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007 ディスカバー・アタック

■◇■7.01 Q―A


<イコマ離宮>から半日ほど歩いた距離に封印都市<キョウ>がある。

しかし、インティクスにとっては<鷲獅子>でひとっ飛びの距離だ。


<キョウ>の町は塀によって四方を閉ざされ、その扉も厳重に封じられている。<スザクモンの鬼祭り>以来このような姿だ。


きっと中では今でも<二姫>の怨念はわだかまり、蠱毒のように濃縮されていっているのだろう。

「いざとなれば地獄の釜の蓋を開けるだけよ」

瘴気に満ちたように暗い宙の上でインティクスは独りごちる。

そう言えば今日は雲が低い。月のない空を飛ぶのも楽しいものだ。水の中で溺れるような気分になれる。


もうすぐくろらんに指定された場所につく。

<キョウ>の塀の北西の角にある社、<乾天神>の境内だ。

インティクスは黒装束の女を見つけて高度を落とす。スカートを風に揺らして地上に降り立つ。


<ウェストランデ>の人間ならば<イコマ>まで会いにくればいい。しかし、人外魔境のような<キョウ>の外れに呼び出すからには、人目を忍ばねばならぬような者であろう。


政変に敗れ都落ちした元<元老院>のじじいか。<イースタル>の貴族でありながら商才のなさゆえに不平を募らせた落ちこぼれか。


いや、<冒険者>の可能性だってある。

ギルドがあまりにバトルクレイジーなため、わざわざ<エッゾ>から抜け出した者もいる。それとも輸送で勢力を拡大してきた<グランデール>か。

まあ、いずれにせよ、自分と同じ田舎者であることは間違いない。得にも毒にもならぬが会うだけ会ってやろう、インティクスはそう考えたに違いない。


付き人がわきに避けて頭を下げた。

インティクスが一瞬目を丸くしたのは無理もない。そこにいたのは想像以上の小者で、どこの誰とも分からぬ連中だったからだ。


「たんぽぽあざみ、アウロラ、タララオ、ジロラオ、桜童子。あなた方一体何者?」


インティクスの目に入ったのが背の高さ順なのは仕方ない。せめて桜童子とあざみに目が行っていれば、同じギルドであることは気付いたかも知れない。


「<plant hwyaden>のナンバー2をお呼びたてして申し訳ねえな」

ふわもこのウサギ耳ぬいぐるみが進み出て喋り出すのを見て、「お前が喋るのかよ」と心で呟いたインティクスは失笑した。


改めてステータスを確認すると、意外にもレベルは90を越えていて女剣士に次いで高い。


護衛にくろらんしかつけなかったのは失敗だったかと考えた。しかし、最悪の場合は囚われることだが自決すれば<ミナミ>まで戻れる、と冷静に判断した。

そもそもこの会談らしきものは、くろらんがセッティングしたものだ。くろらんだっていつ寝返るかわかったもんじゃない。


「無駄足か、って顔してるけど、まあ、話は聞いてみなくちゃわからねぇもんだぜ」


ウサギ耳が見透かしたように言う。

「そちらこそ、無駄足だったと後悔しないといいわね」

インティクスは眼鏡を押し上げて表情を隠す。ただし口元の酷薄な笑みはまるで隠せていないのだが。


「まずあなた方が何者か、きちんと答えてから要件を話すといいわ」


「おいらは<ナインテイル>からやってきた。どこの商家にも属してない零細ギルドのもんだ」

「ふうん、【工房ハナノナ】っていうの。見つけたら<plant hwyaden>が総力をあげて叩きつぶせばいいのね」


「ああ、そいつは勘弁してほしいなー。他のもんに累が及ばねぇように、二週間前に解散宣言までしてきたってのにさ」


ウサギ耳はひらひらと手を動かした。柳に風という態度だが、<plant hwyaden>を敵に回すということがどれだけ恐ろしいことか分からないのだろうか。それとも何かとっておきの情報でもあるのだろうか。


