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第4話 進路相談

前回のあらすじ:アレンジスキルで魔石を回収できました。

お金をいっぱい稼ぎました。

 ユウキがイチゴの納品で大金を稼いだ週明け、その週は進路相談が行われる週だ。

 高校受験を悩んでいた先週、そしてどうでもよくなった週末。しかし学校で授業を受けながら改めて考えているうちに、ユウキは再び悩み始めてしまった。



「並野、進路の希望は決まったか?」



 遠くの空が茜色に染まる夕方、ユウキの順番が来て教室で席に着くと担任である松木先生から声がかかるった。

 松木先生は40代の男の先生で、いかにも先生です、というビシッとしたスーツを着ている。



「色々とまだ悩んでいます」


「そうか。お前達には高校に進学しろ、というのが必ずしも正解とは言いづらいからな」



 松木先生は面倒見の良い先生だと評判だ。この学校には、ユウキのような育児施設から通っている生徒も多数いる。そして金銭面でどういう状況であるのかも当然知っている。



「先生としては奨学金を借りて高校へ行き、大学進学を目指した方が最終的には生活が楽になると思うけどな」



 大学はこの都市にはない。

 小山ダンジョン内には中央都市にしかなく、この都市の高校、もしくは中央都市や付近の高校を受験することになる。

 イチゴの町は、小山ダンジョン内でも辺境の田舎の都市なのだ。

 高専の場合はこの都市で受験し、卒業後もこの都市で働くことが一般的だった。



「あ、先生。そこの部分は目処がたちまして、実は悩みの種類が変わりました」



 そう、ユウキの前回の進路相談の時とは悩みの種類が変わっている。

 今までは高専卒で働くか、高校を卒業して更にお金を借りて大学に進学してから働くかと言う悩みだった。

 これは南中学校に来る施設利用者が毎年皆悩んでいるという共通の悩みでもある。



「実は、限定シーカーとしてお金を稼ぐことにしました」


「限定シーカーか。その道を選んだ者達も当然いる。体を張る仕事だが、大丈夫なのか?」



 ユウキはどうみても頭脳派だ。

 外見的には保護欲を掻き立てられるような容姿をしている。

 まず第一の印象として言われるのは『かわいい』だ。ユウキとしては『カッコいい』とか『凛々しい』という方が嬉しいのだが、そう言われた事はない。

 つまりどう見ても肉体派には見えないということだ。

 実際にユウキもそう思っており、北中学校へ行けなかったのも仕方がないとは思っていた。

 そしてダンジョンシーカーになるのはあきらめてしまっていた。

 松木先生からしてみれば、そんなユウキがいきなり限定シーカーってなに考えているんだ?と思うのが当然だ。

 それでも先生としては言葉を選ばないといけない。



「アレンジスキルのアレンジ内容が、予想外に限定シーカーとして稼ぐことに向いていることがわかりまして」



 アレンジスキルは大体中学2年生か3年生辺りで取得する者が多い。

 これは基本スキルを取得してから5年程度が最低でも必要という研究の結果に合わせ、小学校でとりあえず基本スキルを取得させている結果だった。早い人は家族がもっと早くから個人的に取得させることもある。

 必ずしも5年と言うわけではないので、高校や大学に入ってからの人もいれば社会に出てからの人もいる。

 中には全然取得できない人もいる。

 他のスキル同様個人差が大きい。



「そうか、並野。アレンジスキルを取得出来たのか。おめでとう」



 先生が涙ぐんでいる。



(まるで卒業したみたいな表情なんだけど)



「ありがとうございます」


「並野、知っていると思うがアレンジスキルの内容は言うなよ。

 もしそれが有用なアレンジだとしても、知った者はそのアレンジスキルは取得できないと言う話だからな。知った人の将来の可能性を狭めてしまう。友人にもアレンジスキルを取得したことは伝えても問題ないが、どういうスキルのアレンジなのかまでは言ってはダメだ。未取得の人に何処でどう伝わってしまうかわからないからな」



 そう、これがアレンジスキルの厄介な点。

 便利だと思うほど、伝える事ができない。



「はい、気を付けます」



(あっさりぽろっと言ってしまうかもしれないという怖さはあるけれど)



「それで、悩みはどう変わったんだ?」



(そういえばその説明だった)



「えっと、今までは先ずお金を稼がないといけない、と言うのが最初のスタート地点でした。特に俺たち施設利用者にとっては、みんな絶対の部分だと思います」



 基本的に一人で生きていかねばならないユウキ達は、すぐに稼げるようにならないといけない。稼げなくても夢に生きる、という生活は難しい。



「そうだな、生きていくためには稼がなければならない。特にその思いが強いだろうからな」


「はい、ですので高専卒で働いて稼ぐか、高校経由で大学に行って勉強して稼げる会社に入社するか、という選択でした。しかしすでに限定シーカーで稼げる目途が立ちました。その時はもうこれで中学卒業して限定シーカーで生きていけば大丈夫、と安心したんですが」



