第四章
よく晴れた日だった。朝から、今までに寝た男三人がなぜ最近会わないのかと抗議をしにここへ訪れていたが全員追い返し、中には入れなかった。ここまでは作戦通りだった。
だが、案の定『災害』は起きた。
部屋中の火災報知機が、赤ん坊のように甲高く鳴りやまない。どうやら、キッチンのコンロが何らかの拍子に故障して炎上し、カーテンに火が燃え移ったらしい。料理なんて当然数年やっていないし、昨日は私しかいなかったはずなのにノートは的確だったわけだ。黒煙が部屋に満ちていく。
このままでは……。外に通じる扉の外に消防士らしき人間が来ているのが分かった。自分でなんとかし、扉の前で帰ってもらうしかない。
私は、消火器を手に一気にキッチンやカーテンへ吹きかけ扉へ走った。警備のためチェーンをかけてたのがあだとなった。そとの消防士がチェーンソーでチェーンを切ろうとしている真っ最中であった。この扉が開いた瞬間、外に飛び出て扉を閉めよう。私は煙を吸い込まないよう小さく深呼吸し、息を整えた。そして──
「消防です!だいじょ──」
「大丈夫です!」
勢いよく飛び出し、突入しようとしていた外の消防士を外に押しやった。成功だ! 私は内心喜びに狂いながら消防士たちに事情を説明し、帰ってもらった。金を持っている人間の言うことは聞くのだからやはり他人は信用できない。私は、一人になった部屋に戻り息をついた。
けれど、それはまだ早かったのだ。
「ど、うして……」
部屋に戻り気づいた。あのレガロと会うための黒のワンピースだけが燃えていたのだ。
クローゼットとキッチンはほぼ正反対に位置する。どう考えても代償としか思えなかった。
「まさか、消防士の手か足が入り込んでた?」
自問自答する。あり得る話だった。結果的にリスクの確認もできたと気持ちを切り替えていく。急いでパソコンを立ち上げ、同じ型のワンピースを買おうと検索するが、該当なしとの答え。
「これは……完全に消えたってことだよね」
決して部屋に立ち入らせたわけではない。にもかかわらず、服ではあるが、この世界から存在が消えたのは事実。ノートの代償は甘く見ない方がいいらしい。今後のリスクを避けるためにも、私の『願い』まで寄り道は出来ないのだ。