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第38話 招待状

前回のあらすじ:

ユウキたちは小山ダンジョンが独立するとどうなるかをスミレから聞いた。

サクラ宛に小山野家からの招待状が届いた。

「坊ちゃま。サクラ嬢宛ての招待状は、無事に本人へと渡せたそうでございます」


「そうか、ごくろう」



 ダイスケの元を訪れた執事は、居所が分からなくなっていたサクラへと無事に招待状を手渡せたことを告げた。

 育児施設へサクラと面会しに行ったものの、既に施設を引き払った後だったのだ。



「伯爵、これでよろしかったのですか?」


「問題ない。サクラの件は今夜片付けよう」



 ダイスケの問いかけにあっさりと答えるナカニシ。

 貴族にとって、踊り子とは呼べば来て当然の存在だ。

 本職の踊り子チームというのは、娼館に勤める娼婦たちの営業チームである。貴族が『時間があるときに来い』と言えば、その日の夜の予定を開けてこいと言う意味だ。

 サクラが今夜訪れるかどうかわからないなどという事は、二人とも全く考えていないのである。



 しかし本職の踊り子ではないサクラは、当然そんなことは知らない。

 しかもサクラはスミレから、自分がなにやら狙われているという話も聞いている。

 そのためサクラは招待状の事もスミレに相談しに行き、どうするべきかという話も進めているのである。



「模擬戦争の方は大丈夫なのでしょうか?」



 ダイスケは小山野家の一族とはいえまだ高校生。素質があるわけでもなくダンジョンシーカーに向いているわけでもない。荒事も自分で対処するわけではない。現在父親が中央都市に行っているために、魔法都市マジクでの対応を指示されているだけの事だ。



「問題ない。魔物戦は黄色を突破できるPTを5PT揃えてある。

 大規模戦も小規模戦も連合の精鋭を配置してある。今日本の防衛軍は西も北も守りを手薄にするわけにはいかない。

 こちら側の勝利は確実だ。有利な交渉ができるだろう」



 模擬戦争は元々交渉のための手段に過ぎない。

 日本政府と貴族連合。あくまで主義が違うだけで、お互いに敵という訳ではない。敵はあくまで魔物であり、人口を減らすことに意味はないのだ。

 現在生きている人々の幸福を願い、ダンジョン内で発展していくべきだという日本政府。

 それに対し未来の事を考え、地球を人間の手に取り戻す為に全てのダンジョンを制覇べきだという貴族連合。


 日本政府とて、全てのダンジョンを制覇できるものなら既にそうしている。

 だが、ダンジョンでの生活を維持する為には人数が必要だ。ダンジョンの拡張速度に対する魔物の討伐にこそ余裕はあるものの、今も出現し続けるダンジョンに対しては、人口の増加が全く追いついていない。

 かといって民主主義の日本では、貴族連合の様な人口増加策を行うことは無理がある。選挙でえらばれる議員や総理であり、日本人の価値観からしてそんな政策を行うような者は次の選挙で落選することが目に見えている。


 それでもできることは行っている。成人年齢の引き下げもその一環であり、合法的な子作り時期を早めることによって人口増加につなげたいと考えているのだ。

 大人の魔道具もある以上、若者たちが自重するはずがない。そして中には子供を欲しくなる流れも出てきている。育児関係も十分なサポートを行うことにより、自由な環境で人口増加を速めていく狙いが根底にはあるのだ。





 *****



「あら、丁度良いわね」



 サクラが招待状を貰った事を相談されたスミレは、待っていましたとばかりに軽くそう言った。



「丁度良い、ですか?」


「そうよ。サクラちゃんを狙っているとは思っていたけど、理由が分からなかったのよね。

 でも小山野家の邸宅に行くのは、状況を整えてからよ。勘違いがあるとはいえ、サクラちゃんを怖い目に合わせてくれたお礼はきっちりしないとね。

 まずは3人共、これに着替えて」



 そうしてスミレは3セットの装備を取り出す。

 上下2ピースに分かれた、ライダースーツの様なジャケットとズボン。

 そしてブーツとグローブとフルフェイスのヘルメット。

 それが1セットごとに色で統一されて存在している。ユウキは黒、タマキは赤、サクラがピンクと。



「模擬戦争への協力、とはいえ貴方たちがやる事はいつも通り魔物の討伐よ。

 しかも邪魔が入らないし、こっちは死ぬこともない。それなのに素材は手に入るし未だ誰も倒したことのない魔物も出てくるボーナスステージ。

 でも目立つから、変装してギルドの特殊部隊という事にするの。

 戦争を放置して貴方たちを別のダンジョンへ連れ出すのは簡単だけど、貴方たちはいずれ目立つと思うのよね。だからここで、防衛軍にも伝手と貸しを作っておけるのは丁度いいわ」


