第36話 シルバーカード
前回のあらすじ:
召喚獣相手にはユウキの<収納>での回収は通じなかった。
ホワイトウルフと再会した。
「あら、珍しい人が居るわね。こんにちは、小山野さん」
ホワイトウルフがサクラを見つけ、合流してお互いに無事を喜んでいるタイミングでスミレは一人集団を抜けだした。
スミレの直感では、ホワイトウルフは純粋にサクラの事を心配していると感じたからだ。
そして何よりも、スミレが引っかかりを覚えていた原因の一つが目の前にありそうな気がしたからでもある。そのため一人、ダイスケやナカニシの居る集団の元へとやってきたのだった。
「こんにちは、ギルドマスター。
我が家の試験でトラブルがありましてね。こうして自ら解決に来たわけです」
間違ったことは言っていない。
表面上はその通りなので、ダイスケも自信を持って言えることだ。
「ホワイトウルフの試験は小山野さんの所だったのね。そちらの方々は?
この都市では見かけない統一された装備ですけど」
スミレはナカニシの方を見ながらもダイスケに尋ねる。
統一された装備の集団は、どう見てもシーカーというよりは兵士である。
「この方は中西ダンジョンの中西伯爵です。トラブル発生時に我が家に丁度滞在中でして、解決に協力いただいているところです」
「中西だ。初めまして、ギルドマスター殿。
なにやら踊り子がオークに捕まっているのを救出したい、という話を聞きましてな。
踊り子と言えど、人とオークではものが違う。救出するという事であれば手伝おうという事で同行したまでだ」
その言葉を聞いたスミレは、何故このような事態になっているかの一つの原因に気が付いた。おそらくこの二人は、サクラの事をシーカーとしての踊り子ではなく本物の踊り子でもあると勘違いをしているのだ。
そしてその原因には、スミレ達ギルドメンバーがサクラを甘やかしてしまった部分が含まれているので少々頭が痛い事態ではある。
とはいえ、それをこの場で口に出すことは無いのだが。
「そうなのね。それでオーク城に来たと。
でも、どうやらどこかの誰かが新しいレイドボスの発生方法を準備していたようなのよね。見ての通り、オーク城が消えてしまっているのよ」
スミレはレイドボスやオーク城に関する知識を持たないであろうダイスケに対し、分かるように説明をしていく。
小山ダンジョンの様な所属ダンジョンの場合、本来事前に分かっているようであれば、初討伐は小山野家の主催で行われるはずなのだ。それが今回はギルドにも何も連絡が無く偶然発生した。
ダイスケは途中で言われていることの意味を理解する。
そして、ナカニシが指示をだしてきたことの意味も。一瞬ナカニシの方を見てしまったが、それでも自分にできることは何もないという結論に至ったために沈黙を守る。
小山野家と中西伯爵の間での取り決めは、本家当主が交渉している事であり、ダイスケが決める事ではないのだから。
スミレにとってはその一瞬の反応で十分である。
相手が小山野家である以上、本来は正規の方法で十分に行えるはずの内容だ。つまり本筋を決めたのは小山野家ではなく中西伯爵。
何故こそこそと、このようなことをしたのかの理由は分かってしまった。
そしてなぜかサクラ自身が中西伯爵に狙われているという事も。
そう考えないと、レイドボスの事を知らない小山野家側が、中西伯爵をこの場に連れてくる理由が無いからだ。レイドボスの事が無いのであれば、小山野家としてはサクラを救出することが今回の目的だと思っていたはずなのだ。
スミレはそう思って話を進めるも、それ以上の成果を上げることはできなかった。
サクラが無事である事を確認したダイスケとナカニシが、サクラを確保せずにそのまま撤収を始めてしまったからだ。
スミレとしては、このままサクラを交えて試験の続きをするから置いて行けと言い出されるかと思っていたのだから、完全に予想外の事だった。
それから数日、スミレはサクラが狙われないかと気を付けて居たものの、特に何事もなく時間は過ぎていく。
ユウキとタマキ、サクラの3人は新たな魔法を覚えたり、ユウキの勉強を進めたり修行をしたりと暢気な日常を過ごしていった。もちろんユウキにダンジョン学と魔法学を教えることは、非常に重要な事ではあるのだが。
スキルを強化(超)の影響により、3人のスキル発動時間も大幅に短縮されていた。
これは、納品の時に出現させたオークだけで無く、タマキやサクラも一瞬で収納からアイテムを出現させることができたため、アレンジスキルの影響ではなくスキルを強化(超)の影響だと3人は考えている。
これにより、ユウキの戦闘方法に役立つ何かがあればと考えることも検討事項の一つである。
スミレを連れてカドマツの新発見だったゲートにも行き、大量の牛も確保した。
牛の確保とEPの大量確保、新たなドロップや宝箱の中身を期待していたのだが、その点についてはユウキもタマキも残念な事実をスミレから教わってしまった。
新発見ゲートの中にいる魔物のような、ゲートが表れてからまだ一度も倒されていない魔物に関しては、その魔物が持つエネルギーも素材としての価値も非常に高いのだ。その分体力も普通の魔物よりもあるのだが。