 そう、ユウキは稼げることに舞い上がり、そこで思考を止めてしまった。



「が?」


「あ、はい。お金を自力で十分稼げる事によって、心境が変わりました。

 稼げる会社に入るために高校、大学に行くのではなく、楽しむために高校、大学に行ってもいいのかなって」



 そう、ユウキが新たな悩みに気が付いたのは、前提となる心境の変化だろう。

 学校で勉強してよい成績を取るのが当たり前。それはお金をより稼ぐために必要なこと。

 その必要が崩れたのだ。


 良い成績に拘らなくていいなら、楽しんでもいいのではないかな、と。



「そうか」



 先生の目に涙がたまっている。



(先生としては、さすがにまずいのかな)



「やっぱり、だめですかね?」


「いや、何を言っている。逆だ、大いに楽しめ。いつも言ってる事だが、お前はまじめすぎる。いや、施設利用者はまじめな者が多いが、中でも並野は特にまじめだ。もう少し肩の力を抜くべきだ」


「人生は楽しむためにある、でしたっけ?」



 ユウキは松木先生に何度もそう言われた。

 もちろんユウキもその意味は分かっていたつもりだった。

 しかし本当の意味で理解したのは今になってからだろう。



「そうだ、人生は楽しむためにある。まずは生きたいという事自体が、楽しむために生きたいんだ。そしてお金を稼ぐというのは、生きたいから稼ぐんだ。そして働くという事はお金を稼ぐためにする。ただ流されて働き、楽しく無い人生だったと死んでいくのでは、なんのためにがんばって働くのか。働くために生きているのではない、楽しむために、稼ぐんだ」


「そうですね、今ならわかります。自分で稼げるようになって、やっと自由に楽しんでいいんだという思いになりましたから。楽しむために生きて、いいんですよね」


「そうだ、お前たちはどうしても最初にお金に追われる生活から始まってしまっているからな。並野がそういう気持ちになってくれたのは、先生嬉しいんだぞ」



(これもすべてイチゴ様様だ。

 ありがとうイチゴ様。

 いや、アレンジスキル様様か)



「心にゆとりがあるって素晴らしいことだと実感しています」


「そんなに劇的に稼げたのか?」


「ええ、週末二日だけで手取りで300万行きました。これだけ稼げれば十分ですよね?」



 先生の表情が固まった。



「……並野、それは本当に大丈夫なのか? 何か騙されてないか? 変な薬とか飲まされてないか?」


「あ、いえ、イチゴを取っているだけですので命の危険は全然感じませんよ。それをギルドで納品しただけですので、誰かに騙されているという事もないでしょう」


「そうか、いや、それならよかった。いいアレンジスキルになったというのは本当のようだな。安全に稼げるならそれが一番だ。

 と言うか先生の月収の何倍だ、二日であっという間に抜かれてしまったよ。

 なんだろうな、教え子が立派になったのがうれしいというのと、あっさりと負けたという敗北感の両方を感じているぞ」


「すみません、まぁ運が良かったというだけなのですけど」


「運も実力の内だ。それは今までの環境だって運次第だろう。

 これまで他の人をうらやましいと思うことは多々あったはずだ。それだって並野からすれば運の違いでしかない。

 ただ、あまり稼いだことは言うなよ。お金に追われるのは大変なことだ。それが解消するのは嬉しいことだ。だが、大金に目をくらませる者は多い。

 大金が手に入ったなら分けてくれ、奢ってくれてもいいだろ、寄付を、等々大金は人を狂わせる。仕事上の付き合いの社会人同士ならまだしも、お前はまだ中学生だ。特にプライベートでは気を付けろ。

 流石に先生も誰にも言わないからな」



(なるほど、大金が入ったからと言って気軽に奢るのはまずいのか。

 確かに今まで金が無かった奴が、いきなり奢ったら怪しまれるだろう)



「分かりました。注意します」


「そうしてくれ。学校内で変な揉め事に発展されると先生も面倒だからな」



 そういって松木先生は、内容を笑い話へと変えた。



「それで、楽しむために高校に行く、か。どういう高校に行きたいんだ?」


「成績に拘らなくても良いなら、先ずは限定シーカーの限定解除を目指してみてもいいのかなと。ダメでも限定シーカーで稼げばいいだけですし」


「限定解除、ダンジョンシーカーの国家ライセンスか。

 南中学校から中央都市の上級高校ダンジョン科に入学出来た者はさすがにいないが、それだけ稼げるような有能なスキルを手に入れれば可能性はあるかもしれんな」


「やっぱり難しいんですか?」


「通常の入試科目は並野なら大丈夫だろう。ただしダンジョン学基礎に関してはそもそも南中学校では教えていない。魔法学基礎についてもな。急いで勉強をするか、それは捨てて他で点を取るか。

 実技試験は戦闘試験と実際の魔物討伐試験がある。これも本来は向いていないだろうが、そのアレンジスキル次第だな。そして何より時間が無い。中央都市で行われる試験に向かうためには夏休みにはこっちを出ないといけないからな。もしくはより稼いで転移魔法便で移動するか。それなら夏休みが終わってから向かっても大丈夫だろう」



 ユウキは新たな都市を目指し、より一層稼がねばならないと決意した。

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