第11話 平日のタマキ
前回のあらすじ:学校でのユウキの評価はかわいい。
ユウキが中央都市へと向かうことが困難になった。
一方、平日のタマキは見かけは普段と同じ生活を過ごしていた。
そもそも北中はダンジョンシーカーを目指す者が多い。体格に恵まれていたり、魔法力に恵まれていたり。魔物を倒すことにより強化された能力は、ダンジョンシーカー以外にも様々な分野で活躍できたがやはりダンジョンシーカーは憧れの一つなのだ。
もちろんそこまで素質に恵まれていなくても目指す者もいる。国家ライセンスまでは届かなくても、ダンジョン科に行くことを目的とした者達だ。自分がそこまで強くなくても、強い男を支えることはできる。
そう考える女の子たちだ。
トップグループなどを目指す必要はない。上級高校のダンジョン科に、そしてあわよくば大学のダンジョン部に。その間にPTを組んで相手を見つける。
クエストは国家ライセンスを取得した人が受ければいい。仲間は気心の知れたメンバーで活動するというPTも多いのだった。戦闘についていくことだけがPT活動ではないからだ。
「小野寺さん、僕達と一緒にPTを組んで中央都市に向かわない? 今週末にでもその予行練習とかどうかな?」
タマキはアレンジスキルをクラスメイト達に見せていない。
正確には、すべてを見せているわけではない。
タマキのアレンジスキルの転移は、移動術をアレンジした結果だ。移動術とは移動速度を上げる術。通常の移動速度が速いのも、戦闘時に回避する速度が速いのもこの移動術の影響だ。
ユウキは移動術を持っていないため、簡単に避けたタマキを真似して避けようとしても避けられなかったのはその結果だった。
勿論戦闘経験の差が大きいのも確かだけれど。
タマキは移動術に移動場所のアレンジを行った。速く動くだけではなく、目的の場所へ動くために。高速で移動する先を指定するつもりで行ったアレンジだったが、自分が目印を付けた場所の半径10m以内の好きな場所に移動できた。これが結果的に転移となった。短距離転移は、自分自身に目印を付けた応用である。
そして目印の数は、訓練していたら増やせるようになっていた。
そしてもう一つのアレンジが移動人数。本来自分にしか影響のない移動術を他人にもかける。元々はいつかユウキと一緒に旅をする時、自分だけが速く移動しても意味がないという思い付きだった。
これにより、自分だけでなく他の人も一緒に転移できた。
実はゲートに行った時もユウキの移動速度を上げることはできたのだが、タマキはユウキに修行をつけるためにあえてユウキの移動速度は上げていなかった。
クラスメイトには高速移動で刀を振るう回避型の前衛と認識されている。それもまるで消えたように見えるように速い移動速度での。
ごまかしてはいるが短距離転移を併用しているので、実際に消えていることもあるのだが。
「小野寺さん、どうせなら俺達と転移で行かない? こっちは転移便を予約済みだから夏休みいっぱい練習してから行けるし、枠は空けてある。今週末からでもどうかな?」
タマキは学校一の圧倒的な美少女だ。
施設利用者でお金が無い事を知っているため、自分達で転移魔法での移動代金を負担するから一緒にどうだというお金持ちグループだった。
強い上に美少女。おまけに成績も良い。上級高校のダンジョン科に合格は当たり前。
高校に入る前にいち早く唾をつけておきたい男達が常に寄ってくるのだった。
「ごめんなさい、既に今週末も予定が入っているの」
タマキ自身は転移魔法を覚えていないので、他の都市の転移魔法陣へ転移魔法で移動することはできない。しかしタマキはこのアレンジスキルを身に着け、目印をある程度増やせた時に閃いた。転移魔法を使える人達に目印をつければいい、と。
そしてタマキはたまにその人達の近くに転移した。とはいっても10mも離れていれば気が付かれないし、すぐさま短距離転移で物陰に離脱すれば他の人に気が付かれるようなこともない。
