第30話 狂乱の塔6
前回のあらすじ:
ホワイトウルフ側の行動の回でした。
今回から第26話の続きに戻ります。
「つまりあれは、試験の一部だったのか、偶然だったのかは分からないのね」
サクラから事情を聴いたタマキは、オークの大群について確認した。
「はい。試験自体の事を知りませんでしたので……」
「オークは何かを追いかけているように見えたけど。何か先頭に居なかった?」
ユウキは収納の知覚で判断しただけなので、実際にどういう状況だったのかまではわからない。
「オーク以外に何かがいたかどうかは……。ですが確かに次々と広場に入ってきて、まるで狙ったように囲まれていました」
「偶然、とは考えにくいけど意図が分からないわね。サクラちゃんを見捨てさせたかった?
戦力が来ていないところを見ると、試験の結果はどうでもよかった?
やっぱり偶然? 分からないわね」
そして話を聞いたタマキは困っていた。
サクラが狂乱石を持っていないからだ。リセット前に出るのであれば、タマキが転移で連れて帰るか、もしくは歩いて帰るかしかない。
タマキはアレンジスキルで転移を取得してから、根本的な事前準備というものをしてこなかった。学校の実習では、基本は学校で持ち物を指示される。自分の修行では、いつでも帰れるのだから必要になったら用意すればいい。これが無駄なお金を使う必要もなく、行動指針の基本となっている。
確かに今でもタマキとユウキの二人だけであれば、いつも通り必要な時に必要な物を買いに戻れば問題ない。タマキは現地で他に仲間ができる可能性など、考えてもみなかったのだ。
(使わないからと狂乱石は買わないで来たけど、失敗したわね。EPには余裕があるんだから、無駄でも買っておけばよかったわ。
でも……サクラちゃんが早く帰る意味ってあるのかしら?)
試験を受けているのはホワイトウルフの5人で、サクラは修行のために強化合宿に来ているという。それであれば自分達と一緒に続けるという選択肢があるとタマキは考えたのだ。
(でも私達が一緒に修行すると、こっちも帰れないのよね。
そうだ、サクラちゃんが寝ている間に転移してこっそり狂乱石を買ってくればいいんだわ。それで明日ホワイトウルフが現れなければ、念のためホワイトウルフの5人を見に行くという事にするか。
ギルドで救出部隊募集の状況を先に見ておいてもいいし。こっそりお肉売って料理してもらってくる手もあるわね)
タマキ自身、救出部隊が来る可能性は低いと思っている。
女性ダンジョンシーカーがオークに捕まったとしても、死ぬことが無いという事は既にタマキも習っている程度の内容だ。しかも狂乱の塔はリセットがあるため、確実に月曜の朝9時には離脱できる。
何よりもオークの数が多すぎる。救出部隊の被害だって考えられる。それならリセットという確実な時まで待てばいい。そう判断される可能性が高いのではないかとタマキは考えたのだ。
「とりあえず私達と一緒にオークを狩りながら、ホワイトウルフの人達が来るのを待ちましょうか」
タマキはまず、サクラが寝る迄付き合うことに決めた。これが一番無難な選択肢に思えたからだ。
「すいません。ありがとうございます」
前のPTから離脱したサクラは、再びタマキから送られてきたPT招待メッセージからタマキのPTに参加する。そしてサクラは再び踊り始める。
「何だか力が湧いてくるような」
「良い踊りね。キチンとバフがのっているわ」
「バフ?」
「能力の強化ね。踊りのスキルでPTメンバーに強化の効果を発揮させているのよ」
「はい、そうです。私にはお二人の様な攻撃力は無いですので。タマキさんもオークを倒していたようですし、ユウキさんに関しては大量のオークを一瞬で倒してましたから。残念ながら、私の攻撃ではオークに傷すらつきません」
ユウキは完全に苦笑しているが、その意味はサクラにはわからない。
「さて、このままオーク城を制覇しますか。その後休憩しましょ。サクラちゃんも倒したオークを収納で持つの手伝ってね」
「はい。あの、倒したオークを少し貰ってもいいですか?」
「いいわよ。どうせ一緒に行くんだし、適当に欲しい分回収して」
「ありがとうございます」
「どうするタマキ、2体残すようにする?」
ユウキは自分が倒してしまうと成長が遅くなるという事で、少しでも残すオークを増やした方がいいのかを悩んでいる。
「今まで通り1体を残して後は倒しちゃって。無理をしても仕方が無いわ。私が倒した後はサクラちゃんに持ってもらうから」
タマキもユウキの意図には気がついたが、無理をしても仕方がない。それに実験をするにしても、サクラが一緒にいては試しにくいとも考えたのだ。
3人でオーク城の中を探索していく。
