第53話 初めてのダンジョン外活動1
前回のあらすじ:
ミッション報酬のPT会話や地図の確認。
スミレたちが入る事の出来ないダンジョンへと向かう事になった。
「ダンジョンの出入り口って洞窟になっているんですね」
「そうよ。
この洞窟の途中にね、ゲートのように光っている部分があるの。そこが境界線となっているのよ」
ユウキの言葉にスミレが答える。
ユウキたち3人とスミレ、そしてクラン黄昏のメンバー二人を加えた6人が今回の調査メンバーである。
6人は今、小山ダンジョンの出入り口を通過している最中だ。勿論ユウキたち3人は特殊部隊『霞』の全身装備で中身が誰だかは分からないようにしている。マジクのギルド周辺であればともかく、こんなところで普段の格好のままの中学生3人がギルドメンバーと一緒に外に出た場合、どうしても目立ってしまう。
3人の特殊性を考えると、ここで目立たせるのは得策ではない。とはいえギルドに照会できるレベルの者であれば、3人がクラン黄昏に所属しているという事は確認出来る事であり、完全に隠すことはできないのだが。
「あ、これね。
確かに光っているわね」
「ホワイト(タマキ)、あの光るゲートの向こうまで転移ってできるかしら?
転移魔法だとダメだけど、スキルならいけるかしらね」
「試してみます」
そう言うとタマキは転移を発動し、ひとりゲートの先へと転移する。
「大丈夫……という訳でもないわね。
今成功したのは自分の周囲10m以内の瞬間移動系の転移だけど、ダンジョンの外側からだと中の目印が分からなくなっているわ」
そして再び瞬間移動で戻るタマキ。
「目印自体が消えたわけではないわね。自分と同じ側にある目印を利用すれば、その目印の10m以内の範囲で外から中へも行けるみたい。次はブラック(ユウキ)も連れて試すわ」
そしてタマキはユウキも連れて瞬間移動系の転移を実行する。
二人でも無事に転移は成功し、少なくとも瞬間移動としての転移であればダンジョンの内外を通過することはできた。
そしてダンジョンの外でもユウキに付けてある目印を確認することができ、少し離れた位置からユウキの元へと転移することもできた。しかしユウキを外に置いた状態でタマキがダンジョンの中に戻った場合、ダンジョンの中からダンジョンの外の目印も確認できないことが分かった。
結論としては、ダンジョンの外からダンジョンの外、つまり地球上から地球上にある目印であればアレンジスキルの転移は問題なく発動するが、ダンジョンの内外をまたぐ目印を目標とする場合は目印を認識できないので転移することができないという状況だと思われた。
「でも転移できるのはいいわねぇ。
転移魔法陣の魔道具は起動できないのよね。転移魔法でダンジョン間を移動できると楽なんだけど」
「あの魔道具は未だに<解析>を使っても良く分からないんですよね。
もっと使いこなさないといけないのか、単純に解析出来ない物もあるのか」
「そこは期待しておくわ。
とはいえダンジョンの外に出る人は大抵戦えるし、そこまで頻度も多くないのよね。それにダンジョン間の情報はあまり広めてはいけないものもあるから、誰でも簡単に行き来をしていいわけでもないし」
特に発展状況が大幅に違うダンジョンの様子を発展が遅れている側のダンジョンで話すのは禁止されている。よりよい環境を知ったとしても、ダンジョン自体の発展となるとすぐにはできないからである。結果的に不満が溜まるだけなのだ。
「ここがダンジョンを出た広場ね。
森が切り開かれているのは、空から見てもダンジョンの出入り口が目立つように、という配慮よ。整地されているのも、飛行船などの発着に便利なようにね。
今は先に向かって道が整備されているけど、これは今回の東京ダンジョンへの移動に車を使うからね。普段は道は整備されていないわ。魔物が来たら壊されてしまうしね」
スミレの解説を聞きながら辺りを見回すユウキたち3人。ダンジョンの出入り口である洞窟を出た先は切り開かれており、地面も平らに舗装されている。
しかしそのさらに周辺迄目を向けると、そこには木々が生い茂っており、森の中にある広場を連想させた。
ユウキたちが初めてのダンジョン外を眺めている間に、スミレは移動用の飛行船を収納から取り出す。
船の形をした魔道具で、不使用時は全長30cm程の模型のようになっている。これは魔力エネルギーであるEPを使用することによって使用時の大きさへと変わっていく便利な物なのだ。
とはいえ使用時でも全長約10mという小型のクルーザーであり、そこまで場所を必要としない。水の上を進むこともできるが、基本は空を飛ぶ。垂直離着陸ができるため、着陸場所の制限も緩やかである。陸上に着陸をしている際は船を支える足場や乗り降りの階段が勝手に出現しているが、そもそも空に浮いた状態から各自が飛行装備を使用することもできるのだ。わざわざ着陸をしないでもいいのである。
「今回はこれで行くわよ。貴方たちの魔化で飛ぶと速度が出ないし」
スミレの言葉により初めて飛行船に気が付くユウキたち。飛行船自体は3人とも見たことがあるのだが、今まで中に乗り込んだ経験はない。
「かっこいいですね。
これは作られた物なんですか?
