第12話 ゲート都市カドマツ
前回のあらすじ:タマキは学校でモテモテでした。
その分嫉妬もされていました。
当然のごとくとばっちりはユウキに向かいました。
「今週はカドマツへ行くわよ」
週末になり、ユウキの部屋を訪れたタマキは早速そう宣言した。
毎回ギルドの個室を1日借りるには費用が掛かる。タマキ1人での転移であれば自分の部屋でいいのだが、ユウキも一緒なのでユウキの部屋へと転移してきたのだ。
そのため施設の人はタマキが来ていることを知らない。そしてもし部屋に誰かが呼びに来たのであれば、いつの間にかユウキもいなくなっているという事になる。
「カドマツ?」
ユウキはイチゴの町以外には中央都市位しか名前を知らない。一番近い都市ですら、隣の町としか言っていなかったためそちらも名前を憶えていなかった。基本的に町の中で生活が完結しており、ダンジョンイチゴを狩りに町の外に出たのすら久々だったのだから。
だからその単語が都市の名前を指すという事すら分からなかった。
「ゲート都市カドマツ。ゲートがなぜか周辺に良く見つかる場所で、光っていない不思議なゲートもある場所よ。まだクリアされたことが無いらしいから、ほんとにゲートなのか不思議に思われているみたいだけど」
「そんな都市もあるんだね」
もちろんユウキに断る理由はない。そもそもがユウキは他の選択肢を知らないのだから。前回行ったゲートに再び行っても得るものが少ないことは分かっている。
カドマツの転移陣に転移した二人は、ギルドの出入り口へと向かった。その都市の転移陣は、基本的にギルドの中の広間に設置されている。
そして転移魔法の値段が高く持っている人が少ないとはいえ、都市単位で言えばそれなりに居る。そのため転移広間にはそこそこ転移してくる人の流れがあるのだ。
二人がどこからか紛れ込んだとしても不思議に思う者は居ない。
どこかの転移と一緒に来たと思われるだけであった。
「新発見のゲート行きのバス、もうすぐ出発です。片道2時間程、帰りは自力でお願いします。チケットはお一人様5万Pとなります」
そんな二人の耳に、興味深い声が聞こえた。
タマキは元々、光らない誰もクリアした事が無いゲートとやらをユウキと見に行ってみようと思っていたのだ。だが、新発見と聞いて心が揺さぶられた。
「ユウキ、予定外だけどあっちでもいい?」
「うん、でも俺たいした準備してないけど、良いのかな?」
「行って何か必要なら戻って再度行けばいいじゃない。その時は私が行けるようにしておくから」
先週の事を思い出したユウキは、それもそうかと納得した。
タマキが居れば移動の事は気にしないでいい。必要な時に必要な物を用意しに戻り、また続きから始めれば良いのだから。
やっぱりタマキのアレンジスキルは汎用性のある便利なスキルだな、とユウキは思った。
「ねぇねぇ彼女達。俺達と一緒に潜らない?」
約2時間のバスの旅の後、現地についた二人はいくつものPTから声をかけられた。
どう見ても美少女のタマキはまだ分かる。だがユウキは自分もナンパされている対象のように思えていた。俺は男なんだけど、ユウキはそう思ったが対応は全てタマキに任せた。
タマキにとってはよく有る事らしかったからだ。
「すいません、二人での修業中でして。お誘いは有りがたいのですが申し訳ございません」
修行優先だから助けは要らない。半分本音で半分あしらい。
タマキはユウキの修行が必要だと思っているのは確かだが、他の男とPTを組むつもりはさらさらなかった。PTを組んだだけで、好きにして良いという許可を出したと思われる可能性があるからだ。
新発見されたゲートは普通に光っているタイプだった。光らないゲートというのはやはり珍しいのかな、とユウキは少し思ったがタマキが珍しいと言っていたからにはそうだろうと考えた。
「ここは迷宮タイプね」
「洞窟とは違うんだ」
「舗装されているから通路が歩きやすいでしょ。壁も天井も人工的だし。ちなみにこの照明は外すと消えてしまうから自分達で持ち歩くことはできないわよ。洞窟のも同じだけど」
「そうなんだ。持って行ければ便利なのにね」