「自分達が死ぬことは無くて素材が手に入るって、ものすごく良い条件じゃないですか」



 ユウキは戦争の事は良く分からないが、魔物を倒せばいいというだけならいつもの事だ。

 しかも今回は死ぬ危険が全く無いのだから、いつもより心に余裕が持てる。特にタマキが倒すのを見守る余裕が出来ることは、精神的に楽なのだ。



「そうよ。正確には、装備が全損した段階で施設からはじき出されてしまうの。そして同じ人は1週間に1回しか入れない。中にいる間に魔物の復活もない。

 一度完全に外へ出てしまうと再度入ることはできないから、普通の収納容量ではそこまで持って出られないのよね。でも、ユウキ君にとっては美味しい所よ。

 そしてクリアすると次のゲートの様な物が現れて進めるの。難易度が順番に上がっていくわ。緑、黄色、オレンジ、赤、黒という順番ね。

 ちなみに今までオレンジをクリアした人はいないはず。

 素材も魔石もガッツリ稼げて、防衛軍に貸しが出来て、小山野家や中西伯爵らにはきっちりとお礼ができる」


「そんなに良い場所なら、いつも使う事はできないんですか?」


「ダンジョンの出入り口にあるのよ。だから外を目指す魔物が来た時には退避しないといけないの。普段はダンジョンの出入り口を守っている防衛軍が使ってるわよ。

 今回貸しを作っておけば、別のダンジョンでも使わせてもらえるくらいの融通は利くと思うわ」



 スミレの思惑の一つはこれである。

 いくら対魔物に関してはほぼ無敵と思われる3人とはいえ、見た目は中学生。分かってはいても危険な場所へ行かせたくはない。

 その点、今回行く施設では死ぬことは無いのだ。

 できれば積極的に使わせて、本人たちの基礎能力の向上につなげたいと思っている。


 とはいえその施設の管轄は、ギルドではなく防衛軍。防衛軍はダンジョン探索協会に協力的だが、あまり一方的に決めてしまうと相手にもメンツというものがある。模擬戦争への協力というのは、丁度良いきっかけになるのだ。



「あと、ダンジョンの出入り口まで行くから、レイドポイントも使えるわよ。

 交換品には専用装備とかあるから、楽しみにしててね」



 専用装備。それは装備条件が適用されない装備。

 その分、個人依存アイテムとして譲渡もできなければ他人が使用することもできない。本人が死んで24時間経過すると、アイテム自体も消えてしまうというものだ。どこかに置いておいても何故かいつの間にか自分の収納に戻ってくる不思議な存在。


 スーパーレア級で1個レイドポイントが10P必要となり、ウルトラレア級で1個50P、レジェンド級で1個100P。

 鎧上下、足、手、頭の5か所分同じシリーズで集めるとセット効果が発動するので、基本的にセット装備として集めることを目指す者が多い。

 スミレもウルトラレア級のセット装備を所持している。それでも5か所分で250P必要となり、各地のレイドボスを倒して回って集めた結果だ。同じ場所かつ同じ出現方法で一度倒したレイドボスには、2度と戦えないのだからなかなかにハードルが高い事である。


 このスミレの話す専用装備の話に一番食いついたのはユウキだ。

 ユウキは素質による制限ではないかと思われる状況により、レア級の装備ですら装備すると動けなくなることが判明している。


 これはギルドに有る装備で試した結果であり、装飾品やアクセサリーなどを除く、武器、上下鎧、足、手、頭装備はレア級以上を装備した場合には動けなくなるのだ。装備条件が適用されない装備と聞いて、期待するのも仕方がない事だろう。



 しかし今回はその期待すら意味のない結果となる。



「スミレさん、【神器】と書いてあるゴッド級アイテムが1000Pにあるんですけど」



 ダンジョン入り口まで戻る『帰還石』を使用したスミレを含むクラン黄昏の戦闘PTの一行。そしてスミレを目印にタマキの転移で移動したユウキとタマキとサクラの3人。

 ダンジョン出入り口にある石碑に触れたユウキが見た内容は、スミレが語る専用装備のさらに上、ゴッド級アイテムまで表示されていた。



(レイドポイント1000P貯めるとか、貴方たち以外には無理だから)



 ユウキの単純な問いかけに対し、1人頭の中で突っ込みを入れるスミレであった。

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