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小路の雑貨屋

 その後もいくつかの食材を購入した。人を掻き分けながら移動しているため、訪れた店は数件でもかなり時間が経ってしまった。


 両手に荷物を持っている移動しているとあることに気が付いた。僕の姿だけではなく、僕が持ったものも他の人から見えないようだ。


 物が浮いていることに驚く者もいないどころか、それを皆避けようともしないのだから大変だ。どうにかぶつからないようにフィーアの後を追う。それなりの量の荷物を抱えているのだが、対して重くないのが救いだ。


 ちょいちょい、とフィーアが指で合図する。その指の先、人混みを外れ少し細い路地へ入った。その路地の先にも色々な看板が並んでいる。大通りとは違いこぢんまりとしたものが多いようだ。


 路地の奥に足を延ばす。がやがやとした人々の声は遠くなる。


「次は、どこに行こうか」


 いくつかの細い交差路を越えると、喫茶店や雑貨屋などが並んだ小路が現れた。石畳に足音が反響する。実は町へ向かう前にフィーアから聞いていた「買い物リスト」のものはすべて買い終わっていた。


「少し休憩にしましょうか」


 と、すぐ先にある雑貨屋を指さす。雑貨屋?と首を捻る僕に、


「私、あの店で働いているのよ。ちょっと奥の部屋で休ませてもらいましょう」


 それでいいのかな、と思いながらも促されるまま入ることにした。窓からのぞく店内にはまばらに人影があるようだった。ドアを開けると、カラカラとベルが鳴る。


 いらっしゃい、と渋い声。レジの奥の店主がチラリとこちらを見ると呆れ顔に変わった。整った顎鬚が雄々しさを引き立てる、可愛らしく飾られた店内には似つかわしくない風貌の男だった。小さな店が並ぶこの辺りの店にしては店内はそこそこ広い。


 淡いグリーンやらピンクやらがそこかしこに並び、数少ない客も女性しかいない。この店主の趣味には到底思えないのだが、不思議な存在感を演出していた。


「ハロルドさん、こんにちは!」

「今日は休みだろ。何しに来た」


 一別もくれず、フン、とさも迷惑だと言わんばかりに鼻を鳴らす。ちょっと疲れちゃって、とフィーアはずかずかと奥へ進む。店の奥は小さな部屋があり、木製のテーブルが1つと椅子が4つおいてあった。よいせと荷物を降ろす。椅子の上にはおけそうもなくドサリと床と音を立てた。


 うお、とハロルドの驚く声が聞こえた。先ほどの扉から顔をのぞかせる。


「なんかすげぇ音がしたぞ……ってなんだその荷物。どっから量出したんだよ」


 確かに、華奢なフィーアが一人で持てるような量ではない。

そもそも店内に入るときはフィーアは手ぶらだったのだから、驚くのも無理はない。


「実は、お昼休憩の時にいくつか買いそろえていたの。お休みの間に家に運んでしまおうと思って」

「いや、買った日に持って帰れよ……」

「ほら、昨日とかは配達の後そのまま帰ったから!」

「それは、ちょっと店によれば……」


 とにかく、と無理やり苦しい言い訳でごまかすフィーア。なんだか強引に丸め込んだ。


「まあいいや。その荷物持って帰るの大変だろ、手伝ってやるよ」


 先ほどまでいた客たちも帰ってしまったようで、今日は店じまいだとハロルドは頭を掻いた。どかり椅子に腰をおろすハロルド。そういえば、思い出したようにフィーアを見た。


「お前の家、町の南側だったよな」


 ええ、とフィーアが頷く。


「最近、あの辺にごろつきどもが集まってるらしい。この町の中は人も多いし、警備しっかりしてるから大丈夫だろうが、お前の家は少し離れたところだろ?気をつけろよ」


「ごろつきども」というのは、もしかしたら昨日見た山へ脇道に進んでいた人々のことだろうか。そうであるならば確かに気を付ける必要がありそうだ。


「まあ、狙われるなら、隣のガルナーレの町だろうがな」


 故郷の町の名前。南方の街道沿いには他に主だった町や村はない。確かに流通が多く警備の固いこの町に比べて、向こうは少し大きな村程度のものだ。山に囲まれた地形であり、ひっそりとしたものだった。


「どうしてガルナーレが狙われるの?」


フィーアの問いにハロルドが答えた。


「そりゃ、警備の薄いほう狙うだろ。っても、最近ガルナーレも自警団を構えたみたいだがな。団員募集中だとよ」


 お前も入るか? とにやけるハロルドだったが、フィーアに軽くいなされてしまった。気を取り直したように、さて、とハロルドが立ち上がる。


「ってなわけでな。荷物持ちがてら家まで送ってやるよ」


 ごろつきどもも心配だからな、と小さく漏らす。


「お言葉に甘えさせてもらうわ、ありがとうハロルド」


 店を出るころには、町並みはオレンジ色に染められていた。先ほどまで抱えていた荷物はすべてハロルドの腕の中にある。おかげさまで体が軽い。


「しかし、どれだけ買いためてたんだよ。俺でも結構大変だぞこれ」


 僕より二回りほど大きな体のハロルドでも大変だという。よくこの荷物を持って僕は移動できていたものだ。正直なところ余り重いとは感じなかったのだが、いつの間に僕は力持ちになっていたのだろう。


 試しに力こぶを作ってみる。ふにふにと柔らかかった。


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