「とっておきの情報ってわけでもねぇんだが、聞いてもらえるかい」


いちいち見透かしたように喋ってくるのが癇に障る。インティクスはつばを吐くように言い捨てた。


「どうぞ」


「これから群発する<不平貴族たちによる反乱>の真の黒幕はあんただね、インティクスさん」


ぬいぐるみはその丸っこい腕で指差した。


「名探偵にでもなったつもり? それとも未来からやって来ましたとでも言うの? そもそも起きてもない事件の黒幕だなんて、よく言えたわね。私を侮辱するということは、<plant hwyaden>を愚弄したたも同じ。いいえ、この<ヤマト>を敵に回すのと同義なのよ! 知らなかったじゃあ済まされないわよ!」


語気強く反駁するインティクス。

全く怯む様子もなく続けるウサギ耳。


「喰違の変。佐賀の乱。敬神党の乱。秋月の乱。萩の乱。思案橋の変があって西南戦争。これら一連の騒動を『不平士族の乱』という」


「日本人なら誰でも知ってるわ。それが侮辱と何の関わりがあるのか言ってみなさい」


女剣士は日本人だけど知らないよというような素振りをしたが、常識問題と言っていいだろう。だが、それを知っているから、なんだというのだ。それで黒幕だと疑うのなら根拠薄弱だ。

「さあ! 言いなさい!」


「先ほど<パンナイルの乱>は未然に防いだって連絡があったよ。インティクスさん、お前ぇさん、彼らに檄文を送ったろ。そうそう、<アキヅキ>は、特殊なお家事情でね。起こらなかったんだ、そんな反乱は。そのおかげでおいらが檄文持ってんだ。元<アキヅキ>の重臣で<アキヅキ>を見限って下野したとされるヴァーダイトさんのものだよ」


ウサギ耳は得意気に書を見せる。

「ああ、なんで<パンナイル>じゃなくて<アキヅキ>なんかで解散したのかとおもったけど、そういう事か」

仲間にも手の内をみせてないらしい。女剣士は間抜けにつぶやいた。


「だーかーら、それが私と関係があるのかっていう話よ。私の名でも書いてるっての? そこに書かれた文面が武装蜂起を教唆する内容で私のためにそれを行えとでも書いてあるっての?」


バカバカしいとばかりにふんと鼻息を鳴らすインティクス。

決起司令は巧妙に文章に隠しておいた。こんなウサギ耳に分かるものか。もちろん名前だって書いてない。


「お前ぇさん、自己顕示欲が強いって言われねえかい」

このウサギ耳の言葉はいちいちカチンとくる。


「バカにするのもいい加減にしなさい!」


「いやあ、おいらは褒めてんだぜー。巧みな檄文ってのは筆一本で大戦を支配し、天下を動かすっていうくらいだ。こいつは読むべきものが読めば武装蜂起を促されるって仕組みだが、そうでないものが読んでも世の中を憂う執政者の叫びが感じられるすげー文だぜ。相当な知性の持ち主が書いてるのに、残念ながら名前が書いてない。名前がなけりゃどんな名文だって〇点だ」


脅せば受け流す。怒れば持ち上げる。持ち上げたと思えばこきおろす。腹は立つが、ホンの少しだけ興味がわく。何なんだこのぬいぐるみは。

そんな気持ちを隠すようにインティクスはため息をつく。

「ふうん。あらそう、それは残念ね」


「名前はない。が、最後に署名らしきものがある」

「へえ」

「Q―Aって読める。お前ぇさん、心当たりは?」

「さあ、知らないわ」


「さて、ホントにそうかな」

「じゃあ何だって言うのよ!」

「答え合わせが必要かい?」


イライラする。本当にイライラする。何なんだ、このぬいぐるみ。インティクスの引きつった眉がそう語っている。


「何だと思うのかって聞いてんのよ!」


「お前ぇさんのことでしょ。これ」

ぬいぐるみは短い手で頭を搔くようにすりすりしながら答える。


「最初Q―Aで思いついたのは、Q&Aだ。クエスチョン―アンサー。だが、どこにも回答集なんてない。檄文に付けるはずもない。QAはたしか品質保証の意味もあったはずだ。しかし、天下に発する檄文に品質保証表示があるのもどうかと思う。

