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聖女様は、盗賊に会いに行く事になりました《後編》

闇落ちしようと思ったけど、闇落ちにならない。コメディだから

 神官騎士を連れて取り敢えず、宿で休憩する事にした。

(命令違反だと言われたらどうしよう……)

 しかも宿代は神官騎士の財布から出した。神官騎士は使い物にならなかったから出来た芸当だ。


「兄さん。どうする?」

 この旅の目的は聖女ユキムラ様を連れ戻す事。


「あそこまでヤンデレ化したら会いたくないけど……」

「んっ?」

 ヤンデレ?


「ヤンデレってなんだ?」

 あの瘴気から逃げて来たのだけど。

「だって、あれヤンデレでしょ。考えてみれば、神官騎士様が私を庇って逃げたのって逆効果になるんじゃないのかな……」

 だから、ヤンデレってなんだ?


 もしかして……いや、その可能性がある。

「メイプル……」

「なあに兄さん?」

「俺がどうして逃げるって判断したか知ってるか?」

 まさかな。


「知ってるわよ」

 そうか。なら安心……。


「犬も食わない夫婦喧嘩から逃げる為でしょ」

 なんだそれ!!

「あっ、夫婦じゃなかったわ」

 だから意味が分からない。


 犬? 犬が食う?

 犬って人を食べるのか?


「なんでここまでこじれるのかな~。やっぱ、聖女(候補も含む)を国に降嫁させるシステムが悪いのかな~」

 勢力が固まらないようにするためのモノだが。


「兄さん鈍い鈍いと言いたくないけど、鈍すぎ!!」

 妹が冷たい。


「あの聖女様。神官騎士様の事好きなのよっ!!」

 からん

 なんか変な音がしたと思ったら神官騎士が持っていた食器を落としていた音だった。

 割れなくて良かったな。まあ、旅をするから割れない食器を持ってきたんだろうけど。


「本当……ですか……?」

 かなりショックを受けている。まあ、自分が好意を向けられてましたと聞けば動揺もするだろう。ましてや、その好意を向けてきた相手は聖女様だ。

 

 神官騎士……というか神に使える者としてその好意はいろいろと重いだろう。


 例えるなら、自分が得意としている何かを卑怯な手段で勝つような感じだろうか……。取り敢えず、自分がするなんて考えていなかった事を突き付けられたというべきか。


(俺がそれを突き付けられるとしたら、下働きで得た情報を売り飛ばしたり、雇い主を毒殺するようなものか)

 それも違うか。


「本当よ。だから、逃げたんでしょ」

 メイプルの言葉は棘ありまくりだな。

(止めないけど)

「…………」

 神官騎士が考え込んでしまったな。


「しばらく……」

 あっ、口を開いた。

「しばらく一人にしてくれませんか?」

「ええ。分かったわ」

 神官騎士を部屋に置いたまま外に出る。


「大丈夫かな……」

「大丈夫じゃないわよ」

 心配になって告げるとメイプルが断言する。のはいいけど…………。


「何してるんだ?」

 うん。壁に耳を当てて、

「決まってるでしょ。もしもの時を考えて様子を窺っているのよ」

「…………」

 そう言うのはもっとこっそりするものではありませんか。

(まあ、俺も様子を窺うつもりだったけど……)

 怪しまれないように隣の部屋で――別にそのつもりで隣の部屋を借りたわけではないが――するつもりだったのだが、

「取り敢えず、人目が気になるから移動するぞ」

 とずるずるメイプルを引っ張っていく。


「兄さん乱暴!!」

「うっさい!!」

「でも、少しくらい痛くしても……(´∀`*)ポッ」

 何意味分からん事言ってるんだ。


 何とか部屋に運んだが、疲れた。

(何というか体力以前に気力を持ってかれそうになった)

 運ぶたびに、

『兄さんになら、はじめて♡をあ・げ・る♡』

 とか、

『痛くしないでね♡』

 とか、

『お姫様みたいに丁重に抱いてと言わないけど、大事にして♡』

 なんか悪いモノ食べたのだろうか。


(食べてるのは、同じ賄いだろうからな……食中毒いや、そのまま毒かもしれない。今のところメイプルしか影響ないけど、後々の事を考えると皆に注意勧告しておかないと。これでお大尽さまの様子がおかしいとなったら冤罪被せられて処刑されるからな)

 下々の者はいろいろと大変なのである。


「兄さんのその鈍いのは公害レベルだと思うけど」

 ぶぅ垂れている妹は取り敢えず放置しておき、壁に耳を付けて隣の部屋の様子を窺う。


 かたん


 そっと動き出す音。

 そして、

「兄さん!!」

 メイプルが窓を指さして、

「神官騎士が窓から外に出てった~!!」

「泥棒のような事すんじゃねえ~!!」

 しかも目立ちまくっているじゃないか。


 すぐに追い掛けようとするが正直に言おう。

(誰だよ。二階の窓から何もない状態で降りていくバカは)

