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第21話 フリーマーケット

前回のあらすじ:ユウキは攻撃魔法、防御魔法、回復魔法を覚える事が出来なかった。

二人での初めてのお泊りで、なかなか眠れなかった。

 なかなか眠りにつけない夜を過ごした翌日、ユウキとタマキの目覚めは遅かった。しかし特に二人は何かに急いでいるというわけではない。既にこの町に来た一番の目的であるユウキが魔法を習得するという事は、ダメだと分かってしまったのだから。

 のんびりと宿を立つ準備をし、遅い朝食を終えてからフリーマーケットに向けて出発した。



「このフリーマーケットは物々交換なんだ」



 フリーマーケットが開催されている広場へと着いた二人は、初めての人向けへの利用案内を読んでいた。そこにはフリーマーケットでは誰でも出品できるが、お金やDPでのやり取りはできないと書かれていた。



「エネルギーキューブを使ってEPで売買しているのよ。シーカーが物を売る場合って本来はギルドに持ち込むか、商人登録して自分で売るかだから。商人登録なしで売る事が出来るここでは、お金を扱えないんだと思うわ」


「でもEPだってお金の様な物じゃない?」


「EPをお金に換えるのもギルドでだからね。ここはギルドに持ち込む前にお互いに物を交換するような場所よ。そもそも何でDPが出来たかとか、ダンジョンシーカーの誕生とかの話ってユウキは習ってる?」


「習ってない。そういうものかなというだけで」


「これもダンジョン学の一部になるのかしらね」



 人類がまだ地表で生活をしていた時代、ダンジョンシーカーとはダンジョンの中を探索する者の事を指した。シーカーはPT単位で行動することが多かったが、時にはPTを超えて協力し、合同で魔物を討伐することもあった。

 ダンジョンで魔物を倒したり何かを手に入れたりした場合、協力した人達で分けるというのは当然の事。しかし大勢で協力して倒した場合、その場で丁度良く分けるのは困難だった。

 一緒に戻るという訳でもなければ、戻ってから分ける事にするのは難しい。ある時からその調整にEPが使われ始めた。その結果、今二人がいるフリーマーケットのように、ダンジョン内での物々交換がEPを利用して始まった。


「EPはやっぱりお金じゃないの?」



 タマキの説明を聞いたユウキは、やはりEPはお金なのではないかと思った。



「お金として認めてしまうと困る人たちが居たのよ」


「困る人たち?」


「お金として使えるなら、EPを皆貯めこんでしまうでしょ。でもEPは魔道具のエネルギー源だから、魔道具を使いたい人達が困ったの。そこで代わりにダンジョン探索協会がDPを発行したわけ。EPと交換するポイントとしてね」


「でもEPを売ってDPにしてもらうのに税金がかかるよね?」


「元々税金は無かったのよ。EP同士で物々交換をしていた代わりの物だし、ダンジョン内での物の交換や分配の管理なんて誰にも分からないんだから。でもDPがダンジョンの外でも使われ始めて国が税金をかけたの」


「それだとまたEPでの取引に戻らないの?」


「戻ったわ。まぁ当然よね。その頃にはダンジョンシーカーはダンジョン内で暮らしていける宿泊設備とかも手に入れてしまっていた。で、再びダンジョン外ではEP不足。シーカーがダンジョン内から出てこないなら魔物の素材もダンジョンの外に出回らない。ダンジョン内で店が営業を始めた。という具合にダンジョン内で暮らせる準備がどんどん進んでいったの。このままではまずいと考えたダンジョン探索協会が、ダンジョン内に学校を作られる前に動いたのね」



 タマキの説明は続いた。


 ・ダンジョンで手に入れたものをダンジョン探索協会が一括で買い取る。

 ・税金は一律で購入価格の20%の分離課税

 ・そのかわりシーカーに何かがあった場合、子供が中学校を卒業するまではダンジョン探索協会が面倒を見る。



「こういう流れがあって、私達が育った育児施設の原形ができたのよ」


「でも今は税金が一律じゃなくてランクで変わるよね?」


「そっちはさらに先になって、内戦があって、ダンジョン貴族が現れてからね。強いダンジョンシーカーをダンジョン貴族に引き抜かれちゃったのよ」


「だから今は日本でも強くなるほど優遇されるってこと?」


「そういう事ね。国家ライセンスを取ると色々優遇されるのもそのためよ。それにその方がやる気を出すでしょ。このフリーマーケットは期間限定での開催のようだし、昔の歴史を忘れないお祭りのようなものかしらね」



 ユウキへのダンジョン教育はまだまだ続いていく・・・。






「なんというか、統一感がないね」



 ユウキへのダンジョン教育が一区切りついた二人は、早速フリーマーケットの様子を見て回った。



「それはそうでしょ。それぞれが好きなものを持ち込んでいるんだし」



 使わなくなった服や道具はもちろんのこと、シーカー装備もあれば魔道具もある。寝具もあれば食材も。さらには調理された料理を売っている屋台まであった。



「お兄ちゃん、お姉ちゃん、見てってー」



 適当にぶらぶら眺めていたユウキとタマキに、小さな女の子が声をかけてきた。



「あら、かわいい店員さんね。何が置いてあるのかしら?」



 タマキが小さな子供に合わせて会話を続けた。



「えっと、魔具の塔で拾ってきた物があります」



 二人が置いてある物を見せて貰っていると、小さな子供達が他にも寄ってきた。


 そこは育児施設に住んでいる子供達が出しているスペースだった。過去に施設を利用していた者達が、魔具の塔に行って拾ってきたもの。その中でギルドに売ってもたいしたお金にならないものを子供達にくれるという話だった。



