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第18話 置いて行かれた者達

前回のあらすじ:ユウキが解体スキルを習得しました。

ユウキとタマキがイチゴの町から旅立ちました。

「はいみんなー、順番に並んで並んでー」



 8台の巨大なバスが広場に並んでいる。

 これらは全て、イチゴの町から中央都市へと向かう専用直通長距離バスである。これから約3ヶ月をかけた長い旅。護衛は着くが、場合によっては魔物に襲われ目的地までたどり着けない可能性もある。


 しかしそれでも、北中学校から中央都市へ受験に行かない者は居ない。ダンジョン科が不合格でも普通科を希望するし、上級高校が無理でも他の高校も中央都市にはいくつもある。

 基本的に北中学校から行く生徒は選ばれたエリート達なのだ。



「卒業前のクラスごとに誰が来ているか確認してねー。クラス委員長、いなければ副委員長。それもいなければ出席番号の一番小さい人がとりあえず確認して」



 彼らは既に北中学校を卒業した身。成績表を持ち、受験票を持ち、中央都市へと向かう。とは言えもちろん全て収納の中だ。3ヶ月にも及ぶ持ち物もすべて収納の中。

 直通という名前がついていても、途中でいくつもの都市で補給をしながら向かう。野営も何度も行い、むしろ都市で泊まる事の方が少ない。

 それでも体調管理のために、都市での長期休憩は用意されている。半年早く卒業したとはいえ、年齢的にはまだ中学生なのだから。



「先生、小野寺さんが来ていないのですが」



 現場をまとめている教師にタマキのクラスの男子が声をかける。タマキに一緒にPTを組もうと誘った男達の中の一人だ。



「A組の小野寺さんですね。バスの搭乗希望は出ていません。しかし当日やっぱりバスで行くという場合もありますので出発時間まではきちんと確認してください」



 教師はクラス委員長が確認しに来たのだと思ったが、実はなんでもないただの男子。A組には他にも来ていない者が勿論おり、金持ちグループメンバー達もその中に含まれている。とはいえ列に並んでいないだけで、金持ちグループメンバーは見送りに来ているのだが。


 彼等からしても、タマキから一緒に行くとの返事をもらえていない。タマキはユウキと一緒に7日前に出発しているのだからそれは当然の事だ。

 しかし本人達はそんなことは知らない。バスに乗り込むかどうかが重要な局面だと思っている。


 もしバスに乗り込んだのなら、3ヶ月間のバスの旅を一緒にできるのだ。

 教師はここでの見送りが最後、着いていくわけではない。既に旅立つ者達は北中の生徒ではないのだ。護衛の人達がいるとはいえ、生徒達だけでの3か月間は決して短い時間ではない。

 しかも行動はPTを組んでその者達でまとまって行う。折角幼馴染のユウキを奨学金の適用除外を言い渡して乗れないようにしたのだ。ここにタマキが乗って自分達が乗らないという選択肢はない。

 その時は自分達もバスに乗っていく。

 逆にタマキが乗らなければ、自分達と一緒に転移の旅を選んだという事だろうと考えている。





「勝負はあったようだな」



 金持ちグループのメンバーがバスに乗り込んでいく男達に向かって声をかける。

 出発の時間がきたのだ。当然タマキは現れていない。



「違うな、勝負は高校に入ってからさ」



 だがバスで行く男達とてわざわざ負けを認めるようなことはしない。



「そうかな?それまでにPTを組んで色々と練習をしておくさ。たくさんの経験を積んでな」


「そうか。せいぜい呆れられて高校で恥をかかないようにな」



 捨て台詞であることは分かっているが、それでも男は言わずにはいられなかった。



 そんな光景をC組のバスに乗り込む途中で見ている男がいる。



「どうしたの?トオル君」


「ああ、マイ。なんでもないよ。あいつら馬鹿だなって思っただけ」



 マイはトオルの視線の先を追った。



「A組の男子たち? また小野寺さんがらみ? トオル君も小野寺さんがいいの?」



 マイの悲しそうなセリフにトオルが焦る。



「違うよ、俺はマイが一番だからね。それに、タマキにはちゃんと相手がいるよ」



 最後の方だけは小声でこっそりと告げる。

 しかし意外な反応が返ってきた。



「並野君の事でしょ?」



 マイは別に施設利用者という訳ではない。

 トオルから見ればマイとユウキの接点はないはずだった。



「ユウキ、じゃわからないか。並野のこと知ってるのか?」


「私は知らないわよ。ただ何週間か前に小野寺さんと並野君の話が女子ネットワークで流れていたのよ。それでA組の女子達があの男子たちにアタックを仕掛けたとかなんとか」



 トオルはもう一度騒いでいるA組の男子たちをしっかりと確認する。

 そうするとスキルによって色々見えてくる。普段はそうやって制御しているのだ。


 騒いでいる男達からピンクの糸が同じ方向に延びているのが見える。そして同時に黒い糸も。

 遠いので途中で消えてしまっているが同じ方角をさしている。


 ピンクの糸は大体片思いの相手によく見える物。そして黒い糸は敵対的な相手に見える物。今見えるという事は今思っている事。

 トオルはこれまでの経験上、そういう認識をしている。



(ピンクは恐らくタマキだな。そうなると一緒の黒はユウキか。奴らはユウキを敵だと認識している?)



