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ハーディーとシュネリ

 それから数日後、マハトは皆を広間に集めるようにと、指示を出した。例の作戦について、公表するらしい。事前に話があるからと声をかけられ、作戦室の扉をくぐった。


 部屋の中にはすでにマハトの姿があり、他に男が二人、女が一人席に着いていた。その集まった顔を見て、なるほどと独り言ちる。あれから誰が選ばれるのか考えていたが、おおよそ想像通りであった。


 座りなよ、と促すマハトの隣には、腕を組んだ姿勢でヴィテスが座っている。その隣には、シュネリといったか、歳はマハトと同じくらいの筋肉質な女が、同じように腕を組んでいる。その向かい側には小柄な若い男、ハーディーの姿があった。


 ハーディーとは修練所でよく組み手をやった。彼の能力は拳の硬化であり、すばしっこい動きから鞭のように叩きつけられた拳は、まるで投石機で撃たれたかのような衝撃だった。こと戦闘力では俺と並ぶ程度の強さがある。能力そのものは地味だが、それを良く活かした戦い方がわかっている。恐らく選ばれるだろうと思っていた。


 ヴィテスは言わずもがな、選ばれるのはわかっていたが、シュネリとはほとんど接したことがなく、その能力も知らない。隣のヴィテスの真似でもしているのか、腕を組んだ姿が様になっている。


「俺で最後だったのか。待たせて済まないな、マハト」


 そう言いながら席に座る。それに答えるように、マハトは首を横に振る。


「あと一人来る。もう少し待っていてくれ。さっき修練所で事故があってな。彼女は少し遅れると言っていた」


 その言葉が出ることを図ったように、背後で扉が開く音がした。振り返ると、そこにメディの姿がある。まさか、まだこいつは反対しているのか。我儘を言うような歳でもないだろうに。


「なんだ、あんたまだ駄々をこねてるのかい」


 それは、メディの言葉だった。その目線の先は、ヴィテスに向けられている。半ば怒りのこもる視線に、軽く威圧されてしまう。ヴィテスに目をやるが、相変わらずの仏頂面で、何を考えているかはさっぱりわからない。その隣で呆れるようにヴィテスを見ていたマハトが、皮肉気に口を開いた。


「ヴィテスは、可愛い妹と離れたくないんだってさ」


 妹。今、マハトは妹と言ったのか。俺とハーディーは目を丸くしていた。初耳である。このアジトの中で家族を持つもの自体が稀であり、ほとんど言葉を発することのないヴィテスに、まさか妹がいるなどとは露ほどにも想像していなかった。


 より難しい顔になったヴィテスの隣で、シュネリは顔を赤らめてうなだれた。


「まったく兄貴にも困ったものだ。いい加減、妹離れしてはくれないか」


 恥ずかしそうに、照れくさそうに兄を突き放すシュネリ。心なしか、ヴィテスの眉が悲しそうに垂れている気がする。ひとしきりの沈黙の後、ヴィテスはバシリと足を一叩きすると、その低い声を響かせた。


「嫌だ」


 それが、俺が聞いたヴィテスの初めての声だった。その後もしばらく沈黙が続いたので、これが彼の最後の言葉なのかと錯覚したほどだった。


 ヴィテスの言葉が、メディの怒りに火を付けた。堰を切ったように怒声が響く。小屋を壊してしまわないかと心配になるほどで、その声はこのアジト中に聞こえてしまったのではないかと思えた。


「あんたがずっと反対しているから中々まとまらなかったんだよ、ヴィテス! 一昨日は首を縦に振ったじゃないか! いい加減にしておくれよ! 情けない。妹バカも大概にしな!」


 今にも殴りかかりそうな剣幕のメディ。それを宥めながら、マハトが理由を説明し始めた。


「ヴィテス。今回の作戦にシュネリの能力は欠かせない。彼女ほどの練度で脚力強化できるものは、このアジトの中にはいないんだ。その格闘での強さもそうだけど、いざという時の伝令役として、これほどの適任者はいない」


 その必要性をはっきりと示されたためか、ヴィテスは困ったような顔をした。もうひと押しと、マハトはさらに続ける。


「君も近い能力があるし、伝令役なら自分でいいと思っているようだね、ヴィテス。でも、俺たちがいない間、このアジトをまとめ上げてもらわなければならない。それは、君にしか出来ないことだ」

「兄貴、決まったことだ。あまり皆に迷惑をかけないで欲しい。私は大丈夫だ。私も、ここにいる皆も強い。絶対に無事に戻ってくる」


 シュネリの決意に満ちた目に当てられて、ヴィテスは溜息をついた。こうも言いきられては、何も言い返せない。しばし悩み、眉間に深い皺を刻む。また一つ、何か諦めたように息を吐くと、ヴィテスはゆっくりと立ち上がった。


「わかってくれて有難う。ヴィテス。妹さんは、俺たちがちゃんと守るよ」


 マハトの言葉を背に、片手を挙げて返す。そうして、ヴィテスは小屋を出て行った。俺もハーディーもその間あっけに取られていたため、嵐が過ぎた後、思わず吹き出してしまった。ヴィテスのあまりにも意外な一面に、我慢など出来ようはずもない。


「あんたたち、殴られたいの?」


 シュネリとメディの両方に睨まれ、慌てて姿勢を正す。この大きな作戦の事前会議だというのに、余りに色々な情報が一度に見られ、これから集中していられるかが不安になった。


 同様な思いを抱えているのか、ハーディーもまた、困ったような顔をしていた。


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