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第44話 小山戦争5

前回のあらすじ:

訓練施設の初級コースだったことをスミレに伝えた。

新しい称号が手に入った。

会議では不正な何かがあったのではないかと疑問をぶつけられたので魔鉄ゴーレムを見せた。

「戦闘速度に関する詳細は、お伝えすることができません」


「……」


「正確には、お伝えしない方が良い内容です」


「どういうことかね?」



 スミレの意図が分からない小山野家当主。

 この時点で意味が通じるのは、ユウキのアレンジスキルについて知らされている神薙中将他数名だけである。



「アレンジスキルが関係します。

 非常に有用なアレンジスキルなのですが、意図的な再現は非常に困難です。

 偶然ならば、まだ可能性はあります」


「それほどのものかね?」


「そうですね。こちらをご覧ください」



 スミレは説明しながら、ゴーレムの横にワイバーンを出現させる。



「ワイバーンは黒ゲート最後の魔物だそうです。

 人数と装備の制限さえなければ、ワイバーンは倒せない魔物ではありません。ですが木製装備にて6人PTで倒すとなると、現状では霞PT以外には無理でしょう。

 アレンジスキルでこれが可能です。

 審問官殿、確認を」


「嘘はついていない」



 審問官とは、真偽を見抜く系統のスキルを持った者がなれる職業の一つである。



「ありがとうございます。

 そして問題は、これほど困難な黒ゲート突破ですが、これはまだ『初級コース』なのだそうです」


「初級……」


「初級です。これは称号により確認しました。

 霞PTの3人には、訓練施設『初級コース』完了者という称号が付きました。

 この施設は一部の人の予想通り、訓練施設だったようです。

 そしてこの称号を持つ者は、中級ダンジョン、中級エリア、中級施設を使用可能になるようです。

 皆さん、場所に心当たりがありますよね。

 勿論実際に行ってみなければわかりませんが」



 ダンジョンの外、それも日本全体の事情を知る者達にとって、スミレのいう心当たりは有名な話である。

 魔物が放出されるだけで、自分達は侵入することのできないダンジョン。海底ダンジョンはともかく、せめて地上のダンジョンからだけでもスタンピードを阻止できないかという計画を不可能と結論付ける存在。


 鍵のようなアイテムがあるのではないかと推測されている現状だが、今回得られた情報は一筋の光となるものである。


 さらにスミレの話は続く。

 ミッション及びスキル2の開放。

 詳細は分からなくとも、突破した者だけが行うことのできる何か。そしてスキル上限の開放。

 さらに黒ゲート最後の部屋には、出口の他に中級コース入り口があるという。


 初級、中級とあれば上級が無いとは思えない。これにより、3個ある星の一つが点灯した状況も、おのずと別の意味に見えてくる。

 中級の入り口につながるのに、表示パネルには中級用の表示箇所はない。

 それはつまり初級突破までで星が1個、そのまま中級も突破すれば星が2個、そしておそらくあるであろう上級を突破すると星が3個点灯して併用するのではないかと。


 現時点では正解は得られないが、元々不正を行うとしてもどうやって行えるのかという疑問がある。かつて透視系のスキルを持つ者を使った実験により、緑ゲート最後の魔物を倒すまでは扉の奥に黄色ゲートの入り口が現れていないことは確認されている。

 魔物を倒さずに次のゲートをくぐるという事は不可能なのだ。



 審問官の判定により、スミレの発言内容に嘘が含まれていないことは確認されている。

 推測が正しいかどうかはともかく、判明した内容自体に嘘はない。

 つまり人類はまだ、初級すら突破できない程度の実力だったのだ。



 既に人類は、ダンジョンの中であればそこそこ安定して生存できるレベルまでは到達していると考えられてきた。現状、魔物を狩り続けてさえいればそのうち完全にダンジョンコアも制御できるという認識だった。


