第70話 ダンジョンボスとガイド
前回のあらすじ:
EP稼ぎをしながらそれぞれ修業した。
エネルギーキューブを初級ダンジョンコアに接触させると、ボスが出現するという表示が出た。
ダンジョン内の全設備消滅という表示と共に。
『え……消滅?』
『ユウキさん、周りが……』
メッセージに驚いているユウキにサクラが促す。
今いる初級ダンジョンコア施設が、サラサラと崩れ始めているのだ。
『設備って、初級ダンジョンコア施設も含まれるんだ。
あ、タマキ。スミレさん達に段階開放もこうなるのか聞いてみないと』
「……そうね。私が中継しないと。
スミレさん、段階開放のボスと戦う場合もこうなの?」
PTが分断されてしまったことにより、ユウキとサクラのPT会話はスミレには届いていない。元々こういう状況の対策としてタマキが<魔化>を使わずに耐水ポーションと水中呼吸の魔法を使っている。中継はタマキの役目である。
「ちがうわ。
段階開放のボス戦はレイド戦と同じよ。さっきの部屋の中にいる人が段階開放のボスと戦う空間に飛ばされるのよ」
『タマキさん、地図上からゲートや施設、ムーブコアの反応も消えました』
スミレがタマキに答える間に、タマキにはサクラから追加情報が伝えられる。
そしてタマキがスミレにそれを伝える間に、状況がさらに変化する。
<ダンジョンボス消滅まで残り10000000000>
メッセージが表示され、1秒ごとに1カウント減っていく。
「「「『『『ながっ』』』」」」
全員の言葉がそろった。
100億カウント。つまり100億秒。300年以上である。
「……ユウキ、ボスは?」
『魔石は自動回収にしているんだけど、反応が無い』
初級ダンジョンコア施設も消え、海底なので辺りは基本的に暗闇である。それぞれが明かりを出したために周りは見えているのだが、ダンジョンボスらしき相手は見当たらない。
300年かけて討伐するボスとはどういう想定なのか。
人間何世代分だか分からない残り時間の状況で、さらにいるはずのボスが居ないのである。
『ユウキさん、地図にダンジョンボスの表示が出てます』
タマキがスミレたちへとユウキの言葉を中継している間にサクラが気が付く。ダンジョンボスの位置が地図上に表示されていることに。
『これ、ここに向かってきているよね。
遠いけど』
地図上に表示されているダンジョンボスの位置は、未探索範囲である黒い表示の位置にある。つまり少なくとも10㎞以上先なのだ。
こちらに移動してきているように見えるが、見えている範囲と比較してもまだ30㎞以上は離れている。
「ユウキ、魔石の回収は届く?」
『残念ながらこんなに離れていると無理。
もっと近づいてきてくれないと』
方向が分かっているので数km程度であればと思うユウキであるが、届く距離の詳細は測定したことが無いし実際にボスはまだ消えていない。
方向を絞ったことで回収できている魔石は、普通の魔物の魔石なのだろうとユウキは考えている。
そこへ……。
「GRYUAAAAAAAAAAAA!」
ボスがいる方向から聞こえてくる咆哮。
ユウキとサクラは<魔化>を使っているので問題なかったが、タマキたちは同時に伝わってきた衝撃波により吹き飛ばされる。
『大丈夫?』
『ええ、私はとっさに<魔化>を使ったわ。
スミレさん達は吹き飛ばされたけど……普通に体勢を整えて着地してるわね。流石よ。
ただ……耳が聞こえていないわ』
ユウキの問いにタマキはPT会話で応える。
タマキたちは咆哮により、耳が一時的に聞こえていない状況なのだ。スミレたちと会話をしようとしても、お互いに何を言っているのか気聞こえていない。
『そっか……まずいね。
今は咆哮だけだけど、少なくとも俺の射程より長い』
『そうね。まさか目の前に現れないなんて……』
全員、ダンジョンボスは自分達の近くに現れるものだと思っていたのである。
『タマキ、こっちから転移コンボで近づこう。<魔化>状態の俺達だけなら多分大丈夫だろうし、魔石自動回収と転移コンボで射程に入ってさえくれれば魔石を回収できると思う』
『そうね。
スミレさん達に伝えるわ。ここで次のボスの行動を待つよりいいし、実行することになると思う』
既に各自キュアの魔法を使用し、状態異常からは回復している。
そしてタマキはスミレに状況を説明し、ユウキとタマキでボスへと向かい、サクラはスミレたちの元に残り何かあった場合にユウキたちへと情報を知らせる役割を果たすことになった。
そしてユウキとタマキが転移する事数回。
高さは海面と海底の中間付近を転移先としており、地図上の位置ではほぼ重なりあったところで……。
『でかっ』
2人が転移した先のすぐ脇を巨大な長い何かが通り過ぎて行く……。
『ユウキ』
『大丈夫。魔石は回収した』
とはいえ慣性がいきなり消えるわけでもなく、巨大な長い何かはそのまま通り過ぎていく。
『ユウキさん、終わったんですか?』
『サクラちゃん、魔石は回収したよ。と言ってもこのボスがそっちまで止まらずに突っ込む可能性があるから、回収し……』
などとユウキとサクラが悠長に会話をしている間に事態が動く。
<ダンジョンボスが討伐されました。
MVP団体はダンジョン管理室へと転移します>
『あ……』
ユウキは思わず回収前にメッセージを確認する時間をとってしまい、ダンジョンボスを回収する前にダンジョン管理室へと転移されてしまうのだった……。
ユウキ、タマキ、サクラが転移したのは初級ダンジョンコア施設のコアがあった部屋とよく似た空間だった。ただし決定的に違うのは、周りに出入り口が見当たらない状況である。
「いらっしゃい。初級ダンジョン管理室へようこそ。
100秒以内にダンジョンマスターを一人決めてくれないかな。この星で初めての正式なダンジョンマスターだよ」
そしてダンジョンコアのそばに浮かぶ半透明の妖精のような何かが、<魔化>で見えないはずの3人に向かってそう告げた……。
「えっと、100秒を越えるとどうなるんですか?」
ユウキが率直な疑問を聞いてみる。もしかしてまたエネルギーを貯め直しになるのかもしれないと思いながら。
「100秒は僕がいる間の時間だね。それ以降はこの管理室のコアに最初に触った人がダンジョンマスターとなる」
もう1回エネルギーを貯め直す必要は無さそうだった。そしてやはり<魔化>状態の3人の声も聞こえているようだ。
「あのー、色々聞きたいことがあるんですけど、聞いてもいいですか?」
「僕がここにいる間なら、答えられることは答えるよ」
「あなたは何者なのでしょう?
