第75話 選択する未来
少々長めです。
前回のあらすじ:
クラン黄昏用のダンジョンを手に入れ、ダンジョンガイドと2回目の会話をした。
――2日後。
「うむ、良く来てくれたのう」
ダンジョン探索協会会長が、入室してきたユウキたちを快く出迎える。
ユウキたちは今、東京ダンジョン内の交流都市ウエノにある、ダンジョン探索協会本部の会長室へとやってきている。2個目のダンジョンを制覇した翌々日であり、既にユウキたちは普段通りの日常をすごしている。
「これを君達に」
そう言って会長は、3人にそれぞれ綺麗に装飾が施されている封筒を手渡す。
「中身を確認してもよろしいですか?」
「ああ、そうじゃな。もちろんだ。
中身の説明もせねばいかんしのう」
封筒の中身は、白っぽい金属のプレートであった。
「それはプラチナカードじゃ」
「プラチナカード?」
「そうじゃ。プラチナシーカー用の身分証明書じゃな」
「一気に2段階アップよ。おめでとう」
ユウキたちについてきたスミレが解説する。
シルバーシーカーの上がゴールドシーカーであり、ゴールドシーカーの上がプラチナシーカーである。
とはいえこれは、既に一流シーカーがさらに素晴らしい功績を上げたという意味合いが強く、特に何か特権があるわけではない。ただ凄い功績を上げたシーカーだとダンジョン探索協会が認めたという証である。
「ありがとうございます。
……霞ブラック?」
「あ、私は霞ホワイトになってるわ」
「私は霞ピンクです」
プレートにはそれぞれ名前が彫られており、パーティー名は霞、ユウキの名前は霞ブラック、タマキの名前は霞ホワイト、サクラの名前は霞ピンクとなっていた。
「うむ。
カードの発行は記録に残るのでな。シルバーシーカーの時はまさかここまで大ごとになるとは思わなかったのでそのまま本名で発行したが、今回の功績は今公表するには危険すぎる。
普通の生活を送りづらくなってしまうじゃろうという事で、スミレ君と相談して偽名で発行することにしたんじゃよ。
いつか君たちが独り立ちした時に変えてもいいし、派手なことは霞PTとしての活動に任せて本人はゆっくり暮らすのもいい。
ついでに霞PTとして外に出る時に、毎回誰かが付いていなくてはならないのは面倒じゃろ。その時に出入り口で見せればいい」
「えっと、俺達まだシルバーシーカーの時点でも仮だったと思うんですけど、勝手に外に出ていいんですか?」
「ふむ。
少し特殊じゃが、君たちはダンジョンの所有者、言ってみればダンジョン貴族のような存在になっているという見方もできる。好きな時に自分のダンジョンに行けないというのは問題じゃろう。
それに、君達ならこんなものが無くても誰にも見つからずに行き来できるじゃろ。それで問題があった時に、既にこういうものが発行されているという結果が残っているだけで問題は無くなるのじゃ。
まぁ、困った時はスミレ君を頼ればいい。むろん協会を頼ってくれても構わないがな。それでもわしは、きちんと学校を卒業して、正式にライセンスを取得する条件を満たしてくれることを願っているよ」
「そういう事だから、普段使うカードと間違えないようにね。
ギルドでの売買の時はうちのクランカードを使えばいいし、もしギルドで個人カードを出すならとりあえずは色なしのカードを。シルバーカードは例の貴族の時のような特殊な状況以外は見せない事。
プラチナカードは変装している時だけ出すこと。これ位かしらね」
「分かりました」
「あと、多分防衛軍というか国からも何か贈られると思うわ。
内閣総理大臣賞とか国民栄誉賞とかその辺かしらね」
「どっちにしても目立つじゃないですか」
「変装して受けるか、大学卒業後まで待ってもらうかがいいかしらね。
多分変装してとなる気がするわよ」
「そうなんですか?」
「だって、例えばそのうち東京ダンジョンを制覇することになったとするじゃない?
