第51話 報酬とミッションの行方
前回のあらすじ:
共通ミッション1をクリアするために魔法の塔を制覇した。
「せーのっ」
「転移魔法」
「反射魔法」
「飛行魔法」
タマキの掛け声に合わせて3人が一斉にクリア報酬として手に入れた物を発表する。
「……リザレクションは出なかったわね。ユウキ、ボスの後の宝箱のやつは?」
「あれはメガ・ファイアだったよ」
「簡単に手に入るようでしたらそこまで貴重とは言われませんよね」
「そうだね。
後、途中の宝箱やドロップでエリアヒールやエリアキュアなんていうサクラちゃんが使うと良さそうなのもあったよ」
ユウキは収納内の鑑定済みスクロールを確認しながらそう告げる。
「ユウキが改造したらもっと良い魔法になって覚えられるわよね?」
「そうだけど、それはまだ先になるからね。
使えそうな魔法は解析だけしておいて覚えちゃっていいんじゃないかな。
お金には困ってないんだし」
「それもそうね。
それよりも次の共通ミッション2がゲートを3個制覇するだけだから、ついでに終わらせましょ。
本当は魔具の塔もクリア報酬をもらっておきたいところだけど、もしかしたら共通ミッション3がまた施設制覇系かもしれないし。急いで共通ミッション2をクリアして戻ってきましょ。
共通ミッション3が違ったとしてもクリア報酬は貰っておきたいから」
・共通ミッション2
ゲートを3個制覇
報酬:ミッションポイント+1
ユウキとサクラから異論が出るわけでもなく、タマキは転移目印のあるゲートへと転移する。
タマキが選んだ3個のゲートは、1個目がカドマツの新発見だったゲートであり、2個目3個目はタマキがソロで修行していた時に使っていた中学校の授業でも使われるゲートだ。
3人だけで制覇を目的とした場合には時間がかかるようなものではなく、あっさりと3個のゲートを突破した。
<共通ミッション2を完了しました。
ミッションポイントを1獲得しました。
累計ミッションポイント2達成により、マップ機能が開放されます>
共通ミッション2の完了メッセージと共に、視界の右上にミニマップが表示される。
拡大縮小が可能で自分の位置やPTメンバーの位置も表示されている。
意識すると中央に巨大な地図として表示することも可能であり、中心を自分の位置以外に移動させることも可能となっている。
地図の大半は真っ黒であり、一部に地形やマーカーが表示されている。
「ミッション関連を除いて、行ったことのある場所周辺だけ表示されるみたいね」
「だね。”ダンジョンの出入り口”も表示されているし、”施設”や”ゲート”の位置も表示されてる。クリアしたゲートの位置もあるってことは、クリアされているかどうかの判断としては使えないか」
「ダンジョン出入り口のところに”ムーブコア『海岸都市アクア』”とか”ムーブコア『鉱山都市ハガネ』”等の表示がありますよ。
都市に行ったことは無いですが、既に表示されているダンジョン出入り口付近に到着しているから見えるようになっているんですかね。
多分マジクは移動中でその位置に私達が行ったことが無いから地図の黒い部分のどこかなんでしょうけど」
「これ便利よね。
おそらく本来の流れではダンジョン内で本格的な活動をする前にこう言う機能が開放されているはずだったのよね。訓練施設『初級コース』を終わらせてミッション1個目でPT会話、2個目で地図。次は何が開放されるのかしら」
「ミッションはずっとこういう機能開放系が報酬なのかな。残念ながら次は施設制覇じゃなかったけど」
「初級ダンジョンコアって、これスミレさんが言っていたダンジョンコアの事よね。きっと」
「クラスを取得する場所を確認すればわかりそうですね。
地図の黒い部分ですけど”初級ダンジョンコア施設”マークが表示されていますし。
でも、これ『初級』のダンジョンコアなんですね」
3人のステータス画面のミッション欄には次のように表示されている。
・共通ミッション3
初級ダンジョンコア施設でクラスを取得
報酬:ミッションポイント+1
「『初級』ダンジョンのコアという意味かもしれないし、ダンジョンの『初級』コアという意味かもしれないわ。
後者ならこのダンジョンにも『初級』ダンジョンコアの他に『中級』ダンジョンコアとか『上級』ダンジョンコアがあるのかもしれないし、進めてみないと分からないわね」
「あ、そうか。『初級ダンジョン』のコアかもしれないし、『初級』のダンジョンコアかもしれないのか」
少なくとも3人がスミレから聞いた限りでは、これまでミッションの情報などは存在していない。自分達が手に入れた情報こそが最新の情報なのである。
「たぶん中央都市が初級ダンジョンコア施設のそばにあったんだと思うわ。スミレさんも高校に入ったらクラスを取得すると言っていたし。
けど今は動いてしまっているでしょうから、地図の場所に向かっても近くに休める都市は無いと思うのよね。転移で何回か戻りながら向かう手もあるけど。
