006 工房ハナノナ解散
■◇■6.01 浮立舞華
桜童子が昏睡から目覚めて半月が経とうとしていた。
周りの山は藤の花の香りから栗の花の香りに移り変わってきた。生命力に溢れた強い匂いは、あまり鼻の利かないボクにもしっかりと届いた。人によってはむせるほどの匂いらしい。
トキマサは慣れたものだが、<冒険者>なら口で息をしたくなるほどだ、と鎮西ハチロー氏は言っていた。
鼻が利かなくてよかった。
ボクは、トキマサの修行に付き合うため<オワリ>辺りまで旅に出る気でいた。でも、よく考えたら、ボクはもう<plant hwyaden>ではないから、<ウェストランデ>を気ままにさまようことはできない。どこかの時点で拘束されてしまうだろう。
となれば、<妖精の輪>という手もあるが、これは迷子王ヨサクさんの専売特許だ。自分に絶対の自信があるか、よほどのバカじゃないと真似できない。言っておくけど、コレ褒め言葉です。
というわけで、<ナインテイル>各地に配達するクロネッカ=デルタさんとその護衛鎮西ハチロー氏について行って、そこで絵の修行となるものを探すことにした。
彼らの足は速い。そして、持久力もある。最初は近場について行くだけでもトキマサには至難の業だったが、今では随分と楽についてくるようになった。プレゼントした装備がよかったのかな? だと嬉しいな。
ボクらが<炭坑王の館>にあるという<秘宝級>絵画をスケッチする旅に出かけてきているのには理由がある。単に呑気かましてるってわけじゃないのだ。
話は二週間前に遡る。
<サンライスフィルド>では、大いなる決断が下されようとしていた。
【工房ハナノナ】の本拠地である<P―エリュシオン>に桜童子、シモクレン、サクラリアちゃん、大福みたいなほっぺの<火雷天神>ちゃん、シュテンドという鬼のような男、そしてボクとトキマサが集まった。
「目が覚めたと思ったら、次から次に厄介事が起きるとは、間に髪も入れさせちゃくんねぇんだな」
リーダーさんは他人事かと思えるほどのんびりと言った。
「そうじゃ、間髪入れず<火雷天神宮>を奪還しに行くぞ! さあ、攻略の人員を選ぶが佳い」
テーブルの上で声を張り上げる<火雷天神>ちゃん。牛は外で待っているから、少しでも視点が高くなるようにしたいらしい。
「残念ですが、<火雷天神宮>は後回しです」
「にゃにぃいいいい!」
驚きの声をあげたのは<火雷天神>ちゃんだけではなかった。リーダーさんの真意をサブギルおねえさんも問い詰めて確かめる。
「にゃあちゃん、ちょっと待って。<火雷天神宮>って<ナカス>と目と鼻の先やで。そこを<plant hwyaden>に押さえられたら<火雷天神>はんやのうても困るんやないの?」
「そうじゃ、血迷ったか! あやかしウサギ!」
ふわふわした姿のリーダーさんは、追及もどこ吹く風でさらりと躱す。
「攻略したダンジョンに住めるわけじゃないでしょう。仮に<plant hwyaden>が先に攻略したとしても、そこが彼らの拠点になるわけじゃない」
「わしの宮を土足で踏み荒らされること自体我慢ならぬわー!」
「<火雷天神>はどうせ入れないんだから、せいぜい宮の周りにベースキャンプを作られぬよう邪魔をしたらいい」
「わしに露払いさせる気かー!」
「でも、多分しなくて済む。何もしなくていい」
桜童子の予言にも似た推測にサクラリアちゃんが首を傾げる。
「どうして? なぜ何もしないでいいの、にゃあ様」
「むしろ誰かが攻略してくれた方が<火雷天神>も楽に帰れるってもんさ。だけど、<plant hwyaden>はおそらく何もしない。少なくとも三ヶ月は」
桜童子はお茶をすする。
