第72話 最後ではなかった共通ミッション
前回のあらすじ:
ダンジョン管理室でダンジョンに関して色々と設定できることなどが分かった。
ダンジョン管理室に入れるのは、ダンジョンボスとの戦闘でMVP団体となった者達だけ。
ダンジョンボス討伐という戦闘ミッションが終わったので、次は別のダンジョンでスミレたちをPTに加えた状況で討伐しようという話になった。
ただし先にユウキたちを小山ダンジョンから東京ダンジョンへ移動したという記録をつけることを優先で。
海底ダンジョンから離脱した6人は、一度日光ダンジョン前へと転移した。
直接小山ダンジョン前へ転移すると周りからの目を気にしなければならず、かつ海上から戻るよりも近い。そして小山ダンジョンへと戻る間に会話をするある程度の時間を取れるという距離感から日光ダンジョンから飛行船で戻るという判断となったのである。
「今回の共通ミッションクリアで開放された機能は、ランドマーク転移ね。
使用可能回数は2回で、1回使うと12時間で1回復するみたい。同じダンジョン内で地図に表示されているゲートや施設、ムーブコアなどに転移できるようよ。ただし個人転移だけど」
タマキが3人を代表して報告する。
開放された機能は転移系であったため、どこへ行っても戻れるであろうタマキが試したのだ。そしてダンジョンの中であれば行き先が地図上で選択できたので一度実行してみたのだが、転移したのは自分だけだった。回数の回復時間もこれで分かったのである。
地上に出てからの地図では選択できる場所が無いため、ダンジョンがある場所へと転移できるわけではないけれど。
「それは便利になるわねぇ。
今はタマキちゃんのお陰でダンジョン内の移動も楽だけど、本当は時間がかかるのよね。
一度どこかでダンジョンボス討伐までミッションを進めれば、他のダンジョンでも行動を楽にするという意味合いがあるのかしら」
タマキの報告に感想を返すスミレ。今はタマキの転移があるためダンジョンの入り口から初級ダンジョンコア施設へ再び行きたくなったとしてもすぐに行けるが、普通は時間がかかる。
これが共通ミッションを進めていけば他の人でも似たような事が出来るようになる。回数制限があるとはいえ、貯めておけば行って戻ってをすぐにできるというだけでもありがたいことである。
「そうかもしれないわ。
ダンジョンシステムは追加改修が行われたみたいだから。ガイドの時間切れで詳しくは聞けなかったけど。
あと共通ミッションは今回で終わりではなくて、次も表示されたわ」
・共通ミッション5
いずれかの下級クラスミッションを5種完遂
但し、素材収集系クラス、生産クラス、戦闘クラスをそれぞれ最低1種は含む
報酬:ミッションポイント+1
内容の説明を受けたスミレは、内心驚いていた。ダンジョンボスを討伐したのだから、初級ダンジョンでのミッションはこれで終わったのではないかと思っていたからだ。
続くとしても、中級ダンジョンでのミッションになると思っていたのである。
「ミッションはこれ位として、後は称号かしら。
≪ダンジョンマスター≫と≪ダンジョン権利者≫の話は既にしたから、≪ダンジョンボス戦MVPパーティー≫位かしらね。表示だけで効果は何も無さそうだけど」
「あ、俺は≪ダンジョンボス戦MVP≫となってるよ。パーティーが付いてなく。
同じく表示だけで何も効果は無さそうだけど」
タマキの発言をユウキが補足する。
「あ、そうなんだ。違いがあったのね」
「私達にも称号は付いたわよ。
とは言っても≪ダンジョンボス戦生存者≫だけど。こっちも表示だけで効果は無さそうね」
そしてさらにスミレが内容を追加した。
「称号って何なんでしょうね」
「あなたたちの≪レイドボスSSS討伐者≫と≪訓練施設『初級コース』完了者≫が特殊なだけで、他はただ単に何かをした結果が表示されるだけだと思うわよ。ダンジョンボスにはSSS等の評価はないみたいだし。
MVPは最終的に誰が一番ダンジョンボスを倒すのに貢献したのか等の意味でしょうから、レイドボスのSSSと評価自体が違うのはわかるけど。
……そっか。これが追加改修という意味なのね」