 トオルはユウキが北中で認識などされていないと思っていた。

 素質の無い南中の中学生。自分やタマキのように同じ施設出身というならともかく、普通は接点がない。



(女子達からの情報でユウキの事を知ったのか? もしかしてユウキがバスに乗れなくなったのはあいつらの仕業か?)



「トオル君、怖い顔してるよ」


「ああ、ごめんごめん。俺にとってはタマキもユウキも友人だからな。もしかしたらマイの事をそのうち紹介できるかもな。俺の彼女ですって」


「もう、トオル君ったら」



 周りから見ればこの二人は完全にバカップルだった。





 8台のバス、そしてそれらを護衛する16台の護衛車が都市を離れていく。

 舗装されていない道のため、大した速度は出ていない。山や谷、川、魔物の住処や都市の位置。これらを考慮しながら道なき道を進んでいく。

 とても歩みは遅い。


 そんなバスを見送った男達は、意気揚々とタマキがいるはずの施設へと迎えに行く。


 もしかしたら時間に遅れただけで、今急いでバスの居た広場に向かってくるかもしれない。走って追いかければ追いつくかもしれない。

 しかしもうバスは出てしまった。俺達がいるから大丈夫だよ。一緒に転移便で連れて行ってあげるから心配しないで。

 男達はタマキがもしそういう行動に出た場合の事も打ち合わせ済みだ。仮にユウキが一緒に居て、連れてってと言われても枠の関係上断るという事にしている。

 折角蹴落としたのに、連れて行ってしまっては本末転倒だからだ。





「え? 小野寺さんはとっくに出発したんですか?」



 しかしこれは想定外だった。



「ええ、夏休みに入った初日に出発しましたよ」


「どこへ行ったか分かりますか?」


「どこって、中央都市へ受験をしに向かったのでしょう。ダンジョン科を受けると言っていましたよ。あの子なら間違いなく受かるでしょう」



 男達は意味が分からない。夏休みに入ってから普通の長距離バスさえまだ出ていないはずだからだ。

 つまり例の幼馴染の部屋に一緒に居るのではないか?

 1人が思い付きを口にすると、確かめてみようという事になった。





「並野君もとっくに出発したんですか?」


「夏休みの初日に出発しましたよ」


「そうですか、ありがとうございました」



 二人そろってどこかへ消えている。ギルドに確認しても、既にタマキは夏休み初日に出発の挨拶に来たという同じ結果を確認できただけだった。


 町中に二人でいる可能性を考え、様々なところを確認していく。そして門番に話を聞いたところで、この調査は終了となった。



「ああ、坊主と嬢ちゃんなら何日か前に出て行ったぞ」



 門番の兵士は二人の事を知っていた。

 そして二人が歩いて外に出た事も見ていた。

 車での移動が主流とは言え、歩いて移動する者達もいる。必要な時だけ収納から車を出し、普段は魔物を倒しながら進む者達もいる。

 門番からしたら、歩いて町を出て隣町まで移動する程度の事は大したことではない。特に危険な区域にさえ近づかなければ、戦える者達にとってはそこまで難しい話ではない。

 勿論中には移動してきた魔物によって命を失うこともあるのだが。



 しかしお金持ちグループは安全を金で買うタイプだ。むしろダンジョンシーカーには向いていないタイプだ。護衛する方ではなく護衛される方。護衛付きの自家用車か転移便。さらには自前の飛行船などを使用するのが当たり前だった。

 学校の実習で外に出るときも、当然学校の車で現地までの移動だ。歩いて外に旅に出る等という事は想像すらしていなかった。


 無論タマキ達も見えない位置まで進んだらスキルで転移してしまったのだが、そのことはここに居る誰もが知らない事だ。



「結局奴と一緒に行ったと言う訳か。奴は奨学金を適用されないと学費や生活費が厳しいのではなかったのか?」



 むしろその事でタマキと一緒にバスの旅ができなくなってしまったのだが、彼らはその事を知らない。



「さて、な。まぁそもそも奴が合格するかもわからんのだ。次の勝負は高校に入ってからになったという事だな」



 バスで旅立った男が言っていた内容と同じであるが、既にそんなことを言われたことはすっかり忘れている男達だった。





「はぁはぁはぁ、お前達はここに居たか」



 タマキの行方を調べ終わった男達の元に、北中学校の先生が走ってきた。



「お前ら一度学校に集合だ」



 とはいえ既に北中学校を卒業した身であり、今は夏休み中だ。学校に来いと言われて面白いわけがない。



「先生、俺らもう卒業してますし、今は夏休みですよ」


「ああ、それは知っている。緊急事態だ。バスもすぐに追いかけさせて戻ってこさせる」



 これには男達も真顔になった。

 ただ事ではない。何が起こったかは分からないが、何か起こった。

 先生が慌てるだけの理由が。



「先生、何が起きたんですか?」


「お前達の家なら既に情報が入っているかもしれんが、発表まではまだいうな。詳しいことは皆がそろってから話すが……中央都市での受験は、中止だ」


「「「「「え?」」」」」



 男達は先生が言っている事の意味を理解することができなかった。

今回の話はユウキとタマキがイチゴの町を出発して7日後の話です。

これにて第1章:アレンジスキルの獲得とイチゴの町編完結となります。

次話から第2章です。

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