そして数も、通常状態の10倍近く存在する。実際は倒されて復活するのが十分の一位になるのだ。一度倒されて復活した魔物は、倒されても3時間後にはまた復活することになるのでそこからさらに減ることは無いのだが。
リセット前に魔物を一掃しつつゲートをクリアしたのだが、手に入れたEP的には前回の百分の一にも満たなかった。最下層の魔石はサクラに渡しているという事も影響しているのだが。
宝箱の中身やクリア報酬、ドロップ品も、前回の様なSR級などということは無かったが、それでも素材をすべて回収して持ち帰る事が出来たために金銭的には十分に潤った。
何よりも今回はタマキの攻撃が通じた為に、ルート上の魔物はタマキが倒している。
そしてユウキが解体して使えそうな素材も、自分達で確保してある。
PTとしての戦力は確実に上昇しているのだった。
そして5日後、待っていたダンジョン探索協会本部からの連絡と荷物がスミレの元に届いた。
3人の為のシルバーカードだ。
「3人ともおめでとう。これが貴方たちのカードよ」
スミレからそれぞれ手渡されるシルバーカード。
3人とも口元がにやけている。
「会長の判断結果だけど、2個の制限付きでの登録になったわ。
1つ目は、受験可能年齢になったら国家ライセンスを取得する事。ただし実技試験は免除。
これは大学のダンジョン科卒業による学科試験の免除と合わせれば、大学卒業と同時に制限解除という事ね」
ダンジョンシーカーの国家ライセンス試験は、大学卒業年齢である22歳を越えていないとそもそもの受験が出来なくなっている。
この年齢制限は、それまでに世の中の事を少しでも知っておくべきだという協会の判断からきている事だ。
「実技試験、免除なんですね」
これを一番ありがたく感じるのはユウキだ。
試験という状況での戦闘に関しては、素質の無いユウキではこの先どこまで伸ばす事が出来るか不安が付きまとうからだ。
「そこはある意味、当然と言えば当然ね。
ライセンス試験の実技はPTで魔物討伐を行うのよ。
3人でレイドボスを倒すような受験者が落ちるわけないわ。
ユウキ君の攻撃が無くても、今の時点のタマキちゃんだけで普通に合格すると思うわ。
サクラちゃんは支援担当だから流石に一人だと厳しいわね」
ダンジョンシーカーは通常PTで活動するため、個人としての強さだけで全てを判定できるものではない。そのため試験自体もPTとして受験するのだ。
基本的には合格した場合はそのPTのままダンジョンシーカーとして協会に登録することになる。もちろん常に一緒にいる必要はなく、抜けたり入ったりを最終的には繰り返すのだが。
「2つ目の制限は、ライセンスを取るまでは私のクラン『黄昏』に所属するようにとの事よ。
こっちは予想外だったわね。てっきりライセンスを取得するまでは、小山ダンジョン内限定という制限で来ると思ったのよ。
虫よけのつもりで登録したけど、ある意味運が良かったわね。
これで貴方たち3人は、クラン『黄昏』所属のPT名『神出鬼没』という事で協会にも登録されたわ。貴方たちの<魔化>を考えると、良い名前ね」
PT名は3人で考えて決めた内容だ。
当初はタマキの転移でいきなり消えたり現れたりする状況を考えて決めた名前だったが、スミレと一緒に行動しつつ<魔化>を混ぜた動きをしていて新たな事実に気が付いた。
完全なエネルギー状態になると、スミレの目からは見えない上に気配も察知できないのだ。
そして<魔化>の通常状態である透けて光って見える状態も、スミレからは普通に肉体として見えている事も分かった。
これはPTを組んでいても外れていても同じであり、<魔化>のスキルを持っているかいないかで見え方が変わるのではないかという結論となった。
つまり3人は、いつでも目の前で消えることができるという事なのだ。
そんなのんびりとした会話を楽しんでいる4人の元へ、ギルドの職員が慌てて駆け込んできた。
「ギルマス、緊急連絡です」
駆け込んできた職員はそう言うと、一通の封筒をスミレへと渡す。
ギルドの緊急連絡転移便を用いた、極秘マークのついている報告書だ。
スミレはその場で開封し、内容を即座に確認する。
「……そういう事だったの。やってくれるわね……。
30分後に緊急会議を開催するわ。幹部を会議室に集合させて」
報告書を見たスミレは、待機していた職員にそう指示を出す。
「スミレさん、何かあったんですか?」
スミレのただならぬ表情に何かを感じたユウキは、思わず疑問を口にする。
「そうね。貴方たちにも関係のある事よ。
でも正式発表される迄、他の人には話してはだめよ。
とりあえず、中央都市への移動は中止ね」
「「「え?」」」
今日、新たなライセンスカードを受け取った後は、タイミングを見てギルドの転移便で中央都市へと向かうはずだったのだ。3人が驚きの声を上げるのは仕方のない事だろう。
「……小山ダンジョンが……日本から独立したわ」
3人はスミレの言っている事の意味を、すぐには理解できなかった。




