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第22話 狂乱の塔1

前回のあらすじ:フリーマーケットで小さな子供達と交流し、アイテムを購入した。

「小さな子供達、かわいかったね」


「そうね。私達もきっとああいう風に見えていたのね」



 二人は自分達が育児施設の利用者であったため、頑張る小さな子供達に親しみを感じていた。イチゴの町にはフリーマーケットはなかったが、小さな頃にダンジョンシーカーになると修行をしていた時は兵士のおじさん達が稽古をつけてくれたことがあった。おそらく同じような思いで手助けしてくれたのではないかと思ったのだ。



 二人がそんな事を話しながらぶらぶらしていると、美味しそうないい匂いが漂ってきた。フリーマーケット内にある屋台だ。自然と二人の足は匂いの元へと釣られていく。



「坊ちゃん嬢ちゃんどうだい?美味しい串焼きだよ。1本2Pだ」


「とりあえず2本貰うわ」


「毎度あり」



 さっそく注文をするタマキ。勿論ユウキと1本ずつ食べるために。

 肉汁が垂れるその串焼きは、見た目にも食欲を刺激する。



「美味いね、これ」


「そうね。おじさん、これなんのお肉なの?」



二人は串焼きの肉を堪能しながらお互いに感想を口にした。



「おう嬢ちゃん。そいつはベビーボアの肉さ」


「これがベビーボアのお肉なのね。聞いたことはあったけど食べたことは無かったわ」


「そうかそうか。ならこの都市は初めてだな。本来ならこっちにオーク肉の串焼きもあったんだが、既に品切れでな」



 そこには1本10Pと書かれたオーク肉のメニューが張られているが、既に品切れ表示と表示されている。



「この時間で品切れって、数が少ない理由があるんですか?」



 時刻はまだお昼前、屋台の料理が品切れになるという状況は営業的には考えづらい内容だ。次にいつ訪れる事になるか分からない魔法都市マジク。ユウキもこの機会に出来れば食べてみたい。

 そのため、品切れの原因が気になったのだ。



「今は各地で夏祭りの時期だろ。オーク肉は人気があってな。輸出される為に高額で買われてしまっているのさ。最低限は地元に回してもらえているがな。供給が増えてくれればいいんだが、結局ギルドで入荷が間に合ってないってことだ」


「需要と供給の問題ですか。オークって何処で狩れるんです?」


「オークは狂乱の塔の19-20Fだな。美味しさを求めるなら断然20Fが良いぞ。ちなみにオーク城にはさらに美味い幻のオークがいるという噂がある。迷信的な噂だがな」


「オーク肉って、やっぱりおいしいですか?」


「そりゃあな。この値段の差があっても売れるくらい美味しいぞ」



(ベビーボアの肉がEP取引で2P、オーク肉が10P。5倍の差か。換算すれば100円と500円。1本500円の串焼きで売れるという事は十分美味しそうだな)



 ユウキはそんなことを思いながらタマキの方を振り向く。



「ユウキ、狩りに行くわよ。おじさん、これ20本持ち帰りで」



 そこには肉食女子タマキが降臨していた。



(そういえば、牛の時もこんな目をしてたっけ。これは、オークを全滅させるまで止まらないかも)



 ユウキは20Fまでの道程が長くないことを切に願った。






 オークを狩ることに決めた二人はベビーボアの串焼きは途中で食べることにして、まずはギルドの食堂で状況を確認することにした。



「こっちでもオーク肉ステーキは品切れになってるね」


「ギルドの入り口近くにオーク肉の納品依頼も貼ってあったわ。Cランク向けで」


「でも俺たち限定シーカーだから、この都市だとまたFからだよね。それに俺、イチゴの町でもDランクだし」


「そうね、でもここでランクを上げたいわけでもないし、お金に困ってもいないでしょ。私だってイチゴの町でDランクよ。丁度良いから難易度の分かる魔物相手に私の攻撃が通るのかも確認しておきたいわ」


「問題は20Fまでの移動に俺が付いていけるか。途中で体力切れになる可能性が高い気がするよ」


「それについてはさっきヒントを貰ったわ。大丈夫よ。任せて」



 そして二人はギルドの食堂でベビーボアの生姜焼き定食をしっかりと食べ、午後からオーク狩りに向かうことにした。ついでに折角魔法都市なのだからと、基本的な魔法薬などもタマキが買いあさっていく。




