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聖女様は機織りをしてみる気になったようです

どうしてこうなった?

 本日のお仕事は聖女フカエ様の浄化の旅とという事で、下働きとしてついて行く事になりました。

 だけど……。


「片桐が聖女なんておかしいのよ。私が本物に決まっているのに!!」

 イライライラ

 旅の用意をしている下働きに文句を言って、道具を蹴り上げている。


 がしゃっ

 せっかく箱詰めしたのに蹴飛ばされ、倒れた衝撃で中身が出てくる。


「きちんと入れなさいよ!!」

 自分が悪くないという態度で文句を言ってくるフカエ様。


「フカエ。どうしたんだ?」

 そんなフカエ様のところにやってくるこの国――機械帝国エルンバングの王弟さま。

「殿下!!」

 今までイライラしていたのが噓みたいに、

「殿下。どこに行っていたんですか~。寂しかったんですよ~」

 しなしな

 くねくね

 腰を曲げて王弟さまに抱き着くフカエ様。


「ああ。旅の準備をしていてな。寂しがらせて済まないな。フカエ」

 目の前で力いっぱい抱き合うフカエ様と王弟さま。


 自分の力を誇示させたいのか、勲章じゃらじゃらの付けた軍服で抱き着いて正直痛そうだなと思うけど、フカエ様もべったりの厚化粧をしているから。逆に化粧が軍服につくから気にならないかと思い直す。


 やれやれこれで静かになってくれるか。


「何していたんだフカエ?」

「殿下がいない間旅の準備をしようと手伝っていたんですよぉ~。でも、周りが邪魔ばっかりするんですよぉ~」

 見て下さい。

 フカエ様が指さすのはさっきフカエ様が蹴り倒した箱。

「きちんと箱詰めしないから倒れたんですよ~。怖~い」

 おいおい。

「なんだと!! 怪我は無かったかフカエ!!」

「はいっ!! でも、怖かったからもう一人にしないで下さ~い」

 いちゃいちゃ

 ラブラブ


「取り敢えずここらでいたやつら全員減給だな」

 首にされないだけありがたく思え。

 そう告げて、いちゃいちゃと馬車に乗り込む。


「聖女って、皆あんなの!!」

 ムカつく。

 メイプルがいらいらしたように言葉を返すと。

「他に聖女は知らないけど、あんな奴らばっかりだと心配になるよな~」

 ほんとに聖女として役に立つのかと。不安になるがそんな事を口にしたら処刑されるだろう。


「それにしても……」

 メイプルが思い出したように、

「今回の浄化はどこに行くの?」

「聞いてないのか?」

「聞いてないわよ。旅のお供にわざわざ行き先言わないでしょ」

 メイプルの言葉にそれもそうかと思いつつ、

「今回の旅は工業地帯のある一角だ」

 俺の今回の仕事は馬車の運転手だから地図は見せてもらった。

「工場地帯……? 工場って何?」

「ああ。知らないか。――この国は機械工場というものでいろんなものを大量に作って売り出しているんだ」

 そんな国はここしかない。


「たくさん作っている……」

「そう。たくさん作るから安く売れるという事で儲かっているんだ」

 俺らの服もこの国制作のが多い。


「で、その工場地帯って……?」

 そんなところに浄化って、禍つ気が出たら大変じゃないのと尋ねてくるが、

「そうだな。だから今回も隠密なんだ」

 ばれたら売り物が売れないからな。


「見栄ばかり気にしてもしょうがないのに。どうせ浄化が済めば公に公表するんでしょ。バレるのなら同じでしょ」

「体面的には、工場は一時中断。浄化が終わってから工場再開で、その後の製品は聖女様の名をあやかった製品を販売するっていう事」

 聖女の名前を使うだけで値段は倍以上にするそうだ。正直呆れる。


「金の亡者」

 ぼそっ

「事実だけど口に出すなよ。ここの王弟さまも面倒な感じだからな」

 現に減給なんて言い出すし。


「まだ王太子じゃないだけましかね。この国も」

「だな。この国の王はいい方みたいだし」

 旅の準備前に街で話を聞いていたがその名君ぶりで人気があるようだ。ただ、民の人気と貴族の人気は大きく異なり、貴族の間には王弟こそ王に相応しいと喚いている輩も多いそうだ。


「じゃあ、聖女様が成功したらこの国ピンチじゃない」

「だな……」

 そんな話をしながら出発する。


 この前みたいな山道じゃないだけましだけど、面倒な道だな。


「殿下~。馬に臭いが辛くて気持ち悪~い」

「そうか。辛かったら俺にもたれていればいい。お前を苦しめる馬は後で廃棄しておくな」

「さすが殿下!! 殿下の権力で自動車を早く作ってくださいな」

「自動車……ああ。お前の言っていた馬が居なくても進む馬車だったか」

「はい♡ 殿下なら出来ますよねぇ~」

 いちゃつく会話に苛立つ。しかも前回は直接の被害が無いだけましだったのに今回は声は聞こえるのだ。

(やってられねえ!!)

