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第23話 狂乱の塔2

前回のあらすじ:

タマキの強さを確認するため、そして美味しいお肉を食べたいために狂乱の塔20Fのオークを狩りに行く事にした。

「なんかすごい速く走れるんだけど」



 下級ヒールポーションを飲んで体力が回復したユウキは全力で走っている。いつもとは比べ物にならない速さで。



「移動術で移動速度を上げているの。本来は自分用だけど、アレンジで他の人も対象に含めることができるようにしてあるわ。これが私の本来のアレンジスキルよ。目印に移動する転移はそのアレンジの結果の一つね」


「そうなんだ。これって誰にでもかけられるの?」


「なぜかPTメンバー以外には上手く行かないのよね」


「ああ、そういえば最初の転移の時も確かにPTに誘われた後だったね。PTって結局何なんだろう」


「ステータスのスキルによる仕組みという以外はまだ分からないことも多いみたいなのよね」



 タマキは走りながら説明を続ける。

 倒した魔物の所有権がPTになっているためPTメンバーなら誰でも収納できる。

 魔物を倒した時の戦闘経験の様なものがPTメンバーで分散されている。



「私のスキルで指定できる範囲の事もあるから、多分他にもあるのでしょうけどね」


「なるほど。ところでタマキってポーションは飲まなくていいの?」



 既に全力疾走を始めてから数分、ユウキは3本目のポーションを口にしている。それに比べてタマキは余裕で並んで走っているように見え、未だにポーションを1本も飲んでいない。



「私にはこの速度だと軽いジョギングレベルだから、大丈夫よ」


「俺は全力疾走なのに。これが強化された身体能力の差か」


「それでも移動術がかかっているからユウキも結構速いわよ。確かに強化している人が全力疾走すれば追いついてこられるでしょうけど、その場合は直ぐに疲れるわ。よほどの強化の差がなければ、移動術を使っていないと長時間ついてくるのは無理ね。でもユウキはポーションを使いまくっても平気でしょ」


「そういう事ね。でもこれ、飲みすぎるとお腹一杯にならない?」


「ユウキ、喉乾くかなと思って飲んでって言ったけど。普通にアイテムを使うイメージで使えるわよ。収納の中にあっても思考操作器で」


「……それは早く言って欲しかった」



 ユウキはしばらく手動で回復タイミングを調整し、そして条件判断化して自動回復プログラムを思考操作器に組み込んだ。



「調整完了。これでずっと走り続けられるかな」


「結局そこよね。お金を湯水のように使ってよければ色々と出来るのよね」


「下級ヒールポーションてやっぱり高いの?」


「安いとは言えないけど、そんなに高くないわよ」


「そうなの? 魔法薬って凄い高いイメージがあるんだけど」


「それはマジックポーションやキュアポーションね。ヒールポーションでも中級以上はそこそこ高いし上級はとても高いけど。下級ヒールポーションはそんなに高くないわ」


「そうなんだ」


「下級はケガを治すと言っても打ち身とか単純な骨折とか自然回復で治るものを早く治す程度だから。中級はそれなりのケガでも治るし、上級なら手足を失っていても治るわ」


「それでも下級でも役立つと思うけど」


「役立つけど、供給の割に需要がそこまでないのよ」



 ダンジョンシーカーがケガをするのは装備を全損した後になる。通常はそうなる前に撤退する。つまりそれが出来ないほどの強敵であり、打ち身や単純なケガで済む相手ではない。

 とはいえユウキのように疲れたから使用するというほど安い物でもない。休憩は適度に取った方が精神的にも良いのだから。

 そうなると当然シーカー以外がメインの需要となるが、ちょっとした打ち身程度で使うには高い。

 そのため高くなりすぎることは無いが安いわけでもない価格で落ち着いている、とタマキは走りながら説明する。



「疲れだけで思いっきり飲みまくっているけど」


「ユウキの場合はそれ以上の収入をあっさりと手に入れるでしょ。それに全力疾走して疲れるということは、筋肉を使うってことよ。ヒールポーションて結局再生効果と再生速度をものすごく上げて瞬間的に治しているだけらしいのよ。再生と言っていいか分からない範囲も治るけど。疲労した筋肉も再生して強くなると思うわ。身体強化としての強さではなく、普通に肉体を強化することにつながるはずよ」


