第35話 再会
前回のあらすじ:
タマキとユウキのスキルについての客観的な話をスミレから聞いた。
狂乱の塔20Fで、オークの集団が向って来た。
「はい、3人共慌てない。一度広場まで戻るわよ」
向ってきているオークの集団に攻撃を開始しようとしたタマキに対し、スミレは一度広場まで戻るように告げる。
今は広場から通路に少しだけ入った場所で戦闘していたため、戻る事は簡単だ。
「何か意味があるんですか?」
スミレの指示に従い広場の中まで戻ったユウキは、スミレに意味を確認する。
「そうねー。ユウキ君はまだ教育としては何も受けていないだろうし、タマキちゃんもサクラちゃんもまだ習っていないかしらね。
まずはあの先頭のオーク。気配をじっくりと観察してみて」
スミレの指示に従いオークをじっくりと観察するも、3人は何かを感じることはできない。
「最初から分かるというものではないわ。<気配察知>のスキル取得にも時間が必要だからね。
分かるようになると、先頭のオークと後ろのオークでは気配が違うのが分かるのよ」
そう言われても気配の違いがさっぱり分からない3人。そう簡単にスキルを習得できるわけではない。
「ユウキ君の収納の知覚は、気配とは別の視点で違いを見つけられて便利よね。
オークの格好をしているけれど通常の魔物ではない場合、特殊な状況を除いて2パターンの可能性があるわ。
一つは変装。人間が視覚をごまかしているタイプね。でもそれは視覚だけだから、足跡だったり、接触だったり、熱を感知したりで見破れるわ。多分ユウキ君の知覚だと、人の形で感じられるでしょうね。
そして今回がもう一つのパターン。召喚獣よ」
召喚獣は、召喚者が魔石に召喚魔法を使用することによって出現する。
召喚魔法を使用した場合は魔石が消費されてしまうため、召喚獣の中に魔石は存在しない。
召喚獣は召喚者の意図に従って行動するが、召喚者から一定の距離以上に離れることはできない。
「魔物のオークと召喚獣のオークでは気配が違うから、そのうち分かるようになるわ。
そして召喚獣で人を攻撃すれば、当然傷害罪が適用されるわ。だからまずは偶然通っただけなのか、狙ってきているのかの確認の為に広場まで戻ってきたのよ」
スミレの話を聞いて納得する3人。
広場に入った召喚獣と追いかけるオーク達は、予想通り一直線に4人に向かって走ってきている。
「これで狙ってきているのは確定ね。釣っているなら自分達の方に引き寄せるし、同時戦闘を回避するためのマラソンであれば私達の方に向かわせる意味は無いわね。
ユウキ君、オーク達のさらに奥にいる人は分かる?
広場に入らないぎりぎりで隠れて居る人」
「分かります。少し離れてオークの後ろから付いてきていた人ですよね」
ユウキはオークが何を追いかけているのかを確認した際に、オークの後ろでやはり魔石の無い人型の何かが動いていることに気が付いた。
そちらはオークの形ではないために人間だろうと思っていたが、ただついてくるだけなので意味が分からなかった。
「そうそう。その人がこれからどこに向かうかも監視できる?」
「やってみます。でも、二人いますよね?」
「あらやだ。そっちも分かるのね。いいわねー。
もう一人の方は<気配遮断>を使用しているから、<気配察知>のスキルを相当鍛えてないと普通は見つけられないのよ。
本命の監視は多分そっちだから、そっちも追跡してくれる?」
「分かりました」
「タマキちゃんとサクラちゃんは待機。私が召喚獣の後ろのオークだけを殲滅するわ。
ユウキ君は光を出さずに召喚獣を攻撃してみてくれる?
話を聞いた限りでは多分効果が無いように思えるけれど、念のため試してみて。
では、行くわよ」
スミレはそう告げると、一瞬でオークの集団の前に現れる。
「はやっ。あれ、タマキのように転移しているわけではないよね」
「そうね、普通に動いて行ったわよ。移動術を使っている私よりも速いけど」
そんな会話をしている間に、あっさりと10体のオークを無力化するスミレ。
武器も使わずに素手で殴りつけていただけなのだが。
「私も随分強くなったつもりでいたんだけど、上には上が居るわね。ユウキの方はどう?」
「全くダメ。手足への攻撃は通らないにしても、目とか血とかなら回収できそうな気がするんだよね。スミレさんが戦っていたオーク相手に試したら上手く行ったし。でも召喚獣には効いてない」
「そう。召喚獣がこっち迄来たら私が倒すわ。ユウキには天敵の一つになるかもしれないわね」
警戒している3人をよそに、召喚獣はその場で霧のように空気に溶け込んで消えていく。
「なるほど。最終的に死体が残らないなら、回収は無理だね。
だからスミレさんは効果が無いように思えるって言ってたのか」
「そうよ。どうだったの?」
オークを倒したスミレが3人の元へと戻ってきた。
息一つ乱さずに、まるで何事もなかったような振る舞いで。
「予想通り効果がありませんでした。
例の二人は、オーク城の方へと向かっています。
それと、別方向からオーク城の方へと向かう、人の大集団が居ますね。173人、かな?
