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聖女様は、盗賊に会いに行く事になりました《中編》

前後編で終わらせたかった……。

 神官騎士が動揺しているのが分かる。


「なあ、メイプル」

「なあに、兄さん」

 動揺している神官騎士を取り敢えず置いておいて、

「さっき、神官騎士が呼んだ名前聞こえたか?」

 音として、言葉として理解できたか?

 そう尋ねると、

「……サナ。と聞こえたよ」

「ああ。やっぱりな」

 この場で出てくるとすれば聖女ユキムラ様の名前なんだろうけど、聖女の名前――というか聖なる言葉は俺ら一般人は口に出来ないし、耳にしても言葉として認識できない。

 そのはずだ。


 それが出来てしまった。


「――考えられるのは二つ」

「二つ?」

 聖女が聖女じゃないというモノじゃないのか⁉


「一つ目は、兄さんの考えているモノそのモノ。だけど、もう一つあるよ」

「……?」

「聖女様が自分の名前に愛称――呼びやすい名前を付けた――という事だよ」

 愛称……?


「名前を呼ばれないって虚しいじゃない」

 兄さんなら分かるでしょ。

 尋ねられるというか断言だった。


「ああ……」

 そうだな。

 神官関係者以外しか発音できない言葉。それ故に自分で名乗る事も出来ないし、親からも呼ばれない。

(改名も出来ないしな)

 面倒な名前だ。


「正直、聖女様の名前ってどんな仕組みか分からないけど、口に出せないんでしょ」

「……だな」

 聞いても耳に入らないからな。

「それが嫌だったんでしょうね」

 特別な相手にまでそうなると。


「んっ?」

 特別な相手?


「…………………兄さんも鈍かったわね」

 失礼な。


「まあ、そこら辺は憶測でしかないけどね」

「……?」

 どういう意味だろう。


「――で、神官騎士様」

「アーデルでいい。神官騎士と呼ばれたら変装も無駄になるんだろう」

「じゃあ、アーデルさま。盗賊の居場所はご存じなんですか?」

「もちろんだ。――事前に情報は得ている」

 会って見なきゃ分からない。そう告げるメイプルに確かにそうだなと同意して、

「知ってたらさっさと行けるしな。俺ら危険だけど」

「まあ、そうだよね」

 義賊というのが本当なら大丈夫かもしれないが……。


「――大丈夫だ」

 その根拠は?

「私がお二人を守ります」

「「………」」

 うん。その根拠のない自信は何だろうね。

「……まあ、一応神官騎士だし、素人に毛の生えた盗賊だったら大丈夫かもしれないけど」

「乱戦になったら俺ら危険だな」

「だね」

 そうならない事を祈ろう。

 えっ? 付いて行くのは決定か。だって?

 俺ら雇われているからな。雇い主の命令を聞かないといけないし、行くとこないし。


 という事でついて行くのだが――。

「どこが、『事前に情報は得ている』なんだよ!!」

 相手は雇い主。雇い主……だけど、

「この情報間違ってるだろう!!」

 渡された情報を基にして作られた地図。その地図には川の向こうと書いてあるがその地図の川はない。隠れていると言う訳ではなく。全くないのだ。


「あれっ?」

「『あれっ?』じゃない!!」

 すみません。身分の差を忘れてました。ついタメ口で突っ込んでしまったけど、雇い主。不敬罪で処されてもおかしくない。

「情報が金になるって考えている人に騙されたんでしょうね……」

 この人抜けてるし。

 メイプルが冷たい事を言ってんな。まあ、同意するけど。


「……兄さん」

「仕方ないな……」

 神官騎士の進んだ道。そして、その先を見る。

「こっちだな」

 獣道に見せかけているが使用回数が多いのが感じられる草の禿げている道が木々に隠れて見え隠れしている。

 何で分かるかって、獣道なら獣が歩いた後――糞とか毛とか臭いとか示威行為があるのだが、そこには残されてないからだ。

 下働きの知ってる内容じゃないだろうって突っ込まれるが、これが情報が力ってやつだ。


「メイプル」

 それプラス。

「……うん。気配がある」

 メイプルは、その手の勘は鋭い。何というか人と人以外の気配の差は感じるとの事だ。どういう理屈かと聞いてみたら『人は雑念が多いから』と返された。――納得してしまった自分は悪くない。


