシーカーの男女の関係については知ってる?」
「さっぱりわからなかったりする」
「まぁ知らなくて当然よね。ただ、これからは知っておいた方がいいわね。大人の魔道具については?」
大人の魔道具。
いわゆる完全避妊具だ。
「それはさすがに知ってるけど」
「うん、まぁそれがあるというのが大前提なんだけど。まずシーカーと言うのは魔物と戦うわよね」
「そうだね。大なり小なり魔物と戦うのが日常だと思うかな」
「ええ、そして中には命の危険を感じる事がある。まぁ、実際には余裕を持つし、装備等である程度安全は確保するけど、ヒヤッとすることはかなり有るわね。で、そういう状況を乗り越えた男女は、相手を好きになりやすい」
「つり橋効果っていうやつだよね」
「そう、まぁそれだけじゃなく命の危険を感じると、体を求めてしまうのよ。子孫繁栄の生物的本能かしらね。男も女もどっちも。特に女性の方がその症状は強いようよ。そこに戦闘の興奮状態もある。大人の魔道具もある。まぁ、止まらないわね」
なるほど、とユウキは何となくは理解した。
「だから成人したシーカーPTだと、恋人とか同士でなくても当たり前のように抱いて抱かれてと言う状況になるの。町には娼館が用意されているし、ギルドとしても利用を推奨しているわ。一般人に襲い掛かかるなんて言う事件はまずいのよ。
で、そうなると男性としては抱きたい女の子とPTを組みたいでしょ。もちろん女性は抱かれたい相手とだけど」
「そうなるならそうするよね」
「うん、そうなるというのが当然の常識だから。成人したシーカーがPTを組むという事は抱いていいよっていう事なの。だからかわいい女の子にとっては優秀なシーカーの男性に選んでもらえるチャンスでもある。たとえその卵の高校生でも大学生でも、卵のうちに選んでもらえればずっと一緒に居られる可能性があるでしょ」
「結構打算的な考え?」
「そんなものよ。まぁ中学生がする話ではないわよね。私はギルドにどっぷりだから、常識なんだけど。あと、男の子は女の子に夢を見すぎね。女の子としてはまぁ夢を見て欲しいとは思うけど。そういう意味で、自分で強くなりたい女の子も、選んでほしい女の子もかわいい子が集まるの。
シーカーの服装が独特な理由の一つね。
戦闘用装備の方は極端にセクシーでしょ。身代わり機能や修復材料、元からそういうものが発見されているというのがあるから。だからこそ余計男女の関係が進むともいえるわね。
そういう世界が一度できると、女の子っていうのは意地になるのよ。私の方がすごいでしょっていうね。
そうなると、普段の服装もセクシーで決めるか、ギャップを演出するためにあえて清楚にするか。大体こういう発想になるのよ。だからまぁ極端なのよ」
(うん、人によってはものすごくセクシーなんだよね。女性シーカーの服装って。
タマキは思いっきり清楚系だけど。確かに戦闘用装備に着替えた時のギャップは凄かった)
ユウキは心の中でそんなことを考えていた。
今年から成人年齢が15歳に下がり、ユウキもタマキも15歳。既に成人したシーカーだ。
しかしユウキはタマキがユウキとPTを組んだという意味を全く理解していなかった。今説明されたばかりの話だというのに。
「魔物討伐試験はPTで受けられるから、一緒に受ければまず大丈夫でしょ。戦闘試験対策としては魔物をいっぱい倒しましょ。数をこなせば少しは強くなれるかもしれないわよ。動きの修行なら私が鍛えるし、ダンジョン学も魔法学も私が教えるから。ね?」
「いいの?」
「勿論。だって二人で探索するんでしょ。どうせならこの都市以外にも色々行ってみたくない? 別のダンジョンにも」
「別のダンジョン。確かに見てみたいね」
タマキはユウキの言葉を聞いてほっとした。
「だからまた来週ゲートに行きましょ。ユウキはとりあえず魔物が居るところまで行ければ何とかなるでしょ」
「確かに魔物が居るところまで行ければ何とかなるかもしれないけど、強いと分からないよ」
「ダメなら転移で逃げ帰ればいいだけよ。私と一緒なんだから」
二人でダンジョン科に入学という目標を決め、次の週末は再びどこかのゲートに行こうという話に落ち着いた。