その時にボスは絶対いろんな人に目撃されるし、それを倒した英雄の発表は必要になると思うわ。変装せずに出たら大変なことになるんだから、特殊部隊で今は正体を明かせないという形にしてしまった方がいろいろと楽なのよ」
「面倒だから受けないというのは……」
「それもありね。まぁ、いつか大きくなった時の武勇伝の一つになるわよ」
最終的に受けるかどうかは貴方たちが決めるといいわ、などと微笑ましい表情を浮かべるスミレだった。
――さらに3日後。
ユウキたちはそのままウエノで受験勉強と修行の日々を送っているが、スミレと会長、そして神薙中将に秘書の後藤、国立ダンジョン研究所の所長と主任研究員の6人は中央都市トウキョウ内にある国会議事堂の一室にて非公開の会議に出席していた。
内容は勿論、ダンジョンの制覇に関する事である。
首相や各種大臣、さらには有識者や研究員などダンジョン関係の第一人者がそろっているが、あくまで通常の会議に回す前の事前会議である。
内容が内容だけに、情報が独り歩きした場合に国民がどのような反応を示すのか不明というのがその理由だ。
「安全で制限の無い土地と資源……素晴らしい」
「環境を自ら決めることができるという状況も大きいですな」
「それぞれ土地の開拓もできれば新たな事業を起こすこともできます。
都市同士の交流も活発になり、物流を促進することも。その分税収も期待できるようになります」
「土地を区分けして販売し、それぞれで地区を治めさせるという手もありますぞ」
「ダンジョンの中でも区分けして地方自治という訳か」
「それよりも重要なのは、この結界の拡張という部分ではないですか?
初期段階で周囲5㎞、第2段階開放状態で周囲10㎞。つまり段階開放を続けていけばその分地球上に安全地域が出来る可能性が高いという事です。
日本の領土を魔物から取り返すことができます」
報告書にまとめられた資料を読みながら、忌憚のない意見が出されていく。基本的には皆、好印象の出来事ととらえている。
(うーん、良い部分だけが見えてしまっているわねぇ。
予算や実行部隊の事を何も考えていないわ……)
アドバイザーとして出席しているスミレは、悪い話ではないものの良い流れでもないと感じていた。
「ねぇ会長。エネルギーキューブ販売の実情と予算、在庫の話をした方が良いんじゃないかしら?」
「そうじゃな。夢見る同世代に儂が現実を突きつけるしかないか……」
そして会長は静かに手を上げる。
「発言をよろしいですかな?」
大きく、それでいてはっきりとした声が会議室に響き、出席者の目線が会長へと集まる。
「はい、お願いします」
「うむ。知っているとは思うが、儂はダンジョン探索協会の会長じゃ。
ダンジョン制覇の話を聞いて、浮かれるのは構わん。儂も同じく、話を聞いた時には浮かれたから気持ちは分かる。実際に2回目は同行したから尚の事じゃ。
じゃが、ダンジョン活用の道はまだスタート地点にも立って居ない。
具体的な例を出せば、今この東京ダンジョンの開放段階は第6段階。つまりダンジョンボスの出現には、恐らく600億EPが必要じゃ。これをどのように用意するつもりじゃ?」
会長の発言に、首席者たちがお互い顔を見合わせる。
「財務大臣!
予算的には可能かね?」
「いきなりは無理でしょう。ギルドの販売価格で考えても6兆円。
額が大きすぎますので臨時予算を通す必要があります」
「しかしこの内容であれば、臨時予算は通るであろう。
安全なダンジョンの管理など、先祖から続く夢だ」
「問題は金を用意すればいいという事ではない。
その6兆円分のエネルギーキューブを、誰から買うつもりじゃ?
