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第1話 アレンジスキル獲得

「残念だよ、並野君」



 男が少年に告げた。



「今の君の成績は素晴らしい。学業は元より体の動きもいい」



 男は中学入試の試験官である。



「身体が小さいのはまだ対処のしようはある」



 そして少年の名前は並野勇気、エリート中学校である北中学校への受験生だ。



「だが非常に残念なことに、君には素質がない」



 試験官もユウキも表示されているパネルを見ている。

 そこにはこう書いてあった。



 ・素質基本3種判定

  物理攻撃力:極小

  魔法攻撃力:極小

  魔法回復力:極小


  総合判定:戦闘力皆無



「魔物を倒しても強くなることができない君には、未来がない」



 素質とは、魔物を倒し続けた時に上昇する身体強化の基本だ。



「魔物を倒して強くなることを目指す我が校のリソースを君に割く事はできない。非常に残念だが、不合格だ」



 こうしてユウキの中学受験は失敗した。




 *****




「はぁ、高校入試か。どうするかな」



 1人の少年がため息をつきながら独り言をつぶやいた。

 下校時刻を告げるチャイムが鳴っており、既に教室には彼一人しかいない。



 少年の名前は並野勇気。現在南中学校に通っている15歳の中学3年生だ。

 北中学校の入学に失敗してから2年半、ユウキは戦いとは無縁な普通の少年として暮らしている。


 中学3年生の夏休み前と言えば、高校入試に関わる大切な時期だ。

 そしてユウキは一人、自習をしながら、その進学方面に悩んでいる最中だった。



 一番の問題はお金だった。ユウキの両親は既に他界しているため、学費は自分で用意する必要がある。今は育児施設で生活をしているが、それはあくまで中学校までのシステム。進学するにしても働くにしても施設を出なければならない。


 とは言え幸いにも、高校の学費や生活費も何もかもを奨学金として借りる事が出来る制度がある。もちろんその先の大学の学費や生活費も奨学金として借りることができる。返す必要はあるが、利子は不要だった。



「高専卒で働くよりかは大卒で働いて返した方が稼げるんだろうなぁ」



 頭の中を整理するかのように、再度独り言をつぶやいた。



「やっぱりダンジョンシーカーは、もう無理だよな」



 ダンジョンシーカー。

 それは都市の外、そしてダンジョンの外を移動して各地のダンジョンを探索する者。

 その中でも特に国家認定された者達。

 ダンジョンシーカーの国家ライセンスを取得するということは、人々の一つの憧れだった。


 ユウキは以前はダンジョンシーカーを目指していた。

 しかし体格に恵まれず、素質がないということでダンジョンシーカーへの道となるエリート中学校への入学は叶わなかった。




 ユウキは、やはり高専へ進学して就職を目指すよりも大学進学を目指して高校受験をするべきか、と悩みつつ参考書だらけの机の上を片付け自分のロッカーへと向かった。




<アレンジスキル:収納を獲得しました>



 ユウキの視界に突然メッセージが表示された。



(あー、収納がきたか。でも、今ならありと言えばありかな。1人で戦いに行くのは面倒だったし)



 ユウキはそんなことを思うと、既に忘れていたアレンジスキルについて考え始めた。




 *****


 1999年、地球に恐怖の大魔王はやってこなかったが地球は魔力領域に突入した。

 この事は数少ない隠れた魔法使い達のみが気付いていたが、彼らの発言を信じた者はほとんどいなかった。

 2000年、突然地球の各地でダンジョンが確認されるようになった。

 ダンジョンには魔物が存在し、魔物をある程度討伐するとスキルを取得できる。時はインターネットの拡張期、あっという間に情報は広がった。

 2001年、中東におけるテロリストの活性化に伴い戦争時代に突入した。

 これにスキル所持者が出そろう前に主導権を握りたい各国の思惑が絡みあい、第三次世界大戦と呼ばれるほど世界中に一気に拡大した。


 しかし2002年、ダンジョン出現から2年が経過したある日、事態が一変した。

 魔物のスタンピード。

 世界中にあるダンジョンの中で、放置されていたダンジョンから一斉に魔物があふれだした。


 大量の魔物に業を煮やした北アジアでは、ダンジョンに向けて核ミサイルが使用された。付近の魔物を一掃し、一見モンスターを無力化することに成功したように見えた。


 しかしその2年後、北アジアではそれに抗うように激しさを増したスタンピードが発生した。北アジア地域から発生し続ける魔物により、人類は地球上から撤退しダンジョン内での生活を開始した。