 ところが実際は、ダンジョンを制御どころの話ではない。

 ダンジョンの情報を多く知る者達の中に、ダンジョンが自然にできたなどと思うものはいない。何者かが意図的にダンジョンというシステムを作り上げたと考えられている。

 それが人類なのか、人類の知らない何者なのか、神のような者なのかは分からないけれど。

 しかし今回の事で一つだけ分かったことがある。

 人類は、未だ入り口すら超えていなかったのだという事を。



 説明を終えたスミレは、会議室を後にする。

 これ以上はスミレの領分ではないからだ。

 しかしすでに戦後処理に時間をかける段階ではなくなっている。


 ルール上既に防衛軍の勝利であり、細かな要求に時間をかける意味はない。

 むしろ神薙中将と交渉し、魔鉄ゴーレムを手に入れる方が優先だ。


 本格的な訓練施設の踏破が始まる。

 ダンジョンの中を探索することを重要視してきた今までと変わり、訓練施設の踏破が最重要となったのだ。

 そのためにも、魔鉄ゴーレムにダメージを与える手段を研究しなければならない。

 アレンジスキルには頼れない。

 初級というのは、そのようなごく一部の再現もできない方法で突破する段階ではない。

 多くのひとが突破できる方法を探る段階の難易度だ。

 会議の内容は、再び戦争とは関係のない魔鉄ゴーレムに関する交渉の場へと姿を変えていった。





「まさかクラン毎飛べるとは思わなかったわ」



 戻ってきたスミレと合流したタマキは、試しにユウキとサクラだけではなくスミレPTのメンバーも指定して魔法都市マジクのギルドまで転移を行った。

 本来は何回かに分けてピストン輸送するつもりだったのだが、1回で行けてしまったのだ。



「実はもともとできたのかもしれないし、スキルが成長したのかもね。

 システム的にクランに加入していなかったからわからなかっただけで」



 タマキの言葉にユウキが反応する。

 元々タマキはアレンジスキルをユウキやサクラ、スミレといった数人としか使ったことがない。

 PTメンバー以外には無理だという実験は行っていたが、クランメンバーというシステムではどうなるのかは実験をしていなかった。



「さて、戦争結果が発表される前にさっさと情報を引き出しに行きましょうか。

 なんでサクラちゃんが狙われたのかしらね」



 スミレの方針に従い、サクラだけでなくユウキとタマキも一緒に魔法都市マジクの小山野邸へと向かっていく。

 招待状に、ひとりで来いなどという文字が書かれていない事を理由にして。





「坊ちゃま、サクラ嬢がいらっしゃいました」


「遅い。まさか2日も待たされるとは」



 一方、小山野家で待っていたダイスケとナカニシは、サクラは招待状を渡したその日の夜に来るものと考えていた。そのため、翌日再度サクラを探させてみたのだが、見つけることはできなかった。


 本来であれば、ナカニシは戦争の状況を見るために、ダンジョン入り口まで帰還石で戻る予定でいた。しかし自分がいない間にサクラが来ては意味がないため、マジクの小山野邸に留まったままでいたのだ。



「直ぐに連れてきてくれ」


「既に応接室に通してあります」



 ダイスケは執事にそう指示を出すも、執事は別の反応を返す。



「応接室?」


「はい。お連れの方々が一緒でしたので」


「連れ?」


「サクラ嬢と同年代の女性が1名、男性が1名。そしてギルドマスターの田中様が一緒でございます」



 執事は狂乱の塔へと一緒に向っていなかったため、このメンバーが狂乱の塔で一緒にいたことは知らない。そのため知名度のあるギルドマスター以外の二人の情報を知らなかったのだ。



「……伯爵、いかがいたしましょう?」


「招待をしたのはこちらだ。応接室にて面会しよう」


「分かりました」


(それにしても、なぜ一人でこない?)



 踊り子のとる行動としては、完全に想定外の事態である。





「話があるという事で呼ばれてきました。神山サクラです」


「小山野家へようこそ。私が小山野ダイスケです。

 そしてサクラさんに来てもらったのは、こちらの中西伯爵と話してもらうためです」


「中西ダンジョンの中西だ。

 既に内容自体は聞いていると思うが、私の口からもう一度伝えよう。

 私の中西ダンジョンに来て、1級市民として暮らさないかね?

 踊り子を続けるのであれば後援もしよう。

 悪い話ではないと思うが」


「踊り子、ですか?」



 ここに来る前にスミレとの打ち合わせは済ませており、既に受け答えの内容は決めてある。そのため自分が本職の踊り子と勘違いされている状況も知っているのだが、ここは知らないふりをしなければ先に進めない。



「貴族の後援を受けた方が踊り子としては活動しやすいと思うのだが」


「えっと……」


「サクラちゃん、この二人はサクラちゃんの事を『本物の』踊り子と勘違いしているのよ。シーカーPTの踊り子としてではなくて」



 ここでスミレの解説が割り込む。

 当然予定通りの流れである。



「ああ、そうなんですね」


「「え?」」



 簡単に納得するサクラだが、ダイスケとナカニシはそうではない。



「サクラさん、踊り子チームで踊ってますよね?」



 ダイスケが質問するが、中西の頭の中でも同じ疑問がわいている。

 二人は実際にサクラが踊り子として踊っているのを見ているからだ。



「えっと、踊り子のチームの方と一緒に踊りはしますが、私は踊り子のチームに入っているわけではありません」


「ギルドの食堂に併設されている場所でのショーだと思うけど、あそこは一般の人も飛び入り参加して一緒に踊る事が出来るのよ」



 再びスミレが解説を入れる。



「同じ揃いのコスチュームを着て踊っていましたよね?」


「作ってもらいました」


「「……」」



 ダイスケとナカニシは、スミレを見て解説を待っている。



「同じコスチュームで踊ってはいけないというルールもないのよ」


「踊り子チームと一緒に登場していたと思うのですが」



 すでにダイスケはスミレの方向を見て発言している。



「最初から一緒に踊ってはいけないというルールもないのよ」


「……」


(そもそも踊り子チームも勘違いさせたがっているのよね。サクラちゃん可愛いし。

 まぁお客さんも盛り上がるし、サクラちゃんは踊って見られるのが好きなだけだし)



 スミレがそんなことを考えている沈黙の中、それぞれの視界に突然メッセージが現れる。



<ダンジョン内の皆様に連絡です。

 8月10日午前10時をもちまして、各都市はダンジョン出入り口に向かって移動を開始します。

 また、翌年1月1日午前0時に本ダンジョンは正式に小山野ダンジョンとして日本から独立します。その時点でダンジョンシーカーのライセンスをお持ちの方、防衛軍の方、他ダンジョンの住人の方以外の元々小山ダンジョンに住んでいた住人の方々は、小山野ダンジョンの住人となります。

 現在都市外にいる方で他のダンジョンへ移動を希望する方々は、都市の移動開始時間に遅れないように注意してください>


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