当たり前の事じゃが、各ギルドから集めたとしても6兆円分の在庫などあるわけが無かろう」
「ですが、今回は少なくとも210億EPは用意したのではないですか?」
「ダンジョン探索協会として出したのはその一部にすぎんわい。
これは情報を実際に協会でも手に入れるために協力したものじゃ。
大部分はクラン黄昏で保管してあったものじゃわい」
「それであれば各クランから購入させて頂くというのはどうなのでしょう?」
「確かにクラン黄昏クラスの超一流クランであれば貯めこんでいるじゃろう。
じゃが、これは単にそのクランは資金的に余裕があり、今更金など必要としていないからじゃ。
超一流のダンジョンシーカーが倒した魔物をすべて売却すれば、直ぐに素材は値下がりしてしまう。そんなことになったら、新たな魔物と戦う新人は生活が出来ない。新人が育たなければいずれ戦力は無くなり、魔物を倒せる強者が居なくなる。
じゃから十分すぎるほど稼いだダンジョンシーカーは、新人では手が出ないような魔物を狩って素材を市場に流すか、自分で使うために魔物を倒すような生活になる。これは代々続いている伝統じゃな。
有り余る金を持っている者から、どうやってエネルギーキューブを買い取るつもりじゃ?
それよりもクラン黄昏と同じく、自分たちでダンジョンを持ちたいと思えばより手放さなくなるだけだと思うのじゃがのう」
「……」
「それにじゃ。
日本中のダンジョンを開放するとて、現状ダンジョンボスを倒せるのはあの子達しかおらん。あの子達をいったいどれだけの間働かせるつもりじゃ?
それに見合った報酬を用意できるのかね」
「……それは日本国民として積極的に国のために奉仕活動をしてもらえばいい」
「その通りだ。
日本国民なのだから、日本のために働くのは当然の義務だろう」
「このような国の未来に関わる重要な案件で、個人の意思などを尊重すべきではない」
さらに発言は続くものの、基本的にユウキたちに働かせるという意見ばかりが続いていく。
(はぁ。思ったよりも頭が悪いわねぇ。なんでいつまでも日本国民でいるのが当たり前だと思っているのかしら。
国有ダンジョン内での権威が誰にでも通じるわけではないのに……)
「黙れこの老害ども!」
スミレがそんな事を考えている時に、1人の女性の発言が会議場内に響き渡った……。
「おやおや、なにやらこの場にはふさわしくないような声が聞こえたような気がしましたが……気のせいですかな?
元総理の孫娘さんの声のように聞こえましたが」
「私にもなにやらそのような声が聞こえてきましたぞ。
中泉環境大臣の声に似ていたような気がしましたが」
「アイドル大臣がまさか、老害なんて言う言葉は使いませんよねぇ」
「あらあら、あまりにも醜い発言が続いていたのでつい本音が出てしまいましたわ。
ごめんあそばせ」
おほほほほほ、などと余裕の表情を浮かべる中泉環境大臣。
「醜い発言とは、いかがなものですかな?」
「これだから素質の低い見た目だけの者は……」
「あら、私をこの地位に仕立て上げたのはあなた方の思惑の結果でしょうに。
ろくに整備することができるわけがないダンジョン内の環境や地球環境に、見た目重視でお飾りのアイドル大臣を歴代政治家の家系から登用する。
でも、この案件はどう見てもダンジョン環境や地球環境に関するものだと思うのですけど?」
「だからと言って、君一人で決めて良い問題ではない」
「事は日本国民全体に判断を与える内容だ」
「そうでしょう、そうでしょう。だから老害どもというのですよ。
貴方がたは、国民全体の事と言いながら自分たちの世代のことしか考えていない!」
「……どういう事ですかな?」
「例えばこの東京ダンジョンを管理するとして、どうやってダンジョンボスを倒すのですか?」
「それはエネルギーキューブを用意して、彼らにダンジョンボスを討伐させるのだろう」
「その際に東京ダンジョン内に住む約5000万人の国民はどうするのです?」
「ダンジョンボス出現中に関しては、死んだとしても入り口に転移するだけと報告書で確認されている」
「つまり死んだら運が悪かっただけで生き返るから気にするなと?」
「5000万人をダンジョンの外に出すことなど現実的ではない。一度我慢すれば安全な世界が待っているのだ。国民の理解は得られるだろう」
「そうですね、それが一度きりでその後は安息が続くのであれば……」
「何が言いたいのじゃ?」
「だから自分たちの世代のことしか考えていないというのですよ!
