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010 新機動戦線始動

■◇■10.01 アマワリという男


聞かなければよかったと後悔したが、聞かずにはいられないのが作家の性。書き残さずにはいられないのが、ボクのわるい癖。


きっかけは、ボクがリーダーさんに<機動戦線アマワリ>の名の由来を尋ねたことだ。



<機動戦線アマワリ>というのは、来るべき南方防衛レイドに向け、リーダーさんによって編成された第二の【工房ハナノナ】というべきチームだ。


「なんだか気象衛星ヒマワリみたいな語感ですけど、アマワリには何か意味があるんですか?」


「舞華くん。君は『護佐丸・阿麻和利の乱』というものを聞いたことがあるかい?」



ぬいぐるみのようなうさぎ耳をぴるりと動かしたリーダーさんを見て、ボクは「ああ、地雷を踏んだのだ」と確信した。


まさかまさか、まったく地球世界の資料のないこの<セルデシア>で、中世沖縄史の講義を受けることになろうとは。



それは琉球王朝が開かれて少し経ったころ。

ある男が、勝連城の按司となった。按司というのは領主とか城主とかに置き換えて考えても、大方差し支えないだろう。


その男こそ、阿麻和利(あまわり)である。


彼は、圧政を敷いていた前按司を倒して一躍ヒーローとなる。

その後、商才に長け交易をよくした彼は、大陸からもたらされる新技術をどんどん導入した。特に投網などは、当時驚愕の技術だったらしい。こうして、武力だけでなく、富や名声を手にしながら、民衆に愛される按司となっていく。



この頃、同じくらい有力な按司がいて、名前は護佐丸という。

国王の住む首里城と勝連城の間ほどにある中城城の按司だ。

長く王家に仕え、娘を国王の正室として嫁がせている。


六代目琉球王朝国王尚泰久。

四年前、首里城が焼失するほどの大乱の後、即位した王である。

有力な者と血縁関係を結んで命脈を保とうとするのは戦国の世の常である。正室との間に生まれた娘を、阿麻和利に嫁がせた。


「そのアマワリって人が、王さまの血縁関係になるほど出世したってのはわかるんだけど。でも、名前の由来になるってほどじゃあ。あ、乱っていいましたよね。首謀者ってことですか?」


「阿麻和利は護佐丸が反乱しようとしていると首里に讒言。討伐軍を指揮して中城城を包囲。護佐丸は潔白の証明のため、自害する。そのまま阿麻和利は首里に向かったとも、勝連にこもったともいわれる。ついに阿麻和利は乱の首謀者として殺された、って正史ではいっているね。まあ、おいらは信じちゃいねえけどなー」



「どうでもいい感想ですけど、なんでそんなに沖縄の歴史に詳しいんですか?」

「沖縄の歴史に詳しいってわけじゃねえんだ。その頃のこと調べててな」

「ふーん。で、この話っていつ頃のことですか?」


「一四五八年だ」


リーダーさんの口からするりと年号が出てきた。ボクはミステリ作家ではあるが歴史ミステリなんて書いたことはない。

社会や歴史の教科書は、ボクにとって落書きするためのものと言っても過言ではない。

だめだ。何時代なのかすらわからない。


「その頃って何かありましたっけ?」

「前年、伏姫が火縄銃で撃たれた」

「伏姫ってだれ?」


「知らないかい?」

「あ、あ! もしかして『南総里見八犬伝』の伏姫?」


歴史上の人物かと思ったら、物語の登場人物の名が出て、すぐには結びつかなかった。そういえば、リーダーさんは中学生の頃から『南総里見八犬伝』を読んでいたというのは聞いたことがある。


「伏姫が撃たれて玉が飛び散り、八犬士誕生の契機になる名シーンの舞台は一四五七年。それは、鉄砲伝来の百年近くも前のことだ」


「それって、作者の馬琴さんがミスったんじゃ」

「間違いってよりは必要な演出だったと考えるべきなんだろうね。だが、中学生だったおいらは納得できなくってねえ。鉄砲伝来より前に火薬を使った兵器があったんじゃないかって調べまくったわけさ」


