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朝刊の一面

 仕事の邪魔をしてはいけないなと考え、立ち上がる。夕刻までに、一度家に戻っておこうか。それとも、昨日のあの辺りを少し調べてみようか。


 もし先に捕まえることが出来たのなら、それがフィーアにとっての一番の安全だ。なに、ロープででもふんじばって門の前に投げておけば、警備隊が何とかしてくれるだろう。


 ハロルドが外に出るのに合わせて、ドアからそっと店を抜ける。振り返ると、ハロルドが看板をひっくり返すのが見えた。それに合わせるかのように、ちょうど新聞屋が現れる。朝刊を一つ、ハロルドに渡す。


「ふざけるな!」


 少し路地を進んでいたのだが、その急な怒号に僕は足を止めた。もちろん、それは僕に向けられたものではないのだが、声の主がハロルドであったため、気になってしまったのだ。


 ハロルドの怒気は新聞屋に向けて発せられている。可哀想に、若い新聞屋は心底怯えてしまっている。それ程にハロルドの睨み顔は恐ろしかった。


「誰だ、こんな記事を書かせたのは!こんな……」


 何かを言いかけて、チラリと店の中に目を向けるハロルド。その何かを飲み込んだ彼は、新聞屋を連れて路地の陰まで移動した。悪いとは思いながらも、二人の後を追う。その時にハロルドが握る新聞の一面が見えて、その怒りの理由が分かった。


 魔女の再来


 その一文が、ハロルドを怒らせたのだ。いや、ハロルドだけじゃない。僕もまた、怒りが沸いてきた。この町では魔女が良く思われていないのであれば、広まってほしくはない。それなのに、早速新聞で拡散されてしまうのではたまったものではない。


 戻りが遅いハロルドを心配してか、フィーアが店から顔をだした。その店のすぐ先でハロルドが新聞屋に対し殴らんとばかりに詰め寄っている。それを見つけ、大慌てで駆け寄ってきた。


「ハロルドさん、いったいこれは何があったのですか?」

「止めるな、フィーア! こいつは……」

「ぼ、ぼくは配達に来ただけで……」


 すっかり萎縮してしまっている新聞屋と、反対に頭に湯気が昇らんとばかりに紅潮させているハロルド。確かに新聞屋の彼は、店に配達しに来ただけであり、おそらく記事に関係してはいないだろう。少々可哀想になってきた。


 ハロルドの腕をつかんで必死に止めようとするフィーアも合わさったことにより、路地の奥でありながら、数名の野次馬が近づいて来た。しばらくすると、それはちょっとした騒ぎになってしまった。数名の警備隊がハロルドをなだめ、どうにか事は収まった。


 登場人物を見て、皆その原因はわかっているようだ。むしろ、わかっていないのは当事者の一人であるフィーアくらいのものだろう。警備隊が新聞屋と共に帰っていき、ハロルドとフィーアも店に戻った。僕ももう少し様子を見ることにした。ハロルドが何かしなければよいがと心配になったのだ。


 くしゃくしゃに握りつぶされた新聞を、ゴミ箱に強くたたきつけると、ハロルドは何か荷造りを始めた。フィーアと隣、不思議そうに眺めていると、その荷物を背負ったハロルドは、帽子を深くかぶって、少し行ってくると外に出ていった。


「変ねぇ、ハロルドはどうしてしまったのかしら。今日は配達予定なんてなかったはずなのに」


 腹が立ってしまい、仕事どころではないのだろう。恐らく、頭を冷やしに外に出たのだと思う。


「ねぇニーゴ、なんでハロルドは新聞屋さんに怒っていたの? 知ってる?」


 聞かれて、僕は困ってしまった。原因はあの新聞の記事であることはわかっているのだが、それを彼女に伝えるべきなのだろうか。また傷つけてしまうのではないかと心が痛む。いずれは耳に入ることではあるだろうが、昨日の今日では早すぎるというものだ。


 どうしようかと悩む僕を見て何かを察したように、フィーアは小さく頷いた。


「帰ってきたらハロルドに聞くわ」

「そう……だね。なんか、ごめんね」


 気にしないでとほほ笑むフィーアを見て、ますます心が痛んだ。とにかく、ハロルドがいない間は僕が彼女を守らなければ。


~~~~~~~~~~~~~~~


 一日前。

 215(ニーゴ)とフィーアが眠りに落ちたころ


~~~~~~~~~~~~~~~


 まったく、今日は厄日だと、アジトへ戻る山道を歩きながら、俺はそう愚痴を吐いた。腹も頬もズキズキと痛む。一度目は急に男が現れるし、二度目は何がなんだかわからない間に吹き飛ばされていた。


 このご時世に、少女がたった一人で歩いているなんで珍しい。せっかく狙い目だったというのに、結局はどちらも捕らえることは出来なかった。


 まだノルマをこなしていないのは俺だけだ。また奴らにバカにされてしまうのだろう。まったく、腹の立つことだ。せっかく人を痺れさせる能力を身に着けたというのに、何故こうも運が悪いのだろう。重い足を引きずるように、アジトの門をくぐる。


「おい、痺れウナギ! また誰も連れてこられなかったのかよ! どんだけ紳士なんだお前!」


 手ぶらの俺を見て、ガラの悪いバカ達がはやし立てる。気にしないようにと努めるが、やはり悔しいものは悔しい。腫れてしまわないように頬に薬を貼って、今日はさっさと寝てしまおう。腹の痛みも少しは引くだろう。まったく苦々しい。本当に、今日は厄日だ。

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