「今度<ナカス>にやって来るのが、ヤマト三大守護戦士の一人ナカルナードだ。彼は四方八方に目が利く。一見無謀な戦い方をするように見えて、実は戦場の熱をよく捉えてそこに人と物資を集中させる戦い方だ。まあ、プレイ動画見た限りの素人判断だけどな」
「三ヶ月って見込みの根拠は?」
「今、一番熱が高いのは<ナカス>だ。南門が破壊され、これまで以上にレジスタンスに対する警備が必要な上、<オイドゥオン家>のトトリは<リューゾ家>の地を借り受けて陣を張っている。ナカルナードは<ナカス>にピンナップされた状態だ。ただし、三ヶ月経てば食糧が端境期に入り、トトリも撤退せざるを得なくなる。ナカルナードは慎重にそれまで守備を固めてるだけでいい」
「ナカルナードはんも迂闊に<火雷天神宮>に兵を出せへんってこと?」
「ただ、そこも熱が高まりすぎりゃ元<ハウリング>の狂犬たちを一気に投入してくるだろうな」
「だからウチらは何もせんでええと」
「<火雷天神宮>に関してはな」
<火雷天神>ちゃんは机に寝そべってジタバタしている。
「他に気になることがあるん?」
「宮より気になるものなんてないわー!」
サブギルおねえさんの問いかけに、<火雷天神>ちゃんが涙声でわめく。リーダーさんは鼻でため息をつく。
「気になることなら山ほどあるが、仕方ないなぁ。そんなに<火雷天神>がいうなら一回だけアタックしてもいいですよ」
「まことか!」
「ただし、攻略が目的じゃない。内部の状況を偵察するのが目的です。そこは勘弁してください」
<火雷天神>は力なくテーブルに寝そべる。
「おいらの心配はその時話そう。一日後、出発。二十四人まで入れるが偵察なのできっちりじゃなくていい。ただし、【工房ハナノナ】は全員参加。レン、ハギとディルに連絡頼む。<火雷天神>もシュテンドさんもトキマサも、スタジオのところに空き部屋があるから、そこでくつろいでくれ。じゃあ各々ダンジョンに潜る準備を」
全員がそこを離れたが、リーダーさんはその場でどこかに連絡を入れていた。ついついいつもの癖で、ボクは<盗聴調査>をオンにしてリーダーさんの話を聞いてしまった。
「カーネリアンさんかい。やあ、もう<アキヅキ>に着いたんだね。ああ、この通りピンピンしてるよ。一つお願いがあってね。ハイハイ、それは考えとくよー。明日<火雷天神宮>に顔を出した帰りに場所を提供してもらえるとありがたい。そこで【工房ハナノナ】の解散を発表したいんだ」
その夜、ボクは眠れない夜をすごした。
【工房ハナノナ】の緊急集合というのはかなり珍しいことらしい。きちんと夜明けにはあざみちゃん(と、そのストーカーのポチさん)、ハギさん、ユイくん、バジルさん、イクスちゃんが揃った。そこにはてるるちゃんもついてきている。
ディルくん、ドリィちゃん、ツルバラくん、スオウくん、あやめちゃん、エドくん、栴那さん、なぜかついてきたアリサネさんとすずさんの九人が、<パンナイル>を出発し、<クリュム>を北上してダンジョン前で合流することになった。
トキマサは<火雷天神>ちゃんと一緒にお留守番する予定だったのだけど、トキマサはついてきた。リーダーさんの異常エンカウントのおかげで移動するだけで死にそうな目にあったが、他のメンバーは手慣れたもので、トキマサを上手くカバーしてくれた。
<火雷天神宮>はゾーン名も<黄泉騎士の怨嗟宮>になっていた。表参道の前で<アキヅキ>からカーネリアンと<ノーラフィル>も様子見にやって来ていた。
「少人数でいいと思っていたが、制限人数を越えるとはなあ。よかったらゴシェナイト君とルチル君は、外でトキマサの護衛をしてもらえたらありがたい。きちんと天才<エルダーメイド>カーネリアンさんに誓ってきちんとドロップ品の分配はするから」
