表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/104

第45話 聖女勧誘

前回のあらすじ:

スミレが会議で訓練施設初級コースの事を告げた。

マジクに戻って小山野邸へと向かい、サクラを狙っている理由を探ることにした。

都市の移動に関するメッセージが表示された。

「な……」



 このメッセージに驚いたのはダイスケだけではない。スミレを除く5人全員が驚いている。

 もちろんダイスケとナカニシが驚いている理由と、ユウキ、タマキ、サクラの3人が驚いている理由は別なのだが。



 ダイスケとナカニシは、ダンジョンコアの開放段階が上がったことによりメッセージを送る事が出来るようになったことを知っている。そして現在都市に利用している石の土台と外壁は、本来は大きさを変更できる移動設備、ムーブコアだという事も知っている。


 驚いたのは、直接ダンジョンの出入り口に向かうという内容だ。

 本来の予定では、一度全ての都市が中央都市付近に集まり、外に送り出す者達だけをダンジョン出入り口に向けて移動させる予定だったのだ。

 つまり直接移動させるという事は残す住民を選別できないということであり、戦争に負けたことを意味するのである。


 一方のユウキたち3人が驚いた原因は簡単だ。

 そもそもこのようなメッセージを送る事が出来るなどという事は知らず、また、都市が移動出来るという事も知らなかった。

 実際は好きな場所に移動できるわけではなく移動ルートに制限があるのだが、その状況すら体験したことのない世代であったために驚いてしまったのだ。



 ユウキたちはただ驚くだけで現状として何か行動が変わることは無い。そもそもスミレは全て知っていた事であり、当然これからの流れに影響がある事ではない。

 都市が移動しようが出来なかろうが、ユウキたちは既にダンジョン出入り口までいつでも転移できるのである。他の友人たちの移動が楽になってよかったという程度の感覚でしかない。


 しかしダイスケはともかくナカニシにとっては困った事態である。

 ダイスケはあくまで小山野家としての協力者であり、出来る範囲でナカニシの要望に応えればよい。

 ナカニシにとっては最悪でも小山野家としてサクラを確保することにより、中西ダンジョンへと連れていくことが容易になるはずだった。2級市民として暮らすよりも1級市民として暮らすという餌だけでも十分に連れて行けると考えていたのである。

 そのため好きに他ダンジョンへ移動できるこの状態では、国有ダンジョンでダンジョンシーカーを目指す道と1級市民として暮らす道とで比較されることになる。

 これは人によって好みが分かれるために、どちらともいえない結果となる。

 そのため、ナカニシはもう一つカードをきることにする。



「サクラさん、この都市の教会は腐っていると思わないか?

 それは聖女候補生であったサクラさん自身、良く分かっている事だと思うが」


「それは、確かにそう思いますけど」



 1級市民でも踊り子でもない何か。

 その話が来た場合には、それがサクラを狙う原因である可能性が高い。

 スミレから受けていた助言を思い出し、少しだけ反応するサクラ。

 サクラの反応を受けてナカニシが再び語りだす。



「実際はここの教会だけでなく、多くのダンジョンで教会組織自体が腐っている。

 サクラさん、君は聖女としての素質がある。

 しかし今のままでは、折角のその力を教会のせいで発揮できない。

 国有ダンジョンに向かったとしてもそれは同じ事だ。

 ここに残ったとしても変わらない。そこで私のダンジョンに来て、聖女として活動するのはどうだろうか」


「私が聖女、ですか?」


「そうだ」


「髪の色でそう言われることもありますが、実際にリザレクションを試したことはありませんけど……」


「試さずとも、素質を詳細に確認する魔道具が発見されたのだ。

 それによると、サクラさんの魔法回復力の素質は最高値の100。

 確実に聖女といえる数値なのだ」



 ナカニシの発言を聞いたサクラは、スミレの方を確認する。



「そういう魔道具があるという噂は届いているわよ。ただ、小山ダンジョンにはなかったと思うわ。

 まだ出回っている数が少ないらしいのよね」


「その通りだ。貴族連合内でも出回っている数はまだ少ない。

 私のダンジョンで聖女として活動するのであれば、リザレクションの魔法スクロールは提供する。仮に何らかの間違いでもし使えなかった場合でも、1級市民としての生活は保障しよう。

 教会があるこの都市や国有ダンジョンでは、リザレクションの魔法スクロールの販売には規制がかかっている。だから私のダンジョンへ来ないかね?」



 サクラとしてもリザレクション自体には興味がある。

 しかし、動きを制限された聖女になってまで欲しいかと言われると微妙である。ユウキやタマキと一緒に活動した上でリザレクションのスクロールを手に入れるという事が一番なのだ。



「サクラちゃん、確かにリザレクションのスクロールの販売には規制がかかっているわ。ギルドからは、優先的に教会が買い上げることになっているの。

 でも、別に自分や仲間が手に入れた物を使ってはいけないということは無いのよ。

 あくまでギルドに持ち込まれたものが、優先的に教会に行くというだけの事で」


「あ、そうなんですね。

 であれば問題ありませんね。

 伯爵様。折角のお誘いですが、辞退させていただきます」



 サクラはあっさりと聖女への道を辞退する。



「聖女に興味はないのかね?