「見つからないわけですよね」

「中学生のおいらには少々難しかったな」

「中学生じゃなくても無理ですって。百年近く前ですよ? あるわけないじゃないですか」



「そうかな?」

「え?」


「鉄砲伝来より二百七十年ほど前、日本人はすでに火薬を使った兵器を目撃してんだぜ? ないと言いきれるかい?」

「ええ!?」

「小学校の教科書でも載ってるじゃないか」


二百七十年くらい前っていつだ? 何時代だ? やばい、思い出せない。思い出せなかったら、リーダーさんにあの台詞を言われてしまう。社会の授業中、落書きなんかしなけりゃよかった。



「答えあ」


「ああー!! わかったー! 「てつはう」だ」

そうだ。落書きしてない挿絵の中に、炸裂する玉のような絵があったのを思い出した。

リーダーさんは微笑んで、ぬいぐるみのような手で拍手した。


「そう。一二七四年、元寇の際、日本人は火薬を使った兵器『てつはう』に出会う。一四五八年といえばそれから百五十年以上経っている。交易さかんな琉球の話だからな、ないとは限らないだろう」


「それはどうかなー」

「西洋式火縄銃と鉄砲伝来後の火縄銃の構造がずいぶん違うことから、伝来以前に東南アジアから輸入されたのではないかと疑う学説まである」


「なんかありえる気がしてきました」


「おいおい」

ぬいぐるみのような鼻をピクピクさせて笑った。


「火薬を使った兵器があるとすれば、『護佐丸・阿麻和利の乱』は正史とはずいぶん違うものとなると思うんだ。琉球に伝わる『おもろそうし』には阿麻和利は気高い人物として描かれていてね」



リーダーさんは阿麻和利の伝説を次のように語った。



一四五八年―――夏、琉球。


一期目の収穫を終え、酒盛りをしている民たちの間できな臭い噂が飛び交った。

中城城の按司・護佐丸が、自分の血の繋がりがある王子を擁立するため、反乱を起こす準備をすすめているというのだ。


真偽を確かめるための使いを首里城に送ると、入れ違いに首里からの伝令がやってきた。

阿麻和利は訝しみながら内容を聞いた。

「中城城按司の護佐丸に反乱の意あり。阿麻和利様は、追捕の大将となり、国王軍と合流すべし」



「おじい様に一体何が」

阿麻和利の妻となった国王の娘百渡(ももと)が、美しい顔を青ざめさせて言った。


「わからないから確かめに行くんだ。いや、きっと何かの間違いだ。心配ない。御祖父(たーりー)がそんなことをするわけがない。鬼大城はいるか!」


鬼大城は百渡の従者としてやってきた偉丈夫である。

「は! 大鎧を用意いたします」


「うんじゅはうふそーだな。こんな暑い日に大鎧なんていらんさー。わーの代わりに兵を率いて、国王軍と合流してくれ。わーは、真牛さーの話が聞きたい。できるだけ時間を稼いでくれ」

「御意」


阿麻和利は軽鎧だけをつけて中城城に向かう。

鬼大城も後を追うように部屋を出ようとすると、百渡が袖を引いた。

「百渡様」

鬼大城の腕の中で百渡は震える。

国王(ちち)は恐ろしい人です」


中城城に着くと、確かに兵馬の鍛錬の最中であった。兵たちは、とがめることなく阿麻和利を中へと誘った。


「噂を聞きつけてやってきたか。それとも、ワシを殺しに来たか」

護佐丸は立派なひげを揉みながら聞いた。


「何を呑気な。真牛さーの追捕命令が出てるよー。わーは、国王軍の大将を任されたさー。ここには先にやってきて、本当のことを確かめたかっただけさー」


「兵馬は鍛えて意味がある。収穫を終えたら兵を鍛える。内政の基本じゃろ。現国王は海外派兵をしないがな。だからといって、ワシらが怠けていいという理屈はない」


「じゃあ噂は出鱈目だって首里に伝えてくるさー」


「無駄じゃ。真偽がどうであろうと、反乱はあったことにされてしまうのじゃ! もう筋書きは書かれてしまったのじゃろう。お主だってその筋書きの一部じゃ。四年前、尚泰久国王と腹心金丸が何をしたか忘れたわけではあるまいな」