「つまりこれも修行だと」


「そういう事よ、さぁ走った走った。これから体を鍛えるときは体力の限界は無視して全部全力よ。ポーションを湯水のように使ってできるだけ効率よく体を鍛えるわよ」



 ユウキとタマキは爆走していく。後ろから付いてきていた者達を引き連れて。

 しかし二人はいつまでたっても速度が落ちないが、後ろから付いてきている者達はそうもいかない。距離がどんどん開いていく。

 完全に後ろからの追跡者を引き離したところでタマキは残りの下級ヒールポーションを手渡す。



「まだこんなに持ってたんだ」


「さっきマジクのギルドで売っているのを全部買い占めておいたわ」


「頼りになります」



 そして二人の爆走は続いていく。地上タイプは良かったが、洞窟タイプと迷宮タイプは扉を開ける必要があるため面倒だ。どの階層もボス部屋にボスはおらず、人の流れが多いことを実感させる。当然宝箱の中にアイテムが残っていることなどない。



「この塔は階層転移ショートカットができないから、速く走っても長いよね」



 前回向かったゲート都市カドマツの新発見ゲート。そこではタマキの転移を使ったショートカットの連続だった。



「そうね、物理的に上下でつながっていないんだとどうしようもないわね」


「普通に歩いたとしても、ポーションが無かったら俺は途中で体力切れだよ」


「目標は20Fだからね。それなりに強化していない人は歩きでも途中で休憩しないとまず無理だと思うわよ。そもそもCランク向けの依頼で出るくらいなんだから、それなりに戦えるだけの強化をしていないとたどり着いても倒せないわ」


「タマキだったらどう?」



 タマキは少し考え、そして考えを口にする。



「それを確かめに向かっているんだけど、実際はやってみないと分からないわね」



 タマキもユウキもイチゴの町ではDランクだ。しかしこれはEランク相当のクエストはクリアできたという意味で、Dランクのクエストをクリアできるという意味ではない。

 事実タマキは学校で『Dランクのクエストは高校で強くなるまではするな』と言われている。オークの納品はCランク相当なので、さらに強くならないといけない相手だ。



「私にはハイレア級の太刀があるから攻撃が通じるかもしれないし、1対1にしてもらえれば相手の攻撃は避けられると思うわ。それに一応、私もさっきの対魔物結界の指輪を使っているし」



 二人は既に対魔物結界の指輪を試していた。指輪一つにつき1個の結界を作れるというものだ。結界は自分起点と空間起点があり、自分起点の場合は自分が動くと結界も一緒に動く。そして自分起点の最小の大きさが、装備と身体の表面部分となっている。手持ち装備だけは結界の外に出ているが。

 弱い魔物の攻撃をわざと受けてみた結果EPが減っていたので、装備よりも先に結界が作用することも確認済みだ。ノーマル級であるためか攻撃を受けた時のEP効率はものすごく悪く、普通はすぐにEP切れになることが分かり切っている装備だけれど。



「タマキでも攻撃が通じるか分からないんだ」


「私は素質こそ物理攻撃力極大だけど、メインアタッカーではないわよ。私のPTでの動きは本来回避盾向きね。ユウキと一緒に居る時は武器の力と素質による身体強化でごり押ししているだけ。戦闘系スキルをアレンジした人達のようには攻撃が利かないわ。私も非戦闘系スキルのアレンジだし」


「戦闘系スキルのアレンジって凄いの?」


「攻撃力という意味では差が出たわね。今はユウキと一緒にPTを組んでいるから、戦闘経験で圧倒できるかもしれないけど。流石に期末試験があったからあれから実習が無かったのよ」



 素質による身体強化の上昇に関わる戦闘経験は、魔物を倒した際にPT内で均一に得られるのではないかと言われている。そのためユウキが倒した魔物の戦闘経験で、今はだいぶ強くなっているのではないかとタマキは考えている。



「差が出た原因も、アレンジスキルだろうから何をどうしたのかは本当には分からないけどね。見える部分を見ているだけだし。まだアレンジを取れてない人もいるし、勿論授業で説明を受けることもできないわ。このスキルをこうすれば、なんてアレンジ内容を聞いただけでそのスキルは取れないという話だし。それにアレンジスキルの方がスキルの効果が上がりやすいから、戦闘系スキルの中でも武器のスキルだとそれだけで攻撃力に差がつくし」



