プロローグ
番号が呼ばれた。215番と216番。
小窓の空いたドアの向こう、研究者達が僕らを呼ぶ。この四畳ほどの狭い部屋で、隣の男がゆっくりと起き上がる。
「行くぞ、215」
その声にせかされて、重たい頭を持ち上げる。
「今日で終わるかな、216」
「どうだか」
216は呆れたように笑う。さっさと終わって欲しいぜと呟くその声は小さく、不安を感じさせるほど沈んでいた。僕より体が一回り大きく、いつも明るい彼ですら不安に思うのだから、僕が憂鬱なのも仕方がない。
ドアの外の研究員が早くしろと語気を強める。216が先に部屋を出た。薄暗い部屋とは違い、ドアの外は明かりが煌々としていて眩しい。僕は目を細めながら後に続いた。
国家主導による「能力の覚醒及び軍事的戦力としての投入」に関する研究。
それがこの施設の目的だと入所初日に簡単な説明を受けた。施設の名前は知らない。個人が持つ特性、能力については、覚醒する年齢や内容などは個人差がある。
入所から4か月経った今も覚醒をしていない僕たちだが、研究者達から漏れ聞こえてくる話を信じるならば、そろそろ終わりが近いらしい。僕たちは自身の能力が何かわからないまま、よくわからない研究の対象となっていた。
この国の人々は貧しい。そして僕たちは身寄りがない。
孤児院を出て数年、宿屋に住み込みで働いていたところに施設からの連絡がきた。売られたのだ。しかしながら、宿屋の主人を恨む気はない。身よりのない僕たちに居場所をくれた恩もある。仕方がないことである。人は皆、余裕がないのだ。
懐かしい顔に思いふけっている間に研究室についていた。頬が緩んでいたようで、216に肘で小突かれた。
研究員に促され、渡された薬を飲むと二つある台へそれぞれ仰向けに寝る。様々な器具を取り付けられている間に意識は朦朧となり、いつも通り夢の世界へと深く飲み込まれた。