一口ちょうだい
ネタです^_^
「それ、一口ちょうだい」
「は?」
俺とユウは休日のファミレスに来ていた。
休日の昼という事で店内には家族連れが多く、各テーブルから様々な言葉が飛び交っていた。
そんな中聞こえてきたユウからの言葉──『一口ちょうだい』
目の前のユウは俺のミラノ風ドリアを指差していた。
「それ、一口ちょうだい」
ユウはもう一度、その悪魔の台詞を言った。
俺は昔からその言葉が嫌いだった。
小学生の頃の遠足のときに、その言葉を初めて言われた。
そいつは俺の弁当箱の唐揚げを指差していた。
その時の俺は少し臆病な性格だったので『二つあるから、一つなら……』と言って、しぶしぶ唐揚げを渡した。
そのときに感じた嫌な気分は今でも色あせることはなかった。
その日以降、俺はご飯を誰よりも早く食べ終わるように努力した。
一口ちょうだいマンに声を掛けられたらもう詰みなのだ。
そんな事が過去にあって今に至る。
ユウは良いやつだ。
しっかり者だし、何より優しい。
しかし……。
俺はユウの目をじっと見た。
汚れのない、綺麗な黒がそこにはあった。
「な、なんだよ」
「……いや」
俺は心の中で頷き、ミラノ風ドリアをユウに差し出した。
そのとき──
「お待たせ致しました。こちら柔らかチキンのチーズ焼きとライスのセットでございます」
女神が降臨した。
「ありがとうございまーす」
ユウは店員さん、いや店員様に礼を言った。
「ごめん、俺の来たからやっぱいいわ。ありがとう」
「お、おう……」
俺は差し出したミラノ風ドリアを引っ込め、食事を再開する。
ミラノ風ドリアは冷えていて、あまり美味しくなかった。