結果的に正解だったよ
「その時は目を疑った。……俺の能力は目的の場所に一瞬で移動する。まあ、瞬間移動ってやつなんだが、移動している間も、周りの景色は見えるんだ。その間に方向転換とかはできないけどね」
216もまた、僕と同じように能力が覚醒していた。よかった、僕とは違い有用な能力みたいだ。
「その移動中に、ニーゴの姿を見た気がした。いや、確かに目があった。だというのに、君たちを助けた後、いくら探しても見つからなかった」
そこで、と216が窓の方を向く。
「戦いが終わってから、色々な人に話を聞いた。皆、口々に君の噂をしていたよ。魔女の再来だとかなんとかね。話に上がる容姿や、フィーアという名前。そうか、助けたあの子は魔女だったんだってね。そう思ったとき、違和感を覚えたんだ」
「違和感……?」
「そう。皆が言うような救世主や英雄なら、あんなところで腰を抜かしているはずないなって」
フィーアの顔が赤くなる。俯く姿を見て、216は意地悪そうに笑った。
「いや、ごめんごめん。……それでさ、一つ思ったんだよ。君は魔女なんかじゃなくて、でも、たぶん不思議な力を持っている。それは君自身の意思とは別に君を守っているんじゃないかってね」
どうかな、と自信あり気にフィーアを見る。確かに、その通りだ。
「戦っている最中も、不思議なことが色々あった。相手が急に倒れたり、吹き飛んだり。後から色々と聞いて、ああ、皆はこれを魔女の力だと言っているんだなって。でもさ」
人が吹き飛ぶ様子や倒れ込む様子を指で再現しながら、216は続ける。
「こういう吹き飛び方って、魔法というにはお粗末じゃないかな。その魔法の主も姿をくらましているっていうのにね。そこで、注意深く観察すると、まるで誰かが戦っているっじゃないかって思えて仕方が無かったんだ」
そうだ、と両の手を強く合わせる。子気味良い音が鳴った。
「これは、さっき見たニーゴが戦っているんじゃないかってさ。いや、正直なところ、かなり飛躍した発想だと自分でも思ったよ」
恥ずかしそうに頭を掻く216。
「でもさ、君についての話を聞いていくうちに、どうしても確かめたくなってしまった。興味本位なのかもしれないし、それにすがりたかったのかもしれない。結果的に正解だったよ。探し人を一気に三人も見つけられたからね」
「三人?」
「ああ、実はローレンとアイシャには世話になってね。昨日家を訪ねたときは、二人ともいないし、家は襲われて荒らされているしで、生きた心地がしなかった」
当たり前だが、知らなかった。まさか、意外なところでつながっているものだなと思った。ひとしきり話をした216は、満足そうに立ち上がった。
「なんにせよ、安心したよ。君の様子を見るに、ニーゴも元気そうだ」
「う~ん、元気といえば元気だけど……両手がボロボロよ?」
「ははは、あいつは喧嘩なんか、からっきしだからな」
言いながらクスリと笑うフィーアに釣られるように216も笑う。一生懸命頑張ったというのに、笑うなんてひどい奴らだ。
「さて、長々と済まない。確かめたいことも確かめられたし、俺は二人に挨拶をして今日は帰るよ。暫くはこの街にいるから、また会いに来てもいいかい?」
力強く頷く僕をフィーアがからかうような目で見ている。
「ええ、ニーゴも怖いくらい喜んでる」
「なんか、君が飼い主か何かに思えてくるな」
呆れる様に笑う216。
「……とそうだ、ニーゴが透明になった経緯はわからないが、俺と同じで研究所を出てから能力が覚醒したんだと思う。俺自身、能力について色々練習してある程度操れるようになった」
フィーアが僕を見る。同じように、216も僕のほうを見る。きっと彼には部屋の壁しか映っていないのだろうが、それでも、僕をまっすぐに見つめているようだった。
「俺は、ニーゴも必ず出来ると思っている。お前が諦めていないのであれば、俺も最大限に力を貸すつもりだ」
熱く揺らめくその眼は鋭く、有無を言わさないような凄みがあった。あの日から半年で、216はどれだけの経験をしてきたのだろう。僕はフィーアに甘えてばかりだったように感じる。恥ずかしいばかりだ。
拳を握る手の中に、じわりと汗を感じるほどの時間、216は僕を見つめていた。見つめられているのだと、僕はそう感じた。
216は小さく息を吐くと、フィーアに向き直った。そこには、先ほどの瞳を感じさせないような、柔らかな表情があった。
「フィーア、君にも協力して欲しい。図々しい事は百も承知だ。だが、今ニーゴと繋がれるのは君しかいない。この通りだ」
216が頭を下げようとするが、フィーアがそれを制した。
「頭なんて下げないで。私だってあなたに救われた借りがある。それに、ニーゴにだって沢山助けられてきたの。私も、全力でお手伝いするわ」
僕のために、二人がこれほどの思いをぶつけてくれている。216が言うのだから、きっとこの能力だって制御できるはずだ。やり方などわからない。が、それでもよかった。頑張ろうと思えた。
二人が手を交わす頃、窓の外はまた一つ盛り上がっていた。皆でグスタフの名を何度も呼んでいる。微かに響くその声が、この部屋の雰囲気にあまりにも合わないために、三人とも思わず吹き出してしまった。