阿麻和利のよく日に焼けた顔が土気色になった。

先代国王が薨去すると、継承者争いが起きた。二人の王子が殺しあった結果、全く争いに関わらなかった泰久が王位についたのだ。


「あの時の戦が、王子二人が戦死するようなものではなかったのはそなたも覚えておろう。そこここで小競り合いが起きたかと思えば、いつの間にか王子の一人は死亡、もう一人は重傷の上逃亡。首里城は焼け落ち、真実は有耶無耶。目の上のたんこぶは、本人たちの知らぬところで争いあって共倒れしたことにして葬り去る。それが真新しい首里城に居座る金丸の好きな筋書きであろうよ」


「逃げるさー。板口からでも金口からでも、船に乗れば今なら間に合うさー」


「無駄じゃな。きっとこの乱の首謀者はワシということになる。ワシを逃がしても、お主は首里城に兵を戻しただけで、残る我が子に唆されて首里城を攻めに来たとされ、大逆の罪を負わせられる。この身の潔白を証明するには、ワシと息子の首を差し出して無血開城するよりあるまい」


「わじわじーする! なんだばー!! みな逃がすしかないさ! 明でも大越でも、わーがどこにでも逃がすさー」


「そうすると、この地からワシの血が消える。金橋王子も百渡も王は許さぬであろうからな。ただ、願わくば末の子の命だけはなんとかしたい。どこかに逃がして静かに暮らさせたいのだ」

早速乳母を呼ぶ。すぐに乳飲み子を抱いて遠くまで逃げるよう命ずる。

押し問答の末、阿麻和利は護佐丸の二人の息子も脱出させる。


その直後である。国王軍が中城城を取り囲んだのだ。


「鬼大城のふりむんが! 時間を稼げというたにー!」

「ふりむんはお主だ。鬼大城は金丸の子飼いの男。信用して近くに置いているなんて気もしれぬ」


「うぬー。まだ、逃げることはできるば」

「いや、ワシはこの首を自らはねて、お主には潔白を伝えてもらうぞ。その前にワシの話を聞け。<龍砲>を知っているであろう。金丸はあれを手にしたらしい」


「たしかに、<龍砲>があれば、馬も兵も驚いて逃げる。わーも欲しいとは思ったさー」

「ワシは若い頃から城作りの名手として呼ばれて来た。この城も使わぬ城から石を運んだ。古い石も積み方次第で全く新しく蘇るのだ。だが、<龍砲>が用いられるようになれば、城は二度と生き返らなくなってしまう。ワシは首里が燃えた原因も<龍砲>の誤射のせいだと思っておる。お主が首里に兵を戻したら<龍砲>で狙われるだろう。そうすればワシの首も無駄首になるな」

「ど、どうすれば」


「雨じゃ。大雨が降れば<龍砲>は使えぬ。雨まで待てばワシは腐る。ワシの頭は塩漬けにするしかないな。ぬわっはっは。あとは頼むぞ。いざ、さらば」


自害して果てた護佐丸とその妻の首を包みにくるんで阿麻和利は城を脱出するため、兵に開城させた。


「聞け! 皆の者! 真牛さーは自決なさった。それは身の潔白の証をたてるためだ! この後無意味に戦えば、逆賊の誹りは免れぬ。開城せよ! 無血開城こそ、中城城按司の清廉潔白を示す証なり」


