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第43話 小山戦争4

前回のあらすじ:

ユウキたちが黒ゲートを突破。

しかしそれはまだ初級コースだった。

「戻りました」


「おかえりなさい」



 訓練施設を突破して戻ったユウキたち3人は、予め集合場所として確保していた会議室に転移してスミレと合流した。

 そしてすぐにユウキの温泉施設の宝玉を使用し、結界の中へと移動する。



「なんか、凄いことになってましたね」


「それはそうよ。オレンジすら誰も突破したこと無かったのよ。

 それがいきなり黒まで突破したんだから、大騒ぎになるのは当然。

 だから正体を隠すために、そんな恰好をさせているんじゃないの」


「それにしても、防衛軍の制服を着た一部からもにらまれていた気がするんですけど」



 ユウキたちがゲートから出た場所には、多くの人が待ち構えていた。

 大半は防衛軍側の人間で、小規模戦や大規模戦、対魔物戦で戦っていた者達だ。ありがとう、よくやってくれた、等の感謝の言葉や驚きの言葉など肯定的な反応をされた一方、一部は歓迎しない表情を見せていた者達が居たのである。



「防衛軍側にも色々あってね。

 今回は主力が来られなかったから負け戦と思われていたのよ。

 で、負け戦ならそれはそれでと派閥争いに発展しちゃったのね。

 想定以上にひどい負け方をさせて、責任を取らせようとする一派が居たのよ」



 ユウキの疑問に答えるスミレ。

 最終結果こそ問題なかったものの、個別の勝敗は散々なものだ。



「大丈夫なんですか?」


「大丈夫よ。

 そのための点数制だからね」



 その後ユウキたちがゲート内で体験したことや他の戦闘でどうなったかなどの情報を交換し、一段落したところでユウキが魔鉄でできたゴーレムを取り出す。



「スミレさん、これって本来どうやって倒すんでしょう?」


「オレンジ1Fのゴーレムよね。

 これ、誰も突破できなかったのよ」


「スミレさんでも駄目なんですか?

 武器では無理でも格闘戦で殴り飛ばすとかならどうかと思ったんですけど」


「格闘戦?」


「オークを殴り飛ばしてましたし、スミレさんって格闘家とかではないんですか?」


「あら、いやだ。私のクラスは裁縫士よ」


「「「え?」」」



 スミレの予想外の答えに、思わずそろって声を上げるユウキたち。



「格闘家も基本クラスだからなれるけど、下級のままなのよね。

 戦闘は剣士が中級だから、剣を使った方が得意よ。

 クラスを変更するにはここだと中央都市まで行かないとダメだから、普段は上級の裁縫士のままなの」


「そうなんですね」


「というわけで、私もそのゴーレムは倒せなかったのよね。

 木の剣でも格闘でも無理だったわよ。

 魔法もうまく効かなくて、どうやればいいのか誰にも分からないのよね」


「これ、魔鉄でできているみたいですよ」



 ユウキは解体してできた魔鉄のインゴットを取り出しながら説明する。



「解体したらこれが出てきました」


「あれは魔鉄だったのね。

 そのインゴット一つとゴーレム一つ、ギルドで買い取ってもいい?

 防衛軍に渡しておいた方がいいと思うのよ。場合によってはゴーレムはさらに数体希望が出るかもしれないけど」


「構いませんよ。また倒しに来ればいいだけでしょうし。

 あ、でも訓練施設、使えますかね?」



 確保してあるゴーレムは他に20体あり、インゴットもまだまだある。必要になればまた倒しに来ればよいユウキたちにとって、訓練施設を使わせてもらえる可能性を高めた方が得策なのだ。



「そこは交渉をしてみるわ」


「ユウキ、黒ゲート最後のワイバーンも渡しておいたら?

 それと称号についてとか、初級の件もあるし」


「あ、そうだね。スミレさん、本題が別にありました。

 鑑定で俺の称号を見て下さい」



 ゲートを出た時には気が付いていた称号だが、人の多さにビックリしてユウキはすっかり話すのを忘れていたのだ。




 ≪訓練施設『初級コース』完了者≫

  訓練施設『初級コース』を完了した者に与える称号

  中級ダンジョン、中級エリア、中級施設使用可能

  ミッション、スキル2開放




「…………初級、なのね。あれはそういう意味だったのかしら。

 ミッションというのは分からないけど、中級ダンジョン、中級エリア、中級施設、スキル2は心当たりがあるわ。

 そういう事だったのね。長年疑問とされていた現象に説明がつくかもしれないわ」



 何故か入る事の出来ないダンジョン。

 普通のダンジョンでも、進むことの出来ないエリア。

 明らかに何かの施設に見えるのに、使用できない施設。

 そしてクラスを取得した際のスキル表現。

 下級でスキル+1、中級でスキル+2、上級でスキル+3。


 スキルを取得していなくても、下級裁縫士になれば<裁縫>スキルを使用できる。

 この際すぐにクラスを変更してしまうと<裁縫>スキルは消えてしまうため、スキル+1という事で使用できるようになっているものと考えられている。


 そしてスキルを使用し続けていると、クラスを変更してもスキルが消えなくなるため、実際にスキルを取得することができている。しかし、<裁縫2>になるわけではないので、+1がどこにいったのかが不明だったのだ。

 同様に中級や上級にクラスチェンジをしても、+2、+3がどういう意味を持つのかも分からなかった。見えない何かに影響しているという説もあるが、実際のところは分からない。