 俺らは庶民だ。梯子が無いと出来っこない。いや、それよりも窓からよりも普通に階段から降りた方が安全だし早い。

 ので、階段から――正規の入り口から出る事にしたが。


「さっき、あんた達のお連れさん窓から出て行ったね~~!!」

 宿の女将に捕まる。


 そう。曰く、窓から出ていくのは危ない事。

 曰く、料金を踏み倒す気じゃないかと疑っている。


 俺らは神官騎士の脳筋によって足止めされた。いや、これも計画通りという奴か。

 

 女将の説教によって足止めされ、踏み倒すんじゃないかと疑いの目を向けられて、外に出る事を禁じられた。


「マジかよ……」

 このままじゃ神官騎士がまた暴走しかねない。


「兄さん……料金が払ってもらえないかもしれないという事で女将さんに足止めされてるんだよね」

 メイプルが確認する。

「だったら……」

 メイプルの手段は荷物を置いて、私達は荷物を取りに戻るから逃げませんというアピールだった。そして、荷物もほかって逃げるじゃないかと疑われかもしれないので、女将からすれば価値があると見えるモノも置いていく。


 そうして信用を買い取った。


「料金先払いという手段もあったけど」

「あの女将なら二重徴収しそうだしな……」

 それは困るので、荷物を置いてきた。


「ところで、あの女将。俺らに何期待してんだ」

 しょせん下働きだ。お仕事で旅をしているんであって、金持ちだから旅してるわけじゃない。

「価値のあるモノだと思い込んでるけど、あれ、街だと手軽に買える便利グッズなだけだからな」

 そんな事を言いながら走っているのだが、

「なあ……メイプルさん」

 つい敬語になってしまうのは仕方ないだろう。


「なんでデッキブラシを持ってるんですか?」

今必要ないですよね。

「何言ってるの?」

 メイプルがそんなわけないでしょと強い口調で言ってくるが、そう言いたいのは俺の方です。

(なんて言えないな……聞く耳持たなそうで)

 妹の事はよく分かっている。(恋愛の機敏は分からないが)


 そんな事で盗賊の隠れ家に辿り着いたが――。


「いいかい。サナ。君が盗賊をして騒いでもそれを口実に防衛費などという税金を上げるだけで、国に報告しないから汚職は伝わらないんだよ」

「えっ⁉ でも、盗賊被害という言葉が商人から伝われば国が動くんじゃ……」

 何の話?

 いや、あんなシリアスの雰囲気で一時撤退したのに何話しをしてるんでしょうか……?


「神官騎士様っ!!」

 そんな中メイプルが空気を読んだのか読んでないのか分からないタイミングで中に入っていく。


「貴女っ!!」

 聖女様……じゃなくて、魔女が瘴気を放つ。だが、

「退いて下さい」

 ドスの利いた声で――兄さんはそんな子に育ててないぞ――そこに居た全員を脅して、アジトから追い出す。


「さあ、やるわよ」

 腕まくり。

 そして、デッキブラシで瘴気を綺麗に浄化していく。


「…………」

 問。その時この場に居た全員の気持ちを代弁しろ。(三点)


「何してんだ!!」

 デッキブラシで綺麗さっぱり消えていく瘴気。

「あっ、あの……」

 うん。瘴気を出した本人もびっくりだ。


「こんな湿っぽい空気の中じゃ話も進まないでしょ?」

 湿っぽい……。瘴気をそんな表現するなんて驚いたな(現実逃避)


「******。お前の妹は何なんだ?」

「すみません。俺に聞かれても」

 取り敢えず。空気はいろんな意味で読めないのだけは分かります。

 盗賊達も唖然とメイプルを見ているじゃないか……。


「貴女……」

「あっ、そうそう!」

 離し掛けようとしたユキムラ様――聖女じゃないし、魔女っていうのもなんだからそういう呼び方にする――が慌ててメイプルに声掛けようとするのをメイプルは遮って、

「私。神官騎士様とそういう関係じゃないので」

「………はい?」

 そう言う関係ってどういう関係だ?

 尋ねようと――いや、尋ねるというか口を挟むのは危険かと迷っているとグイッとメイプルに腕を掴まれて、

「私には兄さんが居るので」

「えっ、メイプルっ⁉」

「兄さんって、兄妹よねっ⁉」

 ユキムラ様が動揺している。


「実の兄妹じゃないので。――ユキムラ様に悪いですが、私は神官騎士様との関係は依頼人と依頼された者であって、一切合切そんな関係に全く全然指の先ほど成り様もありませんので」

「「………」」

 なんかぼろくそ言われている神官騎士様は意味は分かってないがダメージを受けている。あっ、盗賊の一人が肩に手を置いて慰めてるな。


「………本当に?」

「はい。――兄さん以外興味ないので」

「アーデルはカッコいいのに?」

「好みの問題です。――私は兄さんが一番ですから」

 ぱあぁぁぁぁぁぁ

 あれっ……? ユキムラ様の放っていた瘴気が消えて、彼女から別のモノが放たれている。

(聖女の気……?)