この時、二十四人がダンジョンに入れたのは幸運だった。<火雷天神宮>では同時入場制限があるが、インスタントは作成されない。二十四人入ったら全滅するまでロックがかかるのだ。
外で写生をしていたトキマサたちのところに<ナカス>の斥候がきたという。入場制限がかかっていて入れなかったのだが、トキマサとルチルとゴシェ卿がいるのを見て、初級・中級<冒険者>が行列をなしている中級ダンジョンだと勘違いしたらしい。
だが、内部はしっかりと上級ダンジョンで、リーダーさんとカーネリアンさんを最終ボス<刀隠巫女ネコミドリ>の前に送り込むのがやっとだった。
何らかの情報をつかんだ後、二人は本殿から猛ダッシュで降りて来た。
「ドロップ品拾えるだけ拾って、全力で逃げろー!」
ドロップ品の分配は、<アキヅキ>の一角で行われた。
そして、重大な発表が行われた。
【工房ハナノナ】解散――――。
「あー、あー、あー。壮絶な内輪揉めになる前に、お節介だけど余所者の私が説明してあげまーす」
説明役を引き受けたのは、カーネリアンさんだった。
■◇■
「先生! 舞華先生!」
「は、ハイ! なに、なに、聞いてます、ちゃんと聞いてるよ! 何かあった?」
トキマサに呼びかけられてふと周りを見回すと、もう海沿いまで来ているのがわかった。防波堤を兼ねた防塁の狭間からは海が輝いて見えた。振り返ると小山の上に城が見えた。
「<ハセツ城>? じゃあ<炭坑王の館>までもう少しでしょ」
「舞華先生寝ていらしたのですか? 今、お城に運ばれた物資ってダンジョン攻略用のですよね」
「へ? なんかあった?」
城に荷物を運ぶ大八車が坂を登っていたらしい。誤って積荷の一部をぶちまけてしまったそうだが、その中には、武具や防具、魔法具から水薬まであったのだという。
「もー、これじゃ何のために【工房ハナノナ】解散したかわからないじゃないですか」
トキマサがため息をつくのも無理はない。
あの日、カーネリアンさんは次のように言った。
「【工房ハナノナ】はナインテイルの平和と安全のために解散していただきます」
山陰の桜も散り終わった川の上に掛けられた涼み台。滝からの飛沫が、興奮した一同の火照りを冷ますかのように涼やかに風に混じる。そこで、ボクたちの解散のための説明会が行われた。
「おいおい、平和と安全ってそりゃあ盛りすぎだろう」
カーネリアンとリーダーさんは茶店の椅子を出して一段高いところに座っている。リーダーさんはボヤいた。
「にゃあ君、君の悪いところは情報をもったいぶって小出しにするところだよ。こういう時は、ちゃんと大義名分から話すものよ」
滝の音や川のせせらぎがざわめきをマスキングする。だから、カーネリアンさんはその場所を提供したに違いない。
「解散しても、<P―エリュシオン>や<アオウゼF>の施設は利用可能。でも、名目上は<アキヅキ>が代理管理するということになります」
アイデアだけはリーダーさんから聞いていたのだろう。サブギルおねえさんは他のメンバーより動揺が少ない。だけど、細部までは聞かされてなかったのだろう。時々ハッとしたような表情をする。
「ちょっと待て、ちょっと待てい! ありゃあオレ様たちが<大災害>の後、手塩にかけて育てたわが家じゃねえかよ」
「ほとんど居候だったけどにゃ!」
「がう」
口を開いたのは覆面狼さんと、黒猫娘さんだ。そして、剣牙虎ちゃんだ。
「いいんだよ、そういうことは! オレ様が言いたいのは、なんでわが家を他人に管理されなきゃなんねぇんだっつう話だよ」
カーネリアンさんは桜童子をちらりと見た後、バジルさんの問いに答えた。
