第41話 小山戦争2
前回のあらすじ:
ユウキたちは模擬戦争の対魔物戦に参加。
神器により手に入れたスキルをいろいろ試す。
「火遁!」
サクラの掛け声の後に炎のブレスがスライムを直撃する。
サクラの口元には魔法陣が出現しており、実際にはその魔法陣から炎のブレスが出現しているのだ。
「攻撃系の忍術も使えるようになったんだね」
「はい。他にも、土遁!」
ユウキの問いかけに答えるサクラ。
そして再び使用されるサクラの忍術。
今度はスライムの下に魔法陣が現れ、土の牙が床から突き出る。
「攻撃魔法と同じようなものかしら」
「違いは分からないです。分身とか空蝉にしても、幻術系魔法で似たようなことはできそうな気がしますし」
「サクラちゃんが使うものは解析できても、比較する魔法も解析しないと差が分からないね」
3人は今、黄色ゲートをくぐった先の1Fでスライムを倒しながら進んでいる。
スライムには物理無効特性が付いているので、サクラの忍術の出番となったわけである。もちろん中に魔石は存在しているので、ユウキが回収してしまうこともできるのだが。
ドロドロに溶けたスライムの中にある魔石。木刀で斬ろうとしたタマキだったが、途中で勢いが止まってしまったのだ。
「火は何となくわかるけど、土の牙で倒せるのには納得がいかないわ」
「不思議ですね」
「実際は土を増やして牙を作っているのではなく、魔法の力でそう見えているだけだからね。
土遁が終わったら土の牙も消えているでしょ。
魔法陣の構成を見る限り、土属性の魔力エネルギーをぶつけているような感じにみえるよ」
ユウキがサクラの魔法陣を解析した結果から分かることを伝える。
「えっと、それではファイアーアロー!」
サクラが普通の攻撃魔法を使用する。
サクラが持つ木の杖の先に魔法陣が現れ、火の矢がスライムに突き刺さる。
これは勿論、火遁の術との差が何か分からないかユウキに解析してもらうために、あえて普通の魔法を使っているのだ。
「解析結果を比べてみると、色々と違いがあるね。
……というか、昨日見せてもらった回復魔法や防御魔法との違いで気が付くべきだった」
「何か分かったの?」
「簡単に言うと、通常の攻撃魔法や回復、防御魔法は、魔法陣に素質による制限が加えられている。その代わりに消費する魔法力が少なくて済むというメリットを出している。
でも忍術にはそれがない。
つまり忍術は素質に関係なく使えるけど、その分魔法力の消費が大きいってことかな」
ユウキは解析により分かったことを説明する。
制限と強化。
使用者を制限するというデメリットを付け加えることにより、別のメリットを発生させる。
(これって、素質判定部分を外せば俺でも魔法が使えるようになるかもしれないよな。
その分消費する魔法力は大きくなるだろうけど……。
あ、魔法が発動しても結果に魔法攻撃力が絡んでくる可能性が高いか。
……やってみないと分からないことも多いな)
ユウキは解析結果だけでは分からない状況を検討しつつ、何か確かめる方法はないかと思案するのだった。
*****
一方その頃、模擬戦争を行っている施設の会議室では神薙中将を批判する一団が詰め寄っていた。
「中将。防衛軍が1勝もできないなど、これは一大事ですぞ」
「中将。住民への負担、国への負担は分かっておいででしょうな」
「出処進退をはっきりさせるべきではないかと」
中将、中将、中将……。
会議室に詰め寄る将校たち。
(派閥争いはよそでやってよね)
そしてそれを冷めた目で見るスミレ。
(私のPTの相手は完全に捨て駒の弱兵だった。私のPT以外の防衛軍3戦は、見事に相性の悪い強兵を当ててきた。
こちらの戦力も順番も相手に筒抜け。
確実に情報が洩れているわね。あの子たちの正体を隠しておいてよかったわ)
ギルド特殊部隊『霞』。