狂乱の塔を目指して歩いていく二人、今回はバスではなく普通に徒歩での移動だ。

マジクの防壁から出るとすぐ見える位置に建っているため、わざわざ乗り物で移動する必要などない。

イチゴの町同様に長い石段は降りる必要があるが、そこからは500mも離れていない。

地図によると、魔法の塔も魔具の塔も方向は違うがマジクの防壁のすぐ外にある。

そしてギルドで貰った案内によると、狂乱の塔も魔具の塔と同じく中に入るための手続きは特に不要とのことだった。



「狂乱石なんて売っているんだね」


「そうみたいね。この塔の限定EPショップだって。そんなのあるのね。中で使うとこの出入り口に戻ってくるらしいわ」


「でもタマキといるならいらないよね?」


「そうね。私達には不要な物ね。行きましょうか」



 二人は狂乱石を購入せずにそのまま案内板の脇を過ぎて塔の中へと入り、そのまま奥へと進んでいく。


 平然と中へと入っていく二人をよそに、案内板の周りにいた男性グループの一部が期待に満ちた表情をしている。それは移動用装備をジャケットにしているユウキはそのままの格好だったが、タマキは既に戦闘用の装備に着替えていたからだ。女性シーカー特有の露出の激しい軽鎧に。


 相手はまだ若い二人。自分達が保護を、そして一緒に上の階層まで連れて行ってあげる。さらには自分達が相手に、そう思う男達が後をついていくのであった。

 女性だけのシーカーグループであればそれを望んでいる場合もあるのだが、全てのシーカーがそれを望んでいるわけではない。男女のペアに対して行うのはいささか行儀が悪いと言える行動だ。このようなナンパ目的の限定シーカーが信用を落とし、そして追いかけられた方は限定シーカーをやめてしまうことがある。ギルドの悩みの種の一つだった。






 狂乱の塔の1Fをゆっくりと進む二人。1Fの地形は照明の付いていない洞窟タイプ。光の届かない暗闇の中、ごつごつした岩肌にでこぼこした足元はそのまま進めるものではない。


 洞窟を進むユウキとタマキの周りには、剣の形をした光が浮いて回っている。もちろん進路上の視界も確保する必要があるため、向かう先にも同様の光の剣が浮いている。


 そして1Fの魔物であるベビースネークがそばに現れると、光の剣が魔物に突き刺さる。剣の形をした光が膨れ上がり魔物よりも大きくなり、そして小さな光の玉に縮む。縮んだ時には魔物の姿が既に見えない。その後小さな光の玉がユウキの体に戻ってきて、吸い込まれるように中に消えた。



「面白い事を考えたわね」


「ほら、ゲート都市に行ったときに課題があったでしょ。だから俺なりに考えてみたんだけど、どうかな」


「うん、何も知らない人は錯覚すると思うわ。光の剣の攻撃魔法。突き刺して殺して広がって縮んで圧縮してユウキの中に回収する。どんな魔法よって突っ込みたくはなるけれど、応用魔法かなにかだと思われるだろうし、結果的に倒した魔物がユウキの収納の中にあるんだから見た目と結果が一致している。うまく考えたわね。これなら適当に倒せない魔物を演出してもいいわね」


「考えてからイチゴで練習したんだ」



 実はユウキにはひそかな思惑がある。次こそは、可愛いではなく凛々しい、格好いいという評価になりたいのだ。中学から高校に変わる今回はそのチャンス。高校デビュー。そのため色々と必死に考え、練習した結果だった。



「でもよくこれだけ制御できるわね。この光は、明りの指輪よね」


「うん。ほら、思考操作器+2のプログラム機能。いろいろ組んでモジュール化してあるんだ。この光の剣もそうだし、収納の知覚で魔石を感知する部分も、間にある障害物判定も、魔石のマルチロックも個数カウントも。その個数分光の剣を空中に発射して、後は突き刺して、魔石を回収して、光を魔物の大きさが隠れるまで大きくして魔物を回収。そして光を小さな玉に縮めて俺の体の位置まで移動させて光を消す。こんな感じの流れ」


「良くやるわね」


「プログラムで自動化したらすごく楽になったよ。解体スキル取得テストの時だって、回収するのを魔石の後は全体じゃなくてイチゴにしただけで同じ事やったんだよね。手動でやってた苦労は何だったのかと思う位楽になったよ」