「ゲート内のその位置にあって初めて光るみたいなの。壊しても月曜日の朝9時に復活するわよ」
タマキは初めての迷宮であるユウキに色々説明しながら進んでいく。中に入る順番はチケットを買った順番だったらしく、最後の方だったので既に魔物がほとんどいないのだ。
たまにどこからかやってくる魔物でもほんの数体。しかも入ったばかりの階層だからなのか大して強くない。
そしてそのまま3階層ほど進んだ時に、その男達は声をかけてきた。
「そこの彼女、そんな戦えない男なんか放っておいて俺達と一緒にコアを目指さない?」
二人とも後ろからついてきている男たちの事は気づいていた。
元々後ろから此方を伺っていたのだ。タマキは普通に気が付き、ユウキは収納の知覚で気が付いていた。
「ごめんなさいね。私達は二人で進みたいの」
「先に行ってもらうのはどうかな?俺達が遅くて追いついてしまったのかもしれないし」
「そうね、私達は少し休憩するので先にどうぞ」
タマキはユウキの言葉の真意は分からなかったが、とっさに内容を合わせた。
確かに後ろからずっと見られていてはやりにくいと思ったからだ。今もユウキは実は戦っていたのだが、手の内を見せないために魔石を回収するだけで魔物を回収してはいなかった。そしてタマキは目にもとまらぬ速さで敵を倒し、そしてユウキが倒した魔物も収納していった。傍から見れば、タマキが一人で全部倒しているように見えていたのだ。
「そうかい? 悪いね」
男達は途中の魔物をすべて頂き、泣きついてくるのを待とうと考えた。せっかく金を払ってゲートまで来たのに、ただでさえ少ない魔物が根こそぎいなくなれば自分達を頼るだろうと単純に考えたのだった。
「ユウキ、何か意味があったの?」
男達が十分に離れたところでタマキがユウキに小声で声をかけた。
「うん。まぁやりにくいのもあったんだけど、あそこ見える?」
ユウキは今いる広場の天井近くの隅を指差す。
「穴?」
「そう、あそこから通路が続いているんだよね。タマキならあそこまで俺と一緒に行けないかな? 既に先の魔物は倒してあるから」
「行けるわよ、隠し通路なの?」
「本来は通路と呼べないけど、俺たち二人にとっては通路かな」
タマキはユウキを連れて短距離転移を発動させ、広場の天井近くの穴へとたどり着いた。
「この奥からずっと下の階まで落ちる縦穴が開いていてね。この間天井と床を連続転移してたけど、連続転移で下に行けないかな?
ダメなら何か道具を用意しないといけないかもしれないけど」
「この縦穴、どこまで続いているの?」
タマキはたどり着いた縦穴をのぞき込みながらユウキに聞いた。
落ちても転移でなんとでもなるタマキにとっては、深い穴をのぞきこむ事に恐怖心はない。
「10階層ほどショートカットできるよ。まだその階層には先頭PTもたどり着いていないみたいだから、一気に追い抜けるかなと」
「穴の下の魔物は倒せる?」
「既に周囲のは倒してある」
「なら余裕よ。でもここは人が来なくて丁度いいから一度戻ってお昼にしましょ。3時間以内に戻ってくれば魔物もわかないだろうし、変な位置で転移して戻ってきたときに他のPTと鉢合わせは避けたいわ。魔物ならわいてもまだ弱い所だしね」
二人は一度カドマツへと戻り、昼食をとることにした。
「この都市の魚っておいしいね」
「そうね。おそらく海エリアが近くにあるんだと思うわ」
「海エリア?」
「ええ、ダンジョンにあるのかゲートの中かは分からないけど。魚の魔物が近くで獲れるなら新鮮でしょ。イチゴの町で食べるイチゴが新鮮なのと同じよ」
「なるほどね。イチゴの町では魚は輸入しているってことかな?」
「多分そうだと思うわよ。私も知らないゲートとか何かで海が近くにあるかもしれないけどね」
二人はそんな雑談をしながら美味しい昼食を満喫した。
「そういえばタマキって中央都市まで転移できたりしない?」
昼食を食べ終え、食休み休憩のタイミングでユウキは中央都市への行き方について考えていた。タマキの転移で行けるのであれば、何も悩む必要はないからだ。
「中央都市へは転移できないわ。目印がないのよ。流石に遠いからね」
ユウキは期待していた第一候補がつぶれたことを悟った。