これが今のユウキたち3人の部隊名として開示している内容だ。
今回の模擬戦争は、様々な要因が重なり最小限度の構成となっている。
大規模戦闘1、小規模戦闘4、対魔物戦闘5組ずつ。
しかもそれぞれ1回戦闘を行うだけ。
小規模戦闘は勝利側に30点。大規模戦は勝利側に100点という配点である。
そして昨日行われた小規模戦では、スミレたちのPTは快勝。
そしてスミレたち以外の3PTは全敗。
今行われている大規模戦も、既に負け側に勝敗は傾いている。
大規模戦の作戦もことごとく潰されているため、作戦自体が洩れていることは疑いようがなかった。
(ふふふ。元々勝ち目は薄いとは聞いてはいたけど、これで戦争自体を負けさせた責任を負わせるつもりなんでしょうね。
対魔物戦のポイント獲得を変えなかった時点で、私のPTさえ勝てば対人戦での勝利はいらないのに)
対魔物戦の配点は、緑ゲートクリアで10点、黄色ゲートクリアで追加で20点。
オレンジゲートクリアで追加で30点、赤ゲートクリアで追加で50点、黒ゲートクリアで追加で100点という累積で加算される大雑把なものだ。
これは今まで、オレンジゲート迄はたどり着いてもその1Fすら通過したPTがいないために、クリアされることがない前提の配点になったままだからである。
(流石に相手の決まっている対魔物戦側で負けさせるなんていう事はしていないようね。
派閥争いに興味はないけど、足を引っ張ってくれたお礼位はしようかしら)
会議室から見える状況パネルには、ユウキたちが挑戦しているゲートだけは黄色表示で点滅しており、他はオレンジ表示の点灯か点滅という状況だ。
点灯は、ゲートには到達したが既に戦闘終了してはじき出されているという意味である。
点滅は、今そのゲート内で戦闘をしているという意味だ。
(あら、これであの子たち次第だけど、まぁ大丈夫よね)
スミレの見ている目の前で、オレンジ点滅していた表示が全て、オレンジ点灯に変わる。
あと残っているのは、ユウキたちのPTと大規模戦の結果だけである。
「国に戻り次第、敗戦の責任を持って考えるべきですな」
「まだ全てが終わったわけではない。
そしてダンジョンからの移動という大きな任務がまだ始まってもいない。
全ては任務を終わらせてから考える話だ」
結果を見て、自分達の思惑通りに進んでいることを確信した小暮少将の発言に、神薙中将が反論する。
元から色々な要因が重なり、敗戦が濃厚だという事で担ぎ出された今回の戦争。
その時点で派閥争いの結果は見えている。
神薙中将とてスミレの話を全て信じているわけではないが、状況を打開できる可能性には期待をしている。
ユウキたちと神薙中将の顔合わせの際、神薙中将の護衛兼秘書である後藤とユウキたちは組手にて手合わせを行っており、その時後藤が下した評価は信じているのだ。
『タマキ嬢は、中学生の今でさえ防衛軍の一般兵よりも強い。
サクラ嬢はそこまでの強さは無いが中学生とは信じられない。近接戦闘でも大学生程度の力はある。
ユウキ君は一般中学生としてみるなら動きはいいが、残念ながら魔物を倒して鍛えて居る者から見ると攻撃力も防御力も素早さもない。
しかし本気を出した3人には、自分の攻撃が全く通じなく何処に居るかすら分からない。
組み手の勝負であれば負けこそしないものの、勝てもしない。
武器や魔法、道具を使用した場合、こちらの攻撃は通じないが相手の攻撃は通じるかもしれない。
さらにサクラ嬢は支援、そしてユウキ君は対魔物特化の全距離攻撃が役割である。
彼らが本気を出しているうちは、魔物にやられることは無い。そしてユウキ君の力が本当であれば、まさに対魔物戦の最終兵器と呼べる存在。
大切に対応するべき者達でしょう』
後藤が神薙中将に伝えたユウキたちの評価は、可能性を期待するのに十分な内容だった。