 リザレクションを使えるという事は、多くの人を味方につけるという事になるのだが」


「リザレクションに興味はありますけど、別に自由を無くしてまでの興味はありません。

 そのうち自分達で手に入れればいいだけの事ですし」


「そんな簡単に手に入る物ではないのだが」



 サクラはスミレの方を確認し、スミレが頷いたことを受けて収納からシルバーカードを取り出す。

 すでにサクラが狙われた目的を確認し終えたため、後は計画通り手が届かない位置にいるという事を見せるだけである。



「私、これでもシルバーシーカーなので。必要なら自分たちでとりに行きますよ。

 そして中西伯爵のダンジョンへ行った場合、シルバーシーカーは1級市民ではなく貴族待遇だと聞いています」


(まだ仮なんですけどね。話もスミレさんから聞いただけですし)



 そう思うサクラだが、余計なことは口にしない。



「……そうか」


(そんな話は聞いてないぞ。

 いつから……もしかしてオークも1人で倒したのか?)



 直接サクラの戦闘力を見たわけではないナカニシは、シルバーシーカーという立場だけで思考に行き詰まる。



「確かに強力なダンジョンシーカーであれば貴族待遇だ。

 シルバーシーカーであれば、問題なく貴族待遇となる。

 面倒をかけた詫びを含めてこれを渡しておこう。

 いつか中西ダンジョンを訪れる機会があれば中の人に見せるといい。

 中西ダンジョン内であれば、殆どの施設は利用可能となる」


「ありがとうございます」



 サクラはナカニシの申し出を快く受け取った。

 これはスミレから事前に言われていた事であり、おそらくそういう結論になると予想されていたことだ。

 シルバーカードを見せた時点で、相手は既に手が届かない位置にいることを知る。

 正式なダンジョン探索協会に登録されたダンジョンシーカーは、個別のダンジョンの住民ではなく本部のある国有ダンジョン、東京ダンジョン所属の住民という扱いとなる。


 ダンジョンシーカーは様々なダンジョンを訪れて活動する。特に色付きはその中でも何かを成し遂げた強力なシーカーであり、多くのダンジョンで歓迎される存在だ。

 下手に手を出すとダンジョン探索協会だけでなく他のダンジョンとももめることになり、シルバーシーカーを自分の手元に引き抜こうという話が洩れたら一大事である。



「ギルドマスター殿、こちらは決してシルバーシーカーを引き抜こうとしたわけではない。

 そこは理解して頂きたい所なのだが」



 ナカニシとしては、全てスミレにはめられたのではないかという気持ちがある。

 シルバーシーカーに手を出したという事実を確認するために、一緒についてきたのではないかと考えてしまうのだ。



「勿論理解しているから大丈夫よ。

 ちなみにこっちの二人もシルバーシーカーだから、手を出しちゃだめよ」



 スミレの言葉に合わせてシルバーカードを見せるユウキとタマキ。

 全て事前に打ち合わせたとおりの行動だ。



「勿論だ」


「それと、一応この子達がシルバーシーカーなのは内緒よ。

 人生経験が少ない部分をついて操ろうとする人たちが現れかねないのよね。

 私のクラン預かりだから、関係者毎ぷちっと潰しに行くのは面倒なの」


「わかった。気をつけよう」



 ひきつる顔を抑えつつナカニシは答える。

 既にナカニシとしては手に入るものがない。

 あえて言いふらすことでデメリットだけを背負い込む事に意味はないのだから。

 せめて無名のシルバーシーカーに、自分のダンジョンで自由に活動できる宣伝ができたという位のメリットは守りたいのである。



(マジク担当になった時には掘り出し物を見つけたと思ったのだが、上手く行かないものだ)



 小山ダンジョンが独立した後は、貴族連合から大勢の2級市民を連れてくる事になる。

 中西ダンジョンの担当は魔法都市マジクであり、ナカニシは視察に訪れた段階で踊り子をしているサクラの事を見つけたのだ。ピンクの髪であったため、念のため詳細素質判定の魔道具で測定すると大当たり。小山野家に情報が漏れないうちに確保する交渉をはじめた。

 見目麗しい美少女の踊り子。貴族が欲しがっても不思議な事ではなく、小山野家との交渉は簡単に成立した。



(手に入らなかっただけで、何かを失ったわけではない。

 予定外のやることも増えた。

 移動予定者を追加しなければならないな)



 戦争に負けたことにより、人材確保は予定よりも厳しくなる。

 1級市民として残す予定だった者たちも、なじみの2級市民予定者が離れるのであれば一緒に着いて行く者が出るだろう。

 その分中西ダンジョンから1級市民や貴族枠で人を連れてくる必要があり、予定していた人員リストを見直す必要が出て来たのだった。





「すみれさん、これって何の意味があったんですか?」



 小山野邸を辞した後、サクラはスミレに貰った物の意味を尋ねる。



「簡単に言えば、自分のダンジョンで活動してね、という招待状ね。

 ダンジョン内の魔物を狩ってくれて、さらにそれをダンジョン内で売ってくれれば経済が回るわ。倒せるものがいないような強力な魔物を倒してくれる可能性もあるわよね。

 強力なダンジョンシーカーは、どこのダンジョンでも歓迎されるのよ。

 だから、お詫びと言っているけど向こうにもメリットがあるの。

 オークの事もバレていると思ってはいても口には出せない。

 だから面倒をかけたお詫びというひっくるめた表現なのよ。

 まぁ、貴方たちならいつかレイドボスを倒すために行けばいいじゃない」


「ああ、そういう使い方がありますね」



 普通は人数が必要なのでそんな簡単にはできないのだが、ユウキが居れば問題はない。

 いつかみんなで旅行ですね。

 そんなことを気楽に考えているサクラだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