何て呼べばいいですか?」
サクラが先ずは質問する。そもそも相手が誰だか分からない。何て呼べばいいのか分からないのだ。
「そうだね。
君たちのイメージで答えるなら、ダンジョンシステムのガイドと言うところかな。
なのでガイドとでも呼んでもらえばいいよ」
「残り数十秒でどこかに行ってしまうようですが、ガイドさんと会う方法は?」
「再びダンジョンボスを討伐すれば会えるよ。このダンジョンだけという訳ではないし、このダンジョンで追加設備を開放したうえで再びダンジョンボスを討伐してもいい」
サクラに続いてユウキも質問をしたが、これにもあっさりとした答えが返ってきた。
「この場所には他のメンバーは呼び込めないの?」
転移してPTを組んで戻ろうかと思ったタマキだが、一度外に出たら入れない可能性があると思い踏みとどまっている。
「この場所に入れるのは、このダンジョンのダンジョンボスを討伐した際のMVP団体のみだよ。個人、PT、クラン、レイド。もちろんダンジョンシステムを使用した団体という意味で、君たち地球人社会の団体という意味では無くね」
つまり人間社会のシステムであるダンジョン探索ギルドとしてクランを登録しているからといって、討伐時にPT分割されてしまっているスミレたちは入れないという事だ。
実際にメッセージとして称号だとか共通ミッションクリアだとかの情報も表示されているのだが、3人とも今はそれどころではない。
スミレたちを連れ込めない段階で、自分達で質問を考えて聞くしかないのである。
「ダンジョンは何のためにあるんですか?」
時間がもったいないとばかりにユウキが思いついたことを質問する。
「ダンジョンは当初、魔力爆発による連鎖エネルギー崩壊を防ぐために作られたんだ。
魔力には濃い場所薄い場所、そして流れがあってね、流れの一部に淀みができるとそこに魔力エネルギーが集中してしまうんだ。そしてある程度以上のエネルギーが集中すると、魔力爆発が起きてしまう。そうなると周囲の魔力を伝わって全ての魔力領域で連鎖エネルギー崩壊が起きてしまう。
それは魔力が存在する領域に甚大な被害を発生させてしまう事になるんだ。ちなみに今起きると宇宙規模の異変となるよ」
思ったよりも深刻だった。
「えっと、魔力ってどうしてあるんですか」
「魔力は世界樹が放出しているんだ。
遥かな昔、この宇宙の中心付近にある惑星ユグドラシル。そこにこことは違う世界から現れたとされる古代エルフ族。当時この世界全域に存在した魔力は非常に弱く、世界樹を植えた事によって十分な魔力がいきわたったとされているね。当時は僕も存在していなかったからあくまで言い伝えの話だけど」
「地球に魔力がやってきた原因は?」
「地球に魔力がやってきたんじゃないよ。地球が魔力領域に入ってきただけで」
「地球が魔力領域から抜け出すのはいつ頃になるの?」
「地球の移動と魔力領域の拡大を考えると、たぶん抜け出すことは無いんじゃないかな。今でも世界樹は魔力を放出し続けているし、魔力領域は拡大し続けているから」
「えっと、ダンジョンシステムを作ったのはその古代エルフなの?」
残りカウントが数秒となり焦って質問するタマキ。
「最初はそうだね。その後さらに追加改修されていき……あ、ごめんね。もう時間だ。
またどこかのダンジョン管理室で。
君達なら、またくるよね……」
その言葉と共にガイドの姿は薄れて消えていったのだった……。
「あー、悔しいわね。終わってから考えると、魔物の事とか他にも聞きたいことは色々思いつくわ」
「でも朗報もあるじゃない。既に共通ミッションのボスを倒せという戦闘ミッションは終わったから、次はスミレさん達とPTを組んだまま倒せばいいだけでしょ」
「そうね。
私達よりもよっぽど聞きたいことはたくさんあるだろうし……ふぅ、知識不足よね。やっぱり」
「私達はこれからですよ。タマキさん」
効率よく聞きたいことを聞くことはできなかった。
もしかしたらもっと先に聞くべきことがあったかもしれない。
知識不足を実感しつつも聞いたことは無駄にしないように伝えようと励まし合う3人であった。