離れている人がどこまで一緒の集団か分かりませんけど」
「ふーん。そっか。そういう事なのね。
さくらちゃんは利用された、という事かしら。
うちの庭で好き勝手やってくれるじゃないの。
……それじゃ、答え合わせに行きましょうか」
1人だけ納得したスミレをよそに、3人はさっぱり意味がわからない。
「スミレさん、私が利用されたっていうのはどういう事ですか?」
特に当事者であるサクラが気にしてしまうのは、仕方のない事だろう。
「何処からともなくオークの大群が出現する。
そのオークを倒してオーク城の玉座の間に入った場合、新たな出現パターンのレイドボスが登場するという状況。
そこへレイドボス討伐規模の集団が到着する。
偶然にしては、できすぎよね」
本来、レイド戦を行う時には事前に管轄地のギルドへの申請が必要となる。
出現条件を満たす為には、他のシーカーが邪魔をしないように協力してもらう必要がある。そのため、ギルドとしても調整員を現地に派遣することになるのだ。
「レイドボスって、倒したいものなんです?」
「あら、そういえばその説明を忘れてたわね。
貴方達のように、効果のある称号を手に入れるということは難しいの。
私ですら初めて聞いた話なんだから。
普通はクラスポイントとレイドポイント、素材的な価値の3つを求めて戦うのよ」
クラスポイントとは、クラス取得時および取得後に使用することによって、様々な効果を発揮するものだ。下級戦士から中級戦士へなど、クラスチェンジする時にも必要となり、特殊なクラスは取得時にポイントが必要なものもある。
レイドポイントは固有アイテムと交換する事が出来るもの。
ダンジョン入り口にある石碑に触れることで交換することが可能である。
「小山ダンジョンでは、クラスは高校に入ってから取得するの。普通はダンジョンシーカーの国家ライセンスを取得する時でさえ下級のままよ。レイドボスはそう簡単に倒せるものではないからね。
それに貴方たちは初討伐報酬として付与されたから、通常の10倍のポイントを取得しているの。普通はどっちも1-3ポイントくらいしか手に入らないのよ。
今回の相手は、その初討伐をこっそりとやりたかったんでしょうね」
*****
一方その頃、20Fの大広場にサクラもオークも居ない状況を確認したホワイトウルフは、ダイスケの指示によりオーク城方面へと向かっていた。
5人には何故オーク城なのかは分からないが、探すのであればどちらにしても全て見て回る必要がある。
ダイスケとナカニシの元には、既にオーク城が消えたという報告が入ってきているものの、それをホワイトウルフの5人に教えるわけにはいかない。なぜそのようなことを知っているのかという証拠を残すことになるからだ。
そのため当初の予定通りの動きではあるのだが、自分の目でオーク城が消えている状況を見る事を優先してしまったため、何故オーク城なのかという理由を知っている事を隠し忘れていた。
そんな時、サクラの状況を見に行かせた者達が戻ってきた。
各地へオークの集団がいないか調査させた際、サクラを含むPTを見つけていた者が居たのだ。
大人1人と子供3人の不思議なPTとして。
「報告します。オーク10体では大人1人にあっという間に倒されてしまい、総戦力の確認はできませんでした」
オーク集団の行方の手掛かりになるかもしれないと向かわせたオーク達であったが、報告の内容は予想以上のものだった。
「300体以上のオークを倒せると思うか?」
「動きを見る限りは可能かと思われます」
ダイスケと報告者の会話が進んでいくものの、ナカニシからするとその流れはない。
オーク城が消えたという事の意味を考えていないからだ。
小山野家の一族とは言え、中央都市にある上級高校ダンジョン科へと通っているわけではないダイスケでは、ダンジョンシーカーに関わる事情は分からない。レイドボスに関しては、ダンジョンシーカーのライセンスを取った後で知ることになるような事項だ。
部下の一部は知っているかもしれないが、現時点で口をはさむ様子はない。
オーク城が消えているという事は、用意させたオークが倒され、レイドボスが討伐されたという事だ。そして討伐した者は既に塔の外へと転移されているはずである。
サクラがまだ塔に残っているという事は、オークを倒した者達とPTやクラン、レイドを組んでいなかったために取り残されたと見るべきだろう。
ナカニシがそんなことを考えていると、大きな呼び声が耳に入ってきた。
「サクラちゃん!」
ホワイトウルフの5人がサクラを見つけ、走っていく様子が目に映る。
「ナカニシ伯爵……あれは不味いです」
ホワイトウルフがサクラ達に合流するところを見届けていると、ダイスケがナカニシに声をかけてきた。
「どうしたのです?」
そう言われても、ナカニシには状況が分からない。
「あの巨漢の人物は、ダンジョン探索ギルドのギルドマスターです」
「なにっ!」
様々な事を知る立場のギルドマスターが登場した事で、この場で主導権を握ることが難しくなったと感じるナカニシであった。




