聖女様は本日洗濯をしております
ラブロマンス?
ラブコメ?
を目指します。
思いついたら書くスタンスにしますので、あまり早く更新しませんので。
とある山奥の水脈にて、禍つ気が出現したとの模様。
神武国――クラウロ-ドの聖女カタギリさまは婚約者の皇太子シャルロットさまとともに禍つ気を浄化するために旅に向かわれた。
民に不安を与えぬように最低限の供を連れて――。
「なんて、言ってるけど、ようは多過ぎる供は足手纏いにしかならないからでしょう」
それにお金もない。
下働きの同僚メイプルは、荷物を馬車に積み込む。
聖女様のお供として――とは言いつつも下働きだ――付いてきて、早数カ月。その目的の山はもうすぐだ。
「それはそうだけど、俺の前以外に言うなよ」
「分かっているけど……」
不満げに口をとがらせるているから心配だ。
周りに人がいなくて良かったものだ。まあ、人がいない理由は少なすぎる人数で回しているからみんなバラバラに行動しているだけなのだのだが。
まあ、俺ら下働きの言葉など雲上人様に届かないけど。
神武国。とか、聖女様と言っているけど、この国はそこまで威厳のある国ではない。
元々歴史があるけど、それだけの国だ。
かつては強国だったそうだけど、戦争もなく、平和な時期が続いたので、貴族は国の治安という名目で税を積み上げていくが、実際には賄賂や貴族の懐に入るだけで、民の生活は窮困するだけ。
民は貴族の財布程度しか思われてない。
そんな矢先に禍つ気だ。表に出したら今まで耐えていた民が暴徒化する。
それくらいの危険性ぐらい空気が読めない雲上人も分かったのだろう。
民の不安を与えないため――暴徒化されない様に。
予算も少なめに――これ以上税を増やさないので。
貴族からとればいいのにと思うが貴族がそれで国に謀反を起こされたら面倒――かつての無敵の名をほしいままにしていた兵士はコネで入ってくる貴族の三男とか四男がはびこっていて、将軍職も金で買えると言われるほどの腐敗ぶり。謀反になったら瞬殺されるのは目に見えている。
それに、名目上は、聖女様が居られる国だ。禍つ気が発生する事自体問題になるのだ。
「聖女様って言ってもそれも胡散臭いんでしょう」
「まあ…な……」
メイプルはまだまだある道具を積んでいく。山奥に行くとこれらは馬車から降ろさないといけないので最低限だが、それでも量が多い。
当然だ。お供を最低限にするという事は俺ら下働きの仕事は給金は変わらないのに仕事は倍以上になるのだ。
メイプルはもともと調理専門の下働きだ。野菜を洗い、包丁で切り、それを料理担当に渡していく。使い終わった食器は洗って片付ける。
最低限の供と言いながら料理は贅を尽くした者じゃないという我儘なお方達なため、食器は多く、新鮮野菜。肉と魚をふんだんに使われた代物。はっきり言えば、旅に使う金はそこじゃないだろう!!
つまり、洗い物も切る野菜も本来の旅に比べると異様に多く、それだけでも大変なのに、メイプルは、選択の下働きが少ないからとそちらに借り出されて――その選択の量も旅に不要だよねと言うものが多すぎるのだ。ドレスなんて旅に不要だろう。何でそれを一日に何着も着替えてるんだよ。旅だから汚れるのは当然だろう。汚れてもいい服を持ってこい――手伝いをする。
かという俺も、馬の世話の下働きであるのだが、薪の用意をしてテントを設置して――おいっ、その仕事は兵がするもんだぞ――火の番という事で、起きている――お陰で寝不足だ。人件費をケチったから交代もないし。……これも兵の仕事だろう――寝不足のまま馬を引っ張って旅を続けている。
「メイプル」
「う~ん?」
「俺だからいいけど、他の奴の前では言うなよ」
「分かってるよ~」
胡散臭いというのも事実だ。
聖女は聖なる泉から出現する。
そこで現れたのは十数人の14,5くらいの年齢の少女達。みんな同じ格好をしていた。
……らしい。
下働きにそれ以上の情報が入ってくると思うな。
それで、泉から現れた聖女達はそれぞれこの者こそが本物の聖女だとあらゆる国の権力者に見初められてその国で世話をされる事になりました。
めでたしめでたし。
という事で、本物の聖女かどうか不明なのに国の見栄もあり、聖女は本物ではないといけないのだ。
これで偽物を引き当てたとしたら国の権威は失墜する。
だからこそのひっそりとの旅。
浄化が成功したら大々的に宣伝するようだけど。
浄化がどんなものか分からないが隠せるものでもないようだし。
「でも、聖女様の浄化ってどんな事するんだろうね~」
「ああ。それは気になるな」
本物ならその浄化の様は見れるだろう。いくら下働きでも。
そんな事を思いながら旅を続けるが……。
「いいよな~。お前らは聖女様に会わなくていい立場で~」
料理長が負のオーラを放ちながら愚痴りに来る。
「新鮮な食べ物はもう手に入らないと告げたら聖女様が『干した物ばかりじゃ硬くて食べれな~い』とおっしゃってさ」
