第81話 推薦試験の説明とスライム祭り
前回のあらすじ:
対人戦闘試験を通過した。
ユウキたちの試験により中断していたその他の対人戦闘試験に関しては、30分の休憩時間を挟んだ後に再開することとなった。
短時間とはいえ受験生が観客の気分になってしまった事を修正する時間が必要であり、さらに試験官自体の判定基準の錯覚を防ぐために一度感情をリセットする必要があると判断されたためだ。
人間が判定する以上、誤審があり得ない訳ではない。そして今回の試験は勝った負けたという話ではない。一定基準を上回っているかという判定であり、その基準が揺らいでしまうという事自体が誤審につながるのである。
「少し時間を良いかな?」
ユウキたち3人はそんなこれから対人戦闘試験に向かう受験生たちが待つ控室を抜け、装備を返却して帰ろうとしたところで山下に声をかけられた。
「はい、何でしょう?」
代表して返事をしたのはタマキだ。
PTのリーダーであり、誰かに直接話しかけられたわけでもない場合はユウキもサクラも基本的に対応はタマキに任せている。
装備は特に壊していることもなく、クリーンの魔法も自分たちで使用している。タマキは特に問題点はないはずだと思いながらも、何か手続きとしてやることがあったかしら、などと忘れている手順が無いか頭に思い浮かべている。
「なに、ちょっとした確認事項があるだけの事。
ここで話すのもどうかと思うので、部屋の中へどうぞ」
そうして山下は部屋を見た後、意味ありげに出口側へと視線を向ける。
ユウキたち3人もその視線に釣られて出口側を確認し、そして……。
「分かりました」
案内に従い部屋の中へと入る事にした。
「わざわざ時間を作ってもらってすまないね」
「いえ。さっき出口で待ち構えていた人たちに関係する事ですよね?」
「そうだな。
あそこにいた受験生たちは、君たちとPTを組みたい人達なのだよ。
次に行われる対魔物戦闘試験においての。一部は再試験を一緒に受けて欲しいという人たちも含まれるだろうがね」
ユウキたちは3人PTであり、PT人数の最大が6人である以上、残りのPTメンバーは3人までとなる。
そして1人及び2人PTでの戦闘は昨日終わっており、3人PTでの戦闘もユウキたちと同時に行われていた一部を除いてすべて終わっている。つまりユウキたちが誰かとPTを組む場合、既にその相手は戦闘を終えているものがほとんどなのだ。
とはいえ、ユウキたちは特にPTメンバーを補充するつもりはない。
対魔物試験時に一緒に動く別PTですら面倒なのである。わざわざ自分達からPTメンバーを増やす意味はない。
「私達は特にPTメンバーを増やす予定はないのですが」
「対魔物試験も3人PTで受験希望という話は聞いている。
とはいえ、一応確認は必要なのでな。変更が無ければこちらに来た問い合わせに関しては、PTメンバーの追加はなしと回答させるが」
「よろしくお願いします」
「うむ。手配しておこう。
直接来た受験生に関しては、既に事務局に3人PTで受験すると決定を出している、という形で伝えてもかまわんよ」
「ありがとうございます」
「それと、推薦試験の話は既に聞いているかな?」
「3人PTのままであれば、対魔物試験と同時に受けられるという位ですが」
「そうだ。君たちの場合は戦闘力による推薦となっている。
今回は対魔物試験の内容で判断される形だね」
推薦とは、何かに対して優秀なものを推薦する仕組みであり、ユウキたちは戦闘力に関して推薦を受けている立場である。既に公表されている成果による推薦の場合は試験は不要となるが、ユウキたちはシルバーシーカーであることを公表してはいない。
とはいえダンジョン探索協会での登録内容を調べれば分かる話ではあるが、通常只の学生についてダンジョン探索協会に登録されているかなど調べることは無い。関係する試験官には立場上伝えられているが、レイドボスに関する詳細は不明なのでユウキたち3人だけで倒したのかに関しては試験官たちにとっても分からない事である。
「私は偶然君たちの推薦に関して調べたから知っているが、君たちはシルバーシーカーなのだよな?」
タマキはユウキとサクラの顔を確認するが、既にその時点で山下から見ればバレバレである。
「はい、そうです」
タマキは返事をしつつ、収納からシルバーカードを取り出す。ユウキとサクラもタマキと合わせて山下に見せる。
「確認した。しまってよい。
これを公開するつもりはないのかね?