なだれ込む国王軍と入れ替わりで出ていく中城兵。阿麻和利はその中に紛れていた。


人目につかぬ所で鎧兜を脱ぎ捨て、阿麻和利は石畳を走る。

勘づいた一部の国王軍がいた。矢が袖を破る。後にこの坂は袖切りの道と呼ばれるようになる。


なんとか逃げ切るも、追手はますます増える。

「わーに信義あらば、天よ、嵐を巻き起こせ!」

空はにわかにかき曇り、暴風雨が辺りにやってきた。

首里の門に至ったが、門は閉ざされていた。兵も大嵐のせいで外に出られなかったのだ。この大雨では<龍砲>も使えない。しかし、阿麻和利の声も届かない。


護佐丸夫妻の首を門の前に並べ、阿麻和利は拝む。頬を伝うのは涙か雨か。


ボロボロになりながら阿麻和利は勝連城に戻る。

百渡は阿麻和利を責めた。祖父と祖母の命を奪ったと責めた。


阿麻和利は項垂れるしかなかった。嵐のせいで松明はないが、国王軍が城を取り囲んでいる。祖父と祖母と同じ末路を辿るしかないのだ。ただ、百渡は降嫁したとはいえ王家の娘だ。城から脱出さえできれば命までは取られないだろう。


「あんたが早まったことをしなくてよかった」

窓が開いて大柄な人物が現れた。女性の服を纏っているが、鬼大城だとすぐ分かる。

「なんだばー!! ぃやー笑わせに来たか?」

「嵐の夜だって総大将が陣を抜け出したら大問題だ。今や俺が阿麻和利様追捕の総大将だ」


「嵐の夜に女の服で垂直な外壁のぼってるを誰かが見たら、キジムナーかマジムンかって噂になるさー」

「外は誰も見んさ」


「何しに来た」

「百渡様は俺が守る」


百渡の命を守ることは、護佐丸の血脈を守ることになる。非業の死を遂げた護佐丸の無念を晴らすことは、その血脈を永く守り続けることだと阿麻和利は思った。

ただし、自分の命はもう風前の灯だ。


最初からこの鬼大城と金丸が仕組んだ罠だったのだ。噂を流したのも、時間稼ぎをしなかったのも、足取りを追ってきたのも、こうして妻を連れて去っていくのも、全て罠だったのだ。