これが毎年起こる事なら耐えられますか?」
「何故毎年ダンジョンボス戦など行う必要があるのだ?」
「はぁ。報告書をきちんと読んでいますか?
自分たちに都合がいい部分だけを考えていませんか?
ダンジョンは、管理者となれるものが居なくなった段階でリセットされるんですよ」
「管理者が少なくなった段階でダンジョンボスを倒すだけで十分じゃろう」
「それはいつですか?」
「若い者を管理者候補に加えておけば、少なくとも5,60年には問題なかろう」
「で、その頃には自分たちは生きていないからいいと」
「それは若者たちが考える事じゃ」
「本気でアホですか?」
「何を……」
「いいですか!
ダンジョンボスを倒せるのは、彼らしかいないんです。
彼らが10年後に死んでいたらどうするのです?
管理者が居なくなってリセットされるか、ダンジョンボスを出現させて倒せないかという未来になるのですよ?
この東京ダンジョンが。
つまり最後の管理者が死ぬか更新決断をする時に住む国民は、ダンジョンから追い出される可能性が高いわけです」
「……」
「管理可能な者の数が減ったらではないんです。
彼らが生きている間に、できるだけ残り寿命が多いであろう人に管理者を入れ替える必要があるんです。
で、何年に一度にしますか?
何年なら、その間に更新しなくても問題ないと言えますか?
5年に1回ですか?
10年に1回ですか?
そして彼ら亡き後、最後の管理者が亡くなってリセットされるとしてもいいのですか?
ダンジョンボスが出たきりで倒せなくなったら?
それでも国民は、今の生活よりもそちらの未来を選ぶというのですか?」
静まり返る会議場。
そして更に中泉大臣の発言は続く。
「別の視点で考えましょう。
ダンジョンの内部は所有者の物。これは現在のわが国の基本です。
では東京ダンジョンを彼らだけが管理した場合、誰の物になるのですか?」
「それは既に国が所有しているのだから、国の物に決まっている」
「では彼らがダンジョン内部の設定を変更し、移動するなりして国民を全員ダンジョン外へと排除してしまったりした場合はどうするのですか?」
「それは管理権をこちらで把握すればいい」
「ダンジョンボスを倒す段階でPTを抜けて、彼らだけで新たにPTを組んで倒してしまったらどうするのですか?」
「……」
「そこまでいかなくてもどこかの派閥に取り込まれて、その者達だけでPTを組み直されたらどうするのですか?」
再び鎮まる会議室。派閥争いは各々がしている事であり、実際に敵対派閥を出し抜くために管理者にどれだけ関係者を入れ込むかは重要な位置づけとなる。
自派閥だけで構成してダンジョン管理が出来れば、確かに一番都合がよい。そのために彼らを取り込もうとする者が出てくること自体は、容易に想像できることなのだ。
「このような状況下において、どの派閥にも属さないクラン黄昏が彼らを保護しているという状況は、非常に良い事だと言えるでしょう。
クラン黄昏はダンジョン協会内でも会長派。政治的には何処にも属さない中立と言えます。
ですがそれでも、将来の不利益を考えるのであれば既に住人が居るダンジョンの管理はすべきではないと考えます。
将来的にダンジョンを放棄する際、必ず既得権益者が国に損害補償を求める事態となるのは目に見えています。そしてその時には1からダンジョン内の生活を組み立て直さなければなりません」
「既存ダンジョンではなく、新たなダンジョンを管理するだけにすべきという意見かね?」
「半分あっていますが半分外れです。
それでは新たなダンジョンで火種が眠るだけで将来的に使えなくなることに変わりがありません。
さらに言えば、彼らにいくつもの新規ダンジョンを制覇してもらうという事は、そこは国有ダンジョンではなく彼らの占有ダンジョンでしょう。
占有ダンジョンの所有者が、しかも既に管理できる状況にしてまでわざわざ国に所有権を渡すと思いますか?」
「つまりはこれだけの報告がありながら何もするなと?」
「そうは言いません。
少なくとも、全く協力する気が無いのであればこのような報告はしてこないでしょう。
そうですよね?