「こっち」

「………君達は分かるのか?」

「下働きですから」

「……………下働きって一体……?」

 そう言われても。


 まあ、そんなこんなで向かったけど。

「ビンゴ!」

「嬉しくないビンゴだけどね」

 いかにもって感じの洞窟。いかにもって感じのごろつき。

「これで義賊ですって言われても嘘としか思えないな」

 ガラが悪いです。そう書いてある顔の人達。顔や雰囲気で判断するのもなんだけど、なんというか荒んでいるというのに近い。

「ここに……サナが…ユキムラ様が居るんですね」

 いや、知らんけど。


「……」

 神官騎士が行こうとするのを付いて行こうとして、

「……っ⁉」

 メイプルの足が止まる。

「メイプル?」

「……行きたくない」

 表情が……顔色が悪い。

 こんなメイプルは初めてだ。


「………」

 辛いなら付いて来なくていい。そう言ってやりたいが、そうもいかない。ここにメイプルを置いて行った方が危険だと感じるのだ。

(かといって一人で行かせるのもな~)

 この神官騎士は危なっかしい。


 さてどうしようか……。


「………行くよ」

 こっちが何か言うより先に言われてしまった。

「無理はすんなよ」

 だから、それだけ告げておく。


「客人とは珍しい」

 こちらが近付いてくるのに気付いていたのだろう。おそらくこの盗賊の中で上だろうと思われる者が姿を現す。そして、その傍には、

「アーデル。来てくれたのっ♡」

 黒髪黒目の女性が現れる。


 黒髪黒目――。

 この仕事をしてから何人もの聖女(候補も含む)に出会った。そして、その聖女(候補も含む)はみな黒髪黒目(まあ、色に薄い濃いの差はあるけど)だった。


 そこから彼女の正体は読み取れる。


「サナ……」

 本物の聖女か……。


「サナ。迎えに来ました。帰りましょう」

 神官騎士が手を差し伸ばす。

「迎え……」

 聖女ユキムラの表情が強張る。


「はい。――神殿に帰りましょう」

 神官騎士が告げた途端。


「危ないっ!!」

 黒い得体のしれない何かが襲ってくる。


 とっさに神官騎士とメイプルを庇う――もちろん俺も逃げたけど――。

「どこに……?」

 黒い靄。聖女と言われて思い浮かべる聖なるなにかと真逆な力。


「帰ってどうするの……自分の意志関係なくどこかの国に嫁がされるの? そして、崇められるの?」

「サナ……?」

「どうして…」

 闇は深くなる。


 毒のように広がっていく。


「どうして分かってくれないのっ!!」

 殺気。


「メイプル!!」

 神官騎士を引き摺ってこの場は逃げる。


 メイプルはすでに逃げている。

 そのメイプルを追いかける形で抵抗するそいつを引っ張っていく――俺よくこいつ引っ張る体力あるな……。


「放してください!! サナを連れ戻さないといけないのですっ!!」

「現実を見ろ!!」

 あれが聖女だって。冗談じゃない。


「あれを魔女と言うんだろ!!」

 叫ぶ。


 そう。あれは聖女じゃない。もし聖女だったら堕ちたというのが正しいのだろう。


 逃げて逃げて逃げて……。


 やっと、安全なところに来たと判断すると。


「彼女がもし聖女から違うものに変化したのだったら。――貴方のせいです。アーデル殿」

 冷たい声が先に逃げて安全な場所に辿り着いてたメイプルが告げる。


「彼女が貴女を拒んだ時の言葉覚えてますか?」

『帰ってどうするの……自分の意志関係なくどこかの国に嫁がされるの? そして、崇められるの?』

「彼女は聖女として居たくないから逃げたんですよ」

 そう事実を叩き付けた。




因みに今回の聖女様は真田幸村からとってます。

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