それとも宝箱から出た物なんです?」
「宝箱よ。
作られた飛行船は大型のものが多いわね。
ダンジョン内の一部で使われている気球的な飛行船は基本的に作られた物よ。あれは動力や結界などに魔道具が使われているという意味で、船体や装置などは普通に製造できるものなの。
それに対してこれは存在自体が魔道具。こうやって小さくすることも出来るわ」
スミレは説明しながら大きさを模型状態まで戻し、再度使用時の大きさへと変更させる。
「俺たちが持っている宿泊施設、温泉旅館の宝珠のようなものですか?」
「あれはこれより凄いわよ。だってあれ、使う時に元の大きさに戻す必要ないじゃない。
場所と範囲を指定するだけでその内部を異空間化してしまうあの宝珠は凄い物よ。
しかも許可がない人は入れないだけでなくその場所に行っても素通りしてしまうから結界への攻撃もできない。スーパーレア級だけあって、もし解析出来て作れるようなら凄い物よ」
「残念ながらあれも<解析>を使っても分からないんですよね」
「この船は解析できるの?
これはハイレア級のアイテムよ」
「無理みたいです」
「うーん、もしかしたら複合的な魔道具は難しいのかもしれないわね」
「複合的な魔道具、ですか?」
「そう。例えばこの飛行船だけど、『大きさを変更する』以外にも『飛行する』とか『結界を張る』とか中に有る機械に『エネルギーを供給する』とか色々な魔法が使われていると思うのよね。
それらを含めて一つの魔法なのかもしれないし、それぞれ別々の魔法なのかもしれないわ。空を飛んでいる時に比べて、大きさを戻すだけだとEPの消費は少ないの。
例えばこれ。ブラック(ユウキ)はこれを解析できる?」
そう言ってスミレは一つの機械をユウキに手渡す。
「ダメですね。<解析>を使っても分かりません」
「そう。だったら、こうするとどうかしら」
スミレはユウキから機械を回収すると、3個のパーツへと分解し、そのうちの1個の部品を再度ユウキへと渡す。
「これは……EPを電気エネルギーへと変換して出力する魔道具ですか?」
「正解。こっちは?」
スミレはさらに残りの2個の部品も渡す。
「これは、位置情報を取得して送り出す魔道具で、こっちは記録情報を映像として再生する魔道具ですかね」
「魔法としての効果はそれで大体あっているわ。
機械としての効果までは分からないようね。
これはそれぞれ作られた物よ。そしてこれらをすべて組み合わせると、地球上で現在の位置を知る事が出来るナビゲーターという装置になるの」
実際にスミレはナビゲーターを起動しながら説明する。
「俺たちの地図機能のようなものですか?」
「分類としてはそうだけど、性能は天と地ほども違うわね。
これはあくまで、過去に情報収集された地図データに現在の位置を表示させるもの。
そして好きな位置にマークをつけるだけの物よ。
貴方たちのように現在の地図情報が分かるわけではないわ」
スミレは過去に記録された大都市の地図情報を表示させる。
「200年ちょっと前の地球、特に人が多い地域は建物だらけだったの。
例えば今の現在位置、ここはかつて小山城という城があった跡地のすぐ近くという表示ね。この周辺だけは公園という形で建物がないエリアがあるみたいだけど、その周りを見渡せば建物ばかりが続いているわ。今見えている方向もかつては住宅街だったはずよ」
そうして道が続く方向を見るスミレ。今は道の他に森があるだけとなっている。
「そしてこれは、移住する東京ダンジョンがある場所。東京ダンジョンは、当初は上野ダンジョンと呼ばれていたらしいわ。このナビで見ると、上野という地形があるからそれでなんでしょうね。
地上を放棄してダンジョン内で生活することを決め、首都機能を上野ダンジョン内に集めたことで首都東京と分かりやすくするために東京ダンジョンという名前に改名したそうよ。
こっちも周辺は上野公園と呼ばれていた場所で建物がないエリアが続いているけど、その周辺はこの場所以上に建物が密集していたそうよ。
今はここと同じく森になっているけどね」
「過去の情報なんですね」
「そうよ。そもそも現在の情報を地図的に取得するのは難しいの。
それに今は森だらけだからね。主要なダンジョンの位置情報はこのナビに入っているわ。
新たに発見されたダンジョン等の位置情報を収集するのも、ダンジョンシーカーがやることの一つよ」
「開放されたミニマップには”ダンジョン『小山ダンジョン』”という表示が出ています。
縮小しても、地図が分からない黒い部分にはダンジョンの表示が出て無いので分からないようです」
「地図として表示されたところに新たなダンジョンが出来たらどうなるかは気になるわね。さて、いつまでも話していないで目的地に向かいましょうか。
とはいえ50㎞程度の距離だから、すぐに着くけどね」
そうして6人は船へと乗り込み、今回の目的地である北北西方面へと向かっていくのだった。