私は立場上、推薦について調べているうちに偶然知った形だが、正式にシルバーシーカーとして在学中も活動するのであれば推薦試験をせずとも合格となる。
勿論その場合はシルバーシーカーとしての依頼が来ることもあるだろうけれど」
「面倒ごとが増えそうですので、在学中は普通に学生としてすごしたいと思います」
これは山下はおそらくそう答えるのだろうと考えていた。
そうでなければ、予めシルバーシーカーとして受験をするはずである。
「確かにシルバーシーカーとしてすごすのと、一学生としてすごすのでは変わるだろう。
現状の推薦も、シルバーシーカーだからではなく戦闘力が高いからという扱いになっている。そこで君たちの推薦試験の項目は、対魔物試験の際に課題をクリアしながら塔を制覇してもらう形となる。勿論推薦試験がクリアできなかったとしても、普通の試験換算としての試験結果は得られる。
推薦試験が通れば、学力試験でよほどのことをやらかさない限りは合格となるという差があるくらいだ。推薦試験内容に問題があればまだ各部署との調整は利くが、どうするかね?」
「問題ありません」
ユウキたち3人にとっては、塔を制覇するというのは日頃から行っている事だ。特に問題があるわけでもない。
また、山下にとっては違う試験になろうとも実力さえ確認できれば問題はない。変更になった場合、事前準備が変わってくるので変わらないにこしたことは無いのであるが。
「うむ。
詳細な試験日程は、対人戦闘試験が全て終わった後に発表となる。
くれぐれも忘れないように。それと、裏口から出るのであれば案内しよう」
こうしてユウキたち3人は集まった者の対応を山下に任せ、裏口からこっそりと帰宅するのであった。
*****
「シルバーシーカーと言う所迄追えているのであれば、妥当な線ね」
その日の夜、ユウキたちはスミレに対人戦闘試験通過の報告と推薦試験の内容を伝えたところで、スミレは少し考えてからそういった。
「俺たちにとっては楽な内容で良かったです」
「そうね。推薦試験で受かってしまえば、学力試験を気楽にやれるのもいいわね」
「そうですね。
大丈夫だとは思っていても緊張しますし」
特に3人とも学力に問題があるという訳ではない。
ユウキに関してはダンジョン学や魔法学については教わった範囲しか分からないものの、それでも教科書に載っている程度の範囲であれば一通り学習済みである。
「そのための推薦試験よ。
貴方たちの場合は普通の試験ならともかく、論文形式の試験問題があるとやらかす可能性があるのよね。
例えばダンジョンは何のためにあるのかの考察だったりすると、ガイドから答えを聞いているあなたたちと他の受験生では答えが異なるわ。そして採点する側も真実は知らない。
一応そういう問題があった場合は研究所側から説明が入る手はずになってはいるけど、その前に合格しておけば気楽に受けられるわ」
すでにダンジョンシステムのガイドから説明された内容は、ダンジョン研究所では検証作業に入っている。とはいえ検証できること自体が少ないのだが、前提が違えば違った見え方もしてくるものである。それでも教科書が変わるにはまだ時間がかかり、今年の試験に関して何かできるわけでもない。
推薦で終わらせてしまえばそれに越したことは無いのである。
一日の終わりの温泉タイム。
ユウキたち3人にとっては今日の試験が一番の山場であり、あとは推薦試験も含めて特に問題はないと感じている。
そして対人戦闘試験が終わった後の解放感、それはユウキのイタズラ心をそっと後押しした。
「えいっ」
普段から3人で温泉に入るのが日常となっていても、タマキとサクラは服を脱ぐときに即座に収納へとしまったりはしない。脱ぎながらユウキに見せつけて誘惑するのも又日常なのだ。
しかし今日に限っては、ユウキの方から仕掛けていく。タマキが服を脱ぐ前に、後ろからユウキが抱きしめたのである。
「ん。どうしたの?」
「たまにはこういうのもね」
と言いつつユウキは<魔化>の標準モードへと体を切り替える。そして液体となった体を駆使し、タマキの服の中へと侵入する。
「あんっ、ちょと、ユウキ……」
「よいではないか、よいではないか」
ノリノリである。
「もう。普通に触ればいいのに」
「服の中に侵入するのって、何となくくるものがない?
それにこの<魔化>の標準モードは人型を維持するのに苦労してたけど、こういう使い方もありかなーって」
対人戦闘試験において相手を拘束する際に人型へのこだわりを捨てたユウキは、このままでも十分に動く事が出来る事に気が付いたのである。
「なんかスライムに襲われている気分ね」
「ふっふっふ。ユウキスライムの攻撃」
「んっ。エッチなスライムね」
「たまにはこっちからこういうのもいいかなーって」
「私はいいけど、サクラちゃんも期待しているわよ」
タマキの言葉を聞いてサクラの方を見たユウキは、サクラが期待した目で見つめている現状を理解した。
「あれは既に妄想の世界に入っているんじゃない?」
「むしろ妄想の世界のような事が起こるとわくわくしているように見えるわよ」
「あー、そうかも。よしっ。
ユウキスライム、分裂!」
ユウキは液体の体をふたつに分け、片方をサクラの方へと這わせていく。
「見た目はまるでスライムよね。
二つの体を制御できるようになったんだ」
「人型を意識しなければ結構何とかなるね」
「えへへへへー。こっちですよー」
サクラは近づいてきたユウキスライムをすくい上げると、胸元から服の中へと誘いこんだ。
「んんっ。あっ。えへへへへー」
「なんか俺が侵入したというよりは中に連れ去られたような感じなんだけど」
「いいじゃないの。サクラちゃんも気持ちよさそうだし。
ユウキも私も気持ちいいんだから。
あ、そうだ」
タマキもあることを思いつき、<魔化>の標準モードへと移行する。
そして……。
「あれ?
大きくなった?」
「ふっふっふ」
「あー、タマキさんそれは反則です。
いいですもん、私だってー」
そうしてサクラも<魔化>の標準モードへと移行する。
そしてユウキにもタマキとサクラが何をやっているのかは理解したが、ここで口を出すと集中攻撃を食らうのは目に見えている。
「さらにはこうして……」
タマキは胸や顔はそのままで体を液体化させ、ユウキスライムを包み込む。
「あ、何というか、凄い?」
「混ざりあうとこんな感じになるのね。
凄いわね。なんかとろけそうだわ」
「私も負けません。
って、これ凄いですね」
「なんかずっとこうして混ざりあって居たい様な快楽が……」
「でもこれ、気を抜くとすぐに分離しちゃうわね」
「スライム祭りですね!」
こうしてちょっとしたイチャイチャから始まった謎のスライム祭りは3人の夜の日常となり、魔力制御能力を格段に高めていくのであった。