「<アキヅキ>は<ウェストランデ>と対立して滅亡した後、<plant hwyaden>の支配下におかれた、って世間では言われてるけど、この町で<plant hwyaden>の人、一人でも見かけた?」
カーネリアンさんはツインテールを揺らして胸を張った。
「留守にしようが使おうが勝手にしたらいいわ。こっちは管理はするけど手出しはしない。誰かが勝手に壊したり住みついたりするのを防いであげるってだけ」
「ハイ。うちのばあちゃん、そうやって詐欺師に土地取られたんだけど、期限ってあるの?」
あざみの質問にカーネリアンさんは嫌そうな顔をしながらリーダーさんを振り返る。代わってリーダーさんが話す。
「おいらたちにとって<P―エリュシオン>は最重要な施設だった。だけど、<アキヅキ>にとってはいくつもある建物の一つさ。それよりもここにいる彼女は<サンライスフィルド>での活動権を重要視している。だが、必要なら<筆写師>に書類を作成してもらっていい」
「<アスアクラ>のPK集団を制圧し、土砂や瓦礫の撤去をして街道の復活を果たすためには<サンライスフィルド>に自由に立ち入る権利が欲しいわけよ。あんたたちがおっけー出してくれても土地の<大地人>がいい顔しないのよね」
リーダーさんとカーネリアンさんの間で同意が取れているのを知ると、みなの質問は下火になったが、バジルさんは激しく抵抗した。
「オレ様はよくわからねえ! なぜ、【工房】解散しなきゃなんねえ? 解散して何すんだ? <アキヅキ>の下働きか!? それが平和と安全を守るってことなのか」
「やれやれ、狼さん。<傾神党の乱>って聞いてピンとこない?」
横に手を広げてカーネリアンさんは首を振る。煽って正解を引き出させるのが彼女の話し方らしい。
「こねぇなぁ。なあ、わかるか、ディル坊」
「いや、聞き覚えあるような、ないような。な、ツルバラくん」
「オレ、地理しか取ってないっす。なんかそれ、日本史とか公民とかで出そうな名前っすよね」
残念ながら煽っても何もでなかったらしい。
「ちょっと! このゲームオタクどもめ! わかる人いないわけ? 中学生の私でも知ってるわよー」
ボクはバジルさんに背中を押されて、歴史の講釈をさせられるハメになった。
「こちらは【工房ハナノナ】を代表する作家の浮立舞華嬢ちゃんだ! じゃあ先生ちゃん、頼んだ」
「えー」
<傾神党の乱>と全く音の響きが同じ事件が日本史上にある。
時は明治維新の頃。
征韓論をめぐり明治政府では大きな混乱が巻き起こる。
西郷隆盛らが下野するのをきっかけに、現状に納得していない士族たちの不満は爆発した。
そして一連の不平士族の反乱が勃発するのである。
その一つが<敬神党の乱>だ。
「実に似ていると思わない? <イースタル>への対応で<ミナミ>が大揺れしている最中、土地問題や冒険者の出現によって不満のたまった貴族が反乱を起こしたってシチュエーション」
カーネリアンさんは言う。
「この状況を利用して、次々反乱を起こさせようとする輩がいる。おいらはその黒幕を探して叩く。みんなは反乱そのものを未然に防いでほしい」
「そのための一時解散ってわけやね。<セルデシア>で日本史を利用する悪巧みを起こすなんて、相手は<冒険者>ってこと?」
サブギルおねえさんが確認するが、桜童子は曖昧に首を振った。
その時、場がざわついた。
「あ、姫様!」
<アキヅキ>の姫巫女、エレオノーラ=ルナリエラ=クォーツ嬢が<ノーラフィル>を付き従えて現れた。
「カーネリアン、ひどいですわ。私をさしおいてこのような楽しい話をなさるなんて」
「いや、決して楽しい話じゃないっす」
「話は<ノーラフィル>に聞きました。【工房ハナノナ】の皆さん。これは私からのクエストです。解散して各地で次々と起こるであろう不平貴族の反乱を未然に防ぐのです!」