じゃあ別だ。Qから始まる英単語なんてそれほど多くはない。そこで、一般的によく見るQに気付けばそこからは早い。そいつは、トランプやチェスのQだ」


「よくしゃべるぬいぐるみね」


「結論にたどり着く思考過程を一緒に辿ってもらってんのさ。Q―Aが何を示しているか。それが蓋然性が高い結論かどうか考えてもらうためにね。Qがクィーンならば、Aはエースだ。実はそう考えると思考は袋小路に入る。数字と見て12引く1か。十一。ブラックジャックなら二十一。ただ、ブラックジャックならQである必要が少なくなる。どうにも署名の意味をなさない。Qは確実だが、Aの捉え方が問題のようだ。つまり、クィーン―Aとそのまま読めば<女王A>となる」


「女王Aなら濡羽ね。彼女がこの国の女王となるのよ」


「素直に読めばな。だが、それならQだけで事足りる。どうやら今女王の立場にいる人は実際は女王Bであるって言いたげじゃねぇか。そこで、ナンバー2のお前ぇさんの登場だ。そうするとAはアと読めばいいということがすぐわかる。クィン―ア。この横棒がNとAをつなぐハイフンだとすればクィナ。秧鶏だ」


秧鶏の学名はラルス=アクアティクス=インディクス。インティクスの名前の由来だ。そもそも秧鶏が自分の名だ。よくQ―Aの真意に辿り着いたと褒めてやりたくなる。


「その通りよ。その檄文を書いたのは私。あなた、ストーカー並みな執着心ね。気持ち悪い」

「褒め言葉と取っておくよ。だがね、お前ぇさんがどんな絵を描こうとしているのか分からねえ。だから、おいらはお前ぇさんに会いに来た」


「田舎者が知る必要なんてあるの?」

「そりゃあ、次々と導火線の火消しに回ってる身としてはね。大方<公爵家子息(イセルス)暗殺未遂事件>と<傾神党の乱>から不平士族の乱を思いついたんじゃねぇかって思うんだけどな。でもなあ、<ナインテイル>で花火を上げることで、お前ぇさんが女王Aにどうやってなるんだって聞きてぇんだ」


「聞いてどうするの」

「よかったら力になるよー」


「花火は綺麗、それだけよ」

「そうかなー。不平士族の乱は勝者側が操るもんじゃねぇと思うんだ、おいらはな。実のところ、そこにも真意が隠されてるんじゃねぇかって思うんだ」

「<ナインテイル>なんて燃えてしまえばいいのよ」


ヒステリックな笑いを漏らすインティクス。


「木を隠すなら森、さらに森ごと燃やすってのがお前ぇさんのやり方なのかい? なるほど、大乱の中に乱を隠し、大火で燃やし尽くそうってのか。隠したいのは暗殺未遂か、傾神党か。おそらく後者でしょう。となると、守りたかったのは、傾神党を身内から出してしまったエイメラ=ウェルフォアってことでいいのかね」


隠していた真相を言い当てられたからといって素直に認めるわけにはいかないインティクスは叫ぶ。


「知らないわよ! あんな女ァ! ただ商家の力を内紛で削ろうとしただけよ」

「商魂ってもんは、内紛すら商売にしちまうたくましさがあるんだよ。ここまで説明したら、もう守るもんも削るもんもなくなったろ。これ以上内乱を起こさせるのは辞めにしてもらえるかな」


「火のついた導火線はどうにもできないわ。できることと言ったら、私は今まで同様何もしないってことだけ。それより力になるって言ったわね。<冒険者>二人と<大地人>三人で何ができるわけ」


「おや、聞き逃しちゃあもらえねえか。だが、しっかり目を凝らしてもらえばわかると思うんだが」


インティクスはその時、ようやく辺りの異常な気配を捉えた。

この空間を取り囲むように見つめる何百もの異形の目。尋常じゃない数の<夜啼精霊(バンシー)>の群れが集まってきているのだ。

もっと驚いたのは、今までずっと目の前に見えていたのに気付かないほど巨大な影があったことだ。その影は社殿を覆うように立っている。その影が何なのか。ステータスを読む。さらに驚く。