ユウキの質問に何げなく答えたスミレだが、答えている最中に一つの推測にたどり着く。
「どういう事です?」
「そうね、訓練施設の方は称号よりも訓練施設を突破したという事が重要で、それによっていろいろとダンジョンシステムの機能が開放されたんだと思うの。
だけどレイドボスの方は違うわ。倒したことが重要という訳でもないし。
例えばダンジョンボスの話を聞いた限り、レイドボスとどっちが強いかと言われたらダンジョンボスじゃないかと思うのよ。と言ってもレイドボスにも色々あって、倒せないボスからは逃げているんだけど。だから基本的に脱出できる石は塔に入る石碑で手に入るし、今のところ石碑が無い所でのレイドボス発見は報告されていないわ。
肝心なのは、ダンジョンをどうにかするという流れでレイドボスは出てきていないのよ。
つまりいても居なくてもいい存在。
だからレイドボスというのは後で追加されて、ランクSSS評価を取得するのはチャレンジ目標なんだと思うわ」
「でもそれだとレイドポイントやクラスポイントが手に入りませんよね」
「レイドポイントの使用先は交換品だから元々なくても問題ない物よ。クラスポイントは……クラスミッションでそのうち手に入るんじゃないかしら。下級クラスから中級クラスに行くときにも必要なんだから、下級クラスミッションを終わらせた段階で行けるのが自然だと思うのよね。
実際既にレイドボス討伐のクラスポイントで中級クラスや上級クラスに上がっている私達は、実は効果が無かっただろうという事は予想できているんだし」
タマキが下級錬金術師になったことで、タマキのスキルは<錬金術2>になっている。それに引き換えスミレたちは中級になろうが上級になろうがスキルに数値は付いていない。
結局は中級、上級という言葉による気の持ちようだけで、何かが変わっているんじゃないかと思っていたというのがスミレが考えた結果である。
「つまりこれからクラスミッションを進めていけばそれも分かるという事ですかね」
「そうね。
でもまぁ色々あるし、それは受験が終わってからじっくりとやればいいわよ。先は長そうだし。
もう一つダンジョンを制覇した時にガイドに聞く事も出来るし、根本的な事を言えばガイドに聞きまくれば正解が分かるんだから。
まぁ答えてくれるのかと、正しい事を言っているのかは分からないけどね」
200年も経った今更、ダンジョンシステムについて急いで知らなければならない訳でもない。
受験生のユウキたちにいつまでもクラスミッションをやり続けてもらう訳にもいかないのであった。
「あれ?
おかしいわねぇ」
小山ダンジョン入り口へと戻ってきたスミレは、予想外の出入り口の状況に困惑する。
「俺たちが出て行った時と特に変わった様子は見えませんけど」
ユウキからは、外から見た小山ダンジョンの入り口の様子が出て行った時と変わっているようには見えない。自分達の格好も、再び謎の特殊部隊『霞』の装備に着替えている。
「そうね。
だからおかしいのよ。200万人というのはとても多いのよ。
ホントなら今頃、ひっきりなしにバスが往復しているはずだわ」
ダンジョンの出入り口は、バスが出入りできる程度の大きさはある。とはいえすれ違う程の幅はないため、出て行く分が済んだとしても戻ってきたバスが外から中に入っているはずなのだ。そしてそれが終わればまた出ていくバスが出ていく。
200万人を往復させるというのは一大作業なのである。
「……中は凄いことになってますね」
「ホントね。どうなっているのかしら」
小山ダンジョンの中に入ったユウキたちが見た物は、多くの都市が密集して止まっている異様な光景であった。
小山ダンジョン内の都市は、イチゴの町のような小型の都市でおよそ半径5㎞程度のムーブコア、マジクのような大型の都市では半径10㎞を超えるムーブコアもある。
無限に広がっていくのではないかと言われるダンジョン内の空間と言えど、出入り口付近が無限の広さという訳ではない。
普段は散らばっているためにわからない状況であるが、いくつも集まってみるとそれはもの凄い異様な光景であった。
防衛軍の集合場所へとたどり着いたスミレたちは、何故か会議室へと案内された。
そして……。
「え?