だが、阿麻和利は叫ばずにはいられなかった。


「鬼大城! 頼んだぞ」


百渡を背負って窓から降りていく鬼大城に、阿麻和利は伏して叫んだ。阿麻和利の声は嵐の夜に溶けていく。



「なんて、全ておいらの妄想だけどな」

リーダーさんは笑って言ったが、ボクの中にアマワリという名が、何か大きなものに戦い続けるものの代名詞に思えるようになった。



■◇■10.02 ロエ2再び


シモクレン、サクラリア、ユイ、ツルバラは、船で<バスケタ>に来ていた。そこで妙な人物に会う。


美しい顔をしたメガネの<吸血鬼>。

ロエ2である。

結局彼女は転職クエストに失敗していた。

他の冒険者と<典災>を葬ったはいいが、イタチの最後っ屁というやつで、こんな遥か彼方まで転送されてしまっていた。

むしろ、当初の目的の<ジャクセア>の方が近い。


「と、まあそんなこんなで私が企画したサプライズパーティーは、私抜きでやってるかと思うと非常に遺憾なのだ」

「は、はあ」


ちっとも要領を得ない説明であったが、悪い人物ではなさそうだというのはわかる。


ただし背中のバッグにイモを小山のように詰め込んでいるのが、若干怪しい。聞けば食料にするためらしく、上の方は調理済みポテトサラダなのだという。


吸血鬼はシモクレンの首筋をクンクンと嗅ぐ。

「ちょ、ちょい。なにするん!」

「いやー、私の知り合いの<羅刹>ちゃんの匂いがしたからねえ」


「ほ、ほわわ」


サクラリアが口を手で押さえて横目でシモクレンを見る。

「にゃあ様だとちっこいから、抱っこすると新手のたわわチャレンジみたいなことになるもんねー。<羅刹>ちゃんに憑依(はい)ってもらったわけね。おほほほほ」

「な、ちょ、ちょっとハグしただけやって。そ、それにそこまでちっこくあらへんって」


「大人なんだから照れなくていいってー。しばらく会えなくなっちゃったんだから。仕方ない、仕方ない」

「ほ、ほわわ」


ユイとツルバラがキョトンとした表情をしている。

「ってことは、吸血鬼の姉ちゃんは、ウサギの兄ちゃんの知り合いってことか?」

ロエ2はメガネを光らせて答える。

「どっかの門を壊したときに、一緒にいたってだけさ」


ロエ2ののほほんと喋る様子から、誰も例の<ナカス南門破壊事件>と結びつけなかったらしい。

仕方がない。そこらあたりの出来事を情報交換する間があまりにも足りなかったのだ。


「いやー、悪いねえ。船に乗っけてもらって」

「なんで<ジャクセア>に行こうと思うん?」

「ちょっと世界を守ってきます」


舳先で潮風を浴びながら、ロエ2は答える。


「吸血鬼の姉ちゃん、かっこいいな。なんか手伝えることあるか」

「んー、ポテトサラダ作ってくれたら嬉しいんだけど」


ユイとサクラリアは顔を見合わせる。

ツルバラが陽気に叫ぶ。


「前にここを通ったときはギルマスのせいで死ぬ目にあったけど、静かなもんスねえ!」


エンカウント異常の桜童子がいないだけで、戦闘回数が激減するためのんびりとした気分になってしまう。


だから<la flora>の軌跡が一部だけ小山のように盛り上がったことに、ツルバラは気付かなかった。


「静かでいられるといいね」

後ろを見ていた吸血鬼ロエ2だけは海上の変化に気付いていた。


「なあ、今、しなかったか? <典災>ってやつの気配が」

ユイが敏感にそう言ったとき、海上は穏やかな海に戻っていた。


「さあ、どうだろうね」

ロエ2は静かに微笑んだ。



■◇■10.03 フィジャイグ組


ロエ2を送り届けた後、船は<フィジャイグ>本島に辿り着く。

キャン=D=プリンスや、ウミトゥク、マヅル、カニハンディーン、クガニたち「フィジャイグ組」が太鼓や鳴り物を鳴らして出迎えた。


「【工房ハナノナ】解散したってマジですか」

猫人族のキャンDは艶艶とした黒い毛並みを光らせて、シモクレンに尋ねた。


「にゃあちゃんが黒幕の本陣近くに乗り込む計画でね。万が一失敗した場合を考えたら、ギルドがにゃあちゃんの負担になりかねない。にゃあちゃんもうちらに累が及ばないようにって考えて、一応無期限解散ってことにしたんよ」


「無期限解散・・・」

「心配あらへんよ。ゲーム時代と違って、解散宣言したからってすぐに離れ離れになるようなひ弱な絆やないって」


「じゃあ桜童子さんが戻ったら【工房】復活ですね」

シモクレンの顔がパッと明るくなった。責任感が彼女の両肩にのしかかっていただろうから、【工房ハナノナ】が復活すると思うだけで気が楽になるのだろう。まあ、それだけではあるまいが。


「ウミトゥクさんもお疲れ様やったね」

<機動戦線アマワリ>の実務長官を務めるウミトゥクをシモクレンは労った。

静かに礼を返す。ウミトゥクは寡黙で職人気質なところがある。だが、律儀で有能だ。

「ここのところはどうやった?」

「十五日間で三十四回の侵攻。日中は筏のような船に乗った<醜豚鬼>の船団と<翼竜>の襲来。日没後は<黄泉騎士>と<不死者>の襲撃。消耗品の武器の使用量一日平均千、水薬は千五百、宝珠は七十、矢と解毒用の水薬の使用量が飛び抜けて多く、大量輸入も考慮していたのですが、レンさんが来てくださったのなら水薬の方は一安心ですね」