そうやっていろいろな都市への目印を増やしていったのだった。今週末はユウキとあそこに行こう。そんな計画を立てながら、タマキの平日の時間は過ぎていった。
しかしタマキばかりが声をかけられる状況を面白くないと思う者達が居た。
そう、北中の女の子達だ。確かにタマキは女の子から見ても実感する圧倒的な美少女だ。だが、それでも男の子がみんなタマキばかりを気にするという状況は気に食わない。
自分達だってそれなりに自信がある。それなのに全く相手にされないというのはプライドが許さなかった。
そこで普段のタマキの行動を自然と確認する者達が居た。しかもかなりの数の女の子たちのグループが。
タマキの平日は、施設から学校へ登校し、学校が終わったらギルドで手伝いという名の奉仕活動をする。これは施設利用者が北中へ進学する際の条件で、何かしらの奉仕活動が義務付けられていた。ギルドの手伝いはその奉仕活動で選べる内容の一つだった。
そしてギルドの手伝いが終わると施設へと帰る。
休日も施設で過ごすか、ギルドを手伝うか。休日はギルドを手伝うと給料が発生し、アルバイト代を手に入れることができる。しかしそれを手にして個人的な買い物をしている様子はない。ダンジョンシーカーを目指す者が買うような装備品を見て回るくらいだった。
タマキは特に何の面白みもない、優等生に見えた。
実はギルドの部屋や施設からゲートなどに転移して修行をしていたのだが、誰もそんな事には気が付くはずが無かった。
しかし先々週の土曜日、とうとうスキャンダルが発生した。タマキがギルドで男の子を個室に連れ込んだという。それも名前を呼んで手を引き連れていったと。
もちろんユウキの事だ。
その時はどうやら装備のパンフレットを使ったという。そしてその翌日も二人は個室に入り、長時間出てこなかった。さらに出てきた時には男の子の服がボロボロで、町の中に一緒に歩いていった。
部屋の中で激しく何をやっていたのか、想像だけで話が進む。
その後もまた個室に二人でこもり、出てきた時にはお互い別の施設に帰って行った。
もちろんこの時点でユウキの事は調べられた。
タマキの幼馴染で、今の施設の前は一緒の施設に居た事。今は南中に居る事。
女の子達にはそれだけで十分だった。
「なので小野寺さんには既に心に決めた男の子がいるようですよ。今週末もきっとその男の子と予定が入っているのでしょう」
タマキにちょっかいをかけている男達に話を盛って聞かせた。少しは自分達を見てくれるかと思って。代わりに自分達を誘ってくれるかと思って。
しかしその男達の一部である金持ちグループが違う方向へと動いた。
タマキが装備を選んでまで稽古をつけている。これはタマキがユウキと上級高校ダンジョン科で再び一緒になる目的なのではないかと。
偶然引いた正解なのだが、それを認めるわけにはいかない。
タマキは自分達が手に入れる予定なのだから。
そしてその中には、奨学金制度を管理している財団の幹部の息子が含まれていた。
息子は父に、噂で聞いた話だとして告げた。
北中以外の中学校からダンジョン科への記念受験は目に余るものがあるという話を。イチゴの町の評判を落とすだけであり、そんな者に大切なお金を奨学金として貸し出すのはどうなのか。
既に脱落した身でありながら本気で受験するつもりであれば、それだけの力を自分で示すべきだろう。北中に進学した施設出身者は奉仕活動を義務付けられているが、他の中学校では義務付けられていないのだから。
その分力があるなら自分で稼げるだろう、と。
記念受験の話自体は前から幹部会でも話題に出ていた話だった。
しかし直接受験を辞めさせるという方法はとれなかった。そのため間接的に、北中以外から中央都市の上級学校ダンジョン科を受験するのであれば、その者には奨学金は適用しないという措置となった。
普通科を受けるのであれば、移動用の専用長距離バスは夏休みが終わった後の出発となり、そしてそのバスではダンジョン科の受験には間に合わないからだ。