クラン黄昏のスミレさん」
すでに顔合わせは済んでおり、田中さんからスミレでいいわよのやり取りは終わっている。そして堂々とこの場でもスミレと呼ぶ中泉大臣は、会議の場で何を、と言いそうな人たちを抑えて場の流れを支配している。
「そうねえぇ。
協力しない訳ではないけど、当然やってもらいたいことはあるわよ。
先ずはあの子たちについての情報の秘匿。これはさっき中泉大臣が言っていたように、意味は分かるわよねぇ。
後はあの子達に無理をさせない事。
あの子たちはまだ中学生なのよ。いっぱい遊んで楽しんで勉強して。これから青春時代を謳歌する時間よ。それを他人の都合で邪魔しない範囲に抑えるという意味ね。
最後はきちんと何かメリットを提示する事。
最終的には本人たち次第だけど、あまりにもという内容が出てきたら、私達はあの子達をつれて自分たちのダンジョンに籠るかもしれないわよ。好きに改造した好きなダンジョンで思いっきり楽しみ、たまに貴族連合内のダンジョンへと遊びに行く。
これも面白そうな人生よね」
「いいですねぇ。
私もぜひそこに混ぜて欲しいと言いたいところですが、残念ながら私は素質が低いのでダンジョンシーカーさん達にはついていけないんですよね。
という訳で私が提案したいのは、合計2個のダンジョンを提供してもらうという内容です」
ここで中泉大臣が提案する内容の説明が始まった。
「根本的な問題点は、ダンジョンボスを彼らしか倒すことが出来ないという点だと考えます。神薙中将、防衛軍が訓練を強化したとして、ダンジョンボスを倒せるようになりますか?」
「……現状厳しいのではないかと考えます」
「それは訓練するとはいえ、命の重さが重いからではないですか?
私も資料でしか知りませんが、現在の私達はダンジョン内に移り住んだころよりも平均的な身体能力が落ちていると言われています。これは昔は無茶をしてでも魔物と戦わねばならなかった時代が終わり、今はムーブコアの中であれば安全に暮らしていける時代になったからではないかと思います」
「それはあるかもしれません。
訓練には安全マージンを十分に取って戦う相手を考えますし、今は実戦でも無理に突破するよりは倒せる魔物を倒して撤退するという事が基本となっています。無茶をしなくてもダンジョン内に魔物は戻ってきませんし、ムーブコア内に魔物は攻撃してきませんので安全です」
「それではこの報告書に記載のある、死んでも復活する難易度【易しい】のダンジョンを用意してもらって訓練をした場合、今よりも訓練効率は上がると思いませんか?」
「それは確かにその通りです。
安全マージンを取り払え、格上相手の無茶な戦いも経験できます。その分身体強化の影響も高まり、さらなる魔物の討伐も可能となります。何より攻撃のみに集中して全力を出す選択もできるので、強力な魔物を倒せる可能性が高まります」
「スミレさん、シーカーがそのようなダンジョンで訓練や生活をした場合はどうですか?」
「確かに有効ね。
基本的にシーカーは自分の為に結構無茶をするわ。特にローカルシーカーはその傾向が強いわね。その分強くなる前に居なくなってしまう子が多いのよ。恐らくは死んでしまっているわ。
ライセンス持ちでも、ある程度までは時には無茶をするものね。でも逆に余裕が出来たら無茶な戦いなんてしないわ。そんなことしなくても余裕がある生活は出来るし、やりたいことをやるだけだからね。やりたいことが無茶な時くらいしか死の危険はないわ。
ただ、この報告書にもある訓練施設『初級コース』の話が広まった後は無茶な訓練をする人が増えるかもしれないわね。だから難易度【易しい】のダンジョンを用意して訓練用ダンジョンとするというのはいいと思うわよ。
中にはダンジョンボスと戦える人たちが出てくるかもしれないわね」
「ありがとうございます。
訓練用を兼ねて、私はそこに学校を創設するのが良いと考えています。
今、訓練施設『初級コース』対策案のひとつとして、面白い訓練をしているそうですね。これを実技の選択肢に加えた学園を新たに創設してはどうかと考えます。
時間は有限ですし、可能性は色々とあった方が良いでしょう。
しかし現状の学校に導入しようとした場合、素質に頼らない戦闘力の上昇については素質至上主義者たちの反対による導入妨害が考えられます。
なのでこれらを導入した学園を彼らのために創設するというのは、一つのメリットとして提供できるのではないでしょうか?