とりあえずは魔具の塔をさっさとクリアしてマジクに戻りましょ。
スミレさんに相談したほうがいいわ」
「そうだね」
「そうですね」
タマキの意見に同意するユウキとサクラ。
魔具の塔前へと転移すると早速中へと入っていくのであった。
*****
一方その頃、ダンジョンの出入り口に到着した各都市ではダンジョンの外に関する情報開示が行われていた。
各都市にある大型講堂施設を用いて全市民に行われる説明会である。
当然1度ですべての人が入れるわけではなく、何度となく説明が行われることになるのだが。
「皆さんこんにちは。私は防衛軍教育部の三浦和江です。よろしくお願いします」
防衛軍教育部。
通常は各ダンジョンの出入り口において、ダンジョンの外に出る事を許可された者に対して初回教育を行う部署である。ダンジョンの外にいるだけで魔物を引き寄せてしまう都合上、自己責任というだけで勝手に出歩かれてしまうのは他者にも迷惑がかかる行為となる。
国家ライセンスを取得したダンジョンシーカーや防衛軍を除いてはなかなか許可が下りないのが現実ではあるが、それでも例外が無いわけではない。
今回は独立によるダンジョン間の移住という大掛かりな移動となるが、無知なまま外に出た後で自分勝手に離れてどこかに行く者が出ないとも限らない。そのため出発前に教育を行っているのである。
「先ずは一番重要なことを覚えておいてください。
ダンジョンの外、つまり地球上での行動ですが、移動中に護衛の防衛軍から離れてしまった場合は死ぬと思ってください」
この発言に、のんびりとしていた市民の表情が変化する。
「この一番の原因は、ダンジョンの外では隠れていても必ず魔物に見つかるという事です。ダンジョン内であれば絶対に見つかるはずがない隠れ方をしても、いずれ周囲から魔物が集まってきます。
これはダンジョンの外では、『自分はここにいるぞ』という情報が時間が経つにつれて遠くまで伝わるようになり、その伝わった範囲にいる魔物が自分に向かって集まってくるからといわれています。
この影響は一度どこかのダンジョンに入ればリセットされます。地球上で活動する際は、我々防衛軍も基本的に1日1回どこかのダンジョン内に入るようにしています。
ですので今回の移動も地球上に居るのは1日もかかりません。
ここにいるほとんどの方はシーカーではなく一般の方だと思いますので、防衛軍が用意したバスを使って舗装された道路の上を移動するだけです。
移動時間は1,2時間というところでしょう」
普段魔物と戦うことがない都市の中で暮らす市民にとって、必ず魔物に見つかり集まってくる世界と言うのは恐ろしい所だ。しかし移動時間がたった1,2時間というのは拍子抜けである。
ダンジョンの中では、隣の都市に行くだけでも護衛付きのバスで数日かかるのが当たり前の環境なのだ。それがたった1,2時間である。
険しくなった顔が緩んでしまうのは仕方のない事なのだ。
「一緒に移動する限定シーカーの方たちも、自分なら大丈夫などとは思わないでください。
ダンジョンの中と地球上では、戦闘や生活について色々と異なる部分があります。宿泊施設を持っているからといって地球上で暮らしてみたいなどというのは夢のまた夢。危険な妄想だと思ってください」
地球上にいる野生動物は、倒しても解体や収納等のスキル全般が使用できない。また、魔物のように3時間で復活することもなく有限である。
地球上の資源は、収納もスキルによる加工も不可能である。
地球上の資源は有限で、ダンジョン内の資源のように時間で復活することは無い。
ダンジョン内に比べて、地球上での生活は不便なことを伝えていく。
「他にも、地球上では植物の栽培に多大な時間を必要とします。
ダンジョン内で、都市内に運び込んだダンジョン産の土を利用した栽培のように、数日で成長するようなことはありません。
例えば私達が普段食べているお米ですが、ダンジョン内であれば種もみを植えてから2週間もあれば収穫できるのは体験実習をしていると思います。
ですが地球上では種もみを植えてから収穫までに半年近い時間が必要となります。つまり10倍以上の時間がかかるのです。
ダンジョン内での生活と同じように、地球上で簡単に生活ができるなどという妄想は捨ててください。
広範囲から魔物を引き寄せてしまい、他の人の移動を困難にする結果にしかなりません」
衣食住。
地球上の素材では着る物をスキルで加工して作ることはできず、食べ物を育てることも難しい。動物を倒してもスキルで加工も輸送もできない。
おまけに魔物はどんどん寄ってくる。
宿泊設備があれども次々と魔物が集まってくる環境下でのんびりと寝るのは困難である。
いつでもどこでも自分勝手に動く者は存在する。
それでも先に厳しい現実を突きつけてしまう方が、結果的にお互いの為となるのである。