負けたの?」
中で待って居た神薙中将から聞かされた内容は、小山ダンジョンと東京ダンジョンの間で発見された魔物の塔にて、防衛軍が敗北したという内容だった。
「魔物とクリスタルの破壊は終わっているらしいのだがね。
なんでもボスに地竜の上位種ではないかと思われる魔物が出たそうだ。攻撃がほとんど通らないらしい」
「あら、運が悪いわね。
ボスに上位種が出たってことは、普通のアースドラゴンも魔物の塔の中に居たのよね?」
地竜。ドラゴンと言う名前が付いていても、大陸に居る倒せないドラゴン系とは違いある意味大きなトカゲである。
但しその鱗は硬く、防御力に関しては非常に高いのであるが。
ダンジョンボスであったグレイターシードラゴンのような咆哮を使ってくるわけでもなく、単に防御がものすごいトカゲが突進してくるだけである。
「そっちは倒せたらしいからボスまではたどり着いたとのことだ」
「そのうちボスが消え、魔物の塔が再稼働するのを今は待っているということ?」
「一応はな。頼む立場が違うのはわかっているが、出来ればサクッと倒してくれると嬉しいのだが……」
防衛軍の長として、霞PTの中身が中学生であることを知っているカンナギとしてはあまり負担をかけてしまうのはどうかと思っている。本来は、自分達が守るべき相手なのだから。
『良いんじゃないですか?
魔物の塔が残っているなら緊急ミッション扱いになるでしょうし』
話を聞いたユウキは、PT会話でスミレに伝える。
それを聞いたスミレはタマキとサクラが頷くのを確認し、自分達で倒しに行く事を決めた。
「倒しに行くのは簡単だけど、ボス以外は倒したのに何で東京ダンジョンへの移動が始まってないの?」
「それがどこからか防衛軍の敗北が住民にもれてな。
ついでにドラゴンが途中で待ち構えているなんて言う噂まで飛び出したことで、住民に不安が広がってしまっているんだ。さらに今は、このダンジョンに残ってこのまま住民になろうというデモも起こっていてな。移動を強行しようとすると、連れ去るのかという話になってしまう。
かといってこのまま入り口にずっといると物資も不足する。早めに移動を始めたいのだが、なかなかいい案が浮かばなくてな……」
この発言を聞いたユウキが、ついでとばかりに思いついたことを伝える。
『スミレさん、魔除けのオーブと特殊カード(転移ゲート)のテストにちょうどいいのではないですかね?
貯まる一方で、俺たちが使う状況になるイメージがわきませんし』
すでにいくつも予備があり、ユウキたちが転移するならタマキが居れば十分である。
わざわざ出発地点とゴール地点で魔除けのオーブを使ってまでゲートを作る意味などない。今のタイミングの方がよほど役に立つ上に、無駄とはならないテストができるのだ。
『そうね。私が一度東京ダンジョンまで行けば私達は転移で行き来できるし、こっちと向こうで魔除けのオーブを使って、その上で特殊カード(転移ゲート)を試してみればいいだけよね。余っているんだし』
『物資が足りないのであれば、特殊カード(緊急物資)も使ってもいいかもしれませんね。これも魔除けのオーブ内限定ですし』
ユウキの思い付きにタマキとサクラも賛同する。
そしてこれを聞いたスミレはカンナギに内容を提案し、実際に試してみることとなった。




