第13話 新発見ゲート1
前回のあらすじ:ゲート都市カドマツへと転移し、新発見ゲートの中の探索を開始した。
早めのに昼食をとり、食後休憩の会話中。
中央都市にはタマキの転移の目印がなく、転移で行くことができないとユウキは知った。
「受験の時ってやっぱりバスで中央都市まで行くの?」
「そうね。バスでの行動はPT単位で生活するから、ユウキと二人でPTを組んで行こうと思ってるけど、なんで?」
「実はね、分かるような分からないような変な通達があって。北中以外から中央都市の上級学校ダンジョン科を受験するのであれば、その者には奨学金は適用しないっていう話が学校に来たんだって。北中に入学できなかった時点で既に素質判定は済んでいるのだから、余計な出費を避けるために記念受験を止めるのが目的という事らしい」
「ふーん、でもユウキは記念受験じゃないから問題ないでしょ。そもそも既に奨学金なんていらないじゃない」
「うん、受験費用や入学金。学費や生活費自体は大丈夫だと思う。元々イチゴの稼ぎもあるし、向こうでだって何か稼げる魔物はいるでしょ。問題は向こうに行く手段で、専用直通長距離バスは受験生向けの奨学金が使用されているらしくて、ダンジョン科の受験に間に合う方には俺が乗れなくなっちゃったんだよね。奨学金使用分も必要なお金を用意すれば乗れるのかも先生に確認してもらったんだけど、何故かダメだって。自分で車も護衛も用意するように返答があったと言ってて訳が分からないらしいんだ」
「ああ、だから転移で行けないかっていう話なのね。そうね、ユウキが乗らないならバスはやめようかしら。本当はバスで移動中にダンジョン学や魔法学を教えて、バスが止まっている間に修行をつける予定だったんだけど」
「聞いてない予定がめちゃめちゃハードだったんだけど」
「大丈夫大丈夫。根性よ」
「まぁ、習っていない範囲は勉強しないとまずいんだけどね。でもバスをやめてどうするの? 転移では行けないんだよね?」
「そうね。でもそういう事なら正確には、まだ、行けないだけよ」
「まだ行けないだけ?」
「そう。だって確実に中央都市に行く人達がいるじゃない。しかも間に合うタイミングで」
「ああ。北中のクラスメイト達?」
「そうそう。何人かのクラスメイトに目印をつけておけば勝手に目的地に行ってくれるんだから。それから転移で飛べばいいのよ」
「勝手に目印の運び屋にされてしまうクラスメイト達」
「手の内は隠しておきたいのよ。転移できることなんて教えてないから。それにいまさら何を言ってるのよ。ここに来た目印だって、勝手に転移魔法を使える人達を目印の運び屋にした事による結果よ」
「そうだったんだ」
「まぁ、バスでの移動は周りが面倒だったからちょうど良いかもしれないわね。私だけバスで中央都市に行ってからユウキを迎えに来る手もあるけど、それだと勉強を教えられないし。私達はその間は適当に転移で移動しつつ観光と修行と勉強をしましょ。もしかしたら普通にたどり着けるかもしれないし」
イチゴの町は辺境の田舎町なので、中央都市はとても遠い位置にある。しかし近くに行けば、転移便で中央都市に行く人がいるかもしれない。
タマキはそういう人を見つけたら目印をつけておけばいいと考えている。
どうせダメでもクラスメイトの所へと転移すればいいのだから。
「それに今回のゲートでも課題は出来ちゃったんだし」
「課題?」
「そう、ユウキのアレンジスキルは公開したくないけど、それだと確かにユウキは何もしていないように見えるのよね。合同PTみたいにいくつかのPTで一緒に行動する可能性もあるから、その辺の事も考えないといけないわね」
ユウキの攻撃は見えない。正確にはユウキは攻撃しているのではなく、遠距離から魔石を回収しているだけだからだ。
見えるわけがない。
「タマキと二人だけなら気にしなくても、他に人が居たらまずいのか」
「そう。魔物討伐試験で二人だけならいいんだけど、合同となるとユウキは何もしていなかったと言われてしまうかもしれないわ。どういう人と組むことになるかも分からないし。私がユウキとPTを組むというだけで、私と組みたいクラスメイト達が言いがかりをつけてくる可能性もあるし。そういう人たちと合同PTになったらまず足を引っ張ってくると思うわ」
何とかしないといけない事態だった。
「では、下に降りるわよ」
新発見ゲートの中に戻ったタマキはそう言いうと、ユウキを連れて穴の中へと短距離転移を繰り返す。
「ここまで連続転移できるんだ」
「ふふふ、実は足場が無くても移動できるのよね」
「途中で上下がひっくり返らなかった?」
「重力で少しずつ足の方向に加速してしまうから、逆さに転移して逆加速をかけるのよ。そうすると重力同士で中和して連続転移での移動に都合がいいの」
「色々出来るんだね」