「<火雷天神>、ですって?」


「さすが<二姫>の怨念眠る<キョウ>の都だ。歓迎が半端ねえな。分かるかい? <二姫>は彼女自身を三百年後の<セルデシア>に蘇らせるため、<ナインテイル>を灰燼に帰さなかったんだ。こちらにいらっしゃるのは、<二姫>の体細胞クローン、アウロラ姫だ。蘇ったのさ、この世に」


反射的に攻撃態勢を取るべく魔法の選択画面(メニュー)を呼び出すインティクス。そして、再び異変に気付く。


「な、何でMPが三分の一も消失(ロスト)してんのよ! 私に一体何をしたー! このドグサレー!」


インティクスはレベル90の<妖術師>である。使える呪文は強力なものが多いが、MPの消費は激しい。それなのに、三分の一も何もせずに消失しているのは痛い。


「<二姫>すら手をつけなかった<ナインテイル>に火の粉を落とすのは得策じゃあない」

ウサギ耳の声が幽咽の中で響く。

「私を脅す気か! 私の心を叩く気か! 違うだろ、この腐れぬいぐるみィィイイ!」


「おいらたちは力になるって言ってんだ。だから、<ナインテイル>には手を出さない方がいい」


「知ったことか! <ナインテイル>などに構ってる暇はない! クロ! 私は帰る。この方々をお送りしなさい」


(あの世へね)と密かに呟き境内を駆けると、インティクスは<鷲獅子>に飛び乗った。

インティクスの付き人は飛び去る<鷲獅子>に恭しく頭を下げた。


■◇■7.02 しららんとくろらん


「さあ、後片付けの時間だぜー! 姫様とタラジロは拝殿にぴったり背中つけてな! そっちは任せたぞ、たんぽぽ!」


インティクスの姿が消えたのを見計らって桜童子が叫ぶ。

「あいよ!」


階に身を寄せあった<大地人>三人を庇うように、二刀流のあざみが境内に溢れた<夜啼精霊>の前に立ちはだかる。


実際のところ、<夜啼精霊>は<クローン二姫>のアウロラを歓迎しに来たわけでも襲いに来たわけでもない。単に桜童子のエンカウント異常の性質に惹かれてやってきただけだ。

インティクスの前では、アウロラが呼び寄せ見張らせていたように振舞ったが、実は境内に入ろうとする<夜啼精霊>を<火雷天神>が力づくで抑えていただけなのである。



<火雷天神>は<蒼球>の力で全開状態だ。MPドレインも全力で発揮している。インティクスのMPが異常に減っていたのもそのためである。


「ゴホッゴホッ」

ジロラオが苦しそうに咳き込む。<夜啼精霊>の毒気に当てられている。

そこに飛び込んだのがインティクスの付き人だった。

あざみがあっと思ったものの、瞬時に<キュア>と<反応起動回復>をかけていたので、前方に集中した。そして、敵愾心を煽りながら<夜啼精霊>を前に追い立てる。


(あの、インティクスの手下、なんかくろろんに似てるよな。だけど、くろらんは<暗殺者>なんだよなあ)