 一度外に出た魔物はダンジョン内には入ってこない。

 よって中の魔物だけを相手にする方が危険が少ないと判断された結果だった。



 そして時は流れ今は西暦2220年。

 未だ世界中の魔物の脅威は衰えることを知らなかった。




 *****




 アレンジスキルとは、通常のスキルとは違い2種類のアレンジを施すことができるスキル。1人1つしか取得できない。取り直すこともできない。アレンジし直すこともできない。

 そして取得までに基本スキルを得てから5年程度は最低でも必要というのが現在の研究者の結論だった。


 基本スキルというのは魔物を倒していると最初に必ず覚えるスキルである〈ステータス〉と〈身体強化〉のこと。


 ステータスはその名の通り自分のステータスを見ることができる。

 しかしHPやMPがあるわけではない。

 力なども表示されていない。


 表示されているのはスキル、所持品、装備のみ。しかしこの装備というのが重要だった。

 特別なアイテムは持っているだけではその力を発揮しない。ステータス画面で所持品から装備をして初めて有効になる。


 特別なアイテムとは、魔物からのドロップアイテムや宝箱からの入手アイテム。魔物素材を利用した装備や魔道具等々、概ねダンジョンが関係するものだ。

 地上の資源だけで作ったものは装備という概念が無い。


 身体強化は魔物と戦うと体の潜在能力が強化される。体が強くなったのかスキルによって強くなったのかの判断はつかないが、強化されているのは確かだった。



 基本スキルは小学校の課外授業で取得する。

 これは国の方針で、子供の頃からダンジョンでの戦いを理解するためにスキルを取得する事になっている。

 クラスごとに町の防壁から外に出て、1日もかからずに終わる程度の内容だ。基本スキルとはそれくらい簡単に取得できる。

 本来は中学1年生で〈収納〉スキル取得迄行う課外授業があったのだが、ユウキはその日、風邪で欠席していた。そして面倒だからとなんだかんだ言って先延ばししていた。

 ユウキはやっぱり取っておいた方がいいかもしれないとは思っていたが、下の学年と一緒に行くのが恥ずかしかくて未取得だったのだ。むろん一人で行くという事もしなかった。



 この収納スキルの後は人によって覚えるスキルは違う。

 そのため〈ステータス〉〈身体強化〉〈収納〉を標準スキルという風に呼ぶこともあった。




(どうせなら魔道具作成術が欲しかったんだけどなぁ)



 ダンジョンシーカーに人気なアレンジスキルは武器系の術だと噂されている。

 詳しくないのは、どうやらアレンジスキルというのは具体的にアレンジ内容を考えているスキルは取得できないのではないか、という研究者がいるためだ。

 あくまでデータ上ではということだが、実際に誰も事前に考えていたスキルは習得できていない。


 そしてユウキもその研究者が言っているのと同じように、魔道具作成術は手に入らなかった。



(今はダンジョンシーカーは無理そうだし、収納はちょうどよかったかもしれないな。今の生活なら、離れたカバンを取ったり出したりするのが便利か?)



 収納スキルは通常、触れた状態でしか出し入れできない。



<アレンジ内容1:出納領域を追加しました>



 ユウキの視界に一つ目のアレンジ内容が決定したメッセージが表示された。



(後は、中の資料だけを取り出したり出来ればさらに便利か?)



<アレンジ内容2:部分出納を追加しました>



 そして続けて二つ目のアレンジ内容もユウキの視界に表示された。



(そうなったか)



 ユウキはステータスを表示し、アレンジスキルを確認した。




 ステータスのスキル欄に、アレンジスキルの項目が表示されていた。


 ・収納

  収納空間に物を収納する事が出来る。出し入れ自由。


 ・出納領域

  収納空間への収納及び収納空間からの取出し領域が大きくなる。


 ・部分出納

  収納空間へ出し入れする物を切り取る攻撃力が上がる。



 表示を確認したユウキは、実際にアレンジスキルの効果を試してみる。

 離れた位置にあるカバンの中から目的の資料だけを収納し、そして手元に取り出すことに成功した。

 それはバインダーにまとまっていたルーズリーフの1枚。目的の1枚だけが手元に現れた。ルーズリーフの穴部分は当然空いているが、穴はどこも切れていない。



(切り取る攻撃力って何?切れてないよ)



 とユウキは頭の中で突っ込んだ。



(まぁ切れない方がいいんだけど。これ、慣れてもっと領域が大きくなれば、部屋に置いてあるものでも学校から出し入れできるかもしれないし、忘れ物を気にしなくてよくなるな)



 スキルは使い続けると効果が上がると言われている。

 アレンジスキルは特に上がりやすいと認識されていた。


 そんな事よりも、可能性があるものを最初から収納にしまって置くだけで十分だ、という事にユウキが気が付いたのは、学校を出た後だった。

皆様よろしくお願いします。


誤字脱字等がありましたらよろしければ報告お願いします。

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