「ユウキのアレンジスキルを手動でというのは本当に手動でやっている人に対してどうかと思うけど、意味は通じたわ。なんかますます反則になったわね。ってそれで思い出したけど、ユウキのアレンジスキルが収納だという事は既に一部でばれてるわよ」


「あれ? ばれてるの?」



 ユウキにはその心当たりがなかった。



「ええ、アレンジ内容はバレてないけどね。通常スキルよりもアレンジスキルの方がスキル効果が上がりやすい事は知っているわよね?もう収納容量が大きすぎるのよ。私がイチゴの納品対応をしていた時期はまだ通常の収納スキルと言える範囲の容量だったけど、カドマツのゲートで妙に大きくなったわよね」


「そうなんだよね。あの時、途中迄どんどん大きくなっていった気がしたよ。理由は分からないけど。でも牛を回収したあたりから今もあまり変わっていないかも」


「そう。今思えばカドマツでもたぶん牛の納品で担当は気が付いていたと思うわ。私が知ったのは昨日よ。イチゴの町を出発する挨拶をしにギルドに寄ったときね。さっきの解体スキルの時の話で、私じゃない人にイチゴを大量に納品したでしょ。たぶんプログラム任せで収納容量いっぱいに回収して納品したんだろうけど、さすがに容量が大きすぎよ。先輩に、良い人を捕まえたねって言われちゃったわ」


「大丈夫なの?」


「大丈夫みたいよ。試験がダメでも転移魔法を覚えて流通組に入れば安泰ねって言われたの。多分そっちに、どういうアレンジかは分からないけど収納スキルをアレンジスキルにしている人が居るんだと思うわ」


「それであれば攻撃と結び付けられなければいいってことかな」


「そういう事ね。だからこの演出はいいと思うわよ。意味が無いからこそ結び付けづらいだろうし」


「他にもマルチロックの際の条件で範囲指定するとかも用意してあるから、合同PTになっても戦っているように見えると思うし、ある程度残すこともできるように考えてあるよ」


「横取りされたって言われないように考えたわけね」


「うん、イチゴも周りに人がいるところは避けたから」



タマキは凄いと思うと同時にここまで作りこんだユウキの集中ぶりにあきれていた。






「後ろのはどうしようね。見られても問題なくはしたんだけど、それでもまた声をかけてくるかな?」



 既に二人は2Fまでたどり着いている。この塔は階段ではなく門によって次の階層へとつながっている。しかも上下で階層がつながっているわけではないようで、階層をまたいだ転移ショートカットをできる場所は見つからなかった。さらに初めの方の階層だからなのか、洞窟自体もあまり入り組んではいないのだ。そのため空洞から別の空洞に転移して同じ階層内でショートカットをするというような場所も見当たらなかった。



「3Fが地上タイプで速く動けるから何とかするわ。ここだと流石に慣れないうちは危険だから」



 タマキは簡易地図を見ながら既に対処を決めていた。この簡易地図はギルドで配っていたものだ。詳細ではないがこれがあるだけでどっちに行けばいいのかは分かる。特に地上タイプでどこに行けば次の階層にいけるのかが分かるのは助かることだった。



「でも俺速く動けないよ?しかも速めに歩いているとはいえ、既に疲れ始めているんだけど」


「足場も良くないからね。そこも考えてあるわ。これまでのゲートの事を考えればユウキの体力だと厳しいのは分かってたし。私が普段問題にしていなかったのは、やはり身体強化の影響なのでしょうね」



 前回も軽い服のユウキが疲れても、軽鎧のタマキは全く疲れていない状況だった。ただ足場の悪い道を歩いているだけでも、身体を強化されていないユウキにはきつい行程だった。





 次の階層への門をくぐり、たどりついた3Fは地上タイプの草原だ。



「ユウキ、これを1本飲んで他は収納しておいて」



 タマキはユウキにギルドで買った魔法薬を渡す。



「これは?」


「下級ヒールポーションよ。けがを治したりする魔法薬だけど、体力も回復するわ。ユウキは疲れたら飲んで。そして移動速度を上げるスキルを使うから、走るわよ」



 タマキはユウキが1本飲むのを確認すると、自分とユウキを対象に移動術を発動させた。

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