パーフェクトににっこりと微笑んだ姫に逆らえるものなどいない。<アキヅキ>は<ナインテイル>の<冒険者>の初級クエスト受注所であった。ボクたちは初級冒険者であった頃に、彼女と瓜二つの姉リチュア=クォーツのお願いによって、逆らえないようDNAに刻まれているのだ。
■◇■
「先生、どうやって話を聞くんですか」
ボクらは、<ハセツ城>内部に潜入している。
デルタ君もハチローさんも配達の途中だから、トキマサと二人きりの潜入だ。<潜入取材>の特技のおかげで、侵入禁止の場所を進んでこれたから誰にも見つかっていない。
「トキマサくん、あっち向いて」
着替えはメニューコマンドを用いずとも行える。だが、セット服を装備すれば、一瞬で着替えられる。
「うわ、先生、いつの間に」
「名探偵に変装はつきものでしょう」
「その格好は一体」
「あ、そうか、トキマサくん、知らないよね。これ、くの一っていうの。女忍者」
「え、それ、目立ちす・・・」
「じゃあ、行きましょう。正面突破だ!」
ボクは正々堂々と大会議室に侵入した。
バンっと扉を開くと、七人の<猫人族>の貴族と二人の護衛の兵士がいた。
どうやら、<リーフトゥルク>の領主一族らしい。
彼らはディル君たちが活躍した<不死者たちの狂乱事件>において、<グローリーシンク城址>を水没させて我が身の保身ばかり考えた連中だ。領民からはすこぶる評判が悪い。
「あれ? <ハセツ城>の中は忍者屋敷になってるって聞いたのに」
ボクはすっとぼけてみせたが、兵士に連れ出される。トキマサも見つかり、一緒に城外に放り出される。
「せ、先生。結局振り出しに戻りましたよ」
「いいえ。ボクの<盗聴取材>の特技は、自分がいた場所ならば離れた位置にいても十分間だけ念話のように音を聞くことが出来るのよ」
ボクは赤いアンダーリムの眼鏡をおしあげた。
■◇■
月が雲に隠された。
日が沈むまで<炭坑王の館>にいて、腹ごしらえしてから町の物陰にトキマサと二人で潜んだ。
「あ、本当に来た!」
「しーっ! ボクの<盗聴取材>舐めちゃいけませんよ」
黒装束の男たちは明かりも持たずに集まった。
しかし不審な動きをしている。そのうち、灯りが点いた。いや、火だ。
不審な男たちは建物に火を点けて回っている。
「先生! どうしますか! 先生!」
トキマサが声をひそめて聞いた。
「待って、トキマサくん。待って!」
火が燃え上がる。トキマサは叫ぼうとした。ボクは服を掴んでしゃがませる。
「まだ! まだよ!」
「せんせいぃいい!」
その時辺りが昼のように明るくなった。
不審者たちが照らし出される。
「何をしているんだ」
不審者たちが逃げようとした。
「何をしているんだと聞いているッ!」
「龍眼さん!」
ボクは思わず叫んでいた。龍眼が<見廻組>を引き連れて現れたのだ。
「待たせたな。さあ、貴様ら。領主の不在をいいことにこんな悪事を企むとは落ちたものだな」
覆面をつけた連中は<ハセツ城>で話し合っていた領主一族だ。
<見廻組>の一人が旗のようなものを拾ってきた。「龍」の文字。
「ご丁寧にこんなものまで用意しているとはな。引っ捕えろ」
領主一族は罵声を挙げながらしょっ引かれる。
「ちょっと待って」
ボクは彼らの前にくノ一装束のまま飛び出す。
「こいつ! やっぱり昼間の!」
領主一族は叫ぶ。
「『乱を先に成功させたものに褒美が出る』って言ってたけど、それは誰からの指示なの。答えて」
ボクの<盗聴取材>で聞いたことだ。間違いない。
だが、一族は誰も口を割らなかった。
「ご苦労だったな。あとはこちらで取り調べる。兎耳にもよろしく伝えてくれ」
龍眼さんと<見廻組>は領主一族を引っ立てていった。