 タマキは戦闘系のスキルとして<刀術>という武器スキルを通常のスキルとして取得している。<刀術>は刀系の武器を使って攻撃する時に自動発動するスキルで、攻撃力上昇の効果がある。スキルは使用回数や魔物との戦闘で効果が上がると言われており、その効果の上がり方も上がる上限も、アレンジスキルの方が通常スキルよりも大きい事は既に分かっている。



「中には素質と同じように、『アレンジスキルとして獲得できるスキルも人によってある程度幅があるのではないか』という研究者もいるわ。だからなかなか取得できない人は、『その人にとって取得しやすかったアレンジスキルを想像してしまったのではないか』とか言う話ね。確かめようがないし、気休め用の言葉かもしれないけど」


「そうなんだ。武器と言えばさ、あのハイレア級の両手斧を装備してみたけど、なぜか動けなくなるんだよね」



 タマキが使っているハイレア級の太刀と同時期に手に入れたハイレア級の両手斧。攻撃力の加算になるかもという事でユウキが収納に保管しているが、ユウキが装備すると体を動かすことが出来なくなった。スキルに影響があるかは未だ試していないのだが。



「重いものね」


「装備しなければ一応持って動けるんだけどね。でも装備すると急に全く動けなくなる。もしかして魔法と同じように武器にも使える使えない制限があったりしないかな?なんとなくそのハイレア級の太刀も俺だと使えない気がするんだけど」



 タマキからハイレア級の太刀を借りて装備するユウキ。やはり動くことが出来ない。



「習ってはいないけど、装備もそういうのがあるのかも知れないわね。普通はそんなに強力な武器なんて手に入らないし。ほら、ユウキにはスキルがあるからね。殴る時は硬化の杖で殴ってスキルでとどめよ」



 もしかしたらユウキの装備を考えるのはすごく難しいのかもしれない。そう思うタマキだった。







「それにしても、全然魔物が居ないね。この階からオークを探す?」



 19Fまでたどり着いたユウキはタマキに行動方針を確認した。19Fは迷宮タイプの階層で、通路の壁も床も平らに作られている。照明は迷宮に備え付けられており、ここでは自前の明かりを用意する必要はない。

 ユウキがタマキに確認したのは、場合によっては両方の階で回収と言い出す可能性があるからだ。



「折角なら美味しいお肉を狩りたいんだから、先に20Fを全滅させてからよ」



(やっぱり全滅はさせるんだ。しかも、先に、ね。そして狩るのはお肉じゃなくてオークだよ)



 ユウキはそう思ったが、当然のように言ったタマキを見てあきらめた。ユウキだって美味しいお肉を食べてみたいと思っているのだから。何よりも肉が近付いたことにより、タマキの目が再び肉食モードになっている。



「でも最初の数階層はともかく、途中から魔物と全く出会ってないよね。この階も今のところ魔石の反応が無いし。地上タイプの階層でなら遠くに少し魔石の反応があったけど」


「そこそこ人とすれ違うものね。魔物の数に対して人が多いのかもしれないわ」


「ここをゲートと言っていいか分からないけど、他のゲートでもそうなのかな?」



 ユウキにとってはまだ3回目のゲート探索だ。1回目は初心者向きで誰もいないゲート。2回目も新発見ゲートという事で先頭PTを追い越した後は狩り放題。人が居る状況でのゲート内の魔物の数などの一般的な経験を積んでいるとは言えない。



「残念ながら分からないわ。私も学校の実習で行った事のあるゲート以外はこの間のカドマツが初めてなの。1人で修行する時は学校で行ったことがあるゲートでやっていたし。学校で行ったことのあるゲートは階層がそんなに深くないのよね」



 いくら素質があるとは言え、未成年の中学生向けに行う学校の実習なのだから当然の配慮である。



「そうなんだ。なら進路上に出てきた場合だけ倒そうか。他は20Fから先に倒せばいいし、皆が寝ている夜中なら再度出現したオークを倒しやすいだろうし」


「そうね、それでいいわ」



 そう結論を出した二人は再び走りはじめる。今回の目的階層である20Fへと向けて。

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