「スキルは使い方次第だと思うわよ。アレンジスキルをただ使うだけではなく色々試して使い方を考える。ユウキのだってそうじゃない。迷宮の中を把握するなんて本来の使い方じゃないでしょ」
そう言われて見ればそうだな、とユウキは思ったのだった。
「止まって、少し先に落とし穴っぽい」
縦穴を降りた二人はさらに下の階層へと進み続けた。
「やっぱりユウキの方が便利じゃない」
ユウキは出納領域内の物は把握できるため、通路ではなく床の下が空洞になっていてもわかる。スイッチ的な機械もわかるし、罠そのものが分かってしまう。前のゲートでは罠のことを言われたので、色々警戒していたのだ。そして酷いことに、飛び出してくる罠等は所有者が居ないので収納できてしまう。
ユウキにとっては置いてあるだけなのだから。
「どうする?ここ落ちて下の階に行った方が次の階層へ行くのが楽だけど」
「ならそうしましょ」
そしてユウキが落とし穴を普通に作動させ、タマキがユウキを連れて落とし穴から見える下の階へ転移した。
「タマキのそれだって十分便利じゃない? さっきなんて空中連続転移でほぼ飛んでたし」
そう、今は1階層分下に降りただけだが、さっきは10階層分降りた。普通だったら死んでいる高さだ。ちなみに逆も出来るわよ、とタマキはどや顔で言っていた。
「普通は厳しいわよ、下が分からないし、魔物だっているかもしれないんだから。ユウキが確認と倒してくれているからできる芸当ね」
「俺は一人だと行けないし、タマキとセットだと活きる感じかな」
「私だってそうよ。二人そろうとちょうどいいわね」
「そうだね。その扉の先、魔物が居るけどどうする?」
「どんなの?」
「こんなの」
既にユウキは中の1体を倒して収納していた。中にはまだ3体いるので問題ないと考えた結果だった。既に何度も行っているやり取りで、お互いに慣れてきていた。
「だいぶ大きくなってきたわね。ちょっと頭斬ってみるわね」
タマキはそういうと、魔物の死体の頭に向かって刀を振り下ろした。
「もう1発では無理ね。無理してもしょうがないし、ここからは全部倒しちゃって」
「了解。この部屋のさらに先にボス部屋。その奥が宝箱がある部屋。そこまで行ったら一度戻る? だいぶ収納がいっぱい」
「そうね、というか一度戻ったら今日はここまでにしましょ。ボス奥の宝箱部屋は魔物が出ないから、明日また来るときに安全なの」
「もうだいぶ遅い時間?」
「そうでもない。けどユウキ、夕食は施設で食べるでしょ」
中の魔物とボスの魔石を回収し、ユウキとタマキは奥の宝箱部屋へと入る。
今の所宝箱の中身はまだ放置している。ユウキの知覚では下の階層はまだまだあり、現時点で宝箱が途中で空いていて不審に思われて先を急がれるのは得策ではないと判断したためだ。
魔物は3時間で復活するから大丈夫にしても、宝箱は月曜の9時まで復活しないから不審がられてしまう。
「タマキのスキルってこの部屋にいつでも転移できるなら、月曜日のリセット終わった後に転移すれば宝箱簡単に取れるんじゃない?」
ユウキはなんとなく思ったことをタマキに聞いてみる。今回は新発見のゲートで自分たち以外の戦闘にばれないようにまだ宝箱は開けていない。
しかし適当に時間が経てば宝箱だけ回収に来ることはできるのではないか。
ユウキはそう考えたのだ。
「残念ながら、リセットで目印が消えてしまうみたいなのよね。だからゲートコアの部屋に簡単に行くこともできないのよ。でも宝箱の中身だけというなら、ユウキなら入り口から取れたりするんじゃない?」
タマキの転移は移動スキルのアレンジ。
移動場所にスキル的に目印を着けることによって、その場所に再び行くことができるというもの。その目印がリセットにより無くなってしまうという事だった。
「領域をうまく動かせば、同じ階でなくてもある程度の距離はいけるかな」
ユウキは領域の方向性の付け方にだいぶ慣れてきた。
以前は上下を減らして水平方向を増やすような程度であったが、今は他の方向を減らしてこっちの方だけ、とかもできるようになった。
ユウキの感覚では、領域の体積は変わらずに、どう展開させるかを制御できるようになってきている感覚だ。
そして領域の大きさ自体も元より大きくなっている。最初は何も制御していない球体の状態で半径100m程度であったが、今はその状態で半径200m程度まで大きくなっている。
「やっぱり便利よね」
「魔物や魔石、物の回収に関してはそう思う。でもコアの方はたどり着けないよ。既にこうやって歩いて移動しているだけなのに体力的にきついし」
「そこは修行ね。リセット後スタートなら一週間かけて攻略すればいいんだし。逆に進めなくなってもリセットになればゲート外に放り出されるから、そこまで耐えればいいだけでもあるわ」
「そうなんだ」
「うん。さて、目印もつけたし帰りましょうか」
こうしてタマキとユウキはカドマツへと帰還した。