 殺される事が決定してしまった馬を慰めるように背を撫でる。


 馬も自分の未来が聞こえたのか切なげだ。


「あ~あ。早く着かないかしら~」

 退屈と告げるフカエ様。

「なら、暇をつぶす事でもしようか。


 ……………………そこからR-18の時間が始まった。



「じゃあ、ピンクの空間を肌で感じて馬車を操縦してたんだ」

「……………そう」

 夜。ようやく手に入れた休憩時間――食事を終えたら火の番になるが――にピンクの時間に精神が弱められたので食事が進まない。

「お疲れ~」

 言い方が軽いな。

「だって、私は比較的楽だもの」

 料理もするがメインは服の管理だそうだ。

「洗濯が無いだけでも楽」

「良かったな……」

「――兄さん」

 声を掛けられる。

「んっ?」

「気を付けてね。他の下働きの同僚から聞いたけど。あの聖女様いい噂ないみたい」

「いい噂を聞かない?」

「うん」

 頷かれる。


「それって俺に関係あるような事なのか?」

「う~ん。あるようなないような」

 あいまいだな。

「じゃあ、ない事を祈るか」

 そんな事を言い――それがフラグだったのかと思うとそれを言った時の自分を殴りたくなった――食事を勧める。勧めないと明日の旅に身体が付いて行かないとピンクな世界で食欲が減少してしまったが、それに負けてはいられないとスープを匙ですくって食べていた。



「あらっ、いい男」

 メイプルの不安は的中した。

(ってか。アイツ予知能力者かよっ!!)

 旅を続けて、十日。昼だから休憩としてそこらの広場で馬車を止めていた矢先。

 馬に餌をやって、一息吐いたと思ったらフカエ様になぜか迫られていた。


(これ俺の死亡フラグじゃねぇ!!)

 王弟の婚約者――ってか、暇潰しに王弟とあんだけいちゃついていてまだ元気なんですね――とは、別行動をしていたフカエ様に何故か壁ドン――普通男が女にするのがロマンじゃないのか――されて、逃げたいけど、下手に動いたら俺が悪くないのに悪いと言い出しかねないし――なんせ、旅の前に実際やっていたからな――どう動いても俺にとって逃げれない状況なのだ。


「貴方。どこの所属? 私の傍仕えになる気は無い?」

 すりすり

「聖女の傍仕えになれば楽に金を稼げるし、楽しい事も……」

 頬触れないで下さい。気持ち悪いので。

(ってか!! とんだビッチじゃね~か!!)

 こんなのが聖女かよ。聖女って、気品とか清廉潔白とか、

(………いや、そうでもないか)

 身近にいる聖女を思いだす。アイツに気品ねえ。


「何考えてるのぉ~。私の事だけ見なさい」

 だから胸擦り付けてくるな。


「――兄さん」

 声がした。

「めッ、メイプル!!」

 やべっ、見られた。


 本日はお針子なのだろうか。裁縫道具を持ってやってくるメイプル。その目は冷ややか。

「聖女様」

 静かな声。だが、その声が怒りを含んでいるのは付き合いの長いからこそ分かるもの。

「馬の臭いが付きますよ。あなた様の大嫌いな馬の臭いがね」

 ばっ

 慌てて離れるフカエ様。

 どうやらあのビッチ聖女様の中では、馬>>>>>>>>>>俺なんだな。

「助かった……」

「どうだか」

 メイプルの声が冷たい。

「見てたなら分かるだろう。俺は被害者だ」

「あの色ボケ王弟に通じればね」

「あっ………」

 通じねえな。


「旅から抜けるか……」

「そうしてもいいけど、あっさり逃がすとも思えないよ」

「だよな」

「それに給金もらってないし」

「ホント。それ」

 ここまでやらされたんだ。迷惑料はもらえないだろうけど――俺らに迷惑かけた気全くないからな――給金はもらわないと割が合わない。


「だから忠告したのに」

「……悪かった」

「これで終わるとは思えないんだよね」

 メイプルの勘は当たる。

「……だろうな」

「という事で」

 メイプルの手には化粧品。

「それって、自衛の……」

「ふふんっ」

 母さん直伝の処世術。見目のいい召使は上の者に強制されて手籠めにされる事があるので手籠めにされたくないのなら化粧で不細工に見せかけるのだ。

 化粧は安くないが、それで将来を平穏に過ごせるのなら必要だと散々教えられたのでメイプルは普段ブス顔にメイクしているのだ。

  因みに玉の輿狙いは逆に綺麗にメイクする。もっと上の召使は別の問題が起こるかもしれないが、下働きの母さんの知り合いはみんなその方法で身を守っている。


「それ俺がするのかよ……」

「当然。そうやって身を守りなさい!!」

 そう告げられて化粧を塗り手繰られた。

 なんか乱暴な気がするけど痛くしてませんか。メイプルさん?

「気のせいだよ」

 笑ってるけど、目が笑ってない。

 って、メイプルさん。マジ痛いから! 目に入る入る!!

