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聖女様は、聖女様×2とお会いになりました《後編》

タイトルの割にもう一人の聖女様が出ません

 この国をお好きなだけ見学してください。

 聖女トオサカさまの言葉に甘えて、国を見て回る事になったが……。


「平和だな」

「平和だね」

 治安はいい。

 平和な街並み。

 だけど、

「男性の目が死んでるというか……」

「死んでるって、言い得て妙だな」

 男性達はいくつかのパターンに分かれている。


 一つは、女性に媚びて実質奴隷な立場からの解放をされようとする者達。

 一つ。女性に媚びずに無気力に目が死んでいる者達。


 そして、女性の行動。媚びる男達に不快気に見ている者達。


「やばいな……」

「うん。やばいね」

 客観的に見て。この国の男達の不満は溜まっている。


「兄さん。どうすればいいと思う?」

「どうするも何も俺らは下っ端だしな」

 どうも出来ないよ。


「まあ、そうだよね……」

 ははっ

 私も面倒だ。


「それにしても……」

「メイプル?」

「聖女様って本物の聖女様なんだよね」

「ああ。それが?」

「なんで、聖女が本物なのが分かっているのに他の聖女様候補を大事にするのかな?」

 本物は一人しかいないんじゃないの?

「う~ん」

 それを言うと困るけど。

「聖女が一人とは限らない。聖女の条件を満たしているからな」

 だからこその候補なんだろうし。

「条件?」

「確か……異世界人で伝説の池から出てくる。それが条件だったし」

 そういや、下働きでお供していた聖女様達は候補から正式な聖女様だと証明されたんだろうか………。


 実はメイプルが浄化(やって)ました――。だけど。


 その事を思い出して溜息を吐く。

「兄さん」

「なんでもない」

 メイプルには自覚がない。

 あの時浄化してしまった事……いや、二回目は自分の意志でしたみたいだけど、メイプルはその条件に当てはまらない――と思う。正直メイプルが俺と会う前何してたか知らないけど神殿勤めのお偉い人が聖女だとしたら見逃すはずないし――なんせメイプルは神殿で下働き(現時点で)しているのだ――。

 それを考えると本とメイプルの主体は不明だ。


「………」

「兄さん? 人の顔をじろじろ見てどうしたの?」

「………いや、何でもない」

 俺は頭悪いからそれがどういう事か判断出来ないのでそこで考えが行き詰まる。


 こういう時はどうすればいいのか。

 簡単だ。


 考えるのを放棄すればいい。


「いつまでもぶらぶらしてないでそろそろ目的を済ますぞ」

「あっ、そうだった!」

 さてと、母さんや職場の同僚達にお土産買わないと――旅のお供に行くと言ったらお土産を請求されたからな。

「お土産買って来いと言われたけど、兄さんお金は?」

「一応あるぞ。使う機会少ないからな」

 以前はともかく。今の仕事は食事は支給されるし――毒見も兼ねている――生活用品も配られる――神殿勤めでみっともないものを使われたら堪ったものじゃないという雇い主(神殿)の見栄もある――ので財布がかなり潤っているのだ。

 まあ、神殿からすれば、神の名の元平等を謳っているのに自分のところにいる者が見るからに貧しかったら信者に影響出るからな。


 客商売は大変だ。


 そんな事を考えて近くの露店を覗く。

「可愛らしいものが多いな」

 女性の方が強い国だからだろうか。

 一応男向けのもあるけどあくまで一応の域を出ない。


「う~ん。これも可愛いし。あれもいい。あっ、これ可愛い~♡」

 きゃっきゃっ

 そうやって一人で盛り上がって選んでいる姿はいつもの下働き姿とは違う華やかさがある。


 正直、あれもいい。これもいいと選んでいるのを見ているとさっさと決めてくれよ~とげんなりする。俺からすればどれでも同じだろうとしか思えないからなおさらだ。


 早々に飽きてどこかゆっくり待てる場所がないかと探しているとじっとこちらを見ている女性に気付く。

(この国の女性だろうか……)

 何というか値踏みされている感がありありとする。


 うん。値踏み………。

(俺この国の住民じゃないんだけどな……)

 正直言えば巻き込まないでくれと言いたい。

 その肉食獣の様な値踏みする視線が怖い様な……。いや、何考えているんだ。怖いなんて、怖いなんて……。


「………」

 舌なめずりするように見てくる女性。その視線に、

 ぞくぅぅぅぅぅ

 鳥肌が立つ。


「………っ!!」 

 はらはらと零れるのは汗であって涙じゃない。泣いてなんかいないからな。


 そんな事を思っていたら。


 もきゅっ

 腕に当たるマシュマロのような感触。

 ほのかに弾力があり、温かいそれは。

「何、よそ見してるのかな~。兄貴~」

 怒りマークを浮かべて、さっきまで露店を覗いていたはずの人が胸を当ててくる。


「メイプル!! 胸! 胸!!」

 胸だと認識したら顔が赤くなってくるうううううぅぅぅぅぅ。

 止めろ。いや、止めないで!!

