陽だまりの草むしり
居候を始めてから四日が過ぎた。あの大泣きした翌日の夕刻、フィーアが仕事で町に行っている間手持ち無沙汰なことや居座らせてもらっている申し訳なしさなどもあり、何かできることはないかと尋ねた。
無事、裏庭及び家庭菜園整備係に任命された。
彼女は町の雑貨屋で働いてるそうだが、お世辞にも満ち足りた生活とは言えない。その中で貴重な食糧補給源がこの菜園である。中々に重要な役職についてしまったものだ。とは言え、生まれてこの方植物の世話などしたことがない。
「とりあえず草むしりをしてもらえればいいわ」
と呆れ声なフィーアからのお達しだ。
抜いてはいけないものだけは一通り覚えた。この数日は天気も良く、暖かな陽だまりの中せっせと草むしりに尽力した。そして、頑張りすぎた。この2日間で菜園とその周りはすっきりとしたものになってしまった。つまり、就任3日目にして早速暇になってしまったのだ。
菜園の隅に腰を下ろし、ぽかぽかと陽気を感じながら流れる雲を眺めていた。
いけない、このままでは寝てしまうなと、菜園仕事は引き上げることにした。玄関回りだってかなり草が生えていた。あのあたりでも掃除をしてしまおう。
玄関周りの草むしりをしていると、じんわりと汗をかいてきた。街道わきで山の麓に立っている家だが、どこにいても日の光を感じられる。グイ、と額の汗をぬぐった。顔を上げた視線の先、遠くに人影が見えた。
町と町をつなぐ街道の上。人が行き来をしているのは当たり前なのだが、確かな違和感を感じた。
道の途中で曲がり、山道へと向かっている。この家だって横道を進んだ先にあるのだから、それは自体は特別なことではない。だが、その人影は一人や二人ではないようだった。
あの山の先は、確か隣の国へと続いている。よっぽどの重装備でなければ越えられるようなものではないはずなので、少し入ったところで共同生活でもしているのだろうとは思う。しかし、僕が草むしりをしている間だけでも、5、6人は横道に入っていったように思えた。
日が山影に重なるころに、フィーアが帰ってきた。玄関前に腰を下ろす僕を見て、あら?と小さく驚いていた。周辺の草がすっきり消えていることに気づいたようだ。クスリと笑うと
「ありがとうニーゴ。お食事の準備をするから、その間に汗を流しておいてね」
軽い行水で汗を流してリビングへ向かうと、テーブルの上にはパンとスープが用意されていた。
作り置きのスープは、玉ねぎやニンジンがクタクタに煮込まれている。それが喉を通る時にしっかりと甘さを感じさせた。パンをスープに浸しながら、そういえば、と昼間に見たことを話す。
「街道の横、この家とは結構離れたところだけれど、何人も山道へ入っていったんだ。あの案内板の少し向こう側さ」
「あら、あの辺りの道はあまり整備されていないわよね? 山を越えて国境を越えようとしているのかしら?」
「いや、それにしては軽装というか……たぶん、少し入った先に住んでるとかじゃないかな」
変わった人もいるものね、とフィーア。それを言ってしまえば、この家もわざわざ町の外に立ててあるのだから変わってるといえば変わっている。いや、怒られてしまうなと、言葉にすることはやめておいた。
「そういえば、玄関の草むしりをしてくれていたみたいだけど、お庭のほうは済んでしまったの? 昨日もとても頑張っていたようだけど」
「そうだね。またすぐに手持ち無沙汰になっちゃうかも」
ゆっくりしていてもいいのにと、フィーアは笑う。
「そうね、明日はお仕事はお休みなの。せっかくだし、町を案内してあげるわ」
確かに初日に駆け抜けたくらいのもので、その後町には一度も降りていなかった。姿が見えない以上は一人ではやれることもない。僕は彼女の提案に素直に従うことにした。町の活気を感じることで、何か得られるかもしれない。
今夜は少しだけ、寝付くのに時間がかかりそうだ。
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簡単な昼食を済ませると玄関を出た。この時間は人の流れも多くなり、遠目からでも町の賑わいを見て取ることができた。今日の一番の目的は次の一週間を過ごすための食糧を補充することだそうだ。聞いてない。ちょっとがっかり。
町に足を踏み入れると、より一層騒がしいものとなった。がやがやと、どこを見ても人、人、人。田舎町で育ったものとしては、結構な衝撃だった。
人混みに酔う僕の腕を引き、最初の目的地へ向かった。あの日僕がうずくまっていた路地のところ、八百屋である。ジャガイモを買いたいとのことだ。
「おお、フィーア。いらっしゃい」
店主は気さくに挨拶をすると、おすすめの商品をすらすらと紹介しだした。おしゃべりが好きなようだ。フィーアはニコニコと笑ってそれを聞いている。結局、おすすめには上がっていないジャガイモの袋を手に取った。無駄な買い物はなしだ。
ニンジンも安くしとくよ、と店主。だが、それは我らが家庭菜園の最大勢力である。残念だ。