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家なき子は家が欲しい


「つまり冒険者ではない、と……」


「うん、倒れないでね」


 通された町長さんの家で、私の説明を聞いた娘さん――ソフィアさんが愕然とした様子で震えていました。

 心臓が止まらないようにゆっくり様子を見ながら説明したかいあって、なんとか命は永らえたようです。


「そんな……やっと来てもらえたと思ったのに……。でもすみません、勘違いした私が悪いんです! お騒がせしてしまい申し訳ありません! リヴィ様、お詫びにどうぞお茶を」


「いえいえそんな。うん、いただいてます」


 これお詫びのお茶だったんだ。知らずに飲んでましたよ。

 でもわかってもらえたなら良かったと一安心。

 心底がっかりしたらしく、全く生気のない顔でソフィアさんはあらぬ方向を見つめていますけどね。


 ソフィアさんとその祖父でいらっしゃる町長さんは、二人そろってこれ見よがしに深いため息を漏らします。

 そう来られると、さすがに事情を聞かないわけにはいきませんよね。

 不本意ですが。


「あの、何かあったんですか」


 待ってましたと言わんばかりの勢いで二人が同時に顔を上げました。


「そのお言葉を今か今かと待ってました!」


 言っちゃっいましたよ。


「実はですね――」


 サクッとソフィアさんの話をまとめるとこうです。

 モンスターが出て大変、町困る。でもお金ない、冒険者来ない、町困る。

 大変だとは思いますが、それは農村などでは珍しくないお話でした。


「一応ギルドには依頼は出してるってこと?」


「えぇ。しかし見合う報酬でなければ誰も来てはくれませぬ。そこに颯爽とお出でになられたのが、あなた様ですじゃ」


 祈るように町長さんは私に言います。

 崇められて悪い気はしない私です。


「事情はだいたいわかりました。とはいえ……」


 と言うと二人は一緒に震えだします。

 遺伝みたいですね、このオーバーリアクション。


 さて、どうしたものかと思案します。

 せっかく安住の地を求めてやって来たというのに、町がこれ以上寂れてしまうのは私にとっても困った事態です。

 それにここで役に立っておけば、後々も都合が良くもあるでしょう。

 打算的なのはあまりお行儀がよくないかもしれませんが、私の頭の中で思考がぐーるぐる。

 あ、もちろん人助けをしたいぞっ、ていう気持ちもありますけどね。


「ちなみに、そのモンスターというのは精霊のいたずらと関係が?」


「今の説明だけでわかりますか! さすがは大魔法使い様。あれですな、魔力の流れが歪んでいるのを感じられるとか。実はワシも若い頃に少々魔法をかじったことがありましてな、以前からそうではないかと気配をヒシヒシと感じて――」


「違います」


 町長さんの震えが増しました。


「え、じゃあ何でわかったんですか。リヴィ様」


「だって最初に魔法使いかって確認してたじゃない。つまり求めていたのは冒険者の中でも魔法使い。そしてその上で出されたモンスターの退治依頼。そこから考えると、魔法でなければ対処しにくい相手なんだってわかるもの」


「さすが……特大魔法使いのリヴィ様……っ!!」


 ソフィアさんも震えが増しました。

 二人のバイブレーションで机が揺れ、お茶が大波を起こしています。

 あと特大って何かお得っぽいですね。コスパ良さそう。


「でもそっかあ、精霊のいたずらか。それじゃあなかなか依頼を受けてくれる人がいなくても不思議じゃないかもね」


「はい……その上で報酬も大したものではないですから、仕方ないってことは私たちもわかっているんです。元々不作が続いてて町にお金もなくて、でも代わりにお渡しできるものもなくて……。丘の上の家なんて誰も欲しがらないってわかってはいるんですけど、それ以外もう何もなくて……もう誰も助けてくれる人なんて……ッ」


 ソフィアさんは肩を落として机の上に頭をごつんしました。

 そんな様子を見つつお茶を啜り……私は頭の中で小躍りしていました。


 早々に厄介ごとに巻き込まれたと思いましたが、これはもしかしてついているのでは?

 丘の上の家だなんて、控えめにいっても最高なのでは?


 そういえば丘から町を見下ろした時、丘にぽつんと建った家を見かけた覚えがあります。

 古くはあったけどなかなか大きなお家でした。


 私の頭の中の天秤が、陽気にウイリーします。


 

「ソフィアさん、そんなこと言わないで」


 静かに立ち上がった私は外套をバサリと翻しました。

 老子に教えられたアンティークな魔法使いの慣わしです。


「ここに私が――いるでしょ?」 


 そして私は耳を塞ぎます。わりと順応は早いほうなのです。


「り、リヴィ様……大魔法使い様……っ! うぉぉぉおおじいぃぃぃちゃああああああああああああ――」

「スフィアァァァァァァァ――」


 家が軋むほどの奇声×2は省略。


 二人と家鳴りが落ち着いた頃、私はぱぱっと条件をまとめました。

 念のため確認しましたがやはり目にしたお家が報酬のようで、クールな私も思わずにっこりです。

 それで十分ではありますけど、ついでのお願いを少々。


「あぁ、ギルドへの依頼は取り下げておいて下さいね。私、冒険者登録はしてないので、今回の件は直接私が個人的にお受けするものとなります。冒険者登録してもいいけど、している時間も惜しいし、確かギルドを介すと仲介料を取られたでしょうしね。で、その代わりというわけじゃないんですけど、実は少々お腹が空いてて……」


「その程度のことおまかせください、大魔法使い様。おいソフィア、ロドスのとこで至急弁当を作らせて来い!!」


「わかった! すぐに貰って来るから!!」


 蹴り破るようにドアを開けてソフィアさんがワイルドに走っていき、残った町長さんは呪文みたいな謝辞の言葉を口にしながら私を拝み倒します。

 その中で私は思いました。


 え、今すぐ行くことになってるの……?


 半日歩いて来たのでゆっくり座って食べたかったですが、私は誰に祈ればいいのかしらん。



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