 って、何考えているんだ俺は!!


 落ち着け落ち着け。

 こういう時は確か。素数を数えるんだと先人の教えがあったはずだ。

 素数とは何なのか分からないけど。

「割り切れない数の事だけど」

「メイプルっ!! えっ、俺口に出してた?」

「もうしっかり~。私の胸にそんなに動揺したんだ~」

 なんかさっきまでの不機嫌が嘘のように機嫌いいな。


「それにしても兄さん。デレデレしすぎ」

 呼び方も戻ったな。

「この国の在り様とか考えたら兄さんは一人でふらふらしたら危ないでしょ!!」

「ふらふら……」

 失礼だな。ふらふらなんて……。

 でも、

「一人でいるのは危険だというのは同意だな」

 何というか女性に食われそうな感じだ。


 あっ、さっきの値踏みしていた女性が、

「ちッ、売約済みかよ!!」

 と呟いて去っていった。

 狙ってたのかよ……もの好きな。

 

 それにしても……。


「メイプル。そろそろ腕離してくれない」

「えっ、虫除けになるからこのままでもいいじゃない」

 虫よけって……。

「そんな虫なんて来ないと思うけど……」

「兄さんは自覚ないからあてにならない」

 メイプルの視線はさっきまで俺を取って食いそうだった女性のいる方向に向けられている。


「もういっそ、虫よけなんて勘げずに結婚……」

「冗談もほどほどにな」

「そこは頷いてくれてもいいのに……」

 冗談じゃない。

 ただでさえ、家族総出で外堀を埋めようとしとしているのだ。そんな言質を取られてたまるか。


 因みに嫌いではないが、あくまで妹感覚であって、そういう対象に見えない。


 とそんな感じで歩いていると。


「リア充が……」

「女に媚びて…」

「忌々しい……」

 と舌打ちしながら言われるのが耳に入る。


 その言ってくる男達が何となく嫌な感じがする。


「兄さん?」

 どうしたの?

 首を傾げてくるメイプルに、

「いや……何でもない」

 と伝えるけど。


(うん。何でもなくないよな……)

 男達から黒い靄が出ているんだけど……。


 それを引き連れて………本当は嫌だけど。聖女トオサカ様のいる議事堂に戻るが、

「お帰りなさい」

 わざわざトオサカ様が出迎えてくれるなんて……。

「あらっ?」

 トオサカ様が俺の上を見て、何かに気付いたように声を出す。


「貴方……大変な事になってるわね」

 あっ、分かるんだ。やっぱり。


 ムッ


 メイプル。なんでそこで嫉妬したように俺の腕を組んで聖女様を睨むんだ。俺ら下働きだろう。

「………」

 メイプルのその動きにどこか楽しげにトオサカ様は笑い、

「私が出る必要もなさそうね」

 ぼそっ


 そう呟いて他の人達に元に向かっていく。


 そして、晩御飯。


 俺らは下働きだから出る事なかったけど、聖女トオサカ様と聖女アマクサ様という二人の聖女様がいる晩餐会でこの国お勤めの下働きが忙しく動き回っているのを見つつおれらもまた主が居ない間の部屋の管理をしていく。


 荷物を主が使いやすいような場所に配置していくがのが、実は高テクニックだったりする。感覚的なモノである時から遠くなく、近くなく、手を伸ばした時にちょうどいい場所に配置するのにやりがいを覚えていく。


 自分の――地味な――仕事ぶりに満足して次の仕事に移ろうと動き出して。


 憎い……

 リア充が……

 リア充爆発しろ……


 怨念じみた声が俺の肩に乗っかってくる。いや、ずっと俺の近くにいたけどまさかここで来るとは思わなかった。


 いわゆる金縛り状態になって身動きが封じられる。


 立っているのもきつくなり床にしゃがみこんでしまう。


 幻聴が……耳鳴りがする。

 視界が歪む。

(気持ち悪……)

「兄さん?」

 メイプルがこちらに向かってくる。

「どうしたの気分悪い?」

「………」

 答える余裕も無い。


 ってか。メイプル。その手に持っている物は確か孫の手というのじゃ……。


「肩凝ってんじゃないの?」

 これ使いなよ。そう渡されて肩に当てられると。


 ばぁん

 黒い靄が四散する。


「………」

 またこのパターン?

