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四人パーティー

「おい、大丈夫か」


 見開いた目に映るものは、クラフトの顔だった。空の色は青さが消え、夕方であることを示している。見た夢で経過した時間に比べ、実際にはかなり長い仮眠になったようだ。


「嫌な夢を見てな。もし叫んでしまったのなら、済まない」

「いや、他の奴らが集まったから、起こしに来ただけだ。気にするな」


 そう言われて辺りを見ると、確かに人が増えていた。二十人程だろうか。よく見ると見覚えのある顔も見える。


「彼らが、クラフトの言っていた残りの協力者なのか」

「ああ、俺達ほどではないが、腕っぷしは中々だ」


 クラフトは力こぶを作り、パンパンと叩いて見せた。クラフトが言うのだから、彼らは強いのだろう。起きた俺を見て安心したように、クラフトは集まった新顔達の場所へ戻った。


 夕方とは言え森の中だ、木々が光を遮り、辺りは随分と暗くなっている。見覚えのある顔があるという事は、あの日俺以外の脱走者がいたという証拠だ。


 もしかしたらと思い、集まった彼らの近くへ行く。しかし、やはりそこには215の顔は無かった。話を聞いてみても、皆一様に知らないと答えた。


「どうしたのニーロ。知り合いでもいたのかしら」


 無骨そうな男の隣で俺のやり取りを眺めていたシュネリが、声をかけてきた。


「あの研究所で見たことのある奴らも居るみたいだから、知り合いの情報を持っていないかと思ってね」

「そう。いづれにせよ、そろそろ作戦開始だから、余りうろうろしない事ね」


 シュネリの諭されて、持ち場へ戻る。ヴィテスといっただろうか、男の視線がやたらと痛かった。見ていると、シュネリと話す男たちを片っ端から威圧していた。


 彼らはどんな関係なんだろうか、などと考えていると、クラフトが作戦を語りだした。


「まず、今回の肝は情報収集だ。皆が力に自信があると言っても、相手の実態が分かっていない。そこで、俺を含めて奴らの気を引いているうちに、裏から侵入する作戦で行こうと思う」

「リーダー、裏っていうのはどの辺りの事?」


 合流してきた内の一人、細身の女がクラフトに尋ねた。シュネリや他の合流者は皆、クラフトをリーダーと呼んでいた。今回の作戦の首謀者という事なのだろうが、俺は気恥ずかしくて名前呼びのままだった。


 聞かれたクラフトは、木々の隙間から見える研究所の端を指さす。


「ほら、あの端のほう。道なりに進んだ所が、大きな穴が開いているんだ。修理中のようだったが、そのせいで人の気配がしなかった」


 その大穴というのは、俺が開けた穴だろうか。あれから半年も経っているいるのだから、また別の奴が破壊してしまったのだろうか。あの日の記憶があいまいで、よく分からなった。


「裏から侵入するのは、四人。ニーロ、ヴィテス、サンダ、シュネリだ」


 小さく拳を握るサンダと恭しく首を垂れるヴィテス、シュネリの横で、俺だけが驚いていた。まさか、名前を呼ばれると思っていなかったからだ。


 俺からの反論が出る前にと、クラフトはその理由を続ける。


「ヴィテス、シュネリは素早い。戦闘経験も豊富だ。きっとニーロの足は引っ張らない。サンダは一度戦っているからわかるだろう。何かと便利なんだ」


 俺に向き直るクラフト。


「そして、この施設で土地勘がある中で、お前が一番強い。圧倒的にだ。お前以外に任せられない」


 有無を言わさずといった様子。その強い眼光に気圧された。俺の負けだろう。


「わかった、俺が行く。どんな情報を集めてくればいい?」

「施設にいる研究員、警備、被検体の人数は知りたい。被検体の中に、協力を仰げるものがいるかどうかもだ」

「そういった情報って、どこにあるんだ? まさか、一人一人数えろって訳じゃないよな」


 皮肉めいた抗議のサンダ。それに答えるべきは俺だろう。


「それらを管理している部屋が、確か三階にあったはずだ。ただ、奥の部屋だから、辿り着くには戦闘が必要になるかもしれない」

「そこまで行くなら、管理者でも倒しちまった方が早いんじゃないか?」


 当然の疑問と呈するサンダ。それを聞いて、クラフトが小さく笑う。


「出来るならそうしてくれても構わないさ、サンダ。ただ、相手の全容が見えていない中で、無理をするなという事だけだ」


 その言葉で、作戦の説明は終わった。それぞれ組に分かれて持ち場へ向かう。


 出来るなら、という言葉を聞いたサンダが口元を押さえていたのを、俺は見逃さなかった。笑っているのだろうか。嫌な予感がする。


 それはシュネリとヴィテスも同じようで、持ち場へ向かう道すがら、何度も警告と確認をしていた。


 強者の佇まいが馴染んでいるヴィテスと、色々話したシュネリはともかく、俺はこのサンダという男がいまいち信用できないでいた。


 クラフトやその周りの連中からは頼られているようで、それなりの腕っぷしはあるのだろうが、馬が合う気がしなかった。


 ヴィテスはヴィテスで碌に言葉を発さないので、何を考えているかは分からない。振る舞いから強さを推し量れ、その強さは大変なものだという事はわかるが、心配の種としては十分だ。


 不安に頭を痛めながら、目的の場所に着く。前方、草を払った先に見えるのは、大きく穴の開いた壁だ。


 立ち入り禁止、と書かれた看板がある。


 建物正面の森で、チカリと一瞬光った。作戦開始の合図だ。

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