「という訳で、貴方たちがクラスを取得すれば色々分かることがあるかもしれないわね」


「ミッションについては、ステータスに新たな項目が増えてます。

 意味が分からないこともありますけど」



 ・共通ミッション1

  施設を一つ制覇

  報酬:ミッションポイント+1



「ミッションポイントは予想もつかないわね。

 貴方たちが先駆者よ。

 マジクに戻ったら、塔を一つ制覇してみましょうか。

 あ、その前に来週になったら貴方たちとPTを組んで、追加で検証チームも作った方が良いかもしれないわね。あまり受験勉強を邪魔してしまうのも問題だし」



 知られざる世界が動こうとしている。

 とはいえまだまだ中学生の3人。子供達だけにすべてを背負わせるのは忍びないと考えるスミレだった。





「田中君。状況説明を」



 ユウキたちと別れて総合会議室を訪れたスミレを待っていたのは、困惑状態にある両首脳陣だった。

 落ち着いているのは神薙中将周辺のみである。



「田中君なんてよそよそしい。スミレよ、ス、ミ、レ」



 こんな時でもぶれないスミレである。



「……スミレ君。状況の説明を頼む」


「状況説明と言われましても。防衛軍の勝利という見たままの結果以外に何かありますか?」


「失礼、スミレ殿。説明を聞きたいのは私たちなのだ。対魔物戦の一つに不正があったのではないか、という事でね」


「あら、お久しぶりですね。小山野さん。

 ご当主自らいらしたのですね」


「独立の最終局面なのでな。

 まさかギルドが絡んでくるとは思わなかったが」


「そうね。

 今回はギルド全体という訳ではなく、個人的な理由による協力なのよ。

 不正の疑いというのはどういう事かしら?

 それを知らないと何を話せばいいのかすらわかりませんわ」



 対魔物戦の一つというのは勿論ユウキたちの事である。

 オレンジを突破するというのは、現状不可能とされてきたのだ。

 それをオレンジどころか黒まで突破するなど信じられるものではない。


 特に戦闘速度が異常だった。

 緑や黄色はユウキたちが一番ゆっくりと進んでいたのだ。大規模戦が終わった段階でも、ユウキたちはまだ黄色ゲートの最中だった。にもかかわらず、オレンジ、赤、黒はそれぞれものの数分程度で突破しているのである。


 そして黒の点灯の上にある3個の星。

 そのうち光っているのは一番左の一つだけ。これは星1つというあまりよくない結果なのではないかという声が上がってきたのだ。



「つまり、本当にあのゴーレムを倒したのか。

 戦闘速度がおかしいのではないのか。

 星が一つという意味は何なのか。

 これらの事を知りたいという事でいいかしら?」


「そうだな。不正疑惑のきっかけはその部分になる」


「そうですね。

 全てに答えられるわけではありませんが、先ずはこれを」



 スミレは話しながらユウキから受け取った魔鉄のゴーレムをその場に取り出す。



「これは……」


「小山野さんが実際に見たことがあるかは分かりませんが、これが話に出てくるオレンジ1Fのゴーレムです」


「どうだ?」


「確かに、同じように見えます」



 小山野家側で実際に戦ったことのある者が当主の質問に答える。本当に同じものかなど結果は出ないのだが、見た目はそのままである。



「そしてこれが、解体した時に出てくるインゴットです。魔鉄のインゴットでした」


「魔鉄!」


「ええ。ですので、木製装備で魔鉄ゴーレムを突破する必要があります。

 このゴーレムは、魔石はEPにしてしまっているので入っていないですが、それ以外はそのままの形です。霞PTからギルドで1体買い取りましたので、後ほど神薙中将にお渡しします」


「ま、まて。何故防衛軍ではなく神薙中将なのだね?」



 スミレの発言に焦ったのは小暮少将だ。

 戦争には勝利したものの、防衛軍が全敗したという事実は変わらない。まだまだ追い詰める攻勢を続けることが可能なのだ。こんなところでカードを握られるわけにはいかない。



「あら、それは当然ではないですか。

 私達のPTや、このゴーレムを手に入れた霞PTの参戦許可を出したのは神薙中将なのですから。私達は神薙中将の協力者という扱いでしょう。

 私達シーカーにとって、倒した魔物は自分達の物。ですが許可を頂けなければ手に入れることができなかったもの。お渡しするのであれば、許可を頂いた方に判断をゆだねるのは当然の事ですわ」


「スミレ君。魔物は22体いるはずだ。

 状態の良いゴーレムが何体あるのかは分からないが、霞PTから私達が買い取ることはできないかね?」


「小山野さん、シーカーが魔物を売るのは基本的にギルドになります。

 そして魔鉄の希少性はご存知かと思います。

 ですので、ゴーレムの形のまま丸々お譲りするのであれば、条件付きで可能かと思います」


「その条件とは?」


「継続的な入手方法の許可、つまりは施設の利用許可ですね。

 私達は新たなダンジョンに移動する事になるでしょう。

 国有ダンジョンでのこの施設の管理は防衛軍ですし、今回の参戦許可と合わせて考えれば神薙中将の許可という形になるのでしょう。

 これは小山野さんだけでなく、防衛軍にさらに何体かゴーレムを、という話に関しても施設の利用許可が必要なのは同様です」



 スミレの言葉により始まる神薙中将への交渉。

 しかしこれではスミレがいつまでたっても解放されない。



(神薙中将への貸しはこれくらいで十分かしらね。

 あの子たちの情報は秘匿しておきたいし、神薙中将にはまだまだ頑張ってもらわないと)


「交渉は最後にまとめた方が良くないかしら?

 まだ説明が一部だけになってしまっていますけど」


「そうだったな。

 続きを頼む」


「分かりました」



 スミレの説明は続いていく。

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