とはいえきちんと受験はしていただきますし、最終的に既存の学校に通うか新たな学校に通うかは彼ら自身に最後に選んでもらうという形が良いと考えますけど」
「面白いわねぇ。
その実技は専門家を講師に呼んで、希望する社会人も受けられるようにするとさらにいいと思うわ。
ただ、この話も漏れると妨害されるのではないかしら?」
「もちろん最後の最後まで秘密ですよ。
既存の学校にも最終段階まで教えませんし、完全に根回しが済んだ最後で発表して、希望する転入生も迎えます。場所は東京ダンジョンの直ぐ近くに移動して設置していただけると助かりますね。
そしてその上でもう1個のダンジョン提供のお願いですが、将来的にダンジョンボスを発生させたダンジョンを1個近くに設置して欲しいのです。近くにあれば訓練の成果を試しやすいですので、各地でダンジョンボスが発生しているダンジョンが乱立する状況を防ぐことができますから」
「本人達に聞いてみるけど、その程度であれば問題ないと思うわよ。
もちろん必要なものは用意してもらう前提でという話になるけど」
「そうですね。
会長、このような訓練用のダンジョン設置のためにエネルギーキューブを各クランから売ってもらう事は可能だと思いますか?」
「何か協力者へ提示できるメリットが欲しい所じゃな」
「そうですねぇ。
入り口の石碑のそばに、世界初の訓練用ダンジョン協力者一覧という記念碑を作ってクラン名と協力EPを刻印したりはどうですか?」
「……クランだけではなく企業からも協力がきそうじゃが」
「そっちは金銭的な援助として刻印するのもいいですね。
ただし結局だれもダンジョンボスを倒すことが出来ずにリセットされてもいいように、中の土地所有や権益といった形は省くつもりです。最初からリセットで全て無くなるという情報を開示した上で訓練用ダンジョンは運営すべきですから。
それに本当の意味での最悪は、ガイドが正しい事を言っていない可能性も考えないといけませんからね」
さらに会議は続いていく。
既存ダンジョンもやはり管理下に置きたいという意見が再び出されるも、東京ダンジョンがリセットされて中身が何もなくなる上に外へと放り出されるという真実も発表しますよ、という脅しのような一言で再び沈黙した。
その代わりに、どうせなら訓練用ダンジョンは今まで見たこともないほどの開放段階まで上げようという意見が採用され、学校の話は秘密として訓練用ダンジョンの話だけで協力を求め、集まったエネルギーキューブのエネルギー量によって最終判断をしようという事となった。
こうして地球初の、おそらく誰も見たことのない開放段階の訓練用ダンジョン計画はスタートしていくのであった……。
これにて第3章『地球環境とダンジョンの真相』編完結です。
色々と200年後の地球環境やらダンジョンがなぜあるかなど、少しだけ情報が開示された章となりました。
引き続き第一部最終章となる第4章を楽しんでいただければ幸いです。




