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狼さんの初恋  作者: 遊月奈喩多
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頁に突き立てられる牙

おはようございます、遊月です! とてつもなくお久しぶりの更新となりました~♪

さてさて、突然ですが今回で『狼さんの初恋』は最終回となります!

色々な事情があってしばらく更新滞っていましたが……。


本編スタートです!

「おい」

 明らかにいかがわしげなホテルの前にいる奈津(なつ)と、彼女を(わら)うような言葉を発する男を、健志(けんし)は思わず呼び止めていた。

 どうしてかはわからない。そんな理由など考える暇もなく、思わず声だけが先に出ていた。だから2人がこちらを振り返ったとき、却って焦ってしまった。


 一体、俺は何をしている……!?


 健志はこれまで、このような行動をしたことがない。そもそも、他人にここまで関わることがなかった。

 表面上……“同じ空間”にいる間は相手のことを気にしたし、“その場その場に応じた振る舞い”の中には、目の前にある建物を使うような行為がないわけではなかった。肌を合わせた相手ともなれば、それはまぁ他と比べたら、多少は何かしら気にすることも多いだろう。鈴城(すずき)などがいい例かも知れない。


 しかし、こんな風にはならなかった。


 しつこく構われて、鬱陶しく思いながらも相手をし続けることが? 自分といない間どうしているかと気にしたことが? 果たして、そんなことがあったか……? 自分の『ほしい』時に応じてくれるなら、あとはどこで何をしていようが気にならない……そのはずだった。それが1番問題なく、何よりも楽でいられることのはずだった。

 そもそも、ただ肌を合わせていたとしてもそれだけで、束縛し合うほどの関係ではないのだから。それをお互い心得たうえでの関わりこそが理想的……そう思っていた。

 いや、思っている。

 だからこそ、自分の行動の意味がわからない。


 何でこんな、まだその機会を窺っているだけの段階のやつにここまで心を乱される?

 肌を合わせていないようなやつに、俺はここまで執着している?

 他のやつの影が見えただけで、ここまで胸が苦しくなる……!?


 よくわからない。

 わからないが、それでも。


 どういうわけか、我慢などできそうもなかった。

「ちょっと来い」

 戸惑った顔をした奈津の手を引き、その場から離れようとする。頭の中で自問自答を繰り返しながら。

 と、後ろから肩を掴まれる。

「ねぇねぇ君さ、急に来てどういうつもりなのかな? この子はボクと約束してんだけど」

 奈津と話していたときのような軽薄な様子をそのままに、ただ獲物を逃すまいとする眼光が付け足されていた。

「つか、自分ら学生なんで」

 その目を睨み返しながら会釈だけして、構わずに歩き続ける。

 心の準備がないわけでもない。


 もしかしたら更に強く止められるかも知れない。もしくはこの様子だと、何か力に訴えた手段に出てくるかも知れない。


 だが、それならそれでちょうどいい。


 今のむしゃくしゃした気分を、たまにはそういう方法で解消するのも悪くない。

 そんな風にすら、今の健志は思っていた。

 しかし、男の反応は健志の創造に反して淡白なもので。

「あっそ、まぁいいけどさ。でもやめといた方がいいよ~? その子ただの変態だし。そのくせ人のせいにするの上手いっつーかさ? まぁ世の中広いから別に、」


 ドンッ


 派手な打音がするわけでもない。かといってよくあるような鈍い音もしない。

 ただの感触だけだった。

 久々に殴った人の顔はやはり肉の塊で、なのに中途半端な筋線維があるからか手ごたえだけが返ってくる。拳だけじゃなく手首まで少し痛くなったような気がしたが、目の前の男の口を少しでも塞げたならそれはそれでいい。

 背後から何か声が聞こえたが気がしたが、もう構うことなく健志は奈津の手を引いてその場を後にした。



「ねぇ、那賀嶋ながしまさん?」

「…………」

「那賀嶋さん!」

「――――あっ。……あ?」

 背後から大きめの声で呼びかけられて、ようやく健志は、自分がいま奈津を連れて歩いていることに気が付いた。いつまでも握っていた手の中では互いの汗が混ざり合っており、吹き抜ける夕風がより一層冷たく感じた。

 一体どれくらい歩いたのだろう。

 見渡すと、辺りはすっかり見知らぬ場所になっていて、しかも立ち止まった瞬間に汗が噴き出てくる。恐らく、夏の暑さだけではないのだろう熱をどこかに逃がそうと、必死に。

 そんな中、奈津が静かに口を開いた。

「あのさ、さっきの聞いたよね」

「あいつがお前のいつも言ってる婆さんってやつなのか?」

 奈津の質問に答えず、健志は尋ね返す。頷いた彼女に「そっか……」と落ち着いた声音で返した健志だったが、その内心は穏やかなものではなかった。


 どう見ても子どもにしか見えない――高校の制服を着ていなければたぶん年齢よりも少し低めに見られるだろう――奈津の体を知っている誰かがいる。そのことがどうしてか胸をざわつかせて。噛み締めた歯からはゴリ、と鳥肌が立つような音が聞こえた。


「知ったことかよ、そんなの」

 それでも、どうにか返した言葉はそんな強がりじみたもので。


「何か嫌なことあったら言えよ。絶対に何とかしてやっから」

 全てを把握したい欲求のままに、言葉を紡ぐ。


 別に、それだけのことで訣別には至らない。

 今更聞いたところで、きっと出てくるのはよくある話だ。

 そうわかっていても。

 もう、どうしようもないほどにぐちゃぐちゃになった感情を抱えたまま。


 少年は、恋を知った。

前書きに引き続き、遊月です。

このお話を書き始めたとき、遊月の方でも色々なことがありました……(懐かしいです)

その「色々」を詰め込んだからか、途中で冷静になったとき「わぁ///」となったのもいい思い出です(笑)

何だか健志くんには妙な親近感というか相棒意識が芽生えてましたねぇ……(*´艸`)


ということで、健志くんが恋に落ちる物語はこれにて閉幕です。

牙を突き立てられたページの外側へ……?

ではではっ!!


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