念のため、タマキは移動術を使っていない。しかしサクラのバフによるユウキの身体能力向上があるため、ユウキの移動速度も含めてだいぶ改善されている。
これはサクラのバフシステムが、それぞれの人の割合上昇ではなく、サクラの割合上昇分と同じ量だけPTメンバーの能力を引き上げているからだ。
実はタマキの移動術もタマキの移動力上昇分と同じ分をユウキに分け与えていたので、ユウキが20F迄走る速さは普段のユウキの全速力から見てもとんでもない速度になっていた。
しかし、タマキはさらに速い視点からユウキを見ていたので気が付いていなかったのだが。
ユウキは既に思考操作器にプログラミングを済ませてあるので、タマキの後をついて行くだけだ。収納の知覚で魔石を感知し、近くの魔石一つを残して全部自動迎撃するように組んである。光の剣たちが勝手に飛んでいき、勝手に膨らんで勝手に縮んで戻ってくる。その時には既に魔物はいない。
繰り返し実行による自動迎撃システム。さらには収納の知覚による周囲把握も併用し、自分と魔物との間に壁などの障害物があったらその向こうは攻撃しないとか、同じ部屋なら攻撃するとか細々と条件分岐も済ませている。
ユウキにとってはまったく緊張感のない、簡単なお仕事だ。
「ここが最後、オーク城の玉座の間ね。二人とも準備は良い?」
タマキがオーク城内の簡易地図を見ながらユウキとサクラに確認するように聞く。
「うん、大丈夫」
ユウキには既に、部屋の中に何体魔物がいるかも分かっているのだから当然だ。
「問題ありません」
サクラも二人に任せておけば大丈夫、と完全に安心して踊っている。
二人の言葉を聞き、タマキが最後の扉を開ける。
中には4体のオークが待ち構えている。が、扉をくぐる前に3体がユウキの自動迎撃システムによって倒される。
「幻の美味しいお肉のオークとやらは、やっぱりいないようね」
タマキは残念そうにオークに向かって進み、最後のオークもあっさりと倒す。
すると、どこからともなく荘厳な音楽が流れはじめ……3人は違う空間へと転移させられた。
転移した先は玉座の間と似たような部屋だった。
数百人でも戦えそうな広さがある点を除けば、という事であるが。
そして荘厳な音楽は続いており、さらに『ゴゴゴゴゴッ!』という音とともに闇の中に魔物の集団のシルエットが現れ……一番近い1体を除いて光の中へと消える。ユウキの自動迎撃システムによって。
「「「……」」」
(……なんだかわからないけど、そういう事もあるよね。気にしないよ、俺は)
ユウキはこの空気を気にしない事にしようと自分に言い聞かせている。
(だってこんなギミックがあるなんて、聞いてないよ。俺のせいじゃないはず)
そして必死に言い訳を考えている。タマキとサクラも呆然としている。1体残った魔物は普通のオークで、やはり玉座の方を見て呆然としている。
「えっと、倒さないの?」
ユウキは全て無かったことにしようと先に進めることにした。
その声を聴いた皆がユウキの方を振り向く。オークまでもが同じ表情をしているようにユウキには感じられた。
「……そうね、倒さなきゃ」
「……そうですね。倒さないといけませんね」
そして残ったオークも、今までと同様にタマキの攻撃で普通に倒したのだった。
「ところで、これってなんなんだろう。なんか突然音楽が鳴ってどこかに飛ばされてるよね」
普通はどこかに飛ばされれば焦るものだが、ユウキはタマキの転移があるから大丈夫だろうと楽観視している。
「分からないわ。なんかボスっぽいけど、地図を見ても次の階層に向かう場所じゃなかったわよね。これが幻の美味しいお肉なのかしら」
そんな事を話していると、3人の視界にメッセージが表示された。
<討伐成功。ランクSSS。初討伐報酬を付与しました。10秒後に塔の外へと転移されます>
しかしいつものように、足元にクリア報酬の宝箱が出現しているわけではない。
「あれ、やっぱりボス? クリア報酬の宝箱はないみたいだけど」
「そのようね。こういうパターンもあるのね……知らなかったわ。
サクラちゃんは知ってた?」
「いえ、知りませんでした」
「とりあえず、外に出るのが私達だけなのか塔の全員なのか分からないけど、全員だったら私達が原因ではない感じですっとぼけましょう」
タマキの提案に、苦笑しながらもうなずく二人だった。
「どうやら私達だけのようね」
塔の外へと転移させられた後、周りを確認したタマキはそうつぶやく。
「だね。ただこれ、何かやらかしたっぽくない?」
ユウキは自分達の体を見て、そうつぶやく。
「そうね、盛大にやらかした気がするわ」
「体、透き通って……光ってますね」
狂乱の塔より脱出した3人の体は装備も含めて透けており、さらに白色の光を放っているのだった。