 聖なる何か。そうとしか思えないそれが放たれていく。


「良かった……」

「ユキムラ様。神官騎士様と行動して思いました。――この人ストレートに言わないと通じないですよ」

 何でか、ユキムラ様とメイプルが慰め合うように集まっている。


「兄さんもそうですけど、この人鈍すぎです。ユキムラ様の家で理由も考えてみればわかるのにここまで来て分かってないんですよっ!!」

「ホントっ!!」

「ええ。――何でですか。好きな人が居るのに好きでもない人に嫁がされる。しかも自分の意見は一切聞いてもらえない。家出したくもなりますよね」

「でしょでしょ!! 聖女だと崇めているのに人を道具扱い。冗談じゃないわよねっ!!」

「分かります。知らない所のいきなり連れてこられて、右も左も分からない。そんな不安な日々を何とかしようと努力しているのにいざ覚えたらまるで自分を人形のように力を一か所に集めてはいけないからという事で降嫁という形で譲り渡す。しかもそれが義務のように」

「人を馬鹿にしてるのもいい加減にしてよねっ!! で、文句を言えば『我が儘を言いなさるな』どっちが理不尽な事言ってんのよっ!!」

 だんっ

「なら、聖女なんて辞めてやる!!」

「その意気です!!」

 何か……盛り上がってない?

 置いてきぼり感がすごいんだけど。


 あれっ、盗賊の皆さん。酒を取り出して酒盛りですか? 俺も混ぜて下さい。

 何々。ああなると嬢ちゃんは長いって、ああなる程。じゃあ、酒の肴にするんですね。いい考えてです。


「私の決心を知って追い掛けてくれたと思ったら女連れでしょ!! 人に絶望見せつけるなんてひどくないっ!! 危うく暗黒面に入りかけたわ!!」

「分かります。すっごく分かります。私も兄さんが他の女を連れてきたらどんな手を使ってでも追い出す気満々ですし」

 あれ、おかしいな。なんか、寒気が……。

 ぽんっ

 ああ。ありがとうございます。慰めてくれなくてもいいですよ。


「ってか。聖女って辞めれないものなの?」

 さっきまで聖女辞めてましたよね。

「聖女の条件もあいまいですしね」

 まあ、異世界人というだけだしな。


「騒ぎを起こしていけば辞めれると思ったんだけどね。ここの領主あくどい事して領民を苦しめてるし」

「ああ。それで盗賊」

「そう。でも、思ったより結果出ないし、盗賊を口実にもっと税金掛けるし」

「ああ。それなら……」

 話区切りついたのか。


「兄さん」

「ああ。神殿を通して、手を回した」

 下働きネットワークを舐めるなよ。


「何をしたんだい?」

「……噂って怖いですよね」

 にこやかに告げる。


 下働きネットワークを通して、この街の領主の話。そして、商人や物の流通の変化をそれとなく話したのだ。

「税金が高い。街の人々の生活が成り立たない。それって国の損害ですよね」

 しかも商品は自国以外に行き渡っている。


「もし、賄賂を貰っている者が口を聞いていてそんな事になっていても商人が避けて、自分の所まで商品が届かないのは存在ですよね」

 しかも、

「商売の相手は本物の聖女様が居て、今一番勢いのある国家だとしたら……」

 にやにやにや

 ああ。酒回ってきたな。

 笑いが隠せない。


「じゃあ……これで」

「盗賊家業は無しって事で」

 まあ、それはともかく。


「神官騎士様」

「ああ」

「どうします?」

 ユキムラ様はメイプルと話しているうちに魔女の力が消えて聖女に戻っている。


「……正直。迷ってる」

「……」

 まだグダグダ文句を言っている二人を見てると神殿に戻していい事はないと思われる。

 うん。また家出されるオチじゃないのかな。


(まあ、ここら辺は俺が口挟む事じゃないか)

 取り敢えずお仕事は終わったし。


「宿代を払ってから帰りますよ」

 その宣言に神官騎士は渋い顔になった。

「素直に戻ってくれるだろうか……」

「知りませんよ」

 ってか。やっぱ連れ戻す気だったのか。


 呆れつつ、とりあえず高みの見学という事にして、後日頬に紅葉を付けた神官騎士と聖女ユキムラ様を連れて神殿に戻る。


 彼らがどんな話をしたか不明だけど。恋愛結婚という形で招待状が届く事になるのだが。その時の俺らは知らなかったりする。



聖女様の本日の武器デッキブラシ。

神官騎士は押しかけ女房を手に入れる。

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