あざみは振り向きたい欲求に駆られたが、さすがにこの量ではその余裕はない。比較的余裕があるとすれば口だけだ。


「にゃあちゃん! なんで今回レンじゃなくてアタシなの!?」

大声で位置把握を行う。そして、次の行動予測に生かす。解散宣言はしたものの、これぞ<ハナノナ流>だ、とあざみは思った。


「そりゃあお前ぇ、会わせたいやつがいるからに決まってんだろー」

桜童子の位置が分かった。エレメント系の従者に<夜啼精霊>を中央に寄せ集めさせる気配があるのも察知した。

<火雷天神>は周囲の<夜啼精霊>に雷を落としている。

ということは、自分のするべきことは中央に飛び込んでできるだけ多くの敵をなぎ払うことだ、と思った瞬間、あざみは背中に何かがトンと触れるのを感じた。

人の温もりがある。誰かの背中だ。


「まあだ気付かないの? もー、友だちがいのない奴だなあ、親友(たんぽぽ)ちゃん」


懐かしい声だと理解するより前に、目頭が熱くなり、鼻先がツンと痺れた。涙が出そうになる寸前、素早く司令が飛ぶ。


「<シンボル・オブ・サクラメント>展開。たんぽぽちゃん九十度回転!」

背中を合わせたまま、敵がお互いの側面に来るように向きを入れ替える。


「二秒後<ジャッジメントレイ>! 飛び込めたんぽぽちゃん!」

その司令に呼応するように吠え、敵の中に飛び込むあざみ。


<シンボル・オブ・サクラメント>はあらゆる状態不良を跳ね除ける。また、<ジャッジメントレイ>は仲間が攻撃圏内にいても敵だけをなぎ払うことができる。毒にも仲間の攻撃にも躊躇うことなく、<紅旋斬>の発動準備にかかる。


<ジャッジメントレイ>が敵をなぎ払う。前に立って壁になった<夜啼精霊>のおかげでまだ生き残ったものが多い。


「<紅旋斬>!」

「<梅花無尽蔵>!」


あざみの剣術と<火雷天神>の幾条もの雷が辺りの敵を一掃した。辺りが静まり返ると、あざみは黒装束の女に声をかけた。


「どんだけ念話したと思ってんのよ! しららん!」


頭巾や顔の布を取るとしららんだと明らかにわかった。くろらんの衣装を纏って変装していたのだ。インティクスはくろらんと思い込んでいたため気づかなかったらしい。


「いやあ、念話に出られる状態じゃなかったんだよ。なあ、しららん」


しららんを擁護したのは桜童子だった。

タララオたちに<飛魚>の準備をさせ、<蒼球>の封印をしてからしららんの近くに歩み寄った。



「しららんは<大災害>のときに、くろらんと同時にログインしていたんだ。それは誰も体験したこともないような、とんでもないことが起きた」

「魂が半分に分かれちゃった感じ? 数日は両方とも動けたんだよ。くろらんあんま喋らない設定だったから、二人になってもあんまり問題なかったんだけどね。まずかったのは私の方が先にMPが尽きちゃったんだー」


しららんは大変な体験だったはずなのに、あっさりと語った。


「しららんとくろらんは、およそ四日に一度の割合で入れ替わりながら生活する必要ができてしまった。<大災害>後の混乱がひどかった<ミナミ>の町でだ。無事に生きるためには強固な庇護の下に入るしかなかったのさ。だから、おいらたちはしららんの命の恩人としてインティクスに借りがあったってわけさ」


「ちょっと待って、ちょっと待って。何でにゃあちゃんがそのこと知ってんの! 何で親友のアタシが、何も、知らないの」


あざみは刀を収めて、しららんに触れる位置まで来た。


「たんぽぽちゃんが念話くれたのってきっとくろらんが起きてる間だったんだろうね。くろらんはフレンドリスト整理してたけど、リーダーだけは残してたから、真っ先に連絡入れられたの」

「にゃあちゃんばっかり知っててずるいよ」

「ぎゅーしてあげようか」

「して、なでなでして」


「よしよし、たんぽぽちゃん」

「おかえり、しららん」

「ただいま」


厚い雲に切れ間ができて、月が顔を覗かせた。<シンボル・オブ・サクラメント>の光の粒がまだ漂っていて、月の明かりを反射して二人を美しく輝かせた。


「ウサギのお兄ちゃん! <飛魚>、準備できたよー!」

「できたらよー!」

タララオとジロラオの声が陽気に響いた。


「こらー! あやかしウサギ! 勝手に<蒼球>を封印しおってー! もっと吸わせぬかー!!」

小さくなった幼童姿の<火雷天神>も社殿の向こうから現れて叫んだ。



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