狼さんと赤ずきんちゃん
こんばんは、この時間の投稿も初めてとなる遊月です。今回は、今までのお話と少し毛色の違うお話となると思われます!
もちろん、それは本編がもっと進んでからのお話ですが……。
では、本編スタートです!!
草木も眠る丑三つ時。そんな言葉があるが、今ではもはや古典的な怪談話の導入として使われるのが関の山で、もう草木どころか街も人も、どんな時間であれ寝静まることはない。
駅前に佇む、見るからに如何わしい雰囲気の古びたホテル。その一室にも、倦怠感の混じった2つの吐息が眠ることなく充満していた。
ひゅーひゅーとか細い息を漏らしながらベッドの上で仰向けになってどこかを見ている彼女を室内の椅子に座って眺めながら、那賀嶋 健志は紫煙をくゆらせていた。2人分の体液を吸い込んだシーツの上に寝ていられる神経がわからない。そんなことを考えながら。
「ねぇ、次はいつしよっか」
まだ荒い息を整えることもなく、彼女は健志に尋ねた。
そこには媚びたような色香も感じられたし、互いに割り切った仲であることからくる気楽さも感じることができた。
だから健志も、気楽に嘘を吐く。
「近いうちにまた、会ってもらっていいですか?」
もちろんそんなつもりなど微塵もないことは、きっとお互い様だった。
健志は改めて、自分にまとわりついている彼女を見つめる。
スタイルはいい。顔もいい。元モデルというプロフィールは恐らく本当なのかも知れない。男受けのよさそうな軽いウェーブのかかったセミロングの髪に、しっとりと滑らかな肌。
はっきり言えば彼女は美人だ。名前も素性も知らないが、それでも思わずそそられる。
だが、1度体を重ねてしまえば他とそう変わらない。外面を守る為に抑えていたものを自分を使って発散するだけの、ただの女だった。健志はそんな彼女を冷めた眼差しで見つめている。自分のことは棚に上げて。
だが、そんな意識と体の反応は必ずしも一致しない。だから、「最後にもう1回」という彼女の求めには素直に応じられた。
それが、那賀嶋 健志の日常だった。
「やべ……臭い消さねぇと」
胸焼けするほどに清々しい朝の青空の下。健志はホテルから学校に向かう道の途中で、タバコと香水の臭いがブレザーに染み付いていることに気付いた。このままでは恐らく、校門で確認をとってくる風紀委員に小言を食らう。
「ま、委員長にまで行けば問題ねぇけど」
風紀委員長の鈴城 葉乃とも「親しい」仲だから、彼女を含めて生徒だけが相手なら構わないのだが、顧問を務める体育教諭にまで知られるとどうにもならない。
小言など聞き流していればいいが、それで時間を取られるのはいただけない。そんな面倒事は避けるに限る。
仕方なく高校近くのコンビニで衣服用の消臭スプレーを買おうと進路を変えたとき。
「おはよ、『狼』さん!」
後ろから腰の上辺りを叩かれる。そんなあだ名で呼んでこんなことをしてくる相手は、健志の知る限りは1人しかいない。
舌打ちしながら振り返る。
「てめ、外でそれやめろっつったよな?」
「うーわ、那賀嶋さんこわーい」
「それ以上言うとお前の写真曝すぞ名前付きで」
「ほんとに怖いよ、それ」
「脅すつもりで言ってっからな」
「わぁー」
「さっさと散れ」
健志と同じ学校の夏服を着た少女、赤崎 奈津。健志の後輩であり、今のところ健志にとって最大の悩みの種である。
妙に人懐っこく距離感を感じさせないところや、平均よりも少し低い身長から、実年齢よりも少し幼く見えるかも知れない。
特徴といえば、しっとりと滑らかそうで、あとは形も色具合も肉の付き加減もちょうどいい脚と、艶のある長めの髪くらいだろうか。
赤崎 奈津は健志にとって、つい最近までいることすら気に留めない程度の存在だった。
それが変わったのはここ数週間くらいのこと。
思い出されるのは、数週間前、その日の「彼女」の自宅から出て夜道を歩いていたときのこと。
そのとき、たまたま出会ったこいつに声をかけていなければ……。
健志は何度となく……、もちろん今も、そんなことを思っていた。
目の前には、そんな健志の気持ちを知ってか知らずか、少し幼く見える笑顔でいたずらっぽく笑いかけてくる奈津の顔が。
ほぼ毎晩繰り返している、名も知らぬ女性たちとの爛れた交わりも健志の日常である。そして、もう1つ。
こうして目の前で笑っている下級生を鬱陶しそうに迎え、適当にあしらって登校する。
それも、健志の最近の日常だった。
2話「狼さんの戸惑い」も鋭意執筆中! 短編の予定でしたが、それだと長くなりそうなので連載にしました……(汗)
次回以降もよろしくお願いします!!




