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第26話 狂乱の塔5

前回のあらすじ:

340体のオークの魔石をユウキが回収した。

その後オーク城でオークを倒していると、タマキがおかしな現状に気が付いた。

ユウキの倒し方だと戦闘経験が発生しないかもしれないと。

「……もしかして、ユウキの倒し方だと戦闘経験が発生しない?」



 タマキはオークを倒して強さの感覚を確認した後、その結論へとたどり着いた。

 しかしその言葉を聞いたユウキは、当然それだけでは理解できない。



「どういう事?」


「強さの上がり方がおかしいのよ」


「タマキ、どんどん強くなってるよね?」



 前に倒したオークとの戦闘と比べ、タマキがまた強くなっている事はユウキにも分かっている。



「そう。つまり今でも1体倒すだけで強さの変化が分かるくらいオークが格上の相手だという事なのよ。でもこれっておかしいの。だってさっきユウキは340体ものオークを倒しているのよ。この状況ならその時点で急成長しない訳がないわ」



 戦闘経験はPT内で分散される。これは過去の研究により、PT内の誰が魔物を倒しても同じ結果になると考えられている。



「ユウキの収納容量もそう。牛の頃からあまり増えて無さそうというのは、私がその後カドマツで魔物を倒していないから。ユウキが倒していたあの後の魔物の分が反映されていないのよ。スキルを使い続けているから収納容量は少しづつ増えていると思うけど、格上との戦闘経験程の急激な増加が無いんだと思うわ。実際に私の収納容量は、私がオークを倒す度に増えているし。ユウキのも増えてない?」



 タマキに言われてユウキは収納容量を確認してみると、確かに空き容量が増えている。



「確かに増えているね。8割くらい埋まっていたはずなのに、今は2割も埋まってない状況になってる。つまり俺が魔石を回収すると、俺達のスキルの成長やタマキの身体強化による成長を遅らせてしまう?」


「そうとも言えないわ。ユウキが回収してくれる分安全策を取れるし、危なくなったら魔石を回収してもらえばいいんだから。それに魔物素材やドロップアイテム、宝箱の中身やクリア報酬。装備的な強化を見込める分、その後普通に戦うのが楽になるわ。このハイレア級の太刀のように。ただ、ユウキのアレンジを使って他の人の急成長は無理になったから、利用される価値は少し下がったかもね」


「攫われる可能性が下がるのならその方がいいかな」


「でも私の急成長も出来無くなったから、守り切るのが難しくなったのも確かなのよ。こういう時に二人共に頼りになる人が居ないのはつらいわね。施設のおばあちゃんたちに話しても意味がないだろうし」



 タマキがいくら勉強をしていると言ってもまだまだ中学生。習っていないことは知らないし、年齢的に教えられていない部分も当然ある。そして生活範囲は狭く、どうしても自分の常識に当てはめてしまう。頼りにできる誰かを求めてしまうというのは当然の事だ。




 二人がそんな会話をしていると、ユウキの腕の中でサクラの体が動いた。



「タマキ、この子起きそう」


「この話はまた今度ね」



 二人は会話を中断し、ユウキはサクラを床へと降ろした。





「えっと、ここは?」


「気が付いたね。ここはオーク城の中だよ。どこまで覚えている?」


「え、あれ、やっぱり私、連れ去られたんですか?」



 サクラは焦って自分の体を触り、色々と確認をしながら聞いてきた。



「いや、あの場で助けたよ。夢じゃないよ。今は状況が分からなかったから、とりあえず追加のオークを求めて探索しているところ」




 サクラはそれを聞いてホッとした。最後に覚えている光景が、現実かどうか不安だったからだ。そして周りを見渡すとオークが1体倒れており、タマキがそのオークに向かって歩いているところだった。実際にオークを倒す力があるのを見て、現実に起こったことなのだとサクラは自分を納得させる。



「あ、ありがとうございました。えっと、お礼は……」


「気にしない気にしない。偶然通りかかっただけだからね」



 元々は肉を貰っていいかタマキが聞きたかっただけだし、とはさすがに言えないユウキ。向かった動機でさえ文句をつけに行っただけなのだから。



「それじゃぁ多分気兼ねしちゃうわよねー。だからその服装で楽しませてあげればいいんじゃないかな。ユウキは男の子なんだから」



 戦闘をしていたオークを回収したタマキが再びからかいに戻って来た。



「タマキはまたそういうことを言って」


「そうですね、でわ」



 そう言うとサクラは全裸に、なったのは一瞬で再び同じ装備を装着する。適当に直したユウキとは違い、今度はしっかりとした意図のある見え方になっている。



「少しずれてしまっていたので装備しなおしました。どうですか?」


「えっと、なんていうか、目のやり場に困るね」


「何言っているのよ、おっぱいガン見しているくせに」



 私だって結構あるのに、というタマキの最後のつぶやきはユウキまでは届かなかった。

 確かにサクラの方が大きいが、そこまで大きな差はない。サクラは見せる格好をしているのでより目立つというだけの違いだ。



「それはやっぱり見ちゃうのはしょうがないでしょ。俺だって男なんだから」


「見てもらう服装なんですから、見ていいんですよ」



(そしてここでどうせなら脱げって言われる私。とまどう私は強引に脱がされるのですね。胸のさらしをほどかれ、両手を結ばれてそのまま強引に初めてを。さらにオーク城だからいつの間にかオークまで合流して……ってまずいですね。こんなに気持ちがいいなんて。もしかして私、現実で抱かれたいんです?)



 サクラは妄想の世界に入りこむのは好きだが、実際にその妄想の世界を現実にする程の勇気はない。あくまで妄想の世界で得られる快感が好きなだけだ。サクラ自身もこの事は実際にオークに囲まれたときに実感している。



(これがきっと例の症状なのですね。でも、さすがにまずいですよ。パートナーの女の子がいるのですし。っていなかったらやっぱり抱かれたいのですね。でも、その女の子も私の症状を分かっていますよね。私がアピールしやすいように動いてくれましたし。……実際はこういう風に感じてしまうんですね)



 サクラは自分に症状が現れているのを自覚した。知識としては症状の事を習っていたが、実際に初めて感じる事で少し押さえが利かなくなっている。そしてタマキはユウキをからかっているだけなのだが、とらえ方によってはそう解釈することもできる。



「なんというか、セクシーだね」


「ありがとうございます」


「その格好ということは、やっぱりあなた踊り子なのよね? 回復型魔法使い兼業?」


「はい。あ、神山桜です。サクラと呼んでください」


「サクラちゃんね。私は小野寺タマキよ。タマキって呼んでね」


「俺は並野ユウキ。ユウキでいいよ」


「はい、タマキさんとユウキさんですね。よろしくお願いします。回復型魔法使いでもあるのですがあまりPT需要が無いので。踊り子としてこんな風に踊ってます」


「あ、待って。PTに入らないと効果が無いわよ」



 タマキはサクラにPT招待を送ろうとしたが、サクラは既に別のPTに入っているのではじかれる。



「あ、既に別のPTに入ってるわね」


「そうでした」


「とりあえず次のオークはまだ先みたいだし、先に事情を聴きましょうか。この後どうしたら良いのかが分からないわ」



 タマキはサクラにそう提案する。




「あ、はい。えっと、私はホワイトウルフという5人組のPTと一緒に強化合宿を……」



 サクラは二人に自分の事を話しはじめた。

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