「一日二回なら、四回多いのはなんでだ?」

ユイが聞くとマヅルが答えた。

「おそらく最初のボスといったところかもしれませんね」

「ボス?」

「ええ、<冒険者>のみなさんが言っていました」

マヅルもユイも<大地人>なので、自分で口にしながらピンときていない部分がある。


「んー。十日すぎて、より強い敵が現れたってわけか? で、マヅルの姉ちゃん。どんな敵なんだ」


「それが、私たち<機動戦線アマワリ>としては実に口にしがたい敵なのです。と、とにかく他の<黄泉騎士>とは格が違うのです」

「言いづらいなら、カニの兄ちゃんに聞くか。カニの兄ちゃんは知ってるか」


ニワトリっぽい顔をした青年は、料理に関する記憶以外はほとんど脳にとどめない。

「ん、ん、ん、忘れた」

案の定だ。


「わーはわかるばー。敵は二人いてさー、<ゴサマル>と<アマワリ>って名前だったばー」

彼女はクガニ。本当は【工房ハナノナ】に入れてほしくてたまらないのだ。役に立つところをたくさん見せて認められたいのだ。

だが、ウミトゥクに咳払いで注意されてクガニはしゅんとする。


「大丈夫よ。ウミさん、私たちに気を使わないで。問題は敵も<アマワリ>っていうことなのね。ねえ、レンちゃん。にゃあ様だったらきっとお気楽に言うよね」

「『<アマワリ>ってんなら、話も通じるんじゃねえのか』ってね。クガニちゃん、気にせえへんでね」


小麦色の肌をしたクガニは肩をすくめて微笑んだ。



■◇■10.04 新機動戦線アマワリ



「やあー! レンちゃーん! 愛しとーとよー」

<波路厳王>こと【アロジェーヌ17】ギルドマスター・フルオリンはシモクレンを見るなり抱きついた。


いくら、ウミトゥクたちがついているとはいえ、<機動戦線アマワリ>の最高責任者という立場は重荷であったのかもしれない。


彼女はギルマスを務めてはいるが、その下にナンバー2、ナンバー3がいるから成り立つのである。とりわけナンバー2がしっかりしている組織は結束力と実行力が高い。【アロジェーヌ17】はナンバー2のクロライン、ナンバー3のあすたちんでもっていると言えるだろう。


「矢の調達は大丈夫なん?」

「うーん、そこら辺はクロラが何とかしてくれるはず」

着流し姿の<冒険者>は「丸投げかよ」とぼやいた。


「四日前からネームドモンスターが現れたらしいやん。どんなヤツ?」

「ああ、アマワリのこつね。パッと見、二十四人級ってとこ? あいつが現れると突然大嵐が起きるから海上戦闘ができなくなるとよ。ゴサマルの方は、なんか火炎放射器のような大砲のようなんで射ってくるし、まあやりづらいの、やりづらくないのって」


「やりづらいんやね」

こくんとシモクレンの問いに頷くフルオリン。


「やりづらかよー! ホントやりづらか! もうね、『<アマワリ>出動!』とか言ったら向こうまで動くしね! 『あんたじゃなかと!』って言ったらクロラまで止まっちゃうし」


「紛らわしいんだよ!」

クロラインがまたボヤく。


「え? やりづらいのは名前の話?」

思わずシモクレンは吹き出した。


「ちゃんと対策は立てたっちゃんねー。<機動戦線アマワリ>っていう名ぁ、改名ばすると!」

自信たっぷりに言うフルオリン。


「レンちゃんたちも入って新しくなったフィジャイグ防衛ラインの名はー! <()機動戦線アマワリ>よ!」


「アマワリの部分は変えんのかーい!」

<フィジャイグ>の港にシモクレンの叫びが虚しく吸い込まれていった。

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