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狼さんの初恋  作者: 遊月奈喩多
4/5

森の奥に佇むおうち

こんばんは、寝不足でかなり眠くなっている遊月です!

そんな状態で「エクスプローラーの問題」とかいう理由で2時間書いてたものがなかったことにされたら、泣きそうになるのも無理ないのでは? ということを言ってしまうのも、きっと眠いせい(笑)


ということで、本編スタートです!!

 放課後の中庭で、重ねていた唇を離しながら那賀嶋(ながしま) 健志(けんし)は尋ねる。

「なぁ、俺っていつもこんな感じかな」

「えっ、那賀嶋くんどうしたの、急に? ……うん、別に普段と変わらないみたいだけど?」

「あー、うん、そっか。ありがとな、鈴城(すずき)

 突然の問いに多少戸惑いながらも答えてくれた、風紀委員長であり健志の【友達】でもある鈴城に礼を言うと、そこで「あ、そういうのは変わったかもね」と返された。


「え?」

「何か、笑顔が優しくなってるよね、那賀嶋くん。最近何かいいことあったのかな?」



 あー、そういうつもりはなかったんだが。

 夕立でも降りそうな曖昧な暖色の空を見上げながら、鈴城の言っていたそんな言葉を思い返す。

 那賀嶋 健志は、最近「自分らしさ」というものを気にするようになっていた。といっても、自分探しの旅に出ようなどというつもりは一切ない。

 ただ、「こういうとき普段の自分ならばどう振る舞っているだろうか」ということを考えるようになってきたのである。


 原因は、認めがたいほどに明白だった。

 最近……といってもそろそろ出会って1ヶ月くらいにはなるのだろうか、それくらいの時期に知り合った、赤崎(あかざき) 奈津(なつ)

 いつも何かしら赤いものを身に付けている、小柄でうるさくて、色々オープンに見えてどこか掴みどころがなく、そして未だに健志が「そういう」ことに持ち込めていないほぼ唯一といっていい相手。

 そんな相手とどうしてそこまで長く付き合っていられるのか、健志自身もよくわからないが、どういうわけか、奈津の騒がしい話に付き合うのも悪くない、という風に思い始めてもいる。

 それだけならまだいい。

 しかし、健志は自分の中に芽生える更なる変化を自覚せざるをえない段階に来ていた。


 奈津がいない日は、どうにも気持ちが落ち着かない。


 初めてメッセージを送った日から、奈津がいるのが当たり前のような感覚を持ってしまっている。いない日は落ち着かず、思わず探してしまった日などもあったりするくらいだった。そんな健志の様子を周りがニヤニヤと見守っていたのは言うまでもない。

「まぁ、退屈はしないやつだからな」

 小うるさいくらいの方が、ずっと押し黙っていられるよりはまだ気分がいい。

 実際に事を構えるにしても、変に緊張している相手だとそれを解すところから始めなくてはいけないが、ある程度テンションの高い相手ならそのまますぐに始められる。

 それと同じことだ。

 だから、あの異様に陽気な後輩といるのは心地いい。それだけだ、と自分に言い聞かせるように健志は深く息を吐きながらその気持ちを浸透させた。


 その直後にはもう気分を切り替えて、健志は先程まで唇と肌を重ねていた鈴城のことをまた呼び出そうとしていたのだから、それは偶然だったのだ。


 偶然にも少し道を逸れて。

 その先に、偶然にも奈津がいて。

 彼女の顔が、少しだけ陰って見えたのだ。


 別に、心配したのではない。

 ただ単に、奈津が別れ際に『今日はおばあさんちに行くんだ!』とやたら明るい調子で言っていたのを思い出したのだ。

 よほど懐いているのだろう、健志が知っているだけでもけっこうな頻度でその「婆さん」のうちに向かっているようだが、そういえばその道中の様子を見たりすることはなかった。別に興味を持つようなことでもなかったし、仮に持ったとしてもそれで奈津のあとをつけたりするほど、普段の健志は彼女に就寝しているわけではなかった。

 ただ、偶然に道を外れた場所に立って。偶然に鈴城を待つために健志には時間が必要で。偶然にもそのいつも通らない道に見知った顔がいて。その様子に、いつもとは違う何かを感じて。

 そして、奈津が懐いている「おばあさん」というやつにも、少し興味が湧いた。

 つまるところ、単純な好奇心。

 もしも後ろからつけているところを見つかったらどうなるだろう?

 いつものようにどこか茶化したような、それかあの陽気な調子で絡んでくるのだろうか。

 それとも、さすがにプライベートな部分ということで、珍しく真剣な反応をしてくるだろうか。

 もし、いつもと違う反応をするとしたら、そういうのも面白いかもしれないな。


 言ってみれば、そんな半ばゲーム感覚にも似た軽いイタズラ心を主な原動力に、健志は奈津の後をつけ始めた。

 彼にとって通学路というのは、自宅や近所のホテルと高校を結ぶための道でしかないため、普段歩く道から外れるようなことはほとんどなかった。だから、いつも通っている道の近くといっても、奈津を追って歩くその道は、見知らぬ街の景色にも似ていた。

 狭い家々の間を通り抜ける、静かで翳った細い道。

 そこから見上げた赤い夕焼け空は、見たことのないものに感じられた。

 所狭しと建てられたのだろう、ベニヤ板の目立つ古びた住宅が立ち並ぶ路地を何本も通り過ぎて、まるで自分がつけているのをわかっていてわざとどこかに迷わせようとしているのではないか、という被害妄想じみた気持ちが健志の中で広がり始めた頃。

 ようやく、道は健志のよく知る風景を映し出した。

 しかし、健志が感じたのは安堵などとは程遠いものだった。


 一瞬立ち止まった、赤いキャラクターものの髪飾りをつけた後頭部はどう考えても健志が普段利用している安ホテルを見上げており。


 そこに向かっていく足取りは、軽いものではなかったがどこか慣れた様子で。


 そして、「あ、おばあさん」と彼女が声をかけた先にいたのは、どう考えても彼女の祖母などには見えなかった。そもそも、「お婆さん」と呼ぶべき人物でもなかった。


「お、今日も来てくれたんだね、『赤ずきん』。相変わらず、赤い物付けてるんだね~」


 奈津に気さくに――どこか見下したようなニュアンスすら感じる様子で――ヘラヘラと笑いかけるその人物は、どう考えても、健志たちよりほんの少し年上というくらいの男だった。

 どう考えても「そういう」目的で利用されるホテルの前で男女が合流したら、大体においてその後の筋道はもう決まっている。

 健志だって「そういう」ことを何度も何度も繰り返してきた。

 ただの自然な行為。

 それでも。

 

 健志にはその光景が、どこか現実味のないものに見えて仕方がなかった。

前書きに引き続き、遊月です!

うむむ、とことん不穏なお話になってきてしまいましたね(・・;)

このお話はどこに向かっていくのでしょうね……!

また次回の更新でお会いしましょう♪


ではではっ!!

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