「でもタマキ、使えそうなものもあるよね?」


「何か見つけたの?」


「この2つ。使えると思うんだけど、なんでギルドで売ってもたいしてお金にならないのかな?」



 ユウキが気になった2個のアイテムをタマキも確認した。



 ・対魔物結界の指輪

  ノーマル級アイテム

  魔物の通過及び魔物の攻撃を防ぐ結界を張る事が出来る。

  結界作成時にEP消費する。

  結界維持に継続的にEPを消費する。

  魔物の通過を防ぐ力および魔物の攻撃を防ぐ力に必要なEPを消費する。



「まずはこの対魔物結界の指輪。魔装具じゃなくて魔法装備だったら需要はあるかもしれないわ。もしくは据え置きの魔道具だったらね」


「どう違うの?」


「もし魔法装備だったら魔法力で結界を張れるでしょ。魔法のスクロールで覚えられる魔物避け魔法という野営時に良く使われる魔法があるんだけど、近いような使い方ができると思うわ。スクロールは覚えると消費してしまうけど、もし魔法装備なら組織で持って使う時だけレンタルするなんていう使い方もできるでしょうし。PT内で魔法力の残りを見ながら交代することもできるわ。魔法力は自然回復するから使いやすいの。でも魔装具はEPを消費するからね」



 タマキの解説は続いた。

 消費して無くなってしまうものは使いたくないのが心理。それは回復アイテムよりも先に回復魔法を使いたいのと同じこと。

 据え置き型の場合は、施設や長距離バスの結界への利用。この場合はエネルギーキューブでエネルギーを供給、管理できるが、魔装具の場合は装備した人のEPを使用するので管理が大変になる。さらには装備者が近くに居ないと結界自体が消えてしまう。



「金持ちが自分で使う分にはいいんじゃない?」


「そういう人向けにはもっと高級な物があると思うわ。これノーマル級だし。魔道具としては長距離バスにも設置されている類のものなんだから、もっと良いものが作られていると思うわよ」


「そうなんだ」



 ・硬化の杖

  ノーマル級アイテム

  発動中に杖本体に破壊される力が加わった場合、破壊されない硬さまで硬化する。

  硬化に必要なEPを継続消費する



「で、もう一つのこの硬化の杖。何かを硬化させるならともかく、硬化するのがこの杖本体。そして魔法装備ではなく魔装具。EP消費して硬くするくらいなら木の棒ではなく最初から固い材質のを選ぶわ」


「なるほど、でも俺が使う分には向いてない?」



 ユウキの魔法力はまだ少ないが、EPだけは大量に持っている。そして重い武器を振り回す力がない。タマキとユウキのセットであれば、EPを稼ぐのは簡単だとユウキは考えていた。



「……たしかにそうよね。普通のダンジョンシーカー基準で考えていたから完全に失念していたわ。ユウキは別にEP稼ぎにこだわらなくてもいいのよね」



 タマキは教わったことを基準に考えていたため、装備の選び方も通常のシーカー基準になっていた。



「ライセンスがないと動きづらいだけで、お金持ちがダンジョンシーカーになる、いや、EPを使い続けてダンジョンシーカーライセンスを使って好きなことをするという視点で考えれば良いんだわ。結果的に使う以上に手に入れればいいんだし。そうよね。EPがもったいないとかは考えなくていいんだわ」


「思考操作器で繰り返し判断を組み込めば、EPを防御耐久代わりに使えるよね?」


「いえ、この手の結界は自分で切らない限りは通常エネルギー切れまで継続よ。だから気が付いたらすっからかんになるのも問題なの。維持はともかくダメージでの消費が大きいわ。まぁ残しておきたい分はエネルギーキューブで別に保管しておけばいいんだけどね」


「お兄ちゃん買ってくれるのー?」



 先ほど声をかけてきた小さな女の子が、ユウキの事を期待した目で見ていた。



「うん、買わせてもらうよ。この2個、これと同じ物は他にもある?」


「ちょっと待っててください」



 そう言うと小さな女の子は奥から箱を出してきた。



「いっぱいあります」



 大量にあった。



「確かにいっぱいあるね」


「あんまり買ってもらえないの」


「じゃぁ、予備も含めて指輪と杖、それぞれ10個下さいな」


「やったー。ありがとうございます」



 小さな子供達が一斉に喜んだ。


 施設からみれば、これは子供達が他の人と触れ合う為の遊びの様なもの。そして子供達にしてみれば、いっぱい売れたというだけで楽しいのであった。



「がんばってね」


「はい、ありがとうございました」



 そのスペースの代表兼会計という小6の女の子に挨拶した二人は再びフリーマーケットを回り始めた。

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