新鮮な物を探す羽目になったんだ。
「お疲れ様です……」
「そんな事まで言うんだ……」
洗濯物を整理しながら愚痴を聞く、山の中腹に入り、後は、元凶の禍つ気の根元を探すだけという状態。禍つ気の影響で植物が枯れて生き物が消えてしまっているこの辺りでどう探せというのか、
「俺らですら気持ち悪くて逃げたいのですけどね……」
給金を貰ってないから逃げようにも逃げらないけど。
「聖女様って、鈍いの?」
こんなにはっきり異常があるのに気付いてないというか旅の最初から態度が変わらないなんて……。
「メイプル。それは言わないの」
「ぶぅ」
「……仲いいな。下働きの仲間と言ってたけど、ここまで仲いいのも珍しいな」
「まあ、兄妹の様なものですからね」
「拾われたんですよ」
そう。母さんが下働きをしていて暇だった俺は母さんの邪魔をしないように一人で遊んでいた。
『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!』
大泣きしている子供。質の良い服を着ていたが、ぐしゃぐしゃに濡れて見る影もなかった。
言葉が分からない。家の場所が分からない。
分かったのは、名前は『メイプル』と呼ばれていた事だけ。
言葉が分かるようになってから家族の事を尋ねたが、メイプルは、
『覚えてない……』
との事。
そこからずっと家族同然に暮らしていた。
「そうか。じゃあ、血が繋がってないのか?」
「そう。血が繋がって無いから大きくなったら兄さんの嫁になるんだ」
「――というのが母さんとメイプルの算段で」
「尻に曳かれてるな……」
「全くです」
まあ。嫌じゃないけど。
「兄さん。洗濯物洗いに行くけど」
「ああ。待ってろ。一人じゃ思いだろう。一緒に行くよ」
二人で洗濯物を山ほど抱え、歩き出す。
「洗いに行くと言っても……」
禍つ気で、綺麗に洗えないだろうな。
「そのマガツキ? だっけ? 服に付いても平気かな?」
「その前に俺らは直接触れては危険だろうな」
川で聖女様が浄化しているだろうし……。
進んでいくとこれが元凶の川だろうかと思われるところに来てしまった。そう、来てしまったのだ……。
「川があったね。ここで洗濯すれば……」
メイプルは気付いてない。
「兄さん?」
「逃げるぞ……」
危険だ。
本能が囁く。
禍つ気の塊が俺とメイプルの目の前に現れ、まるで蛇の頭の様に鎌首を持ち上げる。
早く去らないと――。
腕を掴んで走り出そうとする。
だが、腕が伸びる前に、
「何言ってるの?」
奇跡を見た――。
禍つ気が――目で分かる程広がっていたその空気がメイプルの動き一つ一つで分散していく。
「さっさと洗濯しないと聖女様の御付きに怒られるじゃない!! それにマガツキだって、聖女様の力があればびくともしないんじゃない」
気付いてない。メイプルには見えてない。
「変な兄さん」
恐怖で足が動かない俺を気にせず、メイプルは進む。
不気味な色に変色して、こぽっこぽっ変な泡が出ている川。
周りにはここら辺に住んでいたのだろう動物の新しいと思われる骨と皮が残っている。
だが、メイプルは気にしない。足を進めるたびにその骨と皮がまず消えていく。
禍つ気が分散される。薄れていく。
川辺に座り、洗濯を始める。
ごしっ
一回擦って禍つ気が白い光に妬かれていく。
ごしっ
二回目で川の色が透き通っていく。
ごしごし
洗い続ける頃には完全に消え――。
「流石聖女様だ!!」
「見事浄化なされたぞー!!」
何処からか歓声が上がる。
だが、遠い。
そう――。
「聖女……」
川辺で洗濯をする少女。
安くてぼろぼろの服を身に纏っていたがその姿は。
「兄さん?」
まさしく。聖女だった――。
♦♦
お姉ちゃんの卒業式を見に来たのに。
どうしてここに居るんだろう。
ここはどこだろう?
お姉ちゃんの学校じゃない?
『お姉ちゃん? お姉ちゃん何処~!!』
お母さんも居たのに。お姉ちゃんも居るはずなのに誰もいない。誰も……。
『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!』
怖いよ。心細いよ。誰か。誰か。
助けてよ!!
《どうしたんだ?》
近付いてくる少年。
言葉が分からない。
変な格好。だけど、
《泣くなよ。大丈夫だから!!》
必死に泣き止まそうとするその温もり。
それが私の全て――。
《お前。名前は?》
意味が分からなかったけど、その時私の耳には、
『名前』
を聞かれた。
『佐藤楓。みんなメイプルと呼ぶよ』
《メイプルか。分かった》
その日から。私の名前はメイプルになった――。
メイプル=佐藤楓。最初にその名前で出来た設定です。
年齢は現段階では推定13歳。
この世界に来た時は幼稚園卒業する年齢でした。
お姉ちゃんの卒業式を見に来てこの世界に飛ばされました。