「うん。完成!!」

「お前。ぜって~。ひどい状態にしただろ!!」

「気のせい♪ 気のせい♪」

 気のせいじゃないな。これ……。まあ、いいけど。


(メイプルの機嫌も治ったみたいだしな)

「……しか見てない奴に……は渡さないから」

 ぼそっと何か呟かれた気がするけど聞き取れなかった。


 取り敢えず、俺の精神的ダメージよりも俺は自分の命の危機の回避を選んで旅に付いて行ったが、ビッチな聖女は俺を隙あらば探していた。勘弁してくれ。


 そんなこんなで……。

 旅の目的地の工場に来たのだが。

「いかにもってとこだな」

「ホント。あれって幽霊かな?」

 だろうな……。

 工場のあらゆる所に半透明な人が歩いている。それなのに、聖女様も王弟も気付いてない。

 俺ら下働きは全員気付いたのに。


「ここで寝泊まりするのか……」

「いやいや、聖女様がさっさと浄化してくれるだろう」

「だよな」

「聖女様気付いてないような気が……」

「気っ、気のせいだよっ!!」

 ………いや、多分気のせいじゃない。


「兄さん。少し散歩してこよう」

「……散歩。ここをか」

 幽霊居るんだぞ。

「だから。だよ」

 邪魔されないじゃん。

「………」

 厚化粧でいるのも限界でしょと目で言われて、確かにと同意して散歩に出る。

「いつも疲れるけど、今回は気苦労が絶えない……」

「兄さんも厚化粧しちゃえばいいのに」

「それだと情報通のおばちゃま達から情報を仕入れられないだろう」

「情報を制する者は時代を制す。――父さんの口癖ですね」

「ああ。現に父さんの情報で俺らは危険回避が上手いからな」

「確かに」

 工場内は埃塗れだが、機械は綺麗。

「最近まで動いていたな」

「そうらしいよ」

 メイプルの言葉。

「メイプル?」

「安い給金で行き場のない人達を雇っていたんだって。で、死ぬまで働かせてました」

 行き場がないから逃げれなかったらしいよ。

「情報を仕入れたのか?」

「そう。――私だって、あの二人の子供だしね」

 何度か半透明な人とはすれ違うが、不思議と害はない。いや、禍つ気は確かに霊から出ているが、俺らに害を直接与えようとはしてない。


 もしかして、自分たちと同じ立場の者を作らない様にしているのではないかと。そんなおとぎ話のような事を考えてしまうほどに――。


「何とか出来ないのかな……」

「何とかって?」

「この者達は被害者だろ。浄化するのは正しいけど。それは本当に救いになるのかな」

 また同じ事の繰り返しにならないか。


「…………」

 メイプルがじっとこちらを見て、

「ホント。兄さんって」

 お人よし。

 ぼそっと呟かれるが。お人好しな訳はない。

「まあ、いいか」

「メイプル?」

「何とかしたいんでしょ。してあげる」

 メイプルは近くに置かれていた椅子に腰を下ろす。

 辿り着いたのは古い機械が置いてある倉庫。そこにあった古い型のはた織り機。


 とんとんとん

 布地を織りだす。


 すぅ

 織り込まれていく幽霊たち。

 吸い込まれるたびに模様となって溶け込んでいく。


 それと同時に薄くなっていく禍つ気。

「メイプル」

「……気付いてるけど。言わないでほしいな」

 メイプルの言葉。

 どこか不安がっている声。怯えている者のそれ。

「言う訳ないだろう」

 すでに禍つ気は無い。それが答え。


「今回も聖女様の活躍見逃しちゃった~!!」

「だな」

 そう言葉を返すと、メイプルに手を伸ばして、

「散歩は終わりだ。――帰るぞ」

 そう言葉を返した。


                ♦♦

 この世界に来て、最初に覚えたのはここが自分の世界ではないという事と。この世界の住民じゃないという事は聖女という存在と呼ばれ世界のために利用されるという事だった。

 利用されるという事は具体的には分からなかったけど、兄さんと引き離される事を意味していた。

 右も左も分からない。だけど、信用できると認識できた存在から引き離されるのは嫌だった。

 だから、聖女というのではないと自分で言い聞かせた。

 言葉を覚えて、この世界で生きる術――父さんもも母さんも生きる処世術が優れていた――学んでいき、この世界の住民として生きる事にした。

 下働きをしているうちに聖女は国の代表という後ろ盾を得るのが義務だと知って、ますます隠さないといけないと悟り、生活をしてきた。

 幸か不幸か聖女の力は私には無かった。

 だから、いいと思った。けど。

『何とか出来ないのかな………』

 兄さんの言葉なら叶えてあげよう。それに。

(牽制にもなるしね)

 今回の聖女はいささかやり過ぎだ。何もしてないうちに浄化されてどう反応するのか見ものだ。

 そんな聖女らしからぬ考えを抱くが、自分は聖女と名乗るつもりもないのでこれでいいと決めたのだった。


 


メイプルさんは確信犯です。

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