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狼さんの初恋  作者: 遊月奈喩多
3/5

赤いずきんの女の子

こんばんは、7月に入っていよいよ薄着になり始めてきた遊月です。

『狼さんの初恋』3話、「赤いずきんの女の子」は奈津さんのお話になるはずが、気付いたら健志くんが悶えてる感じのお話に……?

こほん、本編スタートです!!

 久方ぶりの、静かな通学路。曇っているのか晴れているのか曖昧な朝の空を見上げて、那賀嶋(ながしま) 健志(けんし)は湿気の多い空気にうんざりしながら高校へ向かっていた。

 暑さについては、別に問題はない。そこまで暑さに弱いわけでもないし、湿気こそ多いが時々吹く風はわりと心地いい。言うなら、換気扇の壊れたホテルの個室の方が、エアコンを点けていても、蒸し暑いくらいだ。

 なので、暑さは問題ない。

 だというのに、妙に調子が出ない。調子が出ないと、平気なはずの熱気にさえ心が重くなっていくし、そして、訳もわからずただ走り出したくなるような閉塞感すら芽生えてくる……そんなことをすれば、まず間違いなく変人扱いだが。

 仕方がないのでもう既に登校しているであろう友人たちに適当に通話アプリでメッセージを送り、そのままとりとめもない通話を始める。

 健志の通う高校では、授業中に使わなければ携帯の持ち込みは禁止されていない。実際その制限が守られているかは知らないが、少なくとも校門で止められることはないわけである。風紀委員たちの群れを通り抜けた頃に友人たちとの会話にも一区切りついて、その段になってようやく、思い至った。

 今日は、随分スムーズにここまで来られたな、と。


 そんな彼の脳裏には、いつも騒がしい、最近知り合った後輩の顔が浮かんでいた。



 女子とあればほぼ誰にでも愛想よく、相手の望むような振る舞いをしてみせるのが常である健志だが、例外が数人おり、そのうちの1人がその後輩、赤崎(あかざき) 奈津(なつ)だった。

 彼女について語るなら、とにかく騒がしいというのが健志の印象だろうか。しかしクラスでは静かな方だと言うのだから不思議なものである。

 奈津本人曰く、クラスで浮かないように色々頑張っているとのこと。

『お前が浮かないクラスなんて、俺の学年になくてよかったよ』

 冗談半分に言ったこともあった。奈津も確か笑っていたような気がする。とにかく、そういう話を聞いても信じがたいほどに、奈津は健志の前では騒がしいのだ。

 いつも元気……というかどんなときでもうるさい、という印象が強い奈津との関わりは、それでも健志にとって決して嫌なものではなかった。

 もちろんそのことを健志本人に言ってみせたところで決して認めはしないだろうが、それでも彼女に遭遇したときに話す内容を考える時間ができるくらいには、彼自身も奈津との時間を楽しんでいる。


 まずは、出会った夜のことだろう。

 その時だけは、夜だから当たり前だろうが、それからの付き合いで見せるような明るさ……というより騒がしさはなく、ただ静かな姿だった。

 そんな姿を最初に見てしまったせいか、妙に放っておけない存在になっている。

 そして、それと多少繋がるが、奈津の容姿は決して悪くない。というより、きっと他の生徒たちの中では1番……とまではいかないにしても、かなり可愛らしい顔立ちなのは間違いないのではないか、と健志は思っている。

 それに合わせるように全体的に小さめの体も、それならそれで抱き心地がよさそうな気もする……そんな(よこしま)なことを考えてもいた。

 だから、「そういうこと」をできていないうちに彼女から離れるのは健志としては望まざるところだったし、それにたとえ「そういうこと」に持ち込めなくても、健志は奈津との時間に、もどかしさと同時に妙な満足感を覚え始めていた。


 休み時間、健志は1年生のクラスを訪ねていた。

 口実としては、ただ部活の後輩に顔を見せに来ただけと言いつつも、その目は忙しなく赤色を探していた。

 奈津はいつも、何かしら赤いものを身につけている。

 ヘアピンであったり、イヤリングであったり、リングも着けていることがある。教師の目があるところでは外しているらしいが。通学カバンに付けられているアクセサリーにも赤いものが多い。

「赤好きなのか?」

 以前そう尋ねたときに「え~、気になるの?」と大して面白くもない返事をされたが、顔のにやけ具合からしてかなり好きな色なのだろう。

 まぁ、それはどうでもいいことだけどな……健志は自分に言い聞かせるようにその言葉を意識して、一通りクラス内を見回してから、後輩の耳元で、周りに聞こえないように尋ねる。

「なぁ、このクラスの赤崎ってちっこいやつ、今日は休みか?」

「えっ、赤崎ッスか……? えっと、どうだったかな。確かいなかったような……。ちょっと訊いて来ま、」

「いや、そこまではしなくていいから」

 立ち上がりかけた後輩の肩を押さえて止めてから、健志はもう1度クラス内を見回す。……やはり、赤いキャラクターもののストラップが付いた通学カバンは見当たらない。

「……悪い、邪魔したな」

 健志は後輩のクラスを後にして、特別教室棟に向かう渡り廊下にやって来た。

 日差しと湿気、そして日光に曝されたコンクリートの熱気でどうしようもなく暑い場所だが、それも特には気にならない。この場所には慣れているし、安ホテルに比べれば空気が流れている分過ごしやすい。

「あぁ、くそ……!」

 我知らず、悪態が漏れる。

 それは確かに、「そういうこと」をしようと甘い言葉で誘って、少しずつ距離を縮めてきた。

 といっても、うるさいし面倒だし何より「そういう」方向に誘うのにやたら苦労する、いや何故か誘うこと自体できない相手なんて、別に構う必要なんてないはずなのに。

 いなきゃいないで、風紀委員の鈴城(すずき)とか、教育実習生の大庭(おおば)とか、「そういう」相手はいるのに。

 どうして、赤崎がいないくらいで俺がこんなに動揺しなくちゃならない……!?

 爆発しそうになる感情のまま、苛立ちをぶつけるように健志は奈津から教えられていたIDでメッセージを送る。

『今どこだ?』

 メッセージにはすぐ既読が付き、『おばあさんのとこ向かってる』というメッセージが返ってきた。

 健志はその場で思わず笑い、脱力してしゃがみ込んだ。

 何だよ、つまりこいつは学校サボってばーさん()に行ってたってか? 心配して損した……。

 溜め息が漏れる。

『じゃあ、今日はサボりか?』

『そうなのです!! 那賀嶋さんはいつも学校来ててスゴイねー!』

『こっちでもうるさいな、お前』

『えへへー!!』

 そうこうするうちに予鈴が鳴り、昼休みが終わる時間になった。余計な目を付けられない為にも素行に「気を付けてはいる」健志は、渡り廊下を出ようとして。

 最後にメッセージを確認すると。

『心配してくれてありがとう、狼さん♪♪』

「いや、心配してねぇから!!!」

 そのメッセージと、それを見て思い出した、先程の奇妙な安堵を否定するように、思わず叫んでいた。


 冷静じゃなかったから、思い至らなかった。

 最初に返ってきたメッセージが、他と比べて淡白な……それこそ初めて会った奈津の姿同様、妙に静かであったことに。

前書きに引き続いて遊月です、こんばんは!

私個人はあまり文章に顔文字とかを入れるタイプではないのですが、メール部分は入れた方が自然だったかしら……?

さて、何やら不穏な空気です。

宣言通りハッピーエンドにできるのか、私!? 健志くんと奈津さん、2人の明日はどっちだ……!

ということで、また次回。

ではではっ!!

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