 肩を叩くたびに消えていくんだけど……。


「いつまで私にさせんのよっ!!」

 メイプルが文句を言ってくるけど、多分メイプルがするから効果があるんだろうな。

 そんな感想を抱いてしまうのは、俺の肩が少しずつ楽になって、

「兄さん顔色が……」

「うん。もう大丈夫だけど、メイプル。本当に気分悪い人がいたのならその対応は間違っているからね」

 そう忠告してしまうくらい体調が良くなった。


 次の日――。


「あらっ?」

 トオサカ様が驚いたように俺を見てくる。

「ふ~ん」

「………」

 下働きは目上の者に声掛けられない。声を掛けられたら『何ですか?』と尋ねたくなるほどじろじろ見られているのだ。


「まあ。せいぜい頑張りなさい*******」

 俺の横で帰宅の準備をしていたメイプルに声を掛けて去っていく。後半の部分は何を言っているのか聞き取れなかったけど。


「……?」

 メイプルも少し困ったように去っていくトオサカ様を見ていた。


 聖女トオサカ――遠坂歩とおさかあゆむは異世界から来た本物の聖女である。彼女は学校の卒業式にこの世界に召喚された一人であった。

 最初は右も左も分からなかったが。その彼女は――この世界に来てから黒い靄を見るようになった。


 カラヤン国という国は特に酷く。女性をモノのように扱い道具として利用しようとする男達。そして、その生活に追い詰められていても自覚のない女性達が病で倒れていった。


 鬱に近い症状。それが蔓延して流行り病だと勘違いされている。

 このままほおっておくのは危険だと思って判断してそこに生活すると決めた。

 

 流行り病と思われたその症状は、道具であるはずの女性が自分達よりも高い地位の者が現れた事で抑えられる。


 女性達も無自覚で追い詰められていた者達は現れた聖女に希望を見出して希望を見出して回復していった。

 ちょどその頃。一部の良心的な男性達が女性の負担を減らすために、少なくても出産という負担を軽くするために男性でも子供が産める研究が実現可能にまで進んだ。


 研究家達は女性が子供が生む事で仕事から外れる事。出産に備えて体調を整える事が男性は無駄な行為だと思っているのが女性を道具扱いしてきたのではないかと考えて、なら女性と同じ負担を担えと進めてきたのだが、今のご時世都合のいい研究成果だと笑みが零れてくる。


 そして、女性を道具化していた男達に制裁の意味もあり、法律を改正した。因みにこの法律の成立に関わった良心的な男性と女性政治家には男性の根本的な考えが改められるまでの一時的な法律だと伝え、5年を目安にその法律を無くすか継続するか見極めると伝えてある。


 ――この法律が長くなれば今度は女性が男性を見下しかねないと判断したのだ。


 誰もいない。監視も盗聴もされてない。それを知っているからつい。

「あの少女……」

 言葉が漏れる。

 自分は常に監視されている。それゆえ本音も簡単に言えないのが辛い所だがもう慣れた。

 下働きとして来ていた少女を思い出す。

「あの子……どこかで……」

 誰かに似ている。そして、なんとなくだが、無自覚の聖女だと思われる。

 聖女アマクサ――天草真理あまくさまりは聖女候補で本物ではない。今回の件で分かった。


 今のカラヤン国には聖女わたしに対する不満で黒い靄――瘴気が発生している。それに気付いてなかった。だけど、あの下働きの二人は何となく気付いていた。


「まあ、言う気はないけど」

 真理が聖女じゃないと分かった時にどういう扱いされるのか分からないし、聖女だと気付かれて神輿に乗せられるのも本人達でどうにかする事しか出来ないのだ。

 ただでさえ、聖女として崇められているが、今は自分の事で手一杯だ。

 だから何もしない。

 せいぜい、最悪に事態になる前に自分でいい未来を選べる事をガンバレとしか言えなかった。





聖女トオサカ様=本物の聖女お一人。因みに苗字